見出し画像

アジリティ能力を高めるための基本的な筋力トレーニング戦略 【素早い力発揮能力を高める】

ESOマガジンの前回記事ではアジリティ能力に関して書きました。

特に減速能力に着目し、その際の重要なテクニックであるPenultimate foot contact の使い方をご紹介しました。全文公開中なのでぜひご覧ください。


今回はアジリティ能力とそれを向上させるための基本的な筋力トレーニング戦略に関してご紹介します。



■アジリティと筋力

前回記事でも触れたようにアジリティ能力は以下のような構造が示されています。

アジリティ図


筋の特性はさらに3つに分けて考えることができます。

・筋力
・パワー
・リアクティブストレングス

純粋な筋力はもちろんのこと、高いパワーとリアクティブストレングスを発揮できることは非常に重要なポイントです。

これは競技中に行われる減速・加速・方向転換では、短い接地時間で地面に大きな力を加えることが要求されるためです。


上記3つの違いを考える上で、力-速度曲線の視点は欠かせません。



■力-速度曲線とパワートレーニング

アジリティ能力を向上させるために筋力トレーニングを考える場合、力-速度曲線の視点が欠かせません。

力-速度曲線は、大きな力を発揮する際には筋は素早く収縮することはできず、力発揮が小さい場合には筋は素早く収縮できる、という特性を曲線に示したものです。

下半身の力発揮を向上させるトレーニングを例に取ると、力-速度の関係から下図のように示すことができます。

画像4

1RMスクワットは非常に大きな負荷がかかり、大きな力発揮が求められます。その分力発揮の速度は非常に小さくなります。
対して垂直跳びでは自体重分の負荷しかかからないため、より素早く力発揮が可能となります。

より負荷が大きく力発揮が優先される5RM・1RMスクワットなどのトレーニングは筋力向上を目的として行われ、力をより素早く発揮することが必要なトレーニングはパワー向上を目指したパワートレーニングとして行われることが多いです。

大きな力発揮ができる選手であっても、高い速度での力発揮に不足があり、実際の走・跳運動のパフォーマンスにつながらなかったり(速度不足)、逆に高い速度での力発揮は得意でも筋力が不足していることがボトルネックになっていたり(力不足)ということがあります。

筋力・パワートレーニングにおける力と速度の関係に関しては、S&Cコーチの西岡さんの記事でかなり詳しく解説してくださっているので、ぜひご覧ください。



■パワーとリアクティブストレングス(バネ)

リアクティブストレングスはエキセントリック収縮からコンセントリック収縮へ素早く移行し力を発揮するタイプの力発揮能力です。

リアクティブストレングスの測定方法としてドロップジャンプリバウンドジャンプで測定されるDJ index(RJ index)を活用する方法や、純粋にその跳躍高を指標にする方法などがあります。

ここで測定されるリアクティブストレングスは、非常に短い接地時間で爆発的に力を発揮することが要求され、この能力は高いスプリントやジャンプ、方向転換能力と相関関係が見られることが報告されています(1)


リアクティブストレングスを「エキセントリックからコンセントリックへ素早く変換し力発揮をする能力」と捉えると、先ほどパワートレーニングに分類した垂直跳びもリアクティブストレングスでの力発揮に相当すると考えられます。


そこでジャンプタイプによってCMJ型とRJ型に分類する方法を紹介します。

カウンタームーブメントジャンプのようにより高く跳ぶことが目的となるジャンプでは、下肢三関節を爆発的に伸展し高い下肢筋パワーを発揮することが要求されます。

対してドロップジャンプやリバウンド、ジャンプのように、接地時間を最小限にしつつ弾性的に跳ぶことを要求されるジャンプでは、下肢三関節関節のスティッフネスを高め、アキレス腱などの腱を使ったバネ能力を活用することが要求されます。

画像5

前者をCMJ(Counter movement jump)型のジャンプ、後者をRJ( Rebound jump)型のジャンプと定義した時、CMJ型ではより筋の利用が重要になり、RJ型ではより腱の利用が重要になります。

