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19-20ラ・リーガ レアル・マドリード対ヘタフェ レビュー(2020/07/02)

前節のエスパニョール戦はレビューをお休みしたのでその前のマジョルカ戦のレビューを載せておきます。ぜひ合わせてお読み下さい!

それでは分析していきます。



戦前の予想

リーガ・エスパニョーラ第33節レアル・マドリード対ヘタフェの一戦。ヘタフェは2015-16シーズンに2部に降格したものの、1年で1部昇格を果たし、その後は8位、5位と昨シーズンにはEL出場権を獲得。今季もここまで6位につけ、ELでもあのアヤックスを敗退に追いやりベスト16に進出するなど、勢いのあるチームだ。

ヘタフェの躍進には、ホセ・ボルダラス監督の手腕が大きく影響している。コンパクトかつ肉弾戦を厭わないアグレッシブな守備で相手の自由を奪い、少ない手数でゴールまで攻め込む戦う集団へとチームを変貌させた。

リーガ前半戦ではマドリーは結果的に3-0で勝利したものの苦戦を強いられており、4-4-2を基本フォーメーションとする組織的なプレッシングをどう掻い潜っていくのかがポイントになりそうだ。またマドリーは次節休みなく鬼門サン・マメスでのアスレティック・ビルバオ戦に臨まなければならず、誰を起用するのかにも注目が集まる。バルサとアトレティコが痛み分けに終わり勝てばバルサに勝ち点4差をつけられるため、絶対に勝利したいところ。


スタメン

VSヘタフェ画像①

マドリーは前節エスパニョール戦から3人を変更。出場停止だったモドリッチとメンディがそのままスタメン入りし、招集外となったアザールに代わって好調ヴィニシウスが入る。イスコをトップ下に置く中盤ひし型4-4-2のおなじみのシステムを採用した。ヘタフェのプレーモデルからして中盤で体を張れるバルベルデが起用されるのではないかという予想もあったが、ジダンにはおそらくイスコを含めよりボールプレーに優れるユニットを並べることでオープンな展開にせず相手のプレッシングをいなしながら試合のペースを握ろうという意図があったと思われる。また、ベンチにはバスケスとヨビッチが怪我から復帰。

一方ヘタフェはチームのトップスコアラー(11点)であるハイメ・マタと、マクシモヴィッチを縦関係の2トップとする4-4-1-1を採用。Voは不動のアランバッリと、ティモールの組み合わせ。アランバッリとコンビを組むことが多い本来は中盤の選手であるマクシモヴィッチを1列前で起用してきたことからも、まず守備に重きを置き強度の高いプレッシングをかけようという意図が読み取れる。


前半〜ヘタフェのハイプレス〜

前半、ヘタフェはマドリー相手でも臆することなく強烈なプレッシングを実行。同じく4-4-2のシステムで強固な守備を誇る例えばアトレティコ・マドリードのようなチームとはまた違った守備の仕方で、その特徴を一言で表すと「スライドとカバーリングの連続による突撃守備」といった感じか。4-4-2はその配置上ピッチのスペースをバランスよく埋めることができるため、ゾーンディフェンスを行うのに適したフォーメーションであると言えるが、ヘタフェはマークの受け渡しをするというよりは近くの相手に対して、スペースではなく人に対してポジションを捨ててでもとにかく強く出るその際、全員のカバーリングの意識が徹底されており、素早くスライドして前に出た選手が空けたスペースを埋める。そのため時に2トップの選手が中盤のラインに入ったり、中盤の選手がDFラインを埋めたりする。突撃しに行く選手は他の選手がカバーリングに入るという共通認識があるからこそ、あそこまで思い切りよく前に出てアグレッシブな守備が行えるのだろう。また、かわされても二度追いし、ファウルしてでも相手を止めることでリズムを途切れさせて相手にペースを握らせない。多少ダーティに映るそのプレーモデルには、賛否両論あるところだ。

VSヘタフェ画像②

配置の噛み合わせとヘタフェのプレッシングを見ていく。噛み合わせは上の通りで、ボール非保持時のヘタフェは4-4-2の形。まず2トップはAcを消しながらCBにアタックし、IHに対しては2Voがファウル覚悟で潰しに行く。サイドにボールを誘導したらものすごい勢いで両SHがこちらのSBにアタックし、その際全体で素早くスライドしてSBやVoと協力しながら密集を作りはめ込むというやり方。

マドリーはこのようなハイプレスをかけてくる相手に対していつもの如くクロース(モドリッチ)をDFラインに落として3バックを形成。「クロースロール」という呼び方が定着しつつあるみたいなのでそのように呼ぶことにする。そもそもマドリーはなぜこのクロースロールをするのかというと、もちろん相手の2トップに対して数的優位を作り出すというのもあるが、配置の噛み合わせをずらすことができるからである。流れの中でクロースが落ちSBが非常に高い位置をとると、相手のSHは浮いてしまうクロースを見れば良いのか、それとも低い位置まで下がってそのままこちらのSBを見れば良いのか迷いが生じることになり、それを利用してマドリーはサイドから優位に前進していく。バルサや他のチームだとAcがCB間に落ちてきてこうした形を作りがちだが、マドリーは守備の安定のために置いていてこうした役割に不向きなカゼミーロの代わりに、世界最高のプレス回避能力を持つインテリオールにこの役割を負わせることで質の高いビルドアップを実現しているわけだ。

しかしこの日のヘタフェはクロースロールにしっかり対応してくる。SHにはそのままマドリーのSBを見させ、クロースに対して2トップの片方がCBをぼかしつつVoのアランバッリがそのまま前に出て縦を切る。この役割を明確化したことで、マドリーの生命線である左サイドのビルドアップは相手にSH、SBが揃っている状況で(数的不利に陥ることがなく)対応されてしまい、なかなかうまくいかなかった。右サイドでもベンゼマが流れて数的優位を作り出そうと試みるも、相手LSHククレジャがアフロヘアをなびかせながら高いインテンシティを発揮。14分には自陣ペナルティエリア付近まで落ちてきたベンゼマにLCBエチェイタがそのままついていって前を向かせない。マドリーはあの手この手を使ってプレッシングを掻い潜ろうとするも、激しい守備に苦戦する時間帯が続く。そもそもこのイスコ・システムは右サイドの攻撃が死にがちである(ヴィニシウスは左ウィングに近い位置にいて、ベンゼマが中央にいるため)。


前半〜ヘタフェの弱点〜

とはいえもちろんヘタフェにも弱点はある。Voが前に出てプレスに加わるとなると必然的にHSが空くことになる。ハイプレスをかけるチームはいかにDF陣が前に出る攻撃的な守備ができるかが重要であり、スアレスやジェネ(対人鬼強い)が鋭い出だしでこのスペースに侵入する相手に突撃するものの、素早いサイドチェンジやカウンターの場面で中盤のスライドやVoのプレスバックが間に合わないなどといった状況は起こり得るため、マドリーはここにモドリッチやイスコが顔を出すことで攻略しようとする

例えば17分のシーンはわかりやすい。ベンゼマが落ちてボールを受け、空いたHSでイスコがボールを受けるもここはスアレスに捕まる。

しかし22分のシーン。ラモス→ベンゼマ、カルバハル→イスコとピッチの横幅を最大限に使った大きなロングパス2本が通り、相手を揺さぶると、最終ラインに位置していたモドリッチがスッと落ちてライン間HSでボールを受け(Voティモールのスライドが間に合ってない)、タメを作って裏をとったメンディにスルーパス。このクロスをヴィニシウスが押し込むもGKソリアのナイスセーブに阻まれる。前半は2つしか決定期を作れずこれがそのうちの一つだったが、良い崩しだった。

もう一つの決定期は35分のカウンター。左HSにスプリントしたモドリッチのパスを受けた再開後5試合3ゴールのストライカー、ラモスのクロスにイスコが合わせるもこれもソリアにセーブされる。

ヘタフェの攻撃は割愛するが、前線にロングボール→ハイプレス→ショートカウンターというシンプルな形。マドリーはボール非保持時はイスコを右に配置し4-1-4-1で守るも、いくつかチャンスを作られ、クルトワのスーパーセーブで凌いだ場面も。前半は0-0で終了。マドリーは打撲をした様子のヴァランに代わってミリトンが入っている。


後半〜マドリーの問題点〜

後半のメンバー交代はなし。ヘタフェとしては前半はプラン通りの展開に持ち込めており、後半も引き続き強度の高いプレッシングでマドリーの自由を奪いにかかる。

前半同様、ヘタフェのハイプレスを前にほとんどゴール前まで近づけないマドリー。前半からここまで、もちろんヘタフェの組織的な守備が素晴らしかったのだが、マドリー側の問題点としては裏抜けの動きが少なく、深みを作れなかったことが挙げられる。とはいえこれは選手起用および戦い方の選択によるもの。ハイラインでハイプレスを仕掛けてくる相手に対して、苦し紛れではなく意図的な、一発でひっくり返すようなロングボールを狙っていれば、相手は裏のスペースを警戒してラインを下げざるを得ない。裏抜けの動きが少ないと後ろを心配しなくて良く、この手のチームは押せ押せにどんどん前がかりに襲いかかって来るため、マドリーは中盤で非常に窮屈なプレーを強いられることになる。もちろんロングボールを狙うということはそれだけオープンな展開になりがち(この戦い方で行くならベイルやロドリゴを使ったはず)なので、ボールをなるべく保持した状態でプレッシングをひっくり返すためにイスコを起用したのだ。したがって避けて通れないのはイスコのパフォーマンス。密集した場所でも卓越したボールコントロールで相手をいなすプレー、そしてライン間でのプレーを期待されたが、如何せん体にキレがなくボールロストやパスのずれが多かった。彼の自由にボールに寄ってくる動きが、逆に中盤に渋滞を起こしていたというわけだ。


