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音楽を聴く時、何を聴いている? 『ポップ・ミュージックを語る10の視点』読書会(第2回【闇の自己啓発会】ラプソディー編)

※第1回の読書会も実施済みですが、諸事情にて先に第2回を公開いたします。本読書会の背景については下記note記事をご参照ください。

 緊急事態宣言真っ只中の4月某日、Zoomにて『ポップ・ミュージックを語る10の視点』(編著:大和田俊之、牧村憲一・マスヤマコム:企画制作)遠隔読書会を行いました。リモートでセッションができるなら、当然リモートで読書会も可能です。第1回にて参加いただいた、本家〈闇の自己啓発会〉主宰者の一人でもある江永泉さんは、今回諸事情で不参加となってしまいました。代わりといってはなんですが、いま最も勢いのある同人集団といっても過言ではない(?)風狂奇談倶楽部から、秋好亮平さんにお越しいただきました。遠隔である分普段よりリラックスしていたのか、というより会議室と違い時間制限がなかったので、いろんなところに話が飛んでいくさまが刺激的でした(その分文字起こしにも時間がかかってしまいました……)。いまポップ・ミュージックを語るうえでの「視点」がほとんど網羅されているんじゃないかというくらいに濃い内容の本書を読んだ先に、私たちが何を語ってみようとするのか、大目に見ていただければ幸いです。
※ちなみにタイトルの「ラプソディー編」に深い意味はありません。音楽、ということで何となくつけてみたので、また変えたりするかもです。

◇参加者一覧

【秋好】亮平 自粛中に一番聴いた曲はテディ・ペンダーグラス「Do Me」。風狂奇談倶楽部ではヒゲダンスを担当している。
【荒岸】来穂 自粛中に一番聴いた曲はkzm「Teenage Vibe feat.Tohji」。風狂奇談倶楽部ではカズー、不毛連盟ではブブゼラを担当している。
【池堂】孝平 自粛中に一番聴いた曲はガクヅケ木田「後輩君」。不毛連盟にいる。

◇『ポップ・ミュージックを語る10の視点』目次

01 大和田俊之「テクノロジーとアメリカ音楽|アフロフューチャリズム、ゲーム音楽、YMO」
02 柳樂光隆「オルタナティヴなジャズ史の試み|メルドー、グラスパー以後を聴く」
03 南田勝也「世代から見る「ロック」の五〇年|ベビーブーマー、X世代、ミレニアルズ、そしてZ世代へ」
04 冨田ラボ(冨田恵一)「〝録音された音楽〟を聴くことの意味|アル・ジャロウ、スティーリー・ダン、EW&F、マイケル・ジャクソンを題材に」
05 渡辺志保「ヒップホップ・シーンの裏側|ネット、ゴシップ、セレブ・カルチャー」
06 挾間美帆「ラージ・アンサンブルの歴史と新展開|作・編曲家の視点から」
07 増田聡「音楽にとってパクリとはなにか|?模倣/カヴァー/オリジナル」
08 細馬宏通「デヴィッド・ボウイの「Away」感覚|〈スターマン〉〈ライフ・オン・マーズ〉?を読み解く」
09 永冨真梨「カントリー・ミュージックの新潮流と多様性|ステレオタイプを越えて」
10 輪島裕介「環太平洋・アジアから日本ポピュラー音楽史を見る|演歌、カタコト歌謡、ドドンパから〈プラスティック・ラヴ〉まで」

《まずは音楽遍歴の話から》

【池堂】前回、最初に各自の音楽遍歴を話していて、それが興味深かったなと個人的に思っていました。
【荒岸】秋好さんはどんな感じで音楽を聴き始めたんですか?
【秋好】能動的に聴くようになったのは、ポルノグラフィティ、BUMP OF CHICKENあたりからかな。ネットで検索すると、当時2ちゃんねるでよく「ポルノvsバンプ」みたいなスレッドが立っていて。
【荒岸】あー(笑)、僕の頃は「バンプvsラッド」でしたよ。
【秋好】その時代もありましたね。対立構造を作るスレが乱立していた。
【池堂】そんな感じだったんですね、「ポルノvsバンプ」かあ。
【秋好】NUMBER GIRLとかも最初はそういうところで知りました。「ZONE vsナンバガ」なんていうのもあったような。当時(今も?)の邦楽板なんかだとナンバガって名前がしょっちゅう出ていた気がする。「このバンドはナンバガフォロワー」みたいに。
【池堂】アジカンとかはよくそう言われてるの見ましたもんね。
【秋好】Base Ball Bear、凛として時雨、9mm Parabellum Bulletとかもね。
【池堂】9mmはよく分からない、どのへんが言われてたんですか?
【秋好】実はあんまり理解していない。とにかく、いわゆる邦ロックを聴き出したころは、当時の2ちゃんの影響が大きかったですね。
【池堂】ポルノはテレビで見たって感じですか?
【秋好】ポルノは小学生の頃かな。テレビもそうだし、学校でもよく流れてた。
【池堂】給食の時の放送とかですよね。懐かしい。
【秋好】そうそう、「サウダージ」とかね、その時代です。
【池堂】学校で邦楽が流れる時間ってありますよね。自分は小学生の時に「帰りの会」で、なぜか修二と彰の「青春アミーゴ」を一時期クラスで毎日合唱してました。最近は、そういう個人的な体験、記憶を大事にしたいな、と思っています。他にも原点みたいなものってありますか?
【秋好】そのアーティストの影響でいろいろ辿っていくという意味で言えば、ミッシェル・ガン・エレファントあたりの存在も大きかったです。そこからロンドン・パンクとか、ドクター・フィールグッドとかを聴いていったりしました。
【池堂】そのミッシェルはどこからですか?Mステですか?
【秋好】t.A.T.u.じゃないです(笑)。知った時にはすでに解散していたけど、「ROCKIN'ON JAPAN」読んだりしていると伝説的に言及されていて、それで聴くようになった。
【池堂】どんな媒体を通して音楽を聴いていたか、という話を聴くのは面白いです。ラジオとか雑誌とか、思えば自分はあまり通ってきてなかったですね。
【秋好】MO’SOME TONEBENDERの記事とかでよく比較されていた記憶が。
【池堂】それで思い出したんですが、自分音楽より先にミステリにハマったんですよ。これは親の影響ですが、それで書評サイトを読み漁るようになった。そんな時に「トリックが使われているPV」というのが紹介されて。
【秋好】見たことあるような気がするな。その書評サイトも。
【池堂】サイトの名前は思い出せないんですが、そこで紹介されていたのがニッケルバック「Someday」のPVですね。

https://www.youtube.com/watch?v=-VMFdpdDYYA
※せっかくなので知らない方は前情報なしで見てください、ちなみにオチはもう1パターンあります

【池堂】中学か高校の頃か忘れましたが、これ初めて見た時にすごいなと思って。繰り返し見てるうちにニッケルバック自体を良いなと思って聴くようになったんです。他のPVも結構凝った作りだったりするんですよね。最近のは知らないんですが。そんな流れもありました。
【秋好】意外なところにルーツがあるものですね。

《コロナ禍における音楽活動の話》

【池堂】最近の時事ネタとかはどうですか?個人的には杏が加川良「教訓Ⅰ」をカバーした話とかしたいです。歌詞はハンバートハンバートが少し変えたバージョンらしいですね。自分が初めて杏を認識したのは高校の時、スぺシャで「愛をあなたに」(作詞はいしわたり淳治)のPVが流れてたのを観たことがあるんですが、それを思い出したりもしました。