また2つのジャンプ能力の推敲能力は必ずしも相関しないことが報告されています(2,3)。
別の研究では、大学サッカー選手においてCMJ型のジャンプとRJ型のジャンプの能力を比較したところ、サッカーのレベルによって相対的に高いジャンプ能力が異なることが報告されています(4)。

ジャンプにおける特性に違いやそれぞれのジャンプ能力の関係性から、いずれもリアクティブストレングスが要求されるものの、CMJ型とRJ型のジャンプ能力は異なるものと捉えるのが良いと考えられます。


ここで先程の力-速度曲線で考えてみると、RJ型のジャンプは非常に短い接地時間での力発揮が要求される速度優位なタイプの運動です。

垂直跳びなどの運動よりも速度が要求されることから、力-速度曲線ではより速度の要求が高い左側に位置するトレーニングと捉えることもできます。

しかし特にDJやRJのような弾性的にジャンプするトレーニングでは、いわゆるバネ能力が大きく要求され、それは垂直跳びなどCMJ型のジャンプと特性の異なるものです。

そこでアジリティ能力向上における筋力トレーニングでは、筋力トレーニングとパワートレーニングを力-速度曲線上で考えながら、リアクティブストレングス=バネ能力とし、別の種類の能力として捉えることでよりトレーニング戦略を整理できるかもしれません。

力-速度曲線上でしか分類できないと、速度不足の選手に対してトレーニングを指導する際に、ドロップジャンプと垂直跳びを力発揮速度の違いでしか捉えられない可能性があるためです。それら2つのジャンプトレーニングはそもそも求められる能力が異なるのに、です。

画像4


以上のことからアジリティ能力向上のための筋力トレーニングでは以下の2点が基本戦略となりそうです。

①力-速度のバランスを整えながら高いパワー獲得を目指してパワートレーニングを行う。(特徴に応じて筋力トレーニングとパワートレーニングのバランスを考える。西岡さんの記事参照)

②リアクティブストレングスの中でもバネ能力に着目し、RJ型のジャンプでのプライオメトリクストレーニングを行う。


大きく筋力・パワー・バネの3つに分類して捉えておくことで、トレーニング方法を整理しやすくなります。


■まとめ

アジリティ能力を向上させるための筋力トレーニング戦略として、筋力を向上させるだけでなくそれを素早く発揮する能力を高めパワー発揮能力を高める必要があります。

さらにより素早い力発揮であるリアクティブストレングス(バネ)はより重要である可能性がありそうです。

筋力・パワートレーニングとプライオメトリクスを行いつつ、例えば前回記事で触れたようなアジリティに必要なスキルを高めていくことがアジリティ向上のための基本戦略と考えています。

ぜひ今後のアジリティ能力向上のためのトレーニングの参考にしていただけたらと思います。


今回は以上です。

ありがとうございました!


■参考

(1)Young WB, James R, Montgomery I. Is muscle power related to running speed with changes of direction? J Sports Med Phys Fitness 43: 282–288, 2002.
2)岡野憲一,山中浩敬,九鬼靖太,谷川聡(2017).伸張 - 短縮サイクル運動の遂行能力からみたトップレベル男 子バレーボール選手の跳躍パフォーマンスの特性.体 育学研究,62: 105-114.
3)遠藤俊典,田内健二,木越清信,尾縣貢(2007).リバウ ンドジャンプと垂直跳の遂行能力の発達に関する横断的研究.体育学研究,52: 149-159.
4)山田 魁人,奥平 柾道,九鬼 靖太,吉田 拓矢, 前村 公彦,谷川 聡(2020). 男子学生サッカー選手におけるパワー発揮能力とスプリント能力 および方向転換能力の関係:跳躍タイプによる違いに着目して. Football Science Vol.17, 1-10.



ライター

Keisuke Matsumoto

画像2


ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?