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歌舞伎の楽しみ 〜大道具の仕掛け〜

歌舞伎の大道具は単に舞台の背景、建物だけではありません。これをいろんな形で動かすことによって、我々見るものの目を楽しませてくれます。回り舞台もその一例ですが、もっと大胆に、大掛かりに道具を動かすことでダイナミックな舞台が見られます。

まず、「がんどう返し」。

おなじみ「弁天小僧」の舞台です。 捕手に追い詰められた五人男の一人弁天小僧は極楽寺の山門の屋根に逃れます。しかしここでも捕手に囲まれ、とうとう割腹自殺をしてしまいます。
写真のように屋根での立ち回り、のち腹を切る弁天小僧、すぐその後、山門の大屋根は後方に90度倒れて返って行き、次の山門の二階に逃れた日本駄右衛門の場面になります。この転換では、「どんでん、どんでん」と聞こえる鳴物が演奏されることから「どんでん返し」とも言っています。
図解でお示ししましょう。

煽り返った山門の屋根に変わって同じ山門がせり上がってきます。
大道具の見せ場です。

同じような見せ場に「屋体崩し」があります。
妖術、地震などが原因で舞台に組み立てられていた大道具の屋体を、観客の目の前で柱を折ったり壁を落としたりして崩してゆく仕掛けのことで、せりを併用することもあります。
有名な演目には、舞踊劇「忍夜恋曲者・将門」があります。

完全に潰れた御殿の屋根には妖怪の術を使う滝夜叉姫と光圀が、、、

次に、煽り返し(三段返し)と引道具。
これは「仮名手本忠臣蔵・四段目」城明け渡しの場面がよく知られています。
 煽り返し  上下あるいは左右に折り返して次第に遠景のなる背景が描かれて
       いる。だんだん書き割りが遠見になって小さい絵になる、、。
       パラパラと絵が小さくなって動くように見せる子供のおもちゃに
       似たかんじになる。
 引道具   役者が前方に動くに従って、逆に大道具を後方に引いて、演者が
       より背景から離れてゆく様子を強調する、遠近法の応用。

図のように絵をひっくり返したり、左右の折り返したり、上下に折り返してだんだん遠方になる背景が現れてゆきます。
大道具を後方に引いて行って距離を離してゆくやり方で、舞台が広くないとできない方法です

さらに、大道具のみならず、小道具まで使って仕掛ける芝居があります。
有名な「東海道四谷怪談」では小道具も入れて全部で40種類に上るといいます。
ここでは大道具を使った仕掛けをご覧いただきましょう。

まず「提灯抜け」

伊右衛門が門口で門火を焚いて弔っていると、軒先の提灯の火が燃え出し、その中からお岩の幽霊が抜け出てきます。
台(楽屋用語で「箸箱」)に役者(お岩)はうつ伏せになって乗り、押し出される方法、ここまでは大道具係の担当です。提灯がボ〜っと燃え、直後、提灯の口から台に乗った役者が現れる。このタイミングは難しいらしいようです。これは小道具の担当。
提灯の骨は竹ではなく、針金を使い、紙は一部分だけ燃えるよう、隅の方は不燃性の薬物を塗った別の紙を貼ってあります。

「仏壇返し」

お岩は仏壇の絵が描いてあるその裏側に設置された水車型の車の切り込みの中で待機しています。直後、お岩を乗せたまま、車を前方にまわし、仏壇に掛かっている掛軸の下から体を乗り出して恨みのある相手を捕まえる。その相手はドッかと直角に切り込んだところに腰掛け、その後、車を逆に奥へ回すとお岩もその相手も仏壇の奥へ消えてゆく。

これらは大道具師の長谷川勘兵衛という人が、天保時代に工夫して、それが今でも使われていると言うから驚きです。


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