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バイクで転けて、腕の骨を折った話(バイクで転けて、腕の骨を折った話01)

腕の骨を折ってしまった。左腕の付け根のところだ。

事故現場はほとんど陽の当たらないような、細い山道の舗装路である。
前に吹っ飛んでいったバイクは、ほぼ横になっているので、もう立て直しがきかないのがわかった。後ろタイヤがクルクルとゆっくり回転している。

タイヤの空気圧を上げたままだったのは失敗だった。
後ろタイヤの空気が抜けていたので、一度いっぱいになるまで入れて、しばらくして抜けていかないかの確認をしようとしていた。通常、滑りやすい路面に入る場合はタイヤの空気圧を落とす。でないとしっかり路面ととらえてくれないのだ。

滑った路面はちょうど木の影になって濡れていて、苔の上に泥が覆っていた。見た目は黒くて路面と同じであるが、苔と泥で層になっていて、氷の上に水を流したような(ブラックアイスバーンみたい)状態で、靴でもヌルッと滑ってしまう、かなり危険な路面状態であった。
そんなとこで坂道を登るためにアクセルを回したもんだから、柔道の足払いみたいに、気がついたら転けていた。

身体が路面に落ちた時に、左肩が「ガチン!」と鳴った。
肩の受け皿のとこに、腕の骨がハンマーで殴ったように突き刺さって、めり込んだみたいに感じた。イタイという感覚ではなくて、アツイという感覚。
ヒビや脱臼ならいいが、おそらく折れている。それも、骨が複雑に押し潰れているんではないかと思った。

倒れたバイクのタンクからは、ガソリンが漏れだしている。エンジンは停止しているが、一刻も早く立てないとヤバイ。足を遠くに出して滑らない位置で踏ん張り、背中でもたれかかるようにして、右腕だけでバイクを少しずつ立てていった。
動けば左腕には激痛が走る。熱して真っ赤になった高熱のハリガネを、ブスッと突き刺されたような感覚。悲鳴をあげる。

ハンドルの向きが少し右にずれて、固定しているネジが緩んだのか、グリップを持つとグルンと上向きに回ってしまう。
セルは押すと回ってくれた。しばらく強引に回してやると、なんとかエンジンはかかった。

まず、狭い道なので、車が道を通れるようにしないといけない。エンジンの回転するバイクにまたがり、両足をついたままズリズリと少しづつ前に移動させて、道の横幅の広いとこにバイクを避難させた。

幸い足首は潰れていない。膝は少し擦りむいているが、足は折れてはいない。これなら、なんとか家まで帰れるんじゃないかと思った。

ここは私の家からは電車の駅で一駅の地区から、少し山に入ったところである。なんとか家に帰りたい。横になりたい。汗とドロの服を着替えたい。傷口を洗いたい。

ハンドルは少し右にずれたまま。なんとか運転できる位置にだけして、トコトコと歩くようなスピードで山を下る。また転ぶのだけは避けたい。
駅前に出て医院の前を通る。数人の人がいるが、自分たちの話に夢中で、そんなにこちらを見ていない。どうやら見た目はそれほどヤバいっていうわけではないようだ。

なんとか転けずに家までたどり着いた。
左肩の痛みはますますヒドく、腕が上がらない。洗面台に左腕を置いて、身体を徐々に下に下げることで、叫びながらも左腕を上げた状態にした。服の袖から腕を引っこ抜いて、30分ほど格闘して服を脱ぐことに成功。
シャワーを浴びて、着替えてベッドに横になる。

片手が動かないと、こんな当たり前のことが、当たり前にできない。
以前に沖縄で骨を折ったのは右手だったか。もう十年以上前である。
あの時の痛みよりは、いくらかましな感じがする。

できれば転けたりはしたくないし、怪我もしたくない。
でも、バイクに乗っている以上、転けることはあるし、怪我をすることもあるであろう。
あそこで転けないで、もっと山の上で転けて、崖の下にバイクもろとも転落するってことも大いにある。
転けたのはラッキーであったか、アンラッキーであったかはわからない。

転けたという事実が起きただけで、そこからどうするかってだけのことである。なんとかしようとするのである。この状況をひたすらなんとかしようとするのである。
倒れて泣いてたってどうにもならない。起き上がらないと進んでいかない。だから起き上がって、自分でできることをするまでだ。

今日は7月7日であった。なにかいいことが起きるような気がして出発したのであるが、起きたことはバイクで転倒なのであった。それで、7月7日の夜7時にはこうやって、左肩の痛みに悲鳴を上げながら横になっている。

良いも悪いもなくて、ただ起きたことを受け入れて、なんとかしようとするだけだ。これってなんだか強烈に「生きているって感じがするなあ」と思った。

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