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NPBファームリーグ拡大:エイジェック球団の皮算用

材派遣業のエイジェックが、NPBファームリーグ拡大構想に対し、栃木県を本拠地に置くことを念頭に参入申請を行うことを、7月18日に正式に表明した。申請を正式に表明したのは同社が初めてである。同社はBCリーグ・栃木球団や社会人野球チームを経営しているが、これらの球団は維持しつつ、ファームリーグに算入する新球団を設立することを目指す。

記者会見では、新球団が参加を認められた場合の数値的な目標を発表した:

  • 観客動員目標: 15万人

  • 売上目標: 15億円

  • 総人員数: 70名(選手:45名・スタッフ:15名・球団職員:10名)

これらの数字は妥当であろうか?

観客数

イースタンリーグは、各チームが年間144の試合が組まれており(2023年)、各球団の収益となる主催試合はその半分の72試合となる。
年間15万人の観客数を72試合で動員するには、1試合あたり2,083人の動員が必要となる。

ファームリーグの観客動員数の公式な統計はNPBから発表されていないが、1試合あたり数百人〜2000名程度である。(NPBのファームの試合は収容人数が少ない球場(鳴尾浜球場など)で開催されていることもあり、単純な比較には適さないことに注意が必要)
またBCリーグの栃木球団の2019年の平均観客数は1,403人であったという。

NPB球団との対戦が実施されることや、BC栃木球団の実績を考慮すると、約2000人という観客動員数の目標は過大とは言えないものと思われる。
一方で、BCリーグは主催試合が年間36試合であった(2019年)。イースタンリーグの試合数はその2倍の72試合である。年間を通じて観客動員を高水準に保つ必要があることに注意を払う必要がある。また、同じ栃木県内で活動を継続するBC栃木球団の観客を奪う、カニバリズムの発生を招く可能性もある。

売上目標

報道では「興行収益15億円」が目標として報じられた。「興行収益」という語が何を指すのか必ずしも明確ではないものの、「売上高」であるものとする。
プロ野球球団の売上は「チケット」「スポンサー」「ファンクラブ」「グッズ販売」「放映権」から主にもたらされる。広島東洋は2022年度の売上のうち、約37%がチケット販売による収入であったことが明らかとなっている。

エイジェック新球団の売上目標である15億円に占めるチケット収入の割合を、広島東洋と同じ37%と仮定すると、5億5500万円が目標金額となる。
これを観客動員数の目標値である15万人で割ると、観客一人当たりのチケット販売額平均は3,700円となる。ファームのチケットとしては高額な部類に入るであろう(例:2023年7月に甲子園球場で開催されたウエスタンリーグ公式戦の最高額チケットは2,500円)。試合観戦にどれだけの付加価値を認めさせることができるであろうか。

もちろんチケット収入の割合が37%より低くとなる可能性はあるが、その場合はより多くの金額をチケット以外の収入で補う必要がある。またファームは雨天中止の場合には振り替え試合が行われないため、収入の計画に狂いが生じやすいことも留意すべきである。

支出の部

選手年俸:選手数は最低45名で構成すると同社は発表しており、これはNPBが設定した算入ガイドラインに基づくものである。
NPB12球団の選手の年俸には、野球協約により最低額が設定されており、支配下選手の場合は420万円・育成選手は240万円である。ファーム球団の選手について最低年俸をどの水準で設定するかは現時点では明らかになっていない。このため新球団の年俸支出のミニマムがいくらとなるか算出はできないものの、NPB球団の規定を参考にすれば、年間1億円〜2億円程度になるものと推定される。

そのほか支出:職員・スタッフ給与、球場使用料、遠征費用、グッズ製作費用、管理費用などが想定される。

NPB球団であればファーム単体では赤字であっても、1軍との通算で黒字化できれば問題がないであろう。しかしファームのみの新規参入球団にとってはそれも叶わない。親会社からの補填により収支を合わせていくことは可能であろうが、それではサステナブルとは言い難いであろう。
安定した経営基盤を維持できること能力・計画であることを厳密に確認することがNPBに求められる。

出典


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