見出し画像

あたらしい憲法のはなし~十四 改正

新憲法ができたばかりの頃、政府は新憲法をどう思っていたのでしょうか。

当時の文部省が、中学校1年生用の社会科の教科書として発行した『あたらしい憲法のはなし』を少しずつ、じっくり読んでいきたいと思います。
太平洋戦争終結後の1947年8月2日に発行されたものの、1950年に副読本に格下げされ、1951年から使われなくなったそうです。

全部で十五章ありますので、一章ずつ青空文庫から転載していきます。
今回は第十四章『改正』(憲法を変えること)です。
(まとめ部分を太字にしました)


十四 改正

「改正」とは、憲法をかえることです。憲法は、まえにも申しましたように、國の規則の中でいちばん大事なものですから、これをかえる手つづきは、げんじゅうにしておかなければなりません。

そこでこんどの憲法では、憲法を改正するときは、國会だけできめずに、國民が、賛成か反対かを投票してきめることにしました。
 まず、國会の一つの議院で、ぜんたいの議員の三分の二以上の賛成で、憲法をかえることにきめます。これを、憲法改正の「発議」というのです。それからこれを國民に示して、賛成か反対かを投票してもらいます。そうしてぜんぶの投票の半分以上が賛成したとき、はじめて憲法の改正を、國民が承知したことになります。これを國民の「承認」といいます。國民の承認した改正は、天皇陛下が國民の名で、これを國に発表されます。これを改正の「公布」といいます。あたらしい憲法は、國民がつくったもので、國民のものですから、これをかえたときも、國民の名義で発表するのです。


あなたは、これを読んで何を感じましたか?
そして、何を思うでしょうか。

自民党草案では

緊急事態

前回の内容が地方自治でした。そして今回が改正ですが、自民党草案ではその間に「緊急事態(第九十八条)」「緊急事態の宣言の効果(第九十九条)」が新設されています。

九十八条のポイントとしては「内乱等による社会秩序の混乱」が含まれていることでしょうか。中国で起きた天安門事件は対岸の火事ではなくなります。(日本人はおとなしいから、きっとあんな事件にはならないでしょうね)

そして、第二項にありますが、「緊急事態の宣言は」「国会の承認を得なければならない」が、それは「事後」でもOKです。

緊急事態を宣言することによって何ができるかが第九十九条に書かれています。
・法律と同一の効力を有する政令を制定することができる
・財政上必要な支出その他の処分
・地方自治体の長に対して必要な指示
これらも国会の承認は事後です。
そして、もちろん何人なんびとも、
「国その他 公の機関の指示に従わなければ」なりません。
その際、基本的人権は”最大限に”尊重してもらえるそうです。

さて、それでは、改正について見てみましょう。

改正

この辺りはネットやニュースで見た記憶があるのですが、まず発議のハードルがとてつもなく下がります

現行憲法 第九十六条 「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議」
自民党草案 第百条「衆議院又は参議院の議員の発議

続いて、国民に提案するハードルも「両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成(自民党草案 第百条)」ですから、三分の二から過半数へと下がります。

最後に、国民投票のハードルも下がります。
現行憲法 「過半数の賛成」
自民党草案 「有効投票の過半数の賛成」
有効投票が最低何割なければいけないなどの規定はありません。今回はしょうがないから憲法改正!自民党の悲願!と言っていますが、これさえ乗り越えれば、あとはこっそりやってしまえばいいという算段です。自民党が国民をどう思っているのか、もう見たくないほど十分にわかります。

憲法改正の公布

あたらしい憲法のはなしの「一 憲法」には「これからさき、この憲法をかえるときに、この前文に記された考え方と、ちがうようなかえかたをしてはならない」と書かれていました。したがって、改正された暁には、天皇が「国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを交付する」のが現行憲法の第九十六条です。

一方、自民党草案の当該部分(第百条)では「天皇は、直ちに憲法改正を公布する」とあります。国民を縛るための憲法が国民の名で公布されるわけがありませんね。

これを公布することになったら、天皇は人としてどんな気持ちになるんでしょうね。自民党員はみんなもろ手を挙げて喜ぶんでしょうか。少なくとも、天皇の人としての気持ちを気にすることはないでしょう。

世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。