【秋好】音楽活動やってるの知らなかったですね。
【池堂】そのあと割とすぐに女優として一気に有名になっていく。でもこういう形で表現するのは強いというか、静かだけど圧倒されます。音楽活動も俳優業もどちらもやったからこそなのか、分からないんですけど。
【荒岸】選曲も渋いですよね。
【池堂】かなり政治的なものを選んでいて、そこも含めいろんな意味で真摯な表現と思いましたし、心を揺さぶられました。
【秋好】3.11の時の斉藤和義「ずっとウソだった」に匹敵するぐらいの政治性がありますね。
【池堂】ありましたね、そういえば斉藤和義って今は何か発信してないんですかね。
【秋好】そういう話題は聞かないけど。
【荒岸】単純に今スタジオが使えないとか、レコード環境が整っていないという可能性はあるんじゃないですか。3.11の時はいろんなところから復興支援ソングって出ましたけど。でも今あまり出てないのは単純に、バンドとかはそもそもスタジオ入れないからなのかとは思いますね。
【池堂】海外だと家の庭が広いのとかを利用して、外で互いに一定の距離を保ったままセッションしたりとかやってる人もいるんですけどね、Big Sam’s Funky Nationとか。許されるなら自分も家の前でセッションとかしてみたいです。

【荒岸】そこへ行くとラッパーは強いなっていうのがあって、TOKYO DRIFT FREESTYLEとかアツいです。Rich Brianをはじめとして88risingに所属しているラッパー達が、TERIYAKI BOYSのビートでフリースタイルするっていうのをやってて。それが日本でもANARCHYやJP THE WAVY とかAwich等が参加してます。中国だとHigher Brothersとか。今回の課題本だと輪島裕介さんの章に関連する内容が書いてあって、アツかったですね。
【池堂】その章は面白かったですね。確かに、ありもののビートを使えるというのはこの状況において強いですよね。
【荒岸】同シリーズだとLEONも結構良かったですよ。Higher Brothersとも共演していて、いま幅広く活動してるラッパーですよね。それからこの流れの中で政治批判をリリックに盛り込んでいたのはDonatelloです。以前“MASA & トラヴィス・スットコ”の名前でMCバトルに出ていました (この読書会のあとにはNORIKIYOやSEEDAが世相を切る曲を発表したり、田島ハルコが星野源へのアンサーソング(?)として「うちで暴れな」を発表したり、田島やvalkneeら6人のフィメールラッパーが「zoom」という曲のMVをタイトル通りzoomで撮ったりと、ヒップホップが政治や社会にビビッドに反応するさまが見れたのはよかったです)。

【池堂】ちょっと変わった試みかなとは思ったのはMoment Joonですね。
【荒岸】ありましたね、新作を無料でお送りしますっていう、なかなかぶっ飛んだキャンペーン。
【池堂】全然毛色は違いますが、関西のジャズミュージシャンにFacebookを通して似たような試みをやっていた人も知ってます。送料だけ負担してもらって、過去のライブ盤を無料で送るという。それにしてもMoment Joonが井口堂から直接(かどうかは分からないのですが)送ってくれるというのは良いですね。彼の存在を知る前ですが、たまたま近くまで行ったことはあります。箕面公園が割と近いですが、どうしてあの辺りに住んでるんでしょうか。
【荒岸】もともと阪大の留学生だったんですよね。文藝別冊のインタビュー読むと、卒論はケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』を題材にしてたそうです。
【池堂】そういうことなんですね。キャンパスにもよりますが、確かに近いはずですよ。

《「音楽が好き」と言うとき、何が好き?》

【池堂】そしてもう一つ、あるTwitterマンガがこの間話題になっていたわけですけれども。「「音楽が好きです」となかなか言えない二つの理由」という……。

【荒岸】その話は正直、したかったですね。
【池堂】この作者自身はきっと良い人なんだろうと思うんですけども。音楽の話でも何でもいいんですが、相手に遠慮してしまうというか、自分の好きなように話すとその場が盛り上がらないから、穏当な答えを言ってやり過ごすみたいな場面はありますよ。しかし、この書き方は何というか、議論を呼びますね。
【荒岸】ギター少年だった自分にとって、高校 の時に僕が思っていたのは、なんでみんなギターソロを聴かないんだ、ということで。苛立ちみたいなのは抱いていましたよ。「歌詞(だけ)を聴いている」人と「歌詞をほぼ(あるいは、全く)聴いていない、重視していない」人とで乱暴に分けてしまうと、少なくとも当時の僕は間違いなく後者。で、言ってしまえば「優越感」みたいなものもその時僕の中にはありました。優越感というか、彼らのマジョリティであることが気に食わなくて、例えば歌詞の意味が分からない洋楽とか、そもそもボーカルがないインストとかを聴いている自分にとって、音楽を聴く=ボーカルを聴く、みたいな認識を持っているように見える他の人々の感覚が「一般的」になっている場を見ると、今でも腹が立つことはあります。
【池堂】インストバンドとかの演奏がもっとテレビのゴールデンで流れるようになったらその辺の雰囲気が変わっていくんでしょうかね。報道ステーションは黒田卓也らを起用してましたけど。演奏技術で世に出るみたいなのは、海外の方が場は豊富な気がします。
【荒岸】ボーカルだって一つのリード楽器みたいなものなのに、歌詞というものがあるせいで特権的な地位として見られているのが、気に食わないと感じることはありました。池堂さんはちなみにどうだったんですか? 高校の時とか。
【池堂】自分が音楽を聴き始めた時は、もともと歌詞の意味ばかり追っていて。ここのギターソロ格好良いとかはあったんですけど、でも付随的なものとして見ていた節がある。その後テクノとかに出会って。例えば電気グルーヴの「虹」とか聴いていた時に、イントロがすごい長いなと最初思っていたのが、ある日ふとこれは「イントロ」じゃないんだ、最初からずっと曲は始まっていて、歌詞とかはあくまでその一部でしかないんだ、と気づいた。そこから優越感には浸りましたけども。
【荒岸】【秋好】(笑)
【池堂】要は最初「イントロ」を曲の導入部というか、極端に言えばゲームのロード時間のように見なしていた時期があったんですね。イントロの時点では曲が始まってすらいないくらいの認識だったというか(誤解を恐れずに言えば、イントロがどんどん短くなっている今の状況は、それと似た感覚がリスナーに共通してきている可能性もあるのかもしれません)。まあ高校の時なんて優越感に浸ってなんぼだとも思いますが。
 話は少し逸れますが、言ってしまえば「この歌詞は自分にしか分からない」という感覚もある種の優越感から来るものですよね。歌詞が難解だったりするとそういう受容のされ方がある。自分の場合は高校の時にあぶらだこをずっと聴いていて、今でも好きなんですけど。

