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【TV】パーム・ロワイヤル

大学の後輩、野坂尚也がいろんな役をあてているので、吹替で観ました。
そういう理由がなかったら観ないような作品ですが、観てみたら腰が抜ける面白さでした。
しかしそれをうまく説明できるのか……

1969年、金持ちが集まるリゾートにヒロインのマキシーンが入り込みます。
彼女は地域で最も有力な富豪ノーマの甥と結婚し、事故で植物状態のノーマの資産と地位を相続しようとします。
しかしノーマに献身的な世話をしているのはバーテンダーのロバートで、マキシーンと対立してドラマが構成されます。
またその富豪たちの娘、リンダはフェミニズムの闘士たちと一緒に活動していて、ローラ・ダーンが演じています。

この話の何が面白いのか私にもよくわからないのですが、2話3話とどんどん引き込まれていきました。
品性も教養もないマキシーンとバカな夫のダグラス、イヤミな金持ちマダムたち、彼女たちに交わっていることでマキシーンをバカにするロバート、なんでもジェンダー問題に結びつけては怒ったりするリンダとその仲間、はっきりいって感情移入する対象が見当たりません。
マキシーンはやることなすこと軽率で、見栄を張ってムチャばかりするので共感が難しいです。
それなりに不幸な生い立ちがあってこうなったようなんですが、それが表現されるわけでもないので視点人物にもなっていなくて不思議だと思いました。

演じるクリステン・ウィグのチャーミングなコメディエンヌぶりだけでこんなに面白いのか? などと考えたのですが、演技的にはみんなものすごくて、ローラ・ダーンなども本当に素晴らしいです。
上手な役者のやりとり、豪華なセットや衣裳、などで楽しませる作りってことなんだろうなーと思いながら、それだけでこんなに面白くなるものかねえ、と、面白さの分析が全然できないまま夢中で視聴しましたね。

キャラクターたちはお互いに覇権を争うわけですがその力関係がどんどん変化し、行動の動機などもやたらめったら揺れ動き、それに翻弄されていたら8話目あたりでますますぶっ飛んだ展開になっていきました。

最終回まで観てなんとなくわかったのは、ヒエラルキーの強い世界に入り込みそこで上昇しようとするヒロインが、期せずしてそのヒエラルキー構造を破壊することになっていく物語であったこと。
フェミニズム団体についてはドラマはそれほど肯定しておらず、それよりもマキシーンのとてつもないエネルギーが世界を変えたと言わんばかりの話になっていました。
最終話で、歌をまじえた一世一代の演説は、マキシーンのクライマックスにしてクリステン・ウィグのコメディエンヌとしての大仕事であることが感じられ、泣けるし、本当に素晴らしかったです。
「米国エンタテインメントはここまでできる人を求めるからスゴイんだな」って素直に思えました。

彼女については『オデッセイ』(マット・デイモンの火星菜園)『ゴーストバスターズ』(女たちの幽霊退治)で見てたのですがイマイチ認識なしでした。
50歳でこの若々しさや可愛らしさがすごいですが、それだけの年季あっての実力なんだなと思わされます。

ロバートも当初はイヤな奴でしたが、ゲイに対して厳しい当時の米国で、居場所を求めて孤独な彷徨を続けていることがわかってきて、切ない場面もしだいに増えていきました。
大体、ノーマに対して本当に献身的な介護ができてる時点で彼が一番マトモなのですが、世間に対して常にうしろめたい思いをしなければならない寂しさが見事に表現されていました。
演じるリッキー・マーティンは歌手ということで全然知らない人でしたが、実際にゲイなのですね。
素晴らしい演技でした。

あとはローラ・ダーンですね。
『ブルー・ベルベット』では、なんでこの人がこの役なんだろうと思ったりしたものですが、その後どんどん実力派として一流の仕事をするようになりましたね。
さすがという他はない、キャラクターの複雑さがその魅力に繋がるような演技であったと思います。
序盤では感じ良い人物が全然いない中、彼女だけは利口そうで落ち着いていて、見ていて快適でした。
本当はそんなキャラクターではないってことが次第にわかるわけですが……
父ブルース・ダーンが父親役で、そう考えるととんでもない場面もあります。

それと先日、TOHOシネマズの午前十時の映画祭で『ティファニーで朝食を』を長男と一緒に観たのですが、ちょっと似てるところあるなって思いました。
どちらも、上流階級の金持ちに、そうでない若い女性が交わって無理する話で、カリカチュアライズされた描写に共通するものが感じられました。
意識してこうなったのか、米国の映画やドラマの類型にある話だからたまたま似てるのか、こういうコメディに詳しくなくてよくわかりません。

吹替で見ていて演技を語るというのも、半分は声優の功績じゃないのって思ったりもしますね。
野坂尚也も、脇役ではあるけど結構重要な刑事とか、太ったファッショニスタとか、NASA職員とか、遺言読むおじさん、クジラの専門家など実に多様な人物を演じていて安定の演技でした。
でも本人から直接教えてもらってわかったぐらいで、声だけ聴いてわかるかと言ったら刑事ぐらいでしたね。
他は全然違う声で、声優さんってスゴイねと思うばかりでした。

そんなわけで、ものすごく面白かった一方で、何がどう面白かったのかあまりきちんと語れないので、皆さんもぜひ視聴の上で感想聞かせてください!

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