見出し画像

小説『透明でまっとうな新しい日々』を推薦します!

 わたしがnoteで推薦したい作品はこちら。
 やすたにありささんの短編小説「透明でまっとうな新しい日々」です。

 なんとなく、パルプ小説を紹介した方が良いのだろうか……という迷いが脳内を横切ったのですが、ここは心の素直に向くまま、noteにあるもっとも好きな作品を推薦することにしました。

⛵️

ちょっとした不利な条件も工夫次第で回避できる頭を私たちは持っているんだよ。

⛵️

 人間は、いや、あらゆる生き物は、有利な性質を得る代わりに、不利な性質を持っています。それは個体差においても同じこと。それは、ハンデであったり、難病であったり、障害であったり、様々な名で呼ばれます。
 しかしそれは、完全なる健康体を想定して、そこからの引き算で考えるからそうなるわけで。

 わたしたちの性質は、どんなものであれマイナスで計算されるようなものではないはずです。 

 立ち向かう。乗り越える。抗う。闘う。それも素晴らしい。だけど、そうしない選択肢を持つこともできる。工夫する。回避する。受け入れる。含める。同じくらい素晴らしい。

⛵️

 物語は、透子の一人称で綴られます。

 透子のアラタに対する思いやりが、不思議に心に染みるんです。ビーチの砂に水をたらすと、あたかもはじめから同質のものであったかのように、瞬時に馴染んでいきますよね。アラタの困難を受け入れて、それをも愛の対象に含めていこうとする姿が、とても安心するんです。

 小説としての構成・展開もとても好きです。
 前半途中ではっとさせられました。一方的に愛の深い人、そんなふうに読み始めてしまったわたしは、自分の浅はかさに気付かされました。そして、より一層ふたりを見守りたくなりました。
 それを経たあとの、バスソルトを捨てるくだり。特別な意味を感じますし、とても好きなシーンです。

⛵️

 実は高校時代。わたしはアトピーが急激に悪化し、辛い時期を過ごしました。しかも症状のほとんどが首から上に出るという、思春期にはなかなかタフな状況だったんです。
 触れると顔の皮膚がぽろぽろと剥がれ、頭皮はいつもリンパ液で湿っていました。掻くのを我慢しようとしても数秒が限界。痒さに耐えきれずに爪で触れると、それはすぐ痛みに変換されます。慌てて手を引っ込め、我慢しようとしても……これの繰り返しです。

 これの寛解は突然訪れました。上京して一ヶ月でたちまちよくなったのです。どうしてなのかはわかりません。自分自身の人生を生きはじめたからかな、なんて思っていますが。

 そしていま、クローン病という腸の病気を患っています。これは原因不明の難病のため、当然ながら治療法がありません。寛解状態を保つために気長につきあっていく病気です。
 消化管に刺激を与えないためには、やはり食べ物が重要です。医師から食事制限は課されていませんが、自主的に避けるようになりました。好物がたくさん、食べられないリストに載ることになり、天を仰ぎました。曇りでした。

 でも、Twitterで同じ病気の方々とつながっていると、みなさん工夫しながらやりくりしています。たとえば、中西優斗さん

 この方はイタリアンの修行中に病気が判明し、いったんは夢を諦めそうになったものの、いまでは同じ病気の人たちが楽しめるよう、新しいイタリア料理を研究しています。

⛵️

ちょっとした不利な条件も工夫次第で回避できる頭を私たちは持っているんだよ。

 そうなんです。困難はちょっとの工夫で回避できる。上手につきあうということは、そういうことかもしれません。この言葉は、わたしの心の重しをずいぶん軽くしてくれました。

 ということで、わたしは、やすたにありささんの短編小説「透明でまっとうな新しい日々」を激推しいたします!


遊行剣禅さん主催の「note推薦文」へ参加しております。


電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)