 別に自分自身は、優越感から音楽を聴く姿勢は否定したくなくて、背伸びとも言い換えられますが、そういうのって結構楽しいじゃないですか。別に音楽に限った話ではないと思います、難しい映画とか、強くて苦い酒とか、そういうのに挑戦すること自体が楽しい。それで「自分にしかこの魅力は分からない」という気持ちを抱くのも、一つの醍醐味だとも思います。
 それはそれとして、このマンガに対して抱くある種の違和感も(あるいは違和感を抱いている自分自身について)考えておきたいなと思うわけですが、言語化が難しく、いろんな人の意見を訊きたいなと。
【荒岸】別に周りに合わせて話をする必要はないんじゃないか、とこのマンガに関しては思いましたね。「知名度を少しずつ上げてるつもり」なんて書いたりしなくても良いんじゃないかと。
【池堂】この作者の方、もしかしたら音楽の話だけじゃなくて、いろんな場面でこんな感じなのかもしれないですね。どんな話題でも、相手に合わせてしまいがちというか。いろいろとガマンもしているのかもしれない。だから人によっては「そんなガマンしなくてもいいのに」と言いたくなるところはあると思います。コミュニケーションって難しいよねって、ある意味では簡単な話に落ち着いてしまうんですが……。秋好さんからは何かありますか?
【秋好】そもそもの話ではあるんですが、このマンガは二つポイントがありますよね。一つが「音楽を普段あまり聴かない、そんなに詳しくない人に対して何と答えるか」という点。もう一つが「音楽を聴くときに、歌詞を聴くか(重視するか)」という点。
【荒岸】この二つが並列で語られると「歌詞しか聴かない人」に対するマウンティングみたいに取られてしまう可能性はありますよね。
【秋好】音楽を聴く人の自意識って細かいレイヤー分けがあって複雑だと思うんですが、それをざっくりとまとめて乱暴に出しているところがあるから、この作者の考えに割と近い人でも違和感が生じるのかなと。実際、「なに聴くの?」って聞かれて、いろいろ頭に浮かんだ結果、米津玄師や星野源と答えるというのは僕も多分やるんですけど。まあ「なんでも聴くよ」と答えてしまって良いんじゃないかとも思いますし。
【池堂】そうですね、まあ「なんでも聴くよ」と言ってみたら「たとえば?」とか掘り下げてこられるのかもしれないですけどね。
【秋好】この作者にとって、米津玄師とか星野源とか、実際のところどれくらい好きなのかという気持ちもあり。
【池堂】サカナクションも出てきますがこの書き方だと、まあその辺りのファンからしたら怒りを買ってもおかしくないんじゃないかというか、見ててひやひやしてしまうところはあります。
 すみません、今日この話をしたのは、今回の課題本の内容がこうした話題に結構いろんな形で関わってくるんじゃないかなと思ったので。一方でこれは今回の本の中には出てきていませんが、聴覚情報処理障害(APD)の方は音楽をどう聴いているのかとか、そういう視点もあるわけですよね。音楽を聴くとき、私たちは何を聴いているのかという問いに繋がっていくと思います。

《ようやく、本の話に入ります》

【池堂】というわけで、今回の課題本は『ポップ・ミュージックを語る10の視点』。編著は大和田俊之となっていますが、これは牧村憲一・マスヤマコム企画・制作の〈music is music〉という「良質の音楽を届ける」ことをミッションとしたプロジェクトの一環で、2016年12月から2018年7月まで行われたレクチャー・シリーズを一冊の本にまとめたものです。大和田さん含め10名がそれぞれの専門的視点から講義を行いました。「今音楽を語るときに私たちが語ること――」という副題もついていますね。
【秋好】さっきまでの話は確かにこの本とつながる箇所がありましたね。冨田ラボさんの「“録音された音楽”を聴くことの意味」は、割と近い話をしていたような気がする。
【池堂】実はこの本で自分が一番感銘を受けたのがその冨田さんの文章です。
【荒岸】そうなんですか、僕は逆で、冨田さんの章は一番「結局何が言いたかったのか」分からなかったんですよね。
【池堂】なるほど、そこは「こういう聴き方があるよ」っていうことを話していたんだと思いましたけれど。
【秋好】要は「精読」ですよね。「精聴」? 一つの曲をこれだけ丹念に聴きました、という。それ自体に意味があるという立場ですよね。
【池堂】音楽批評の醍醐味の一つだと思うんですよね、普段感覚的に聴いていること、耳に入ってきている音をどう言葉にするか、というのは。冨田さんの文章は、ああ、こういうふうに言葉に落とし込んでいくんだ、というプロの仕事を見せつけられた思いです。実際、文章に合わせて曲を聴いてみると、聴こえ方が確かに変わる瞬間がある。目の前の景色がガラッと変わったような感動がありました。なんというか、『ナイトフライ』の分析にしてもそうですけど、一つの曲を批評するときはまずこれくらいは少なくともやらなくちゃいけないんじゃないか、そう思い知らされたような気がしていて。そのうえで、エンジニアリングの話まで出てくるのが冨田さんらしさかなと。
【荒岸】それでもやっぱり、個人的にはもう一歩踏み込んでほしかったですね。この曲がこういう構成になっているから、こういうことが言える、という後半のところがもっと読みたかった、というのが感想です。例えばある曲に特徴的なコード進行があったら、それが曲全体にどういう影響を及ぼし、さらにそれが音楽史的にどういう位置づけになっていくのか、という話の方に僕は興味があるという感じです。
【池堂】冨田さんについてはまた後でも少し話をするとして、この本で大事なことは10名の登壇者がそれぞれ別の視点で語っていて、それが一つになっているというところだと思っています。冨田さんの章が、全体で見た時にどういう位置づけになるのか、という視点でまた見えてくるものもあると思っていて。逆に言うと、その中の一人の話だけで「音楽について語ること」の全体を網羅できるわけはないというか、そんなことはしなくてもいい。冨田さんの章では確かに言及された作品の歴史的な要素とか、影響関係といった話はあまりなかったかもしれない。でもそのあたりの話は例えば大和田さんとか、南田さんとか、他の登壇者がしているわけで、そういう意味でお互いがお互いを補完しあっているという構成だと思っています。要はこれ、講義なわけですから。この一冊を読んだ後に結局私たちが何を語るか、ということだとも思います。
【荒岸】そういう意味で、章の中でバランスが良いなと思ったのは狭間美帆さんの「ラージ・アンサンブルの歴史と新展開」ですね。これは最初「ラージ・アンサンブルとは何か?」という話から始めて、狭間さん自身がどういう考え方で曲を作っているか、という話になり、さらに実際の譜面まで載せてテクニックを解説されている。「こういうふうにできてるのか」という感動がありました。作曲における理論と、それがどういう意味を持つのかが、とても分かりやすい構成だったと思います。
【池堂】譜面まで載せて自分の曲を解説してくれるというのは、狭間さんのサービス精神がすごいなと思いました。ラージ・アンサンブルの譜面なんて一人で耳コピとかできないですし。一方この章がなぜ分かりやすいかと考えると、自分が行った作曲の意図を解説しているわけで、そこには一つの明確な「答え」があるから、他の登壇者の方とはまた違ったある種特権的な立場だというのもありますね。もちろんそのことも、本書をより多層的な構造にすることに一役買っていると思います(ちなみに自分が個人的に狭間さんの文章で好きなのは「ジャズ・ツリー」をニューヨークに留学した次の日にすぐ買いに行ったという話です。あの絵は自分も実物を見たことがありますが、ずっと眺めていられるいいものですね)。

