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23年ヴィクトリアマイルを振り返る~白毛の夢を阻んだ元女王の逆襲~

誰が見ても豪華メンバーと言っていいだろう

今年のヴィクトリアマイルのメンバーレベルは、アートハウスやメイケイエールが抜けてもここ10年でトップクラスだった。

ただ、メンバーレベルが高いから強い馬がそのまま勝つとは限らないのがヴィクトリアマイルというレースだ

例えば2015年。2着は12番人気ケイアイエレガントで、3着は18番人気のミナレット。大荒れだったこの年は、3連単の配当が2070万円と超高額だったこともあり、多くの競馬ファンの脳裏に焼き付いている。

改めてこのレースを見直すと、逃げたミナレット、2番手にいたケイアイエレガントがそのまま残って2、3着。この現象が起きるのは、ヴィクトリアマイルの週から東京芝がBコースに変わるからに他ならない

東京芝のコース変更
Aコース フローラ週~NHKマイル週 3週間
Bコース ヴィクトリア週~オークス週 2週間
Cコース ダービー週~エプソムC週 3週間
Dコース ユニコーン週~最終週 2週間

ダービーで最内枠がよく来るのもコース変わりの影響。ラチを少し動かすだけで馬場の伸びどころは大きく変わり、結果を大きく左右してしまう

ヴィクトリアマイルも同様で、コース変わりする結果、内枠の馬達がより有利な展開が生まれることが多い。大荒れだった2015年はその典型。勝ったのも5番と内枠だったストレイトガールだった。

それだけに、外を回って力のゴリ押しのような形で勝つのは難しい年が多い。能力に加えて運、そして道中のやり過ごