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控えさせて頂いております~気になる敬語#31

「させていただく」が気になる。気になるんだけど、いざ自分が話すとなると使っちゃう。
そんな人、多いんじゃないでしょうか。

では、こちらをご覧ください。

これが”当館”に入る前に貼ってあるならまだいいのですが、
そうでない場合、「予め」も気になります。

もちろん、火災予防のために対策を立てて実行することはいいことです。でも、なんだかモヤっとしませんか?

「させていただく」と言うと、”あなたの指示に従って私が動く”と言っているみたいで、なんだか謙虚になったような気分がしますよね。
たしかにその通りなんですが、それは状況と合っているでしょうか。

ゴミ箱を設置しないのは誰の責任?

「させる」は使役の助動詞です。つまり、誰かに何かをさせるわけです。
それに「頂く」という感謝の意味を込めた補助動詞を加えていますから、意味としては「ありがたいことに〇〇様の許可を得て△△した」ということになります。(この「ありがたいことに」には、本当はありがたくもなんともない、本音を言えば嫌なことだけれども立場上そうは言えないからありがたく受ける、というニュアンスが込められることもあります)

許可を与えたのは誰?

さて、この〇〇様とはいったい誰でしょうか。
一番シンプルな回答は、この掲示を読む来館者です。他にこの文章の中から読み取れる登場人物がいませんから。

では、なぜこんな貼り紙をわざわざ掲示しているかといえば、来館者から「ゴミ箱どこですか?」と聞かれることが多く、「ありません」というと「え~!?」と会話が続いてしまい、通常業務に支障が出るからでしょうね。
とすると、まるで来館者の指示によってゴミ箱を撤去したような言い方ですが、それは本当に来館者の希望に沿っているでしょうか。

逆の言い方をすれば、来館者の不便になり、苦情が出ることを見越してゴミ箱を撤去したのを来館者のせいにするような言い回しをしているなら、それを謙虚と言えるでしょうか。

読み手である来館者以外なら明記を

いやいや、来館者ではなく、消防署や警察などの官公庁から指示があったんだというなら、それを明記できるはずです。そしてそのときには読み手が指示したわけではないのですから「させて頂く」を使う必要はなく、「消防署の指示により、火災予防のため、当館ではゴミ箱を設置しておりません。館内にゴミ箱はございませんので、予めご了承ください。」と書きましょう。

特定の来館者のみに向けたという解釈

もう一つ成り立つのは、ゴミ箱がなくても苦情を言わず、それよりも火災予防を重視する来館者にのみ向けたという解釈です。
この掲示を見たときに、「あぁ、それはよかった、安心だ。」と思う来館者が読むのであれば、この言い回しに違和感を覚えないかもしれません。

しかし、それであれば「予めご了承ください」との整合性が取れません。

「予めご了承ください」とは「了承したうえで来館しろよ」もしくは「入館した以上、ゴミ箱が無いとか言うなよ」という意味です。

人の振り見て我が振り直せ

この掲示物を書いた人は、きっとそこまで考えていないでしょう。ゴミ箱がないという苦情を減らし、また、この掲示物自体が苦情の原因とならないように、一生懸命丁寧な、そして角が立たない謙虚そうな言葉を考えた結果だと思います。

人の振り見て我が振り直せと言いますが、自分が使う言葉の問題点を自分で見つけるのは難しく、一方で、他人の問題は気づきやすいものです。
それならば、他人の気になる言動に目をつむるよりも、他人の言動を参考に自分の言動を修正したほうが得ではないでしょうか。

そうすれば、どんな人からも、学びを得ることができます。

世の中には素晴らしい人も素晴らしくない人も含めていろんな人がいますが、すべての人との出会いを自分を良くするために生かしていけばいいと思います。

では、私ならこの掲示をどう書くか。
以下でいかがでしょうか。

火災予防のため、当館ではゴミ箱を撤去いたしました。
館内にゴミ箱はございませんので、予めご了承のうえご入館ください。

建物の入口に掲示

それでは、また。


世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。