【池堂】この本に限らずですけどやっぱり、音楽に関する本を読むときはしっかり言及されてる音楽を聴くと良くて、そうすると当たり前ですけど普段とは違った読書体験があります。
【荒岸】この本の目次にQRコードが添えられていて、読み取ると各章で流れる曲を集めたSpotifyのプレイリストに飛ぶという仕掛けは面白かったですよね。
【池堂】これ良いですよね。ただ自分は普段使いのApple MusicとかYouTubeとかで結構探して聴いちゃってたんですが。映像で観たいのもあったので。
【荒岸】輪島裕介さんの章(「環太平洋・アジアから日本ポピュラー音楽史を見る」)で登場する曲はSpotifyに無いのが多いみたいで、プレイリストには4曲くらいしか収録されてなかったりとかはありました。
【池堂】輪島さんの時は頑張ってYouTubeで検索してましたね。台湾語とかですけど、漢字で検索したりして。
【秋好】僕もそうでした。
【池堂】これに関しては、YouTubeで見つからない曲を探すという行為自体が体験的だったようにも思います。普段日本語や英語でしか検索していないわけですが、でもそうするとなかなか非英語圏の作品に辿り着かない。例えばK-POPのファンとかはハングル勉強してるんですよね。もちろんライト層もたくさんいるにしても、すごいことだと思います。
 輪島さんの章では、9m88の「プラスティック・ラヴ」カバー、これには驚きでした。曲のクオリティもそうですが、まさか「ザ・ベストテン」を模してくるとは。

【秋好】これ最高ですよね。
【池堂】スーパーカー「Lucky」のPVを連想しました。なぜかデイブ・スペクターが最初出てきてMCするやつ。ここで模されていたのは古き良き時代のアメリカの音楽番組なわけですが、コンセプトには近いものがありますよね。9m88は楽曲自体もカバーだから少し変わってきますが。

【秋好】僕の場合、譜面とか音楽理論的な話は知識不足でピンとこない部分もあるので、文芸批評的、社会批評的な内容の方が好きではあります。輪島さんの章もそうですが、他に本書で言うと南田勝也さんの「世代から見る「ロック」の五〇年」とか、細馬宏通さん「デヴィッド・ボウイの「Away」感覚」とか。そのあたりが興味深かったですね。
【荒岸】僕も基本的にはそっち寄りの話が好きですよ。この本で一番面白かった章を挙げるとしたら僕は永冨真梨さん「カントリー・ミュージックの新潮流と多様性」です。次が大和田俊之さん「テクノロジーとアメリカ音楽」とか、南田さんですね。南田さんの章はなんとなく肌感覚でわかる内容だったというのはありますが。
【池堂】面白かった章で言うと、自分は冨田さんと輪島さんです。秋好さんはどうですか?
【秋好】二人選ぶとしたら大和田さんと、細馬さんですかね。デヴィッド・ボウイが好きってのもありますけれど。
【池堂】デヴィッド・ボウイめちゃくちゃ格好良いですね。こんなにカッコよかったのかって思いました。晩年の作品『★』も話題になっていたのを思い出しました。新鋭のジャズミュージシャンを多数起用しているんですが、本書の登壇者である冨田さんと柳樂光隆さんが同作について対談したりしています。

【秋好】細馬さんの文章、結構トンデモっぽい感じもあって。ボウイが持つ「アウェイ」感覚という話を、最後に『★』収録の「I Can’t Give Everything Away」、この曲の「Away」という歌詞に繋げる、このアクロバティックな展開がたまらなく好きです。
【荒岸】細馬さんってジェスチャー分析、会話分析の人なので、そういう視点で曲の構造までとても細かくやっていますよね。細馬さんの編著に『ELAN入門』というのがあって。「ELAN」は映像分析ソフトですが、簡単に説明すると、ある映像にPC上で付箋を貼ることができるという、要は映像にメモを書き込めるソフトなんですね。それで例えば、映像内の人物が言葉を発するとき、その人は一体どういう手振りをしているのかとか、どこに目線があるのかといったことを細かく分析するときに、言語学における会話分析が使われているらしいんです、「ELAN」の中に。そういった手法を音楽の分析に応用しているのがこの文章ですね。文字として「I Can’t Give Everything Away」を見るとただの一文として見られるけど、実際に歌われるときは「Everything」と「Away」の間が空いていて「Away」だけが切り離されている、みたいな手つきはそこから来ています。

【池堂】当たり前ですけど、これだけたくさんの視点が本の中で用意されていれば、読者側もそれぞれ着目する箇所が変わってきて面白いですね。

(ここから各章の話に入ります。話の流れで、章の順番はバラバラになっています)

《大和田俊之「テクノロジーとアメリカ音楽|アフロフューチャリズム、ゲーム音楽、YMO」》

【秋好】大和田さんの章は「アフロフューチャリズム」という概念、僕自身はあまり詳しくないんですが、それがYMOと結びついていくのが面白かったです。
【荒岸】そこでYMOが出てくるのがやはりすごいなと思いました。それと大和田さん、音楽研究とカルスタがちょうど良い塩梅でお互い入ってきているのが良かったです。僕はカルスタをしたい人間なので。
【秋好】あと大和田さんの章で激アツだなと思ったのが、ライムスター宇多丸が高校生の頃にジェームズ・ブラウンの武道館公演を見に行っていて、その時に前座で登場したFOEに対する観客のブーイングを「みんなわかってないなあ」と思いながら眺めていたという話ですね。
【池堂】ライムスター、やっぱり昔からすごいんですね。それとこの章に関しては、ゲーム音楽との絡みも忘れずに言及しておきたいです。Red Bull Musicの「Diggin' in the Carts」、学生の時に少し見てました。日本語と英語が混在していて字幕もないので内容はちゃんと追えなかったんですが。でも映像と音楽、それと日本人の技術者の話だけでもとても面白いです。「ナムコサウンドの原型を作った」とされる小沢純子さんのインタビューとか。2014年の番組ですね。

 サイゴンとかウィズ・カリファらが日本のゲーム音楽をサンプリングしてるという話がここで挙がっていましたけど、こんな文脈はなかなか国内にいると掴みづらいところだと思います。あと、全然違うんですがファラオ・サンダースの息子さんがいま日本にいて、トモキ・サンダースっていうんですが、彼もサックスをしていて、ソロの際にアニソンのフレーズとか取り入れたりするらしいです。日本アニメの要素を入れるのはフライング・ロータスとかもそうですけど、後からだとなかなかその辺りの影響関係って分かんなくなっていきますよね。だからこそ大事にしたい部分だと思いました。

《増田聡「音楽にとってパクリとはなにか? |模倣/カヴァー/オリジナル」》

【荒岸】この章は一番異彩を放っていたな、という感想です。
【秋好】オレンジレンジ世代としては、やっぱりここで「ロコローション」の話をするよな、と思いました。シャンプーの「トラブル」ってちゃんと聴いたことなかったんですけど、聴きくらべるとまんまですね。

【池堂】真偽抜きにして「パクリといえばオレンジレンジ」みたいな風潮ってありましたからね。そんなこと言ったら渋谷系とかどうなるんだ、という話でもありますが。
【秋好】今考えるとそうなんですよね。
【池堂】でも実際、「トラブル」との近さが問題になっていたのは見たことない気がする。
【秋好】増田さんも書いてますけど、やっぱりタイトルに引っ張られて問題になっていたんですよね。リトル・エヴァの「ロコ・モーション」と「ロコローション」で。
【池堂】「ロコ・モーション」は権利者側からのクレームが入ったわけですからね。それにしても「ロコ・モーション」の最初の旋律に「刺激たっぷりの君へエスコートしてぇ~!!」という歌詞を入れ込むの、天才じゃないですか?

