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19-20ラ・リーガ レアル・ソシエダ対レアル・マドリード レビュー(2020/06/21)

こちら前節のレビューです。合わせてお読み頂けると嬉しいです!

それでは分析していきます。



戦前の予想

第30節、中断明け初のアウェイの試合、レアレ・アレーナでのラ・レアルことレアル・ソシエダとの一戦。リーガ前半戦ではモドリッチの1G2Aの活躍で3-1の勝利を飾ったものの、コパ・デル・レイ準々決勝では3-4と守備が崩壊し敗戦した。この試合ではマドリーの守備において替えが効かない選手であるカゼミーロが不在であったため、中盤はバルベルデ、クロース、ハメスの3枚が務めてハイプレスをかけたものの、ソシエダGKアレックス・レミロが素晴らしい配給を見せたことでプレスを尽く剥がされ、薄くなった守備の前でマドリーからレンタルで移籍し今シーズン才能が完全開花したマルティン・ウーデゴールが輝くスペースを与えてしまった。

お互いにボール保持を特徴とするチームであり、後方から丁寧に繋いでいくことが予想される。そして基本的に両チームともラインは高めでミドル〜ハイプレスをかける。どちらがボールを握って試合をコントロールできるかがポイントになりそうだ。

第30節、首位バルセロナは元マドリー監督ロペテギのセビージャとスコアレスドロー。マドリーにとって首位奪還の千載一遇のチャンス。対するソシエダは前節のアラベス戦で敗れており(0-2)、未だ再開後未勝利。CL出場権をかけて全力で挑んでくるはずである。


配置の確認

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両チームのスターティングメンバー。驚きを提供したのがジダンだ。この大一番に完全に戦力外扱いだったハメス・ロドリゲスをスタメン起用。彼が最後にリーガに出場したのは悪夢のマジョルカ戦(0-1で敗戦)で、また前述したようにコパ・デル・レイでのソシエダ戦に出場し敗れている。その時と異なりRWGでの起用となった。個人的に大好きな選手なので期待したい。また中盤には好調モドリッチではなくバルベルデを起用。彼は前節の相手バレンシアのように引いて守る相手に対してのボールプレーやオフ・ザ・ボールの動きに課題があるものの、CLグループリーグで対戦したPSGやソシエダのように中盤でボールを握ろうとしてくる相手に対してはそのインテンシティの高さを大いに発揮できる。その点を見ての起用だと予測した。そしてLWGにはアザールを休めてヴィニシウスを起用し、LSBにはメンディではなくマルセロが入った。ベンチにはマリアーノが怪我から復帰。

ソシエダはいつも通り4-2-3-1の布陣を採用。ウーデゴールやキャプテンで10番のスペイン代表オヤルサバル、コパで2得点を決めたスウェーデンの逸材イサク、マドリーのカンテラ出身ディエゴ・ジョレンテなどが先発し、CBのエルストンドの代わりに入ったル・ノルマンおよび出場停止のRSBサルドゥアの代わりのゴロサベルを除いてはベストメンバーを起用してきた。


前半〜ヴィニシウスさんお願いします①〜

ソシエダのプレッシング時の陣形は4-4-2で、前半立ち上がりからかなり高い位置までプレスをかけてきた。しかしキーパーまでは行かず、あくまでCBにボールが出たらスイッチを入れる。こちらのCBに対してイサクとウーデゴールを前に出し、アンカーを消しながら外向きにプレスをかける。プレスラインを切るようなIH(インサイドハーフ)への縦パスに対しては、Vo(ボランチ)が激しくついて自由に前を向かせない。サイドにボールが出たら素早くスライドし、サイドチェンジされないよう密集してハメ込むことを狙う。

マドリーの選手の技術の高さから、サイドにボールが出ても連続的なダイレクトパスから密集を抜け出し前進するシーンもあったが、パスコースを制限され蹴ることを余儀なくされるシーンもあった。

そんな中マドリーがどうボールを運んでいくのか見ていると、何ともマドリーらしいカオスなビルドアップをし始める

例えば11分のシーン。クルトワまでボールを戻すと、Acのカゼミーロがするすると前線に上がり、クロースが低い位置に落ちてくる。そして両SBが中に位置をとり、2-3-4-1のような形になる。ジダン「カゼ、ビルドアップにはお荷物だから前で待ってろ」ということだろう。実は、高いプレス回避能力を持つIHのモドリッチとクロース(あるいはイスコ)が低い位置に落ち、ハイプレスでハメられがちなカゼミーロを前のフリーマン(ターゲット)的な位置において中盤の形が逆三角形から三角形になるというのは、マドリーのビルドアップで時々見られる形であり、今回のはそれを応用した形であろう。とは言っても、ジダンが細かく戦術を仕込んだとは考えづらく、おそらく両SBの、状況に応じた判断力、ポジショニングセンスの良さ、技術の高さ故にこのような形になったと言える。選手に自由を与える(戦術皆無の)ジダンマドリーだからこそ見られる形とも言えるかもしれない。だがこれは仮にボールを失った時にカゼミーロが守備に行けないというリスクを抱える。

