【映画】本心
書店で原作の文庫を置いてあるのを見たほか、映画については劇場で予告を見たのとチラシを読んだ程度の予備知識で鑑賞しました。
SF度はどれほどかなという興味が大きく、観たらそれほどでもなかったのですが面白いところも多く、そこそこの満足を得ました。
最近の日本のSF映画では『Arc アーク』『PLAN 75』など現代社会の問題を投影したテーマの作品で出色のものがあり、本作も共通したテーマが扱われていました。
テクノロジーによる長命化・不死化は『Arc アーク』に共通し、本作の架空の制度「自由死」はかなりそのまま『PLAN 75』でした。
そのほかの題材もきわめて現代的・社会的です。
-VR/AR/MRゴーグル(Apple Vision Proを参考にしたとのこと)
-テレプレゼンス
-ギグワーカー差別
-カスタマーハラスメント
-闇バイト(?)
-ネットでのレピュテーション
-セックスワーカー差別
-豪雨災害
とりわけ面白かったのが、ゴーグルを使ってテレプレゼンス(遠隔での行動と体験)を実現するのがロボットではなく「リアルアバター」と呼ばれる生身の人間であるというアイディア。
これをUber EatsやGoogle Steet Viewを思わせるバックパックを背負った人々が1件いくらの報酬で色々なことを請け負うわけですが、ユーザ評価が下がるとたちまち契約を解除されるまさにギグワークで、このシステムやユーザに翻弄されるのが主人公です。
物語は、田中裕子演じる母が亡くなり、それは「自由死」と呼ばれる法制度のもとに自死したのか、そうであればなぜなのかを探求するミステリとなっています。
そのために主人公が母をAIで再現し、ゴーグルの中にその存在を作り上げていくわけですが、母の同僚だったという三吉彩花に出会い、彼女との関係を深めていきます。
AIを使って故人を再生するビジネスを行う社長を妻夫木聡が演じており、『サークル』のトム・ハンクスのようなカリスマ感と胡散臭さをよく表現していました。
「やれるかどうか」と「やっていいかどうか」の区別がついてないこういう人っていそうだなあと思いましたね。
主演の池松壮亮ももちろん、俳優陣は全体にとても良かったです。
日本映画の良いところが感じられる撮影・照明や演出がしっかりしていて、風格が感じられます。
ストーリー展開が意外と早くて、急転直下の展開が結構な密度でやってくるので、映画全体としては多様な要素が詰め込まれたガチャガチャした感じもある一方で、各シーンはしっとり落ち着いているので、そこにギャップ感もありながら、私は見応えがあって良いと思いましたね。
ただ、原作はそこそこ厚い小説なので、それを2時間の映画に詰め込んだことで説明不足を感じてしまったところがありました。
特に、三吉彩花とオンラインで会話して彼女が台風で被災して避難所にいるとわかると、自宅に呼んで同棲を始めてしまう主人公。
三吉彩花のほうはセックスワーカー体験から人をおそれ他人に触れられない、と説明されるのと、池松壮亮のほうは「純粋な人」とかいわれていて確かにそうなんだけど、結構異常なシチュエーションをさしたる躊躇なく受け入れている感じ、ここは正直ちょっと、日本映画のよくないところっていう気がしてしまいました。
日本映画っていうか、ピュア系のラブコメ漫画みたいな感じ……??
この不自然さはずーっと引っかかってしまい、彼女が「人がこわいの」って泣いて見せても、それにしてはよく知らない人の家に住むとかよく決断したなあと思ってしまったし、問題のセックスワーカー体験にしてもセリフで語ってるだけだからなあ…… と、ここがだいぶ気になりましたね。
いや、避難所になっている体育館にいるよりはるかにマシだろうとか想像はできるんですが、避難所の描写もほとんどないといっていいレベルでした。
それと、三吉彩花が演じている役が三好彩花という役名で、映画観ていて「この役者さん、なんていう名前だっけ……三吉彩花?」って思っても、作中でミヨシアヤカって呼ばれているから違うよなあって考えちゃって、エンドクレジット見たら「やっぱり三吉彩花だったー!!」ってずっこけてしまい結局ノイズにしかならなかったです。
原作でそういう名前だったのだとしたらごめんなさいですが…… いやあ、役名って大事なんですね。
ただ、彼女はとても美しくて演技も良かったので、十分見どころになってましたね。
AIで再現された母親像は、その設定(ユーザのフィードバックで修正がかかる)からして、彼女を知る主人公たちの鏡像になることは早い段階で予想できますが、それだけにおさまらないところも見せました。
ユングのアーキタイプ「グレートマザー」ってことかなと思ったり……
SF的な落としどころに進むことはなく、架空の技術、サービス、法制度が登場するもののSF映画らしさはほとんど感じられない「現代の物語」だと思えるつくりになっているのは、私は良いと思いました。
むしろ現代をきちんと描こうとすると、ちょっと未来ぐらいの仕掛けがあった方がわかりやすいのかも、とも思えましたね。
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