【秋好】そう、「ロコ・モーション」と「トラブル」を組み合わせて「ロコローション」作れるんだったら超天才じゃん。
【池堂】「パクリ」を指摘することでむしろオレンジレンジの才能が炙り出されている。
【秋好】オレンジレンジはすごいから。
【池堂】「上海ハニー」が出たの小学生の頃ですが、あんな歌詞だけどみんなクラスで歌ってましたよ。
【秋好】そのころ、オレンジレンジが「まったく韻踏んでない」って叩かれているのも見かけたことあるけど、「別に踏まなくていいだろ」とか思ってました。
【荒岸】全く踏んでないわけでもないですしね。「*~アスタリスク~」とか最低限の脚韻くらいは踏んでた ような気がする。
【秋好】2000年代前半くらいはまだ(あくまでヘッズの中でですが)キングギドラとかの影響が強かったんですかね。当時の自分は所謂ヒップホップシーンに疎くて、RIP SLYMEとかKREVAとか聴いていただけですが。
【池堂】まあ小中学生の頃なんで、オレンジレンジをそういう韻がどうこうみたいな文脈で聴いてはいなかったですね。
【秋好】ミクスチャーという認識ですよね。
【池堂】あと佐村河内守の話も出てきましたね。監督:森達也の『FAKE』、渋谷のユーロスペースで立ち見で見ましたよ。毎日豆乳を1リットルパック2本空けたりするところとか、ほのぼのするシーンもあって、あれを見ると佐村河内さんを嫌いになれなくなってしまいます。
【荒岸】何の話ですかそれ。
【池堂】本筋以上に、彼の日常生活が面白いところがあります。
【秋好】それを聞くと少し見たくなってきた。
【池堂】悪い映画だなあとも思いますけどね。あと印象的なシーンが、佐村河内氏のもとにバラエティ番組のオファーが来るんです。騒動をネタにする感じの。悩んだ末に彼は断るんですけど、実際に放送された番組を見てみたら、そこに新垣氏が出演しているんですよ。その番組を佐村河内氏が黙って見ているという。
【秋好】めちゃくちゃ面白いじゃないですか。
【池堂】もしかしたらそこが、何らかの運命の分かれ道だったかもしれませんね。もちろん、出ればよかったのかというとそれも難しいんですが。番組から聴覚障害をいじられる形になってしまいそうですしね。

【池堂】みなさんカバー曲で好きなのってありますか? パクリ曲でもいいんですけど。ちなみに自分は『一期一会 Sweets for my SPITZ』収録の中村一義による「冷たい頬」のカバーが好きです。
【秋好】あれは名盤ですよね。
【池堂】他の曲もとてもいいです、びっくりなのが羅針盤が参加していることなんですけど。しかも「ロビンソン」で。違うところだとeastern youthの森田童子カバー「たとえば僕が死んだら」とかも好きです。そんな感じで何かありますか?
【荒岸】すぐ思いつくのはボウリング・フォー・スープの「1985」 (SR-71のカバー)とかですね。あと、昔よく2CELLOSとか聴いてました。チェロの二人組でニルヴァーナとかカバーするんですけど。
【池堂】そういう、変わった楽器で有名曲をカバーするっていう流れがありますよね、世界的に。「千本桜」カバーしてた和楽器バンドもそうか。ちゃんと聴いてるわけではないんですけど。その路線だと個人的にはTin Menという、ギター・ウォッシュボード・スーザフォンっていう狂った編成でやっているバンドによる「移民の歌」カバーが結構好きです。
【荒岸】それはいろいろ頑張ってますね。
【秋好】昨日たまたま聴いてたんですけど、橋幸夫「恋をするなら」をグループ・サウンズのオックスがカバーしていて。「ザ・GS歌謡」な感じで、たいへん良いです。

オックスOX/恋をするなら(1969年)
https://www.youtube.com/watch?v=5JJAJkxYDnQ

【池堂】秋好さん確かGS結構好きなんでしたよね、どうやって聴くようになったんですか?
【秋好】沢田研二からですね。ちなみにジュリーはどこからかというとグラムロックからで、グラムロックがどこからかというとTHE YELLOW MONKEYからですね、たぶん、辿っていくと。
【池堂】オックスってどんなグループなんですか?
【秋好】Apple MusicにもSpotifyにもあるので是非聴いてほしいんですが、オックスってメジャーなGSの中でもなかなか変なバンドだと思います。当時は「失神バンド」と呼ばれて、ザ・タイガースとザ・テンプターズに次ぐ存在だったんですが、3番手となると差別化を図らないといけないということなのか、R&B風とかラテン調とかいろいろ試している印象です。同時代のビートルズやストーンズ等の影響を受けながら、日本の芸能システムの中で歌謡曲化されてしまうんですけど、その中で独自路線を進もうとしている感じが良いです。この曲もそうで、なぜ橋幸夫のカバーをオックスがやってるんだという。その不思議さも面白い。

《南田勝也「世代から見る「ロック」の五〇年|ベビーブーマー、X世代、ミレニアルズ、そしてZ世代へ」》

【荒岸】僕は洋楽の中でも、昔のメロコアとかをよく聴いていたので、南田さんの章はすんなり入ってきました。『オルタナティブロックの社会学』も読んでいたので。
【秋好】この章はそうですね。出てくる曲も、ああこれねという感じで読み進められた。
【荒岸】おお、と思ったのは2017年の本講義の時点で、「ジェネレーションZ」を代表する注目のミュージシャンの一人としてビリー・アイリッシュを挙げていたところですね。
【池堂】今やすごいですもんね。一方で、南田さん的にはカー・シート・ヘッドレストを推している感じもあります。不勉強で知らなかったんですが、聴いてみたらすごく良かったです。

【秋好】この章における世代論、あくまでアメリカでの話ということなんですが、実際日本ではどうなんでしょう。
【池堂】メロコアとスケボーの繋がりなんかは日本に来ると少し薄められて、バンド文化と結びついたような気がする。ワニマとか見てるとスケボーとの接点は感じます。
【秋好】メルカリを見てみたらワニマのスケボーが売られてました。
【池堂】そういえばこのご時世(4月)ですが、スーパーの帰りにスケボーやってる方は見ました。
【荒岸】むしろ最近なんか目に付くようになった気もする。今は通行人も減ってますし、遊びとして社会的距離を取りやすいとかあるんじゃないでしょうか。
【池堂】確かにランニングの延長線上としていけそうですね。ところで日本でスケボー以上に音楽と結びついたのはモッシュ文化という気もします。
【秋好】そうかもしれないですね。
【池堂】日本人はなかなか踊りが身に付いていない中で、「踊れない人のための踊り」といいうるモッシュは合っているのかもしれません。演奏する場所とか、ファッションとかによって、踊りの仕方が違うんだ、という話はこの章でとても面白かったです。
【秋好】「ジェネレーションZ」って、日本だとどの世代になるのかな。「ジェネレーションX」は日本で言う「新人類」世代とかなんだろうか。
【池堂】1997年以降に生まれた世代が、アメリカで言うと「ジェネレーションZ」。そのあたりにリアルタイムで影響を受けた日本の若いミュージシャンになるんですかね。
【秋好】アメリカの数年後にずれるとは思うんですけどね。
【池堂】ではいま20歳前後とかですかね。崎山蒼志(2002年生)とか?
【荒岸】そんな感じじゃないですか 。個人的にはVaundy(2001年生まれ)を推してます。
【池堂】「ジェネレーションZ」を乱暴に日本に当てはめた時に、要は今の20歳前後のアーティストとして考えると、音楽性とかすごく面白くなっているんじゃないかという気はします。元は世代論なので、もっと複雑なんでしょうけど。

