「歌わせていただきます」#気になる敬語25
6月17日の敬語ブログにて「お持ち帰りいただけます」は常に正しいか?をテーマに記事を書きました。それに対し、TSN様よりコメントを頂戴しました。
そこで今回は、頂戴したご質問に解説しながらお答えしてまいりましょう。
「頂く」とは
「頂く」を無敬語にすると「もらう」です。
この言葉の基本の意味は「授受」です。AからBへ所有権が移るということです。
そして、基本の意味のほかに、派生した意味として、以前のブログでは、この「もらう」に許可の意味(①)があるとお伝えしましたが、もう一つ恩恵の意味(②)も込められています。
それが敬語になることで、誰からもらったのか、その対象を立てる意味(③)も加わります。
「~ていただく」とは
i ) プレゼントを「頂く」
ii) 出演させて「いただく」
i の使い方を本動詞といいます。
ii の使い方を補助動詞といいます。
ii の例では、何も物は移動しておらず、所有権も移っていません。基本の意味はなく、「~ていただく」と別の動詞につなげることで、派生した意味だけを加える役目を持ちます。
※区別のため、本動詞の場合は漢字で、補助動詞の場合は平仮名で書きます
それでは、ここまでの知識を踏まえて、TSNさまはじめ同僚の皆さまの話題に上がる「歌わせていただきます」を考えてみましょう。
「歌わせていただきます」とは
上記と説明にしたがって、三つある意味を一つずつ見ていきましょう。
①許可
歌手が出しゃばりで歌っているわけではなく、正式な許可のもとで歌っているということを言いたいのでしょう。
②恩恵
そしてそれがありがたいことであり、歌う自分にとっても嬉しいことであると言いたいのでしょう。
③誰を立てているのか
歌手に歌わせているのは、プロデューサーか何か分かりませんが、まぁラジオ局側の人間です。その人を立てていることになります。
この三つを見ると、なぜリスナーであるTSNさんが「歌います♪」でいいと感じるかがお分かりいただけるのではないでしょうか。
②はまだよいとして、①と③はリスナーにはなんの関係もありません。なぜリスナーがプロデューサーを立てる話を聞かされなくてはならないのか、そういう話は公共の電波ではなく、番組の前後でやってくださいなという話なのです。
ですからTSNさんがモヤっとなさるのは、ちゃんと文法的な根拠のあることなんですよ!
いかがでしょうか。すっきりなさいましたか?
それでは、また。
世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。