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帰納と演繹~ローレンス・シルバーマン(1) に寄せて

こちらは庵忠茂作さまの記事。

ローレンス・シルバーマンってどんな人?ということでニュースがあったので、一つ貼っておきますね。

で、まあ、この庵忠さまの記事が盛沢山なわけですよ。

帰納と演繹。

ジェンダー。

中心化。

差別。

森氏の女性蔑視発言。
※森氏発言については、以前、多少述べてはおりますが、それ以外にもいろいろと思うところがあります

ということで、こんなに気になるワードを盛り込まれて、私の心は刺激されまくりなわけですが、全部を一気には扱いきれませんので、今回は帰納と演繹について書きたいと思います。

※今回「信仰」という言葉を批判的な文脈で使っていますが、キリスト教や仏教に対する信仰を批判するものではありません。もしどうしても不快だという方がいらっしゃったら、何か考えて修正しますので遠慮なくコメント欄に書いてください。

帰納と演繹

知り合いに量子物理学を勉強している者がおります。

そいつが言っていたのがこんなこと。(私の記憶なので、少々色が付いていると思われます)

「科学を真理だと思っている奴がいたら、近づかないほうがいい。バカだから。科学とは仮説にすぎない。何万回何億万回実証し、反証が出てこないから取りあえず正しいとして論を重ねていこうという営みでしかない。もし、たった一つ、説明のできない反証が現れれば、今、積み上げられている論理は全て崩れる。」

人間は、帰納と演繹を使って、真理に近づこうとするけれど、決して到達することはできないのです。しかし、何かしらの行動を取らなければいけない以上、真理ではないかもしれないことを自分の責任において受け入れ、自分にはこう見えるという事実にもとづいて行動するしかありません。
行動しつつも、帰納と演繹を繰り返し、自分に見える事実が変わったならば行動も改める。これが神ならぬ身の人間が取るべき姿勢だと思っているのです。(私が、謙虚とは、「人=権威」の前に謙虚であることではなく、事実の前に謙虚であるべきというのは、こういうことです)

それを分かっていないと、どうなるか。

神が動物を想像したなんてバカみたい。今は進化論が証明されているのに、未だにそれを拒絶するなんて遅れてる!

果たしてそうでしょうか。ダーウィンの進化論も、今西の進化論も、ただの「論」なんです。ダーウィンの進化論が正しいというのは、その人がそう思ったというだけであって聖書に書かれている進化論が間違っているという根拠にはなりません。(聖書の進化論が正しいと思っているわけではありません。念のため)

フロイトはエディプスコンプレックスと称して「男の子は母親を手に入れるため、父親のようになろうとし、男性性を身につける」なんて言っているけど、そんなバカな話、信じられないな。

誰も信じなさいなんて言っていません。他に有力な説明をすることが誰もできないから、これだけが心理学の教科書に載っているというそれだけの話です。

この世が苦しみに満ちているのは人類が●●を信じないからだ!

そうすると、これも上の2つとそんなに変わりません。

宗教社会学者のピーター・L・バーガーは「信仰への飛躍」と言いましたが、あんまり簡単に飛んでいいものではありません。

日本には宗教もカルトもありますが、早すぎる信仰への飛躍は、宗教に限らずいたるところに見受けられます。

それが、例えば庵忠さまが引用なさった、あえての普遍化です。

なぜ男性は、家に帰りたがらないのか? なぜすぐに「長い会議」をしたがるのか?

自分の周りのほんの一部のサンプルをもって「私の上司は」でもなく「身近な同僚は」でもなく「男性は」と論じる。しかしこれは著者が「体験をあえて普遍化し、ここで疑問を投げかけてみたい。」とも書いていて、そこから考えると、わざとでしょう。

つまり、読者を、「そう思いたい人、いっぱいいるでしょう?どうぞ私の記事を読んで男はダメだという信仰へ飛躍しちゃっていいのよ」と誘っているわけです。

本もいっぱい出している著名人がそう言っているんだから、男はダメだって言っていいんだよね!と思ってしまったら、それは自分の目も耳も判断力も人に委ねてしまうことと同義です。これは「自分の意見」ではなく「信仰」ではないでしょうか。

口紅と便秘

ある学者が調査をしました。
便秘をしている人の特徴を探したところ、便秘の人の多くが口紅をしていました。
結果、その調査では口紅が便秘の原因であると報告されました。