《渡辺志保「ヒップホップ・シーンの裏側|ネット、ゴシップ、セレブ・カルチャー」》

【荒岸】渡辺さんのインタビュー記事はよく目にしていたので、そういう意味ではいつも通りの内容だなとは感じました。
【池堂】2017年の講義というのが、ここにおいては少し古くなってしまっている部分もあるかもしれませんね。でもやっぱり、ラッパーとリアリティショーとの関係は面白いです。「月とオオカミちゃんには騙されない」(AbemaTV)でラッパーが出演してるのって、こういう流れを踏襲しているからなんですかね。
【秋好】うーん、そうなのかな。
【荒岸】Novel Coreがそれを意識してやってるかどうかは知らないです。ブッキングした側は意識してるかもしれないですが。
【池堂】Novel Coreの他に前もう一人出てましたよね、誰でしたっけ。
【荒岸】Rude-αじゃないですか?
【池堂】そうでした。実はカニエ・ウエストをある種意識してるんでしょうか。
【荒岸】そうかもしれないですね。カニエがアニソンのエンディングをやってるのか知らないですけど。
【池堂】本国ではリアリティショーの影響力ってすごいんですね。そして、そこにラッパーが出てる意味ですよね。本人のインタビューとかだけ読んでいても、そのあたりはなかなか感覚として伝わってこないところです。日本だとなんだろう、リアリティショーとかじゃなくて、相席食堂とか出たらいいのかな。
【秋好】出てほしいような、出ないでほしいような……。
【池堂】この章に関して他で言うと、後半でアトランタの非常にローカルな様子を写真付きで紹介されていたのが良かったです。アトランタはストリップ・クラブが税収を支えていて、カルチャーとしての地位も高い。アトランタでDJとして評価を得るにはまずストリップ・クラブで人気を高めないといけないという話も出てきて、それはこの本の中に置いた時にまた新たな拡がりを持つと思います。音楽と「レペゼン」の関係性という文脈は今後さらに注目されていくと思うので。

《柳樂光隆「オルタナティヴなジャズ史の試み|メルドー、グラスパー以後を聴く」》

【池堂】自分は柳樂光隆さんの文章はちょっと読んでいるので、この章に関してはわりと馴染みのある内容でした。柳樂さんってすごくて、まあこの本の講師陣はみんなすごい人なんですけど、この人は「黄金期」といわれる1950~60年代より先の「現代」のジャズを語るという、その土俵ごと新しく作ってしまった人。非常に雑な紹介の仕方ですが。大体70年代以降からのジャズが少なくとも日本ではちゃんと語られていなかった、その状況を覆したといっていいと思います。柳樂さんの『Jazz The New Chapter』シリーズ(全部読んでいるわけではないですが……)と原雅明さんの『Jazz Thing ジャズという何か』に出会って、大袈裟かもしれないですが自分の中で針が一つ動いたような感覚がありました。それで、二人にはこの章を読んでどう思ったか聞いてみたいです。
【荒岸】個人的にはやっぱり、カート・ローゼンウィンケルの影響源という話で、アラン・ホールズワースが出てきたのが激アツでしたね。
【池堂】そこは印象に残りますよね。
【荒岸】そうですね、ジョージ・ベンソンとかも聴いてましたけど。僕はギタリストの名前に目が行きますね。一方で、あくまで僕の感覚ですけど、カート以外のジャズ・ギター奏者は、ホールズワースみたいなビッグネームに触れてこなかったのはどうしてだろう、とも思いました。僕の場合、ジャズだと思って聴いてきたのはフュージョンの方というのがありますが。
【池堂】聴いている人もいたとは思うんですけど、自分の演奏に取り入れるものではないと思っていたのかなと。全く別ジャンルというか、そこには分断があったと思います。ホールズワースはジャズ・ロックやフュージョンもやっていましたが、いわゆるストレート・アヘッドというか、ジャズの主流と交わっていたわけではないですね。自分自身ジャズ・ギターに詳しいというわけでは全然なくて、好きなのはリズムギターのフレディ・グリーンだったりするので深い話はできないですが。
 ストレート・アヘッドのジャズ・ギターって、この文章の中では「芯のあるナチュラルな音」(P51)と表現されていますが、自分もこんなイメージです。単弦を中心に使ったりとか。一方でカートがホールズワースから影響を受けたのは「浮遊感のあるどこかふわふわとした音」(同)とか「小節線をどんどん超えるように演奏する」(同)ところにあたります。マーク・ターナーの話も出てきますが、この「小節線を飛び越える」感覚は自分の中では結構「オルタナティヴなジャズ史」のキーじゃないかと思っています。
【荒岸】そうか、単純に小節毎にコードが変わるから、フレーズも通常なら小節単位になるはずですもんね。
【池堂】新しい表現を模索する中で、過去にそういう変わった演奏をしていた人を探し出して取り入れていったということなんですね。それで、今までのジャズ史の中では注目されていなかったプレイヤーに光が当たったりだとか、ジャズ以外の文脈から影響源を引っ張ってこられたりする。今だとヒップホップがもう境目のないくらい当たり前に、ジャズの中に入ってきていますけど、そうした過程を知るのがとても刺激的です。
【秋好】この章は知らないことばかりで、僕が言えることは何もないんですが、これを読んで聴いた中ではカミラ・メサがすごく好きでした。

【池堂】良いですよね。ここでは自分で弾くギター・フレーズに合わせてユニゾンで歌も歌っている。これがジョージ・ベンソンの真似ということで(自分はこういうのを見るとフォープレイを連想します)、いまジャズとフュージョンはかつての分断の時代から離れて、緩やかに合流しつつあるという見方もできますね。サンダーキャットがカシオペアを好きみたいな話もあります。変なまとめ方ですけど、柳樂さんの章を読んで改めて、とにかくいろんな音楽を敬意を込めて聴かないとな、という引き締まった気持ちになりました。

《冨田ラボ(冨田恵一)「〝録音された音楽〟を聴くことの意味|アル・ジャロウ、スティーリー・ダン、EW&F、マイケル・ジャクソンを題材に」》

【池堂】前半で「音を聴くか、歌詞を聴くか」みたいな話が出ましたけど、じゃあ歌詞しか聴いてないという人が鳴っている音全体を聴こうとしたとき、やり方が分からないと思うんですよ。だから「音の聴き方」を解説してくれる文章はどんどん出てきたらいいのかなと思うんですが。あるいは「言語化」の仕方といってもいいかもしれないですね。この曲のどこが好きか、そうでないかの話をもっと解像度を上げてできるようになりたいな、と思います。冨田さんの章を読んだときにそんな感じのことを思いましたが、それ自体は本書全体においても言えるのかなと思います。
【荒岸】冨田さんのような細密な聴き方、なかなか楽器経験がないとこういう聴き方ってしないですよね。
【池堂】そうですよね。自分も大学でジャズを通して楽器を始めて、ようやく小節のこととか分かるようになった。音楽の授業でもやっていたはずなんですが。あと楽器の聴き分けも全然でしたね。耳が鍛えられてないので、いまでも全然怪しいんですが……。でも例えば、トランペットとトロンボーンの音の違いを感じるところから始まって、そこからポップスとかも聴き方が変わっていきました。あまりピンと来ていなかったバンドの曲が面白く聴こえてくるようになったり。柳樂光隆さんが音の聴き分けの仕方をフィギュアスケートに例えていて、それが面白かったです。演奏を「フィジカルな動作の積み重ね」としてとらえるとまた聴き方が変わるという。