後半〜WG投入で引き寄せた流れ〜

いつも交代が遅いジダンだが、この日は打つ手が早かった。62分にイスコとヴィニシウス(ドリブルのタッチが粗く、リズムに乗れなかった印象)を諦め、ロドリゴとアセンシオを投入し、4-3-3に変更。個人的にアセンシオをクロッサーとして使うのはもったいないと考えており、右アセンシオ左ロドリゴかなと思ったりもしたが、右ロドリゴ左アセンシオと利き足サイドに配置。また同時にモドリッチに代わってバルベルデを投入。

VSヘタフェ画像③

ちなみにこれはこの試合の選手の平均ポジション(マドリーはオレンジ)。上でも述べたようにイスコ起用時右サイドで攻撃が作れないのと、カルバハルの負担の大きさが見て取れる。データ提供元:https://www.whoscored.com/

VSヘタフェ画像④

この交代でマドリーの攻撃(特に前半死んでいた右サイド)は明らかに活性化。65分にはさっそくバルベルデがティモールを釣り出し、空いたHSにベンゼマが下りてきて(上で述べたヘタフェの弱点を突いた形)ロドリゴとワンツー。裏に抜けたロドリゴがクロスを上げるもアセンシオには合わず。

直後の67分にはアセンシオが左サイドを縦に突破しマイナスのクロスからベンゼマが左足でシュートを放つも、これはミートせず。利き足サイドにスピードのあるWG二人が投入されたことで縦への意識が強まり、シンプルな形でサイド裏のスペースを利用できるようになった。イスコの動きに合わせて歪なポジションをとることが多かった前半と異なりポジション、役割が明確になったことも良い方向に傾いた。

77分についにゴールをこじ開ける。カルバハル、ロドリゴ、ベンゼマがトライアングルを形成しダイレクトパスによるコンビネーションで右サイドを突破(ここでもベンゼマがHSで仕事をした)。カルバハルが深い位置で切り返したところ足を引っ掛けられPKを獲得。ラモスが落ち着いて決め、これで再開後6試合4ゴール。またPK21回連続成功というとんでもない精神力を見せつけた。

なお謎のシンクロを見せたメンディ(ハイライト0:45〜)。

ヘタフェはプレーモデル上消耗が激しいサイドの選手(スアレス、ククレジャ)を交代していたものの、マドリーの選手交代により活性化したサイド攻撃に対して有効な対策を講じることができなかった印象。

そのままスコアは動くことなく終了。非常に貴重な勝ち点3を手に入れた。今回のレビューではだいぶイスコに対して厳しめなことを述べたが、もちろん2016-17、2017-18シーズンにイスコ・システムでCLを制覇したことも事実で、マドリディスタ全員がそれを知っている。コンディションの上がったキレキレのイスコを早く見たいものだ。今日の試合を見て、現状右サイドは個人的にはロドリゴがベストかなと思った。


試合結果

レアル・マドリード 1-0 ヘタフェ
セルヒオ・ラモス(79分)


出場選手

クルトワ:いくつかパスミスがあったが、この日もビッグセーブを見せクリーンシートに貢献。
カルバハル:これだけ酷使されても攻守に存在感を発揮し、値千金のPK獲得。過小評価されてる気がする。
ヴァラン:怪我は軽いもので、大事をとった模様。出ずっぱりだったが次節は招集外なのでしっかり休んで欲しい。
ラモス:レビューであまり触れなかったがこの日は本業(?)の守備でも大車輪の活躍。ミリトンの尻拭いまで。
メンディ:右足のクリアが下手くそなことがバレる。
カゼミーロ:いつも通りのカゼミーロ。すぐ痛がるくせに全然怪我しない頑丈な体の持ち主。
モドリッチ:前半の2つのチャンスを作ったのは彼。やはりHSの使い方のレベルが違う。
クロース:良質なサイドチェンジなど安定したプレー。あまり記憶に残らなかったってことは多分まあまあ良かった。
イスコ:守備はしっかりしてたけどまだまだこれから。
ベンゼマ:前半は苦しんだが後半はチャンスの起点となる。現状カゼミーロ、カルバハルと並んで替えが効かない選手。
ヴィニシウス:物足りなかったが、中央でのオフ・ザ・ボールの動きは間違いなく改善されつつある。
ミリトン:一度ミスしてラモスに助けられるが、スピードや対人の強さなど良いところも見られた。
バルベルデ:再開直後に比べ段々良くなっている印象。豊富な運動量で右サイドにエネルギーを注入。
ロドリゴ:フィジカルが目に見えて向上。キレのある突破で存在感を発揮。
アセンシオ:忘れてたけど左右で機能するのは本当に頼もしい。
マリアーノ:2分の出場でイエローを貰う。
ジダン:後半の交代は的中したが、逆に言えば先発選びに失敗したとも言える。ただあらかじめ後半に勝負を決めに行く用意されたプランだった可能性もあるので何とも言えない。何にせよバルサが内部崩壊しつつある中で、一枚岩となって勝利できたのは非常に大きい。


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