ケーススタディ・オフグリッド・ハウス|CSOHとは


本マガジンは、近年、竣工した「オフグリッド住宅」に関するリサーチを一事例、一記事として取りまとめたものです。

調査においては、オフグリッド住宅を実際に訪問し、空間を体験させていただいた後に、施主/設計者/設備設計者/施工者のいずれかまたは複数のステークホルダーにヒアリングを行ったリサーチを取りまとめたものです(「小高町の家」のみ未訪問)。

具体的な調査対象事例を表に示します。事例は、北は秋田県大仙市から南は岡山県吉備市まで、本州の各地にわたって点在しています。これらの事例は、建築雑誌やウェブサイトなどの媒体を用いて情報収集し、アポイントメントを取った後にヒアリングに伺うかたちで進められました。

調査対象事例

対象事例には、CSOH#01,CSOH#02,,,というようにナンバリングしました。これらのナンバリングは、1945年以降、米国カリフォルニアにおいて建築雑誌『アーツ・アンド・アーキテクチュア』の誌上で実験住宅として発表されてきた「ケース・スタディ・ハウス・プログラム」(以下、CSH)の作品番号であるCSH#01, CSH#02,,を参照しています。

CSHでは、編集者兼発行人のジョン・エンテンザが告知文で謳っているように、新しく最良の材料と技術による一般解としての豊かな住まいが、若手建築家に求められました。

CSHでは、低コストで短工期にもかかわらず、快適で美しい空間を実現したチャールズ&レイ・イームズによる「イームズ自邸(CSH#8)」(1949)をはじめ、眼下に広がる夜景を見下ろすダイナミックで透明な外観が印象的なピエール・コーニッグによる「CSH#22」など、計36作品が発表されました(実現しなかった作品も含む)。CSHの背景には、1929年に始まる世界恐慌、その後の第二次世界大戦による建設事業の停滞と住宅不足、そして1945年の戦争終結による諸問題からの脱却への期待があり、大きな反響を呼びました。

翻って、オフグリッドハウスです。2022(令和4)年6月、建築物省エネ法が改正され、2025(令和7)年4月から全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務づけられることとなりました。従来、小規模(300㎡未満)の住宅は「説明義務」に止まっていたものの、「適合義務」化されたことになります。改正に関連して、2050年にカーボンニュートラル(以下、CN)、2030年に温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向けて、我が国のエネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における取り組みが喫緊の課題となっています。

省エネ基準において、算定の基準の一つとなる外皮平均熱貫流率Ua(W/(㎡・K))ですが、例えば、静岡県を含む関東から関西にかけてのエリアを含む地域区分における値は0.87となっているものの、この値は欧米諸国と比べて極めて低い水準にとどまっています。

そうした中、Ua値を高い水準に定め、環境性能(例えば、断熱性や気密性)を厳しく求めていく設計手法が見られますが、数値の厳格化(量的評価)にとどまらず、空間デザインと居心地(質的評価)とを統合した新たなエンヴァイロンメント(環境)・デザイン手法が望まれていると考えます。

パッシブハウス、高気密・高断熱住宅、ZEH(ゼロエネルギーハウス)など、さまざまな用語が生み出される中、「オフグリッド住宅」に着目した本リサーチですが、平時においては消費エネルギー(電気、給湯)の最小化、創エネ、蓄電・貯湯システムを有するオフグリッド住宅ですが、2024年1月に発生した能登半島地震や3.11(当時、多賀城市在住だった筆者は仙台で被災した)をはじめとしたインフラがオフラインになる災害時にも威力を発揮することから、オフグリッド住宅は究極の環境配慮型住宅と言っても良いのではないでしょうか。

本リサーチでは、発表されている事例がそれほど多くはないオフグリッド住宅の事例を収集し、意匠・計画面、設備・環境面から空間的特徴・傾向を整理し、また設計者・設備設計者・施工者・居住者の意向を把握し、CN時代のエンヴァイロンメント・デザイン手法について課題の把握と普及を図ることを目的とします。

なお、本リサーチでは、オフグリッド住宅10事例に加えて、先行する参照事例として高い環境性能を示すパッシブハウス(PHと略す)として2事例をCSPHとして対象事例に加え、調査を行いました。

謝辞 本リサーチは、(公財)建築技術教育普及センター 令和5 年度 建築技術の調査研究又は普及活動を応援する助成「オフグリッド住宅の性能および居住者評価からみたエンヴァイロンメント・デザイン手法に関する研究」(代表:脇坂圭一)の助成を得て進められました。各対象事例の設計者、施工者、所有者にはヒアリングおいて多大なご協力を得ました。ここに記して感謝申し上げます。

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