 単純に演奏技術の高い人のプレイって、スポーツ鑑賞に近くなってくるところがあるんですね。その身体性をそのまま楽しんでしまっても良いんだ、むしろ演奏のシーンを見ることで音の違いが視覚的にも分かるということに繋がっていきます。これは自分も感覚的に分かるところでした。そういう視覚的な面白さをもっと出していくと、楽器経験の有無に関係なく、より鳴っている音に意識が向くようになるのかもしれません。
【荒岸】これも先ほど出ましたが、エンジニアリングの話は興味深かったです。これに関する話をしてくれる人はなかなかいない気がするので。
【池堂】例えばアニメで言うとここの作画担当が誰々とか、その違いまでかなり把握している人たちがいますけど。そういう楽しみ方にも近いかもしれませんね。或いは100年前の録音の雰囲気を再現するために、100年前の機材を使用したりとか。
【荒岸】冨田さんの文章がいまいち分かりにくいと自分が感じたのは、コンポーザーがどういう聴き方をしているのか、あまり体系的な書かれ方でなかったからかなと思いました。一曲をすごく細かく聴いていくのは手法として分かるんですが、なぜその音に注目したのかというのが分かりにくかった。
【池堂】最初の一秒から全部、並列で分析しているということだと思ったんですけどね、何かに特に注目したというよりかは。何が起こっているのかをずっと分析していて、確かにそこまででこの講義は終わっているかもしれないですが。
【荒岸】全部並列で、というのはそうなんですが、本当の意味で全部はできないわけじゃないですか。というか、それだと採譜と変わらなくなる。そういうわけじゃなくて、コンポーザーやプロデューサーという立場だからこそ興味を持って聴いている部分があると思っていて、そこを語ってほしかった。
【池堂】なるほど、ただ少なくとも『ナイトフライ』に関しては、冨田さんが今のような立場になるずっと前から、何度も聴いていた作品というのがあるんじゃないでしょうか。あるいは今荒岸くんが言ってくれたような内容は単著の『ナイトフライ 録音芸術の鑑賞法』に書かれているのかもしれませんね(いい加減に読まないとですね)。
【荒岸】冨田さんの章が、本書のタイトルで言う「音楽を語るときに私たちが語ること」まで行っていないように思って。細かく聴いて、その先に何を語るのか? が重要なんじゃないかと。
【池堂】この章を読む前と読んだ後で、音楽、あるいは章の中に出てきた曲の聴き方が変わることが狙いなんじゃないですかね。その体験を提供するということ。秋好さんはどう思いますか?
【秋好】体系立てて論じられていないという指摘は分からなくもないですが、とはいえ批評性は充分にあるでしょう。今までこういう聴き方をしてこなかった人に対して、ある意味ショック療法的に、新しい聴き方をレクするというのがこの文章の機能なわけで。もちろん、もっと体系的な部分まで踏み込んでほしいという批判もありうるとは思うんですが、ここでは紙幅の都合やもともとの講義時間の関係もあるでしょうから。
【荒岸】新たな視点を提示する、という意味ではそうかもしれませんね。不満を言ってしまうと、それならもう少し取り上げる曲数を減らしてほしかったです。
【池堂】冨田さん本人も言ってますね、「かなり駆け足で進めてきましたが」(P144)という感じで。これは冨田さんに限らず、それぞれの章はあくまで入り口として捉え、そこから各講師陣の他のテキストに手を伸ばしていくのが良いんじゃないかと思います。

《挾間美帆「ラージ・アンサンブルの歴史と新展開|作・編曲家の視点から」》

【池堂】こちらも前半で話題に挙がっていましたが、他にはありますか? 自分はこの章で感銘を受けたのは「しかし、即興が含まれるということ、すなわち演奏者に委ねる部分があるのがジャズ・コンボジションの面白いところです」(P203)という箇所です。ジャズだから即興があって当たり前なんですが、そこの文章に至るまでに実際の譜面を使って作曲の狙いが精緻に説明されていて、その考え抜かれた構造を知る、という手順を踏んでいるだけに刺激的です。これだけ練り上げて、でも最後の仕掛けは演奏者に委ねられている。
【荒岸】「ジャーニー・トゥ・ジャーニー」のリズム構造の解説には本当に圧倒されました。

【池堂】ここまで説明してくれるのは本当、ありがたいことですよ。作曲を精緻に組み上げるからこそ「あるいは、演奏が自分の想像をはるかに超えて、自分の作品だったかどうかもわからないところまで連れていってくれるときもあります」(P203)と最後に書かれるのが際立ってきて、感動的だと思います。自分の作曲を演奏者が超えていくことが「生きがい」ですらあると。

《細馬宏通「デヴィッド・ボウイの「Away」感覚|〈スターマン〉〈ライフ・オン・マーズ?〉を読み解く」》

【池堂】あらためてデヴィッド・ボウイは格好良いですね。
【秋好】『Top of the Pops』の映像を見ると、改めてめちゃくちゃカッコいい。
【荒岸】この章は本書では割と数少ない歌詞分析をしてますけど、当然英語詞なんですよね。単純に英語できないから、英語の歌詞分析をできる人はすごいです。
【池堂】それで思ったんですけど、邦楽と洋楽とで聴き方が違うことってありますよね、もちろん人によりますけど。邦楽を聴くときは歌詞をかなり意識するけど、洋楽の時は歌詞をちゃんと耳に入れてない、みたいな。
【秋好】聴き取れないからなあ……。
【池堂】邦楽と洋楽とで、曲の受容の仕方が変わるんですよね。当たり前のことかもしれないんですが。
【荒岸】僕はあまりそこで分けないですけど、要は普段から邦楽の歌詞も聴いてない。でもヒップホップだとそれが変わるかもしれないです。英語は聴き取れないけど、日本語ラップの場合は歌詞をしっかり聴いている気がしますね、僕の場合。ギターはボーカルを代替できるけど、ビートはラップを代替できないように思っていて、そこが違うのかな。いずれにせよ、コンシャスラップとかはやっぱり歌詞の意味を踏まえて聴かないとですよね。
【池堂】英語の勉強はしないといけないと思うんですけど、そもそも言語って日本語と英語だけじゃないですからね。せめて、誰かが内容を背景まで含めて解説してくれる本をちゃんと読むようにしたいなと思います。江永さんは以前アイスランド語ラップを紹介するnote記事を書いていましたね。

