【映画】キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

IMAX字幕で。
まずは3時間半の長尺を飽きることなく楽しめた出来に満足しました。
スコセッシの映画はそんなに観ていないのですが、『沈黙 -サイレンス-』を公開当時観てものすごく泣いて(しかも前半で)、そのあと遠藤周作の原作も読んだ、この10年で特に深く心に残った映画だったのでした。
それに比べると今回の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はそこまでやられなかったな……
と思ったのですが、鑑賞後3日を経てじわじわ響いてきてます。

映画としてはかなりややこしい話を、いろいろな映画術で興味深くわかりやすく見せるテクニックに驚きます。
蝿が飛んでくるとか繰り返される描写にも、なんとなく重要な意味を感じてきたりして(屍体にたかる虫が主人公にもまとわりつく、とか……)、そんな重層的な感じにも優れたものを感じました。

スコセッシ映画にはいくつも出ているロバート・デ・ニーロ、レオナルド・ディカプリオの二人も素晴らしかったです。
いい人らしさも信頼できる印象、なのに腹黒い……というか、そんなに悪いことをしている自覚はないだろうとも思えて、それが余計タチが悪いという、複雑さのある役作りはさすがでした。
ディカプリオも、リアリティのある小人物となっていて、そこに一般人が共感できると思えました。
ヒロインのリリー・グラッドストーンも、魅力的な女性なのに、状況をどことなく受け入れて、おそらく最悪ではないレベルの落ち着き先として主人公の求婚を受け入れている微妙なところがよく出てました。
愚かさゆえに周囲を受け入れてしまう主人公、賢さはあってもやはり周囲を受け入れざるを得ないヒロイン、という関係の悲劇なのでしょう。

(以下はネタバレ、なのかな? 実録ものにネタバレも何もないような気がしますが、私が観て驚いた要素だから、注意報は出しておきましょう)


終盤いきなりブレンダン・フレイザーが出てきて「この重要な雰囲気の人が今頃出てくるって!?」と驚いたのですが、実際重要な役割でした。
物語上の巨悪はデ・ニーロ演じるヘイルなのだけど、さらにその背後にあるもっと大きくて厚くて固い、「凡庸な悪」の塊みたいなもの。
それはひとまずはフリーメーソンなのかもしれないですが、そのようなものが米国のエスタブリッシュメントを大きく厚く固い、しかし極めて醜いものにしてきたのだという、白人スコセッシによる自己言及的な批判が本作の奥にあるテーマなのでしょう。
セリフにはKKK(クー・クラックス・クラン)も出てきますが、そうそうアメリカってヤバい国だよねえ……と思い起こしました。

本作には劇場パンフレットがなく、このような作品理解に情報・知識が役にたつタイプの作品でパンフレットを作成しないのは大変よろしくないと思うんですが、原作本は結構厚いし……と躊躇しました。
しかし鑑賞後数時間経って感じた、喉に刺さる小骨のようなものには意味があるような気がして、もう少し理解を深めた方が良いんではないかと思い、原作本も購入。

まだ前半二割というところですが、映画の中でチラリと出てきた要素について詳しい説明が行われており、こんな分厚い本をあの長さの映画にまとめて、いろんな要素をしっかり映画に脚色している脚本の優秀さに感動です。
映画を見たあとで、「あのシーンってこういう意味だよ」って詳しく説明されてる感じ。
訳文もわかりやすさ重視で、すらすら読める感じです。
それによって今、しだいに作品への理解が深まっており、これはかなりすごい映画で、自分にとっても世界にとっても将来にわたって重要な一作となるのではないか……と感じてます。

それと、BLACKHOLEの特集も「パンフ替わりに」と親切に解説・評論してくれており大変有益でした。
これ見るまで、スコセッシが出てたことに気づかなかったよ……

https://www.youtube.com/live/uE5eJ0Eaahw?si=PkT6MsGDFohX1Mzz

できるだけ多くの人に観てもらいたい映画です。

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