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M&Aの最終契約書を作成する際の留意点

M&Aを行う際、さまざまな「契約書」を作成しなければなりません。

中でも重要なのが、最終段階で作成する株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などの「最終契約書」です。

M&Aの最終契約書は非常に条項数が多く、他の一般的な契約書にはない特殊な条項が多数含まれます。契約書の内容を良くチェックせずに調印してしまいますと、クロージング後に思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあるので、事前にしっかり内容をチェックして不利な条件を避けなければなりません。

今回はM&A契約書の特徴や作成に際して留意すべき条項の定め方を解説します。これからM&Aを行う方はぜひ参考にしてみて下さい。

1.M&Aの最終契約書とは

M&Aの最終契約書は、M&Aにおけるさまざまな契約書の中で「もっとも」と言ってよいほど重要な契約書です。
売り手企業と買い手企業のトップが条件交渉を行い、デューデリジェンスを実施し、最終的に買収合意に至ったときに買収のスキームや条件を確定します。

■ 株式譲渡なら株式譲渡契約書
■ 吸収合併なら吸収合併契約書
■ 株式交換なら株式交換契約書

このように、最終契約書は、採用するスキーム(M&Aの方法)に応じた内容にしなければなりません。

M&Aの初段階で作成される「基本合意書」には法的拘束力の認められない条項が多数含まれますが、最終契約書には「法的拘束力」があります。

最終契約書の記載内容を守らないと、契約後に損害賠償請求をされたり訴訟につながったりするリスクもあるので、調印の前にくれぐれも慎重にチェックしなければなりません。

2.M&Aの最終契約書に特徴的な条項

M&Aの最終契約書には、他の契約類型にはみられない特徴的な条項がいくつかあります。

■ 表明保証条項
■ ロックアップ(キーマンズ)条項
■ コベナンツ条項(誓約条項)
■ クロージングの前提となる条項

以下、それぞれについてみていきましょう。

3.表明保証条項

1つ目は「表明保証条項」です。

主に売り手企業が買い手企業に対し、一定の事項を表明し、内容を保証します。

たとえば契約締結日や譲渡日などの特定の時点における財務や法務関係の項目について、正確性を担保するために表明保証するケースなどがあります。

M&Aでは、一般的に最終契約前にデューデリジェンスを実施して対象企業に潜むリスクを調査します。しかし、デューデリジェンスには費用面でも時間的にも限界があり、完全に調べられるわけではありません。そこで売り手企業に重要事項を表明保証させて、買い手企業のリスク回避を図ります。

表明保証条項の効果
売り手側が虚偽の表明保証を行うなど違反が発覚すると、買い手側は契約の解除や売り手側への損害賠償請求ができます。

損害賠償請求について
損害賠償請求とは、表明保証違反によって買い手企業が損害を受けたときに損害の補填を求めることです。
ただ、どのような場合にどのくらいの損害賠償をできるのか明確でなければ、買主側の権利行使が難しくなってしまいます。売り手企業にとっても、義務が無制限に広がるのはリスクが高いでしょう。ですから、表明保証条項違反時の効果は契約上明確に定めておく必要があります。

解除について
表明保証違反があれば契約を解除できる可能性があります。ただしM&Aの実行後に契約を白紙に戻してしまったら、社内にも社外へも多大な悪影響が及ぶでしょう。
解除よりも損害賠償や補償によって対処する方が双方にメリットが大きいケースも多いので、解除権を制限するのも1つの方法です。

責任が免除されるケース
表明保証違反の程度が軽微だった場合や買い手側によるデューデリジェンスが不足していた場合などには、売り手側の表明保証違反の責任が免除されるケースもあります。

M&Aでよくある表明保証条項
以下のような表明保証条項を規定するケースが多いので参考にして下さい。

・財務諸表に記載された内容が正確であり、全ての内容が明らかになっていることを表明保証する
・税金や年金、保険料などの不払いや滞納がないことを表明保証する
・訴訟や紛争案件が存在しないことを表明保証する
・デューデリジェンスの結果が正確で、すべての情報が記載されていることを表明保証する

表明保証の期間や上限額
M&A契約締結後、いつまで表明保証の効果が続くのか、期間も明らかにしておきましょう。損害賠償金額の上限額も定めておくのが一般的です。
期間や上限額を定めることにより、売主側が安心して積極的に情報開示や表明保証できて、円滑にM&Aを進めやすくなります。

4.ロックアップ(キーマン)条項

M&Aでは「ロックアップ条項」が設定されるケースも少なくありません。
ロックアップ条項とは、M&Aの実施後、売り手企業の経営陣やキーマンが一定期間会社に残って経営支援するための条項で、「キーマン条項」とも呼ばれます。

買い手企業が事業に関するノウハウやフロー等を詳細に把握していない場合、前経営者が経営に関与して支援しなければ、事業の円滑な引継ぎは難しくなります。また、経営者が突然変わると、従業員が退職するリスクも生まれるほか、企業価値が低下するリスクも懸念されるでしょう。

そこで買収後も買い手企業への引き継ぎが完全に完了するまで、前経営陣が経営支援を行うのが、ロックアップ条項の目的です。

ロックアップ条項により会社に残留する人は、売り手企業の代表取締役や最高経営責任者などの重要人物です。

ロックアップ期間
M&Aの実行後、以前の経営陣が永遠に新会社の経営に関わり続けることはできません。ロックアップ条項を設けるときには、「期間」を定めるべきです。

事業内容やキーマンの果たしていた役割にもよりますが、一般的には短くて3か月、長くて2〜3年程度とするケースが多いです。

ロックアップ期間設定における売り手と買い手の調整
ロックアップの期間を設定する際には、売り手側と買い手側の利害調整が必要です。
売り手側の経営陣にしてみれば、ロックアップ期間が長くなると負担が大きくなるため「なるべく短くしたい」と考えるのが一般的です。
一方、買い手側としては「期間の定めなどなくても、会社に残って最後まで引継ぎを行ってほしい」と希望するでしょう。
両者の利害が対立しやすいので、折り合いのつく範囲で適正な期間をしっかり話し合って決めなければなりません。

