見出し画像

来週のお届けになります~気になる敬語#19

私の記事を、言語学者のアミール・カビールさまが、引用してくださいました。

引用された私の記事はこちらです。

「~になります」は、

日本語に深く埋め込まれた「自然にそうなる」という'言語的な'認識

の表れであり、

日本語母語話者は英語母語話者に比べて無責任でしょうか? 

という問いを立てたとき、

「サングラスになります」はは「知らないけど」という認識を反映したものではないということになります。(原文ママ)

と結論づけています。

言語が認識に与える影響は小さい

とおっしゃるアミールさんですが、私は「事実としては大きく異なってはおらず、悪気もないならば、言葉は多少間違っていても構わない」という意識でいると、いつの間にか言葉が認識や気持ちに影響を及ぼすので、外から分かる言葉から正していくべきと考えています。そして、それが端的に現れるのが敬語です。
(コールセンターで「別の色はないの?」などと聞かれて「一色のみになります」としか言えないオペレータを何人も見てきました。言語が認識に与える影響が小さいなら「一色のみでございます」と言ってもいいようなものですが、そう指導してもどうしても「一色のみでございます」という言い方ができません。)

このように考え方は異なりますが、市井の一般人の記事にきちんと反論してくださったのはアミールさんが初めてではないでしょうか。ということで、私は少なからず喜んでおります。

どうぞ、アミールさんの記事と見比べて、ご自身の言語観を作ってください。

では、今週の内容へまいりましょう。
今週も「~になる」が含まれる言葉がテーマです。

来週のお届けになります

これは ネットショッピングの注文確認メールに記載されていた文章です。

になる」の公式は、「~」に当てはまる動詞を行っているその人を立てるときに使います。

立てたい人、例えばお客さまの行為を指して「お待ちになる」と表現するのは、行為ではなく、自然現象として見るという意味があります。

 「お待ちになる」と敬語で言うときの「待ち」は名詞です。

「雨が晴れになる」「春がになる」というように、動詞を名詞化して、人間には操作しようがないもの、受け入れるしかないものとして扱いますよ、という宣言です。

 「来週のお届けになります」にも、行為ではない(=責任はない)と強調する意図が感じられます。

今、注文を受けたら、いくつかの社内手続きを経て発送し、配達日数などを計算すると、”自然と”来週”になる

その気持ちは分からなくもありませんが、これでは、

 「私は注文を受け付けているだけなので、それ以外は責任持てません。そもそも私が届けるわけではありませんし。ただ、それではお客さまも困るでしょうから会社から案内するように言われていることをメールに書きました。」

 と言われているようなものです。

 まさしく、読者である客から見れば、「操作しようがないもの、受け入れるしかないものとしてこのメールを読んでください」という意味になります。

これは、端的に言えば、お客さまよりも会社が偉いという意味です。

会社として責任ある言動を

そのメールを書いたのが誰であれ、客には関係ありません。その担当者個人が、「私は責任持てないから」という気持ちで書いていたとしても、送られてきたメールは会社の責任で送られたものです。そのメールに、当社に責任はないということを前面に押し出すような表現が書かれていては企業姿勢を疑われます。

もし、宅配業者の責任までは企業として負わないということを明確にしたいなら、「●日の到着日指定で◎日に発送いたします。」と案内し、宅配伝票に記載されている問い合わせ番号を併記してはいかがでしょうか。

それでは、また。

文法だけでない敬語についてもっと知りたいと思われたら、下記の講座をご活用ください。バナーからのお申し込みで、ささやかですが500円OFFになります。

世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。