続き。クロース、マルセロがパス交換をし、ラモスが再び開いてボールを受ける。この間に、カゼミーロがバルベルデと入れ替わるようにしてサイドレーンに流れる。サイドでボールを受けると、走り出したヴィニシウスにスルーパス、そのまま彼はドリブル突破からチャンスを作った。トップ下の位置からサイドに流れ、WGにスルーパスを出すAcカゼミーロ。マジで意味わからん戦術である。24分にもカゼミロが前線でターゲットになっている。普通にAcの位置でも良い縦パスを通したりダイレクトで繋いだりビルドアップに貢献しており、完全無欠な選手にどんどん近づいている印象だ。

ここからが本題なのだが、マドリーはこの試合LWGヴィニシウスがドリブル突破からチャンスを作りまくる。ソシエダのように高いライン設定をするチームの後方には大きなスペースがあり、そうした状況で力を発揮できるのがヴィニシウスだ。オープンスペースで圧倒的なスピードで違いを生む、「質的優位」を保証する彼になるべく良い形でボールを渡す必要がある。前述のビルドアップも、そのための1つの手段ということである。つまり、マルセロが中に入り(一度外に人がいなくなり)、中央低い位置で人数をかけてパス交換することで相手RSHポルトゥの意識は中に向くため、ラモスが縦に持ち出せば直接ヴィニシウスへのパスコースが作れる、あるいは11分のシーンのように代わりに誰かが外に流れることで少し余裕を持ってボールを受け、ハマることなくヴィニシウスにパスを出せる。

もう一つ重要なポイントが、ベンゼマのポジショニングだ。ベンゼマには、かつてはロナウドが、今はアザールが左サイドにいるため頻繁にサイドに流れて絡みたがる癖がある。これはベンゼマが空けた中央のスペースに彼らが侵入して中央でも仕事ができるプレイヤーだからこそ流動性が生まれ機能する。しかし、ヴィニシウスはそういうタイプではなく、サイドに張って足元またはスペースでボールを受け、ゴリゴリに1対1を仕掛けるウィンガーである。ベンゼマが左に流れてしまうと、相手CBもついてきてヴィニシウスがドリブルするスペースを消してしまう恐れがある。この試合でベンゼマが左に流れるシーンは普段と比べて少なく、中央にCBをピン止めすることで、ヴィニシウスと相手RSBゴロサベルとの1対1の状況を作り出していた(アイソレーション)

先ほどのシーン。

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前半〜ヴィニシウスさんお願いします②〜

今度はソシエダの攻撃戦術とマドリーのプレスを見ていく。ビルドアップ時にはRVoのスベルディアが両CBの間に落ちてきて3バックの形になり、両SBは高い位置をとる。マドリーはバルベルデを前に出す4-4-2の形でプレスをかけるが、コパの反省を生かしてGKレミロまでプレスに行くことはせず、後ろ3枚に対してベンゼマとバルベルデが徐々に距離を詰めに行く。またパスの出所となるメリーノ、技術が高く針の穴に糸を通すようなパスを繰り出せるウーデゴールがいる中央をマドリーは警戒。特にメリーノが落ちてボールを引き出す際にカゼミーロが高い位置までついていくなど、その意識が見て取れた。

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ソシエダは中央からの侵入が厳しいシーンではサイドからの前進を試みる。この時幅はSBがとり、ポルトゥ、オヤルサバルは内側に入りこちらのCB、SBの間にポジションをとる。相手SBにボールが渡った時、WGが間に合わないとマドリーはSBが釣り出される形となり、その瞬間ポルトゥ、オヤルサバルはチャンネルランや裏抜けを狙う。

40分のシーン。マルセロが釣り出された裏でポルトゥがボールを受け、そこにクロースが釣り出される。空いたスペースでボールを受けたウーデゴールが前線に走っていたゴロサベルにパスを出そうとした(通らなかった)。

しかし、この戦術はマドリー相手には諸刃の剣だ。マドリーはポジティブ・トランジションにおいてまずはヴィニシウスを見る、そのスピードを生かすという意図があり、ゴルサベルが上がって空いたスペースにボールを送る(実際40分の奪ったシーンでもヴィニシウスの仕掛けに繋がる)。

こうしたいくつかの恩恵を受け、ヴィニシウスが躍動する。28分にはバルベルデからのロングボールを受けてゴロサベルと交錯。ゴロサベルにイエローカードが提示され、彼は退場のリスクを背負いながら長い残り時間を戦うことになり、さらにヴィニシウス有利な状況に

他にも開始早々のバルベルデがチャンネルをとったシーンや、バルベルデの股抜きパス、カルバハルとベンゼマのワンツー等右サイドのコンビネーションからチャンスを作る場面はあったものの、前半はスコアレスで折り返す。ボールを握られる時間帯もあったが、シュート本数は6-2(ソシエダ枠内0)と、まずまずの内容であった。