アーンアウト条項について
ロックアップ条項を設定する際に、「アーンアウト条項」を定めるケースがあります。
アーンアウト条項とは、M&Aの実行後の一定期間内に会社が目標としていた業績を達成した場合に、買い手企業が売り手側へ「追加の対価」を支払う条項です。

たとえば「前経営者のロックアップ中に売上○○円を達成したら、買収価額に上乗せして5億円を支払う」など。

アーンアウト条項の主たる目的は、ロックアップ期間中の前経営者らのモチベーション低下を避けることにあります。前経営者としても、残留期間中に目標を達成して追加の対価を得られるなら、力を入れて経営状況の向上に向けて活動するでしょう。

もう1つの目的は、売り手側と買い手側の「企業価値」に対する認識のズレを一致させ、より適正な価額でM&Aを行うことです。
たとえば対象企業の企業価値について、買い手側は10億円程度と見積もっており、売り手側は15億円程度と見積もっていたら、話し合っても折り合いがつきにくいでしょう。
その場合、当初の契約時に10億円を支払い、ロックアップ期間中に業績目標を達成したら追加で5億円を支払うなどとします。
このようなアーンアウト条項を設ければ、お互いの認識にズレがあってもM&Aの最終契約に進みやすくなり、適正価額で取引ができるのでお互いにメリットがあります。

5.コベナンツ条項(誓約条項)

M&Aでは、当事者にクロージング前後における義務を課する「コベナンツ条項(誓約条項)」を設けるケースもよくあります。

コベナンツ条項の代表例は以下のようなものです。

■ 売主は契約締結日からクロージングまでの期間、重要な資産を処分してはならない
■ 売主や買主が必要に応じて株主総会における承認決議を行う
■ 売主は、デューデリジェンスによって発覚したリスクや法令違反状態の是正を行う
■ 売主はクロージング後に一定期間内や一定のエリア内において、競業行為を行わない
■ 売主は、クロージング後に適切な方法で業務の引き継ぎを行う

コベナンツ条項には「クロージング前の義務」と「クロージング後の義務」があります。
クロージング前の義務としては、株主総会における承認や重要な資産売却の禁止などが主となります。
クロージング後の義務としては、競業避止義務が重要です。売り手企業がM&A実施後に同種の事業を行うと、買い手企業の利益が害されるおそれが高まるので、競業は一定期間禁止しなければなりません。

6.クロージングの前提となる条項

M&Aの契約書で「クロージングの前提となる条項」を規定するケースもよくあります。
前提条項とは、M&Aを実行する際に当事者が必ず履行しなければならず、条件が満たされなければM&Aの効力が生じないとするものです。

クロージングの前提条件の具体例は以下のようなものがあります。

■ 当事者が表明保証した内容がクロージング日において真実かつ正確であること
■ 当事者が契約上の義務を誠実に守り履行していること
■ 売り手企業にキーパーソンとなる従業員が在籍していること
■ 売り手企業に訴訟や違法行為などの重大な悪影響を及ぼす事由が発生していないこと

7.補償条項

補償条項は、表明保証内容と異なる事実が発覚した場合や秘密保持義務などの違反行為があったとき、相手に発生した損害を補填するための条項です。

損害賠償は「違法行為」があったことが前提なので、当事者に故意や過失がなければ賠償責任が発生しません。一方補償条項は、必ずしも違法でなくても金銭支払いが必要となる点で違いがあります。

補償条項では、補償範囲が無制限に広がらないように期間制限を設けたり「価額の◯%」などとして金額に上限を設けたりするケースが多数です。

一律の補償とせず、重要な事項については特別な条件をつけることもできます。たとえば基本的な補償に関しては期間を設けつつ、秘密保持義務違反のみ期間制限をなくして補償を強めたり、特定の義務違反については補償の上限額を高額にしたりなど。

故意による加害や反社会的勢力とのかかわりなど、基本的かつ重大な違反行為に対しては期間制限や補償の上限を完全に撤廃して無制限とするのがよいでしょう。

8.まとめ

このように、M&Aの最終契約書で定められる事項は多岐に渡り、他の一般的な契約書にはない特殊な条項が多数含まれます。

売り手にとっては、表明保証条項が過度に多くなっていないかや、ロックアップ(キーマン)条項が受け入れられる内容となっているかをチェックする必要があるでしょう。また、買い手候補先と「企業価値」に対する認識のズレが生じた場合には、アーンアウト条項を提案することで、そのギャップを埋めることができるケースもあります。

買い手にとっては、デューデリジェンスの結果、リスクが高いと判断した事項について、表面保証や補償条項によってリスク回避できるかどうかを判断しましょう。また、事業を継続するうえで必要不可欠な人材がいる場合には、ロックアップ(キーマン)条項を交渉すると良いでしょう。

契約書の内容については、顧問弁護士にレビューしてもらうだけでは不十分な場合もあります。本コラムで紹介した条項を参考に、妥協せず適正な条件となるよう粘り強く交渉するようにしましょう。

M&Aの実務や契約締結に関して疑問がある方、具体的に計画を進めたい方がおられましたら、当社がサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

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