【池堂】この章は「ライフ・オン・マーズ?」とシナトラの「マイ・ウェイ」との関係性の話も非常に刺激的でした。途中まで「マイ・ウェイ」とコード進行が一緒なんですけど、サビ直前にその進行を裏切って、怒りを爆発させていくという。「マイ・ウェイ」に見られる曲のストーリーをぶち壊しにかかるんですよね。すごく面白いなと思いました。
【荒岸】B♭を弾くときに人差し指を弦から離して変則的な響きにし、宇宙感を出しているという話もありましたね。
【秋好】細馬さん本人も仰ってますが、後半に行くにつれ文章が妄想的になっていくのが面白いですね。

《永冨真梨「カントリー・ミュージックの新潮流と多様性|ステレオタイプを越えて」》

【荒岸】カントリー、この本の中では一番知らない音楽だったので、興味深く読みました。
【池堂】実際、自分もカントリーは普段聴かないですね。
【荒岸】だから、やっぱりカントリーって白人音楽のイメージが強かったんですけど、実はいろんな変遷があって、黒人、女性、LGBTQもこの音楽に自然な形で参加していることを知れたのは良かったです。
【秋好】フー・ファイターズの話も面白かった。ヘイト・スピーチ側も、その意趣返しでカントリー調の楽曲を使って煽るバンド側も、どちらも批判されているんですね。
【荒岸】それも面白かったです、現地でもやはりカントリーに対し凝り固まったイメージがあるということですよね。あとはこの章の最後に名前が出ていますが、去年のヒップホップ・シーンにとって一番の衝撃、リル・ナズXがビルボードの総合チャート一位を19週にわたって独占し最長記録を更新した事件がありましたが、そこに話が繋がっていくのが良かったです。
【秋好】これがTikTokで流行ったんですよね。
【池堂】TikTok、さすがに始めるべきなのか。

https://www.tiktok.com/tag/yeehaw?name=yeehaw&u_code=d3gi76hak5ehkd&language=en&utm_campaign=client_share&app=musically&utm_medium=ios&user_id=6634220349225844741&tt_from=copy&utm_source=copy&langCountry=ja&source=h5_t
#Yeehaw Challengeの様子。「Old Town Road」の曲の途中でカウボーイ・カウガールに変身して踊るという構成。

【荒岸】この曲の次に出した曲が「Panini」だったのもすごく面白かったですね。

【池堂】カントリーの歴史そのものが面白いと思います。日本にもナッシュヴィルみたいな、そこにいけばミュージシャンとして食べていけるみたいな街があるといいですね、そんな単純な話でもないんでしょうけど。どこかでそういう形の街おこしをしないかな。
【荒岸】ライブハウスが集まってる場所ということで、下北沢とかそうなんじゃないですか。
【池堂】もっと地方寄りのが良いかも、いっそ福生市にスタジオをたくさん置くとか。まあでも下北とか、渋谷とかなんですかね、ミュージシャンが出てきてとりあえず仕事にありつける場所というのは。
【荒岸】市場の規模感もありますし、なかなか同じ土俵で考えるのは難しいかもですね。
【池堂】そもそもハリウッドとかがあるの前提ですよね。アメリカと同じ戦い方じゃ無理かー。

《輪島裕介「環太平洋・アジアから日本ポピュラー音楽史を見る|演歌、カタコト歌謡、ドドンパから〈プラスティック・ラヴ〉まで」》

【池堂】今まで日本の話がほとんど出てこなかった中で、輪島さんがある意味日本担当みたいな形ですね。アジア担当か。
【秋好】最後の章という感じが出てますね。
【池堂】日本のポピュラー音楽がずっと欧米を意識してじたばたしてた中で、その音楽は気づかないうちにアジア圏への広がりを見せていた。もちろんそれは占領期が関係していたりして単純ではないんですけど。邦楽を語るうえで今まで見落とされてきた、新たな視点がそこにありますよね。
 『へたジャズ! 昭和戦前インチキバンド 1929-1940』というコンピレーションがあるんですけど。内容紹介を引用すると、「昭和初期に夜店で売られていた怪しきインチキレコードたち。その中でも選りすぐりの『ベスト・オブ・下手』なジャズ音楽が80年の時を超えて最新デジタルマスタリングでよみがえる!」というなかなかな煽り。でも決して悪趣味なものではなくて、日本のポピュラー音楽は確かにここから始まったという、記録的な作品になっています。録音の質も悪い、出どころも怪しいようなレコードが夜店で投げ売りされていたというのもすごい話ですが、こんな形で今聴けるというのもすごい。

 この章に出てくる「カタコト歌謡」曲も収録されています。フィリピンのジャズバンドが日本語詞で歌ってる音源とか好きなんですけど。歌詞カードがないと何を歌ってるのか分からないんですが、でも演奏技術は当時の日本人より高い。本書でもフィリピンのバンドがアジア圏にラテン音楽を広めていった話が出ていますね。それが後年日本ではドドンパになったり、タイではタイチャチャになったりする。そして現代のマレーシアの歌手Nameweeにまで繋がります。この人、YouTubeの再生数がすごくて、びっくりしました。
【秋好】面白かったですね。「Tokyo Bon 東京盆踊り2020 (MakuDonarudo)」は再生数が8000万回を超えてますよ。「東京五輪音頭-2020-」の再生数は100万そこそこなのに。
【池堂】「東京五輪音頭」、むしろそんなに聴いている人がいるんですか。
【秋好】一応公式のはずなんですけどね。

【荒岸】「東京五輪音頭」は聴いてないですけど、「東京盆踊り」は良かったです。この曲もTikTokで使われてるみたいですね。
【池堂】思ったのは、今の日本のイメージって女子高生なんですね、このMVを見ると。マレーシアから見てもそうなんだ。昔は忍者で、今は女子高生。
【秋好】やはりそうなんですかね。

【池堂】ヴェイパーウェイブに関係する話も少し出ましたね。日本のシティポップが注目されているのはアメリカでだけじゃなくて、台湾でもそうなんだと。でもアメリカの場合は日本のシティポップに「ありえたかもしれない失われた未来」を幻視してそこに懐かしさを見出す、みたいな受容のされ方だったと思うんですけど。でも前半にも話の挙がった9m88を輩出した台湾では様子が違っていて、日本のシティポップを受容するのに「「かつて憧れた日本を追い越してしまった」ことに対する複雑な心理」(P335)が表れているという。
【荒岸】いい話ですよね。
【池堂】ヴェイパーウェイブに関する言説はいろんなところで見るようになっていますが、台湾とかアジア圏でのこういう視点は初めて読みました。これからの音楽を考えるうえで、その視点は忘れないようにしたいです。日本はもう追い越されてしまった。それは事実として、もう一度追い抜こうとするのか、それともまた別のオルタナティヴを探るのか。とにかくそこから思考を始めたいですね。

《おわりに》

 3月に行った【闇の自己啓発会】ラプソディー編、要は音楽関係の書籍で読書会を軽率にやってみようという会の第二弾でした。いかがでしたでしょうか? 直接会わなくても読書会は可能と判明した一方、緊急事態宣言下では課題本の入手に手間取ってしまうという問題も生じました。これからもいろいろと工夫しながら、自分たちのペースでのんびりやっていきたいと思います。まずは頑張って生き延びたいですね。
 次回は著・TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』か編著・毛利嘉孝『アフターミュージッキング ―実践する音楽―』のどちらかで読書会をしたいと思います(要はまだ決まっておらず、他のになるかもです)。よろしくお願いいたします!

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