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恵文社一乗寺店| 今年の本の話 2020

2020年は、どんな一年でしたか?
年間を通じた、当店の書籍の売上ランキングをご紹介します。

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1.『渡り鳥』岩谷香穂
(さりげなく)

2.『銀河の片隅で科学夜話』全卓樹
(朝日出版社)

3.『NEUTRAL COLORS
(NEUTRAL COLORS)

4.『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』バリー・ユアグロー 柴田元幸訳(ignition gallery)

5.『ほんとうのリーダーのみつけかた』梨木香歩
(岩波書店)

6.『ベルリンうわの空』香山哲
(イースト・プレス)

7.『ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ』
(DIC川村記念美術館)

8.『ブックオフ大学ぶらぶら学部
(夏葉社)

9.『生きるはたらくつくる』皆川明
(つるとはな)

10.『京大吉田寮』平林克己 写真 宮西建礼・岡田裕子 文
(草思社)

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『渡り鳥』は、“閏年”にだけ販売されるというコンセプトで、若手の出版社「さりげなく」から発行された一冊です。よって、この文章をご覧になっているタイミングによっては、すでに販売を終了しているかもしれません。次回、この本が本屋の店頭に並ぶのは4年後になります。本といっても岩谷さんの文章は8ページのみで350ページは白紙です。この余白にご自身の文章を綴られている方も多いことでしょう。

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『銀河の片隅で科学夜話』は、量子力学を専攻する物理学者・全卓樹さんの科学エッセイ。星、空気、永遠、時間など、人間が科学を通じてわかろうとしてきた様々な現象を書き出していくわけですが、なんと言ってもこの本の魅力は、その文学のような叙情的な文体にあります。著者が書いた専門書を読んで、編集の方がエッセイの執筆の声をかけたというエピソードもひとつの物語のようです。多くの図版も美しい一冊。


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これまで『NEUTRAL』『TRANSIT』『ATLANTIS』など、旅を主題にした雑誌づくりに携わってきた編集者・加藤直徳さんが新たに制作した『NEUTRAL COLORS』創刊号。「人生とインド」というテーマのもと、南インドの出版社タラブックスの訪問記事はじめ、インドに縁をもった人々がのびのびと寄稿した一冊。オフセットとリソグラフを織り交ぜた印刷も、インディペンデントな制作だからこそできること。次号に寄稿するという何人かの作家さんから話を聞きましたが、続号もとても楽しみな雑誌です。


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コロナ禍による、社会やコミュニケーションの変化は、創作にも大きな影響を与えました。作家、バリー・ユアグローが、ロックダウン下のニューヨークから、盟友である翻訳家の柴田元幸さんに送った超短篇12本。日本だけで発売された冊子『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』も印象深い一冊でした。なにより、ユアグロー本人から、柴田元幸さんを経由して、当店に宛てたメッセージが届いたときは、とても驚きました。小説や作品にすることで、現実と向き合う。そういえば、数年前、当店で開催した柴田さんと藤井光さんの対談「死者たち」のなかでも、あがっていた話題だったと思い出しました。


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『ほんとうのリーダーのみつけかた』も、コロナ禍がなければ生まれなかった一冊でしょう。作家の梨木香歩さんが若い人へ宛てた一冊。周りの目が気になるとき、強いひとの言葉に流されそうなとき、本当に耳を傾けるべき相手は誰か。同調の圧力に屈せず、自立と個人を意識するために。過去の講演をベースに制作されたようですが、書籍化にあたり、梨木さんはかなりの熱をもって修正加筆されていると思います。助詞や言葉の選び方、細部のどこをみても「伝えたい」という思いに溢れていて、優れた作家の持つ言葉の力に、あらためて感動を覚えました。


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『ベルリンうわの空』は、ベルリン在住の漫画家・香山哲さんが、住んでいる街や関わる人々のことを書いた作品です。登場するキャラクターは誰もがデフォルメされていて、人種や肌の色、性別も外見だけではわからないようになっています。それぞれが、より良い社会や暮しのために助け合う。押し付けるわけでもない、説教がましくなるわけでもない。ユーモアと優しさをもって描かれる世界には希望が見えます。続編『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』も先日発売されました。


ここでは、今年出版されたものを中心にご紹介しましたが、今や定番となった書籍も多数ございます。『世界をきちんとあじわうための本』ホモ・サピエンスの道具研究会(ELVIS PRESS)、『わたしを空腹にしないほうがいい』くどうれいん(BOOKNERD)、『天文学と印刷 新たな世界像を求めて 展覧会図録』(印刷博物館)、『あおいよるのゆめ』ガブリエーレ・クリーマ(WORLD LIBRARY)などの本たちも、売上冊数だけで言えば、このランキングにも入ってきます。これからも新刊、既刊の隔てなく、よりどりご紹介させていただきます。

本年も格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございました。
来年も、恵文社一乗寺店をどうぞよろしくお願いいたします。

(鎌田)


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