果たしてこの調査結果を受け入れる人は何人いるでしょうか。

いやいや、要するに女性に便秘が多いって言っているだけでしょ(笑)

多くの人が苦笑すると思います。

しかし、人間はこんな(↓)調査結果を、易々と受け入れてしまうこともあるんです。

機長が操縦すると飛行機事故が増える

【部下が自由に意見を言えないとどういう悪影響があるか】
機長が操縦をしているときと副操縦士が操縦をしているときでは、機長が操縦をしているときのほうが飛行機事故が多い。
※これは、本当の話であり、統計から明らかです

いや、本当の話かどうか知りません。そういう統計があるかどうかも私は知りません。

ただ、森氏は(女性は話が長く女性が増えたから)「今までの倍時間がかる」と言って炎上したわけですが、女性に限らず、部下の話を聞かない上司に不満を持っている人(=自分が自由に発言できない現状に不満を持っている人)であれば、こんな話にも飛びつきます。

私が参加した、森氏の女性蔑視発言を考えるイベントでは、この話が出たところ「機長は副操縦士に意見できるけど、副操縦士は機長に意見できないから事故が増えるんだ」「なるほどね!」「わかりやすい!」と盛り上がっていました。

※この、言ってみれば「あなたの本音はわがままじゃない。堂々と言っていいことなのよ。他の人が間違っているのよ。だって~なんだから」という誘いは、不満が強ければ強いほど、「~」がどれほど貧弱でもすがりつく人が増えます。このような例は、トランプに扇動される人々のニュースからも日本国内でも枚挙にいとまがありません。※

しかし、そのような統計があったとして、それが本当に事実だったとして、それが部下が自由に意見を言えないから飛行機事故が多いと言えるでしょうか。

私は飛行機操縦の訓練を受けたこともありませんし、操縦しているところを実際に見たこともありませんが、①とっさの判断が求められるときに、意見を交わし合っているとは思えません。
また、副操縦士が操縦するのは、乱気流に巻き込まれたときと穏やかな晴天のときとどちらでしょうか。機長が操縦するのは、エンジントラブルが起きたときと何の問題もないときとどちらでしょうか。そして事故が起きやすいのはどちらでしょうか。そう考えると、②事故が起きやすい状況では機長が操縦していると考えるのが妥当ではないでしょうか。

特に誰も利害関係のない(=自由に意見が言えるはずの)、初めて会った人たちばかりのイベントでは「そうだそうだ」と盛り上がりました。私の他にも疑問を感じた人はいるかもしれませんが、盛り上がっているところに水を差すことははばかられたのか、異論は出ません。また、私も、上記のように分かりやすくその場で説明するだけの瞬発力は持ち合わせがありませんでした。

もちろん、私が挙げた①②がどれほど批判に耐えうるものかは心もとないところがありますが、自分に正しい判断ができるとはもとより思っていません。

ただ、口紅が便秘の原因ではないであろうように、①情報は文脈によって意味が180度変わってしまうということ、そして、②人間は弱く、抑圧している本音は居場所を求めて他の人には受け入れられないような理論も喜んで受け入れてしまうことがあるということは忘れてはいけないと思っています。

言葉は物事の一面しか表現できない

言葉は事実ではありません。もちろん真理でもありません。
言葉は物事の一面しか表現することができないのです。

それはサイコロのようなものです。

表現されたものが「2」なら、他の面には何が書かれているのか。

それを、見えている面が2なんだから、「このサイコロは2でできている」と考える人はいないはずです。

今、言葉として現れたものがこれならば、裏から見たらどんな事実が見えるだろう、横から見たらどんな事実が見えるだろうと想像力を働かせましょう。そして、そこから自分なりの意見を導き出しましょう。その意見が事実と照らし合わせたときに齟齬がないか、怠らずチェックしましょう。齟齬が見つかったなら、その事実から目を背けるのではなく意見のほうを修正しましょう。

それが、自分の人生を主体的に自分らしく生きるということではないでしょうか。

最後に、ご朱印ガールでもあるサザヱさんの記事から、夏目漱石の言葉で締めたいと思います。(他の言葉も良い言葉ばかりですよ)

自分以外のものを頼るほどはかないものはない
しかしその自分ほどあてにならないものはない
夏目漱石

はぁ~。書いたぜ!(まだ帰納と演繹の話だけだけど)

ご意見もご批判も、なんでもどうぞ!


世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。