見出し画像

恵文社一乗寺店 11月の本の話 2023

こんにちは。恵文社一乗寺店の韓です。

先月の書籍売上ランキングと、おまけのお話。
今回もどうぞお付き合いください。

////////

1位 山川直人『雨が降るとは聞いてなかった』

カケアミ技法を用いた、他に類型のない独特な画風で文学、珈琲、音楽をモチーフに日常の片隅にある大切な物語を紡いでいく漫画家・山川直人さん。
同人誌『サイコロ』での掲載作を中心に10篇を収録したこちらの一冊が今回首位にランクイン。

11月頭、当店のギャラリースペース・アテリにて開催されておりました原画展「音楽の聴こえる街」も大変ご好評いただきました。

幾度も重なる筆致と、登場人物や背景の家々の愛らしいフォルムに目が離せずにいたのをよく覚えています。日々のちいさな物語、覚えておきたい大切なこと。さまざまな人間をあるがままに描く味わい深い物語、綿密な漫画表現の世界を味わえる貴重な2週間となりました。

展示は終了いたしましたが、ポストカードや本展示を記念し制作されたスタンプ(在庫僅少)は引き続きお求めいただけます。
ぜひ店頭・オンラインショップにて。

////////

2位 ポール・ヴァーゼン 堀江敏幸『ポール・ヴァーゼンの植物標本』(リトルモア)

アンティークな雰囲気漂う流麗な装丁含め、とても可憐で美しい世界観が目を引く『ポールヴァーゼンの植物標本』が2位にランクイン。
100年ほど前、スイスやフランスの高山などで採取された草花たちを、ポール・ヴァーゼンという一人の女性が丁寧にプレスし、蒐集した植物標本をおさめています。

『ポール・ヴァーゼンの植物標本』標本展示

先月、書籍売り場中央で標本展示を開催しておりました。100年の時を経てもなおこんなにも花や葉の色が残っていることに、何度見ても驚いてしまいます。展示は終了しておりますが、ブックカバーや包装紙にもお使いいただける特典ペーパーは引き続きご購入の方にお渡ししております。

////////

3位 ネルノダイスキ『ひょんなこと』(アタシ社)

12月11日発売、緻密で日常と非日常を行き来するような画風の作家・ネルノダイスキさんの待望の新刊『ひょんなこと』が3位にランクイン。
前作『ひょうひょう』に比べて厚さ2倍、342ページの大ボリュームの作品集。より現実世界の日常が舞台になっています。当店でも先行発売中です。先行販売限定の特典として、漫画『いえめぐり』の元となった、40Pほどの文庫サイズの漫画本が付きます。合わせてお楽しみください。

////////

4位 光嶋裕介 青木真兵『つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡』(灯光舎)

建築家・光嶋裕介さんと私設図書館「ルチャ・リブロ」の青木真兵さんによる往復書簡をまとめた一冊が4位にランクイン。
相手のことばと真摯に向き合い、自身の内に留め、再びことばとして紡ぎやり取りをつないでいく。今を生きる私たちにとっての「つくる」ことと、自らの手を動かし「つくる」ことへの喜び。社会的な枠からはみ出ながらも自分の意志を貫き、「シュートをうつ」ことの重要性。ひとりの生き物として社会を生きていく上での、ささやかなヒントを齎してくれます。

現在書店フロアにて刊行を記念した展示を開催中。
光嶋裕介さんによるドローイングをはじめ、本書の装画を担当した青木海青子さんによるブローチも展開しております。ぜひお見逃しのありませんよう。

11月1日-12月15日 | 『つくる人になるために ― 若き建築家と思想家の往復書簡』刊行記念展

////////

5位 西尾勝彦『場末にて』(七月堂)

いつも / どこでも / 場末に追い込まれるのが / これまでの / あなたの / 道のり
あなたは / 笑いながら / 困った顔をして / ずっと / むりなく /

詩人・西尾勝彦さんによる新作詩集が5位にランクイン。表題作の「場末にて」は、もともとは小さな本屋の店主のために書きはじめたのに「次第に自分のことになり、すべてのアウトサイダー、場末をささえる人たちへの言葉となっていった」とのこと。場であれ精神であれ様々な意味ではじっこに生きる、そんな人々に眼差しを向けたその心が優しく沁み入る一冊です。

