【SF】空想科学読本の思い出
山本弘氏が亡くなったためか、空想科学読本への賛否がTwitterに多くあがりました。
私は空想科学読本と柳田理科雄氏には否定的なのですが、何しろ出会いが非常に悪かった。
当時20代だった私は『トンデモ本の世界』シリーズをよく読んでいて、それがものすごく面白いと感じていました。
SFではない擬似科学的な「UFO」「超古代文明」などをテーマにした本にツッコミを入れていて、それらへのモヤモヤした気持ちを吹き飛ばしてくれて大いに楽しかったのです。
「モヤモヤした気持ち」はなかなかに複雑で、例えばUFOが異星人の乗り物であって地球に異星人が来訪しているというアイディアに対し「そうであってほしいけど、これがそれであってほしくはない」とか。
有名なアダムスキー氏と金星人とか、SFに描かれる異星人とはかけ離れたカッコ悪さを感じており、ちゃんとしたのが来てくれないかなあと思ってました。
ていうか今でも思ってます。
そこで『トンデモ本』シリーズはそれらのUFO話に細かくツッコミを入れることで、問題を整理してくれる感覚がありました。
山本氏はじめSF系の著者もいたので、このアンビバレントな感情は共有されていたのだと思います(歴史的には、かつて仲良しだったSFとUFOがある時から訣別したらしいことと関係が深いでしょう)。
そんな折、何か新しいトンデモ本が読みたいなと思って書店に行ったらあったのが『空想科学読本』でした。
帯には「トンデモない結論がザクザク!」とか書いてあります。
装丁もトンデモ本に似ていて、まあ二番煎じの類似企画だろうとは思ったのですが、同じ感覚が味わえるならそれもいいかと思って購入したのでした。
その日はどんな経緯だったか、仕事のあとはひとりで過ごす日だったので、どこかの飲食店で飲みながら食事して、そのお供に面白い本でも買って読もうかという時でした。
要するに、ちょっと寂しい夜でもあったんですね。
ところがその『空想科学読本』を読み始めたら……
背表紙にあった「ゴジラは生まれた瞬間、即死する!?」とか、詳しく読むと「ゴジラは生まれた瞬間、即死する」という内容だったのです。
いや、それはそういう本だって書いてあっただろっていう話なんですが、その趣旨が「あの大きさであの重量はありえない」っていうだけの話。
それはそうでしょう。
ありえないでしょう。
でも、それを言ったら、「身長50メートルで生まれる」っていう認識で考証するのがおかしくない!?
その少し前に、ゴジラなどの怪獣を生物学などで考証する本もあったので、あの怪獣がどのように生まれて50メートルにまで育ったかなどは、少なくともオタクなら一度は考えることのはず。
で、「あのサイズの生物は無理かなー」って悩んで、なんとか成立する設定を考証できないかなって思うのがオタクとかSFファンというものです。
それが、「50メートル程度に達した時点で死ぬ」とか書いてあるならまだしも、「生まれた瞬間」とは……
何か、話を面白くするためだけに都合よく情報を扱ってるだけに思いました。
「あの設定はおかしいよね」って言えば終わる話でしょうと。
そのツッコミをするために何ページも費やして解説する必要あるのかと。
だって、怪獣ものや特撮ものの設定がおかしいことぐらい、それらの作品に触れているファンはみんな知ってることなのに、わざわざそれを解説されたって面白くもなんともないと思ったわけです。
さらに「SF」と称することなく「空想科学」という言葉を一貫して使うことでSFマニアの逆鱗に触れることを回避する姑息さも感じました。
そんな空虚な書籍を読みながら、私の寂しい夜はいっそう寂しさを増して行ったのでした。
その後友人たちも同様の感想を持ったようですが、その違和感を説明する語彙はなくて「あの本はくだらない」っていう批判しかできませんでした。
当時SFマガジンには「著者が作中のことを信じていない」という言葉で批判が載っていたかな。
そんな空想科学読本を全力で批判したのが、我らが山本弘というわけです。
『こんなにへンだぞ! 『空想科学読本』』では、柳田氏の解説の間違いを指摘。
しかしロジックの批判より何より、「対象に向けた愛がない」との批判が最大のもので、これぞ私の感じたものだったと溜飲を下げました。
とはいえ、今となってはそこまで苛烈に罵るものでもないなとは思います。
当時の小学生には『空想科学読本』を楽しんだ人も多いようです。
自分が親しんできた作品に対して「これって科学的に変だな」って気づく時期は誰でもあるもので、そのタイミングで同書に接したら、それはハマるでしょう。
こっちは大学も卒業したあとのいい大人で、「科学的におかしいからって否定してたら、俺たちの好きなものがひとつもなくなってしまうんだあー」という思いから、作品への良い距離を探し続けていましたからね。
もうちょい複雑なことをいうと、私はオタク第1世代・第2世代の少しあとの世代に属するため、第1世代の「大人の鑑賞に耐える特撮映画もある」との姿勢も、第2世代の「子供向け作品は子供向け作品として楽しむのが、大人の態度」との姿勢も、両方を目にしてそれらに憧れの気持ちもありましたから、なんとか受け入れていこうとして生きてきてます。
上で、小学生だったらハマるでしょうと書きましたが、私が小学生の時に強く影響を受けたコラムが「(宇宙戦艦)ヤマトでは描写に凝っていたが考証は中途半端。ガンダムはそれ以上にリアルな表現をしている」といった内容で、いまだにヤマトを受け入れられずファーストガンダムに固執してますからね。
何かと、無理もないかって話ですね。
なお、そのコラムは「ガンダムSFワールド」という、その後何かと話題にのぼることの多いムック本で、これが私に与えた影響、などを今後語る必要があるのですが、それはまた今度。
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