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666-APHRODITE'S CHILD

『音楽』と言う言葉がその通りに『音を楽しむ』ことなら、例えば、今、こうしてパソコンに向かってキーボードを打つ音、或はマウスのクリック音、はたまた、走る車のエンジン音、テレビの声、時計の電子音まですべてがその素材になり、耳に心地よい旋律にのせた素敵な詩だけがそうではないと言えます。ただ、それが無意味な音の羅列ではただの騒音ですから、如何にその音で心象を表現できるかが大切になってきます。
『666』はギリシアのバンドAPHRODITE'S CHILDが72年に発表した2枚組トータルコンセプトアルバムで、それまでのポップ路線からかけ離れた作品のため評価が分かれました。当時のLP2枚分でひとつの作品ですから、全部聞くのに約90分かかり、その長い音楽の中にひとつのテーマを表現する発想は、あのWHOのあまりにも有名な伝説の作品『TOMMY('69)』(いわゆるロックオペラ)や、大メジャープログレバンドとして成功したYESの偉大なる失敗作『海洋地形学の物語('73)』その後ピーターガブリエル脱退したことからGENESISの頂点と言われる『幻惑のブロードウェイ('74)』、結果的にバンドの決裂、裁判沙汰まで引き起こすことになったPINK FLOYD『The Wall('79)』などにも見られますから、決して珍しいものではありませんでした。ただ、APHRODITE'S CHILDのそれがほかと変っていたのが、音楽に対する手法が最初に述べた『音』に重点を置いていたことで、実際に聞くとわかりますが歌はほとんどなくインストルメンタルや詩の朗読、音、音、音、果ては叫び声がひたすら続く・・・まるで映像抜きの映画を聞いているような世界が構築されているのです。
タイトルの『666』は新約聖書の黙示録に描かれていますが、(世界が終末を迎える時2匹の獣が現れ人々は右手や額に刻印を押される。その刻印がなければ生きていくことはできない。刻印は獣の名前か数字があてはめられる。それが666である。)いろいろな研究家によっていろいろな解釈がなされおり、このアルバムはAPHRODITE'S CHILDとしてのひとつの解釈を描いていますが、それをあらゆる『音』で表現したところが斬新でした。
APHRODITE'S CHILDの名前を知らない方でもバンゲリスの名を知ってる方は多いでしょう。「炎のランナー」「南極物語」「ブレードランナー」の音楽を担当したキーボード奏者で、APHRODITE'S CHILDはそのバンゲリスが在籍したバンドです。残念ながら『666』発表後にAPHRODITE'S CHILDは解散し、バンゲリスは先程述べた映画音楽や、YESのリーダーである詩人ジョンアンダーソンとの共作を世に送り出しました。
私はLPの復刻版でこの作品を手に入れ、その不思議な世界に魅了されましたが、時が流れてLP再生が不可能な時代になるとCDの発売を心待ちにしていました。そして最近、紙ジャケットでの再販がされめでたく手に入れることができました。
使い古された表現ですが、今聞いても本当に古さを感じません。『音楽』とはこうあるべきではないでしょうか。
でも一般受けはしないな。
楽天で検索してもヒットしなかった。
ありえないけど欲しい人はアマゾンかHMV行ってね。

この記事は2005.10.1に書かれました。

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