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【警察物語/500文字】晩酌鎮歌

『おいおい飲み過ぎだって。もう閉店だから起きてよ。』

いつから呑み始めたか覚えてない。
どうやら気付いたら寝てたそうだ。

『悪ぃなオヤジ。すぐ帰るからあともう一杯だけくれよ。』

『アンタにしては珍しく粘るね。』

『刑事には呑み暮れなきゃいけねぇ時もあんだよ。』

最初の一杯目はビール。
昔はそのままぶっ倒れるまでビールを呑み続けていたけども最近は尿酸値を気にして二杯目以降はハイボールにしてる。

アイツもそうだった。

『アンタここのところはハイボールばっかりだったのに今日は日本酒ばっかり呑んでどうしちゃったんだい?』

どうもしてないしどうかもしてる。

『決めてたんだよ。最後は日本酒で呑み明かすって。』

『最後って何だい?』

オヤジの問いに答える事はしなかった。

アイツが病に冒されたのを知ったのは半年前。
それからあれよあれよという間に逝っちまった。

医師からは刑事での多忙が祟ったと言われてたらしい。
だったら俺はどうなるんだよ?
もう何年も熟睡なんか出来てないぜ?

『はいよ。コレが最後の一杯だよ。』

『ありがとな。オヤジ。』 

オヤジはそっとお猪口と徳利を置いて去っていった。

手酌で入れた日本酒はなぜだかほんのりしょっぱい味だった。

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