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【競馬データ検証】「小型馬だから減量騎手を乗せる」は正解なのか?

「小型馬は斤量の影響を大きく受ける」の真偽

競走馬の体重は小さい馬なら400キロ弱、大型馬なら600キロに迫る個体もいる。そして平地競走の場合、年齢や性別に応じて(おおかた)50キロ~60キロの斤量を背負って走る。

この「斤量」に関して競馬新聞などでこの手のコメントをしばしば見かける。

「小柄な馬なので減量騎手を起用する」「馬格がないから斤量が軽いのは好材料だ」

すごくざっくり書くとサラブレッドは人間の6倍ほどの体重がある。成人男性の平均体重が78キロらしく、6倍すると468キロ。正確を期すならアスリート体型の人間と比較するのが適切だろうが、細かく言い出すとキリがないので便宜上「6倍」で話を進める。

これに基づくと、斤量が1キロ増える=人間で言えば「荷物が167グラム増える」ということ。167グラムの違いで走るスピードに影響が出るのか。まずこれも確信は持てない。ちなみにバナナ1本が150グラムくらいだそうだ。

仮に影響があるとしよう。じゃあ、今後は「大柄な人にとってのバナナ1本」と「小柄な人にとってのバナナ1本」でそんなに意味が違うのか? こっちの問題も考えなければならない。まあ、たとえ話でうだうだ書くより統計を見た方が早い。2023年のJRA平地競走のデータを基に検証してみた。

「小さい馬には減量騎手を乗せるべき」なのか?

追って「減量特典」について考えるために、集計対象は「平場の」2414レースに出走した全33715頭とする。

今回は
「馬体重439キロ以下」を「小型馬」
「馬体重440~499キロ」を「中型馬」
「馬体重500キロ以上」を「大型馬」

と定義した。

ご存知の方も多いだろうが、競馬においては「馬体重が大きい馬の方が有利」という原則がある。個々の場面で決定打になるほどではないが、こうして年単位で統計を取ると如実に表れる。この前提を押さえておかないと結論を誤る可能性が高い。

そして同時に「減量特典あり」と「減量特典なし」なら後者の方が成績はよくなる。軽い方が成績が悪い……とは不思議に聞こえるかもしれないが、理由は明快だ。競馬において騎手の減量特典は大雑把に言うと「若手で技量が未熟な者」に付与されるものであって(女性騎手の例外あり)、能力の優れたトップジョッキーは「特典なし」にカウントされるからだ。こちらも前提として紹介しておきたい。

さて、「減量特典あり」と「減量特典なし」では、勝率で3.4%、複勝率で9.0%の差が生じている、もし「小型馬は斤量の影響が大きい」という前提が正しいのであれば、「小型馬」のグループだけで特典あり⇔なしの差を調べると勝率や複勝率の差が縮まり、「大型馬」のグループなら差が広がるはずだ。それぞれ調べていこう。



上記3つの表を見ると、まさに仮説通りの結果になったように映る。複勝率ベースで結果をまとめてみる。

小型馬の場合は減量騎手⇔それ以外の騎手で複勝率に5.7%の差しかなく、中型馬や大型馬の場合は9%を超えている。確かに、減量特典は小型馬でこそ効果を発揮する……と結論が出せる。

ただもう一つの可能性もある。それは「小型馬は鞍上の手腕が問われにくい」というもの。要するに「小さい馬は乗りやすいので、若手が乗ってもトップジョッキーが乗っても差が付かない」という可能性だ。上記に表れた差異は「減量特典の効果」によるものではなく「若手」⇔「ベテラン」の技量差が原因とする考え方もできる。ちょっとこの点に関してはまた追加検証しようと思う。

そして注意しないといけないのが、いずれのケースも「減量特典なし」の方が好走率、回収率ともに高いということ。そして「小型馬」は他のグループに比べて好走率も回収率も低いということだ。「減量特典は小型馬でこそ効く」という情報は正だが、だからといって「小型馬を買うべき」「減量騎手を買うべき」ということには、統計上ならない。ちょっとややこしいが、この点は覚えておこう。

まとめ

ここまで述べてきたデータから率直な結論を出すとこうなる。

・そもそも「小型馬」は好走率も回収率も低い
・「減量特典あり」も好走率、回収率が低い
・「減量特典」の効果は「小型馬」で比較的発揮されやすい
・しかし馬券を買うなら「減量特典なし」「中~大型馬」に越したことはない

成績的に言うと「小柄だから減量騎手を乗せるべき」は誤りだ。小型馬だろうと、減量特典がとれている上位騎手を乗せるのが最善手ではある。が、たとえば減量騎手とトップジョッキーを1人ずつ確保して、小さい馬1頭と大きい馬1頭に割り振るのであれば、小柄な方に減量騎手を乗せるのがいい。こういう話になる。

途中で出てきた馬格と騎手の技量の関係については、また別途リーディング順位あたりをキーとしてデータを調べてみたいと思う。

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