ご便利です~気になる敬語#21
私の敬愛する師の一人であるShowichさんことクロイワ正一さんよりご質問を頂戴しました。
バスで流れる「〇〇にお越しの方は、こちらがご便利です」というアナウンスが気になるとのこと。
謹んで、このご質問にお答えいたします。
間違いです
結論から言えば、間違いです。
正しくは
「こちらが便利です」
と言います。
「ご」は単語に係る
敬語を使う人が、よく勘違いしているように見受けられることがあります。
それは「ご」(または「お」)が文に係るという勘違いです。
文に係る敬語
例えば「です」「ます」は文に係ります。文の終わりにどちらかを付ければその文全体を通して、私はあなたを立てていますよ、という意思表示になります。
その場合、何を話しているかというその内容には関係なく「です」「ます」という記号が使えます。
単語に係る敬語
一方、「ご」(または「お」)は、付いている単語にしか係りません。
「ご便利」と言ったら、「便利であるものを立てる」という、ただそれだけの意味です。聞き手が誰だの話し手が誰だのは関係ありません。問題は便利なのは誰(?)か、ということです。
便利なのは誰(?)か
「こちら」ではイメージしづらいので、野織戸1丁目というバス停だったとしましょう。
また「○○」は野織戸百貨店としましょうか。
そうすると、こんなアナウンスになります。
さて、隠れた登場人物も含めると、この文には3人います。
①野織戸百貨店
②バス側(話し手でもあります)
③乗客(聞き手でもあります)
さあ、誰を立てたくて「ご便利」と言っているのでしょうか。
バス側の動機としては、間違いなく③乗客でしょう。
ただしそれは、サービスを提供するバス会社と乗客という状況からバス側の言わんとすることを聞き手が推測しているにすぎません。言い方を変えれば、この推測には、文法という要素が含まれていません。
「お越しの方」って乗客を立ててるんだよね、だったら「ご便利」も乗客を立ててるんでしょ、という類推でしかないのです。
文法から考える
もう一度、アナウンス文を見てみましょう。
さて、これなら便利であるものが分かったでしょうか。
そうです。
「野織戸1丁目」です。
これでは場所を立てていますね。
だから、間違いなのです。
こう言っているようなものです。
私は先ほど、あえて誰を立てたくて「ご便利」と言っているのでしょうと問いをずらしました。
しかし、本来の問いは便利なのは誰(?)かでしたよね。このように、単語を見なければなりません。
「ご」(または「お」)の使い方を知るには、「単語に係る」ということを理解することが大切です。
それでは、また。
世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。