その船の名は「ワン・フー」

 発端は、6日と12時間前だ。

「目視できるようになったぞ」
 そのとき、ロイからの連絡があって、僕とファティマは操舵室へ入った。
「あのあたり、見える?」
 サブシートのネハが親切に指差してくれた。確かに、恒星から届く光を反射して、かすかに白い物体が見えた。
「ああ、見えた。確かに古そうだね」
 僕たちの船が恒星間航行中に、要救助信号を受信したのは偶然だった。それは余りにも弱く、非常用バッテリーが尽きかけていることは明白だった。しかし、受信した以上は素通りできない。僕たちは進路を変更し、信号の発信源へ向かった。それはもう目と鼻の先だ。
「漂流し始めてから何年経つのかしら?」
 ファティマが言う。僕もまったく同じことを考えた。
「15年か20年か。もっとかな」
 ロイが肩をすくめる。
「酸素供給が止まったのは、ダイチが生まれた頃かもね」
「僕を引き合いにださないでよ」
「あなたの人生と同じくらい長い間、宇宙を漂ってたってこと」
 接近しはじめれば早い。もうその形状をはっきり確認できる。教科書で見るような古い船だ。
「スキャンしてみたが、生体反応はゼロだ。まぁ、酸素供給はもとより、温度も保てていない。乗組員はとうの昔に全滅だ」
 ロイはマニュアル通りに手際よく処理をしていく。マッピングして管制に報告をあげれば、ひとまず義務は果たしたことになる。
「え? ちょっとなに?」
 ネハが訝しげな声を発した。視線はモニターに向いている。
「どうした?」
「近距離通信のリクエストが来た。サブジェクトは『貴船を歓迎する』って」
「ばかな」
「でも実際に」
「自動プログラムがギリギリ生きてたんだろ。切っちゃえよ。船長命令だ」
 彼女は従い、通信をクローズしたが。
「ちょっと、嘘でしょ!」
 それはもう悲鳴だった。僕もモニターを見て凍りついた。

 近距離通信リクエストを再受信
 サブジェクト名『切るなよ』


   続く

電子書籍の表紙制作費などに充てさせていただきます(・∀・)