数量限定にて署名入り・特典付きのものをご用意しております。


他にも、当店ロングセラーでもある『さよならのあとで』(夏葉社)、先月に続き西尾勝彦さん著『のほほんと暮らす 新装ポケット版』(七月堂)、生活館で開催されていた金工展でもお世話になった川地あや香さんの『おやつとスプーン』(PIE International)もよく手にとっていただいていました。
今月もさまざまな本と出会ってくださり、ありがとうございました。

////////

散歩し足りない、紅葉も見足りない、まだ秋の気分は抜けず…と思っているうちにやってきている年末。秋はいつの年も足早に去っていきますね。もうすっかり暑かった頃のことを忘れかけています。

恵文社もすっかり冬の装いに。書店フロアの隣に併設している「ギャラリーアンフェール」ではたくさんの愛らしい小物たちが並んでいます。マフラーを巻いた熊の貯金箱や、ウールでつくられた動物たち、ツリーに飾っていたくなる木のおもちゃたち。眺めているだけで胸が踊るような一角に…。

ラッパを吹く天使たち、かわいらしいです…

当店オンラインショップでもクリスマスコーナーを展開中。予定がなかなか合わず行けない…という方もぜひこちらでお楽しみください。
今月末からは毎年恒例の古書市も開催されます。2023年も盛りだくさんで賑やかな3週間になる予感。追って続報をお知らせいたしますので、もうしばらくお待ちいただければ嬉しいです。


さてさて、本の話。

クリスマスに贈りたい本、という名目ではありませんが、ぐんと冬が深まる今の季節になると読みたくなる絵本をご紹介します。

肥田美代子作 岡本颯子絵『ふしぎなおきゃく』(ひさかたチャイルド)
アーノルド・ローベル作 三木卓訳『ふくろうくん』(文化出版局)

まず、おいしそうな湯気の立つラーメンの絵が目を引く『ふしぎなおきゃく』から。
評判のラーメン屋さん「とんちんけん」にあらわれた一人のお客。ラーメンをお出しすると、一口だけ食べて帰ってしまいました。そして次の日は二口、また次の日は三口食べてその場を去ります。店主のけんさんは、自分のラーメンの味がよくないのか、と心配し、お客さんのあとを追いますが…。

思わず先が気になってしまう物語はもちろん、なんといっても岡本颯子さんによる挿絵がすばらしいです。ラーメンが作られる台所のこまかさ、商店街のなつかしさ、見知らぬ森の神秘的な空気…。
どうなる?どうなる?と読み聞かせしても、ひとりでぐんぐん読み進めてもおもしろい一冊。出汁のおいしいラーメンが食べたくなります…。

卓上の調味料も、たまらない描き込みです…


こちらは愛読されている方も多くいらっしゃるんじゃないでしょうか、アーノルド・ローベルさんの『ふくろうくん』。少しだけ間抜けでおちゃめなふくろうくんのエピソードがいくつか並ぶのですが、特に忘れられないのがこの「なみだのおちゃ」のお話です。

はじめて読んだのは小学校低学年くらいの頃でした。ふくろうくんがひとつひとつかなしいことを思い出し辿っていく場面、そして流れた涙を湯沸かしにため、嬉しそうに(!)それを飲み干す場面にとにかく驚いたのをよく覚えています。(ものすごくかなしいことがあった日に、真似しようと思い出したものの、全然涙がたまらず笑って諦めた記憶があります)

序盤で出てくる「ふゆ」を招き入れるお話も大好きです。とにかく寒い日、布団にくるまってこの本をよく読んでいたなあと、店頭の棚を眺めていて思い出しました。(ほんの少しの描写ですが、暖炉の前で食べるパンと豆のスープがとてもおいしそうで…凍っててもなんだかおいしそう…)


もう年齢的にプレゼントを貰うこともないし、賑やかな街中もたいして得意ではないのですが、何故か冬になると幼いの頃の気持ちが蘇って日々わくわくしてしまいます。朝の澄んだ空気、さむいさむいと言いながら浸かる湯船、鍋に入ったくたくたの白菜…。耐えられない寒さの日は途方に暮れますが、冬って細かなご褒美がたくさんあるいい季節だなと思います。
毎年誓っては叶わず散るのですが、今年こそはアイススケートをしに行きたい…。

余談が甚だしいのですが、大晦日、2023年を締めくくる書籍ランキング / 本の話のお届けを予定しています。
良いお年を、は改めてそのときに。

それではまた。


(担当:韓)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?