後半〜右サイド修正〜

後半、ジダンはIHに入っていたバルベルデをRWGに移し、ハメスをトップ下のポジションに据える4-2-3-1へと変更。前半のハメスは久しぶりの出場を思わせるような動きで、中寄りでプレーするも効果的に攻撃に絡めておらず、存在感が希薄だった。また高い位置をとるLSBモンレアルと前のオヤルサバルへの守備対応に追われる時間もあり、彼の良さを発揮できているとは言い難かった。

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それでも一定の献身性を示すことはできていたため、ある程度中盤のインテンシティを保ちつつバルベルデを開かせて幅を使って相手を広げ、ヴィニシウスにスペースを渡そう&モンレアルをしっかりケアしようという意図か。

後半開始早々、左サイドでヴィニシウスがマルセロとのワンツーで裏をとり、ドリブルでPA内まで侵入して倒されPKを獲得。ラモスが落ち着いてこれを沈め先制点。このシーンでは、先ほど述べたようにベンゼマが中央に留まり相手RCBジョレンテに自分を意識させ、そのおかげでチャンネルに広大なスペースが広がっていた。慌ててカバーに来たジョレンテと戻ってきたゴロサベルをさらにかわしたヴィニシウスは見事としか言いようがない。なお、このゴールでラモスはリーガ通算68得点目、元バルセロナのロナルド・クーマンを超えてリーガ史上最も多くの得点を記録したDFとなった。

先制点で少し余裕が生まれたマドリーは、無理せずボールを回しながら追加点を狙う。トップ下に入ったハメスはよくボールを受け相手を引きつけてパスを散らすなど、徐々にリズムを取り戻し始める。また、ボール非保持時はしっかりと4-1-4-1のブロックを敷き、中央を固める。ソシエダはこれに対し中央を無理に崩そうとして引っ掛けるシーンが多かった。サイドを有効に使うためか、60分にはオヤルサバルに代えてヤヌザイを投入。またヴィニシウスにちんちんにされてイエローカードを貰っていたゴロサベルに代えて本職CBのエルストンドを投入し、守備の安定も図る。一方マドリーはイサクとの衝突で膝を打撲したラモスに代えてミリトンを投入。

67分にヤヌザイがCKのサインプレーからミドルを突き刺すも、VARでオフサイドの判定。バルセロニスタ中心に議論を呼んでいるが、2016-17シーズン最終節バルセロナ対エイバルのアルバの地球蹴りPKを思い出した。

69分に大外でボールを受けたバルベルデがドリブル突破からクロスを上げ、ベンゼマがでトラップし追加点。後半の修正は良い方向に働いていた。

その後もマルセロが中盤でプレス回避に一役買ったり、ヴィニシウスが一人カウンターからチャンスを作る(速すぎて味方すら間に合わずクロスは回収される)など時間を進めていく。

82分に右サイドからファーへのクロスをフリーのメリーノに決められ一点差に。マドリーの一つの弱点は両SBの上背がないところで、このシーンは途中交代のアセンシオが戻るなりケアすべきだった。

終盤は押し込まれるも、ミリトン中心に最後まで守り切りそのまま2-1で勝利。3ヶ月以上ぶりに首位浮上を果たした。


試合結果

レアル・マドリード 2-1 レアル・ソシエダ
セルヒオ・ラモス(50分)、カリム・ベンゼマ(69分)
ミケル・メリーノ(82分)


出場選手

クルトワ:急激にパスの質が向上(?)。失点シーンはノーチャンス。
カルバハル:最後まで抜群の推進力でチームを押し上げる。過労死が心配される。
ヴァラン:開始早々にイサクにターンされ不安を感じさせたが、その後は何もさせず。
ラモス:軽傷とのこと。中断明けからずっと安定している。
マルセロ:DFとは思えないプレス回避とヴィニシウスへのチャンスメイクを披露。
カゼミーロ:守備は言わずもがなパスミスも少なく公式ではMOM。
バルベルデ:ボールを握ってくる相手に対してはサイドでも一定の働きを期待できそう。
クロース:最近守備あんまりサボらない印象。
ハメス:ローテーションに組み込むべき。もっとやれるしプレー見たい。
ベンゼマ:ウーゴ・サンチェスを抜き、マドリーの歴代リーガ得点数第4位に。
ヴィニシウス:個人的にはMOM。最後まで守備にもスプリントしまさに獅子奮迅の活躍。
ミリトン:今日は前に出て潰すシーンもあり良かったと思う。
メンディ:もう少し早くマルセロ下げてあげても良かったのでは。
モドリッチ:彼を休ませられたのは大きい。
アセンシオ:終盤に出ているのでまずは守備から。
マリアーノ:ヴァランのクリアに抜け出してマドリディスタ達を期待させるも宇宙開発。
ジダン:ヴィニシウスの起用大当たり&後半の修正も良い方向に。クロース、カルバハル、ベンゼマあたり休ませたい。次はマジョルカでリーガ前半戦に敗戦した相手なのでベティス戦の二の舞にならないようにする必要があるが、ローテーションにも注目だ。


データ提供元:https://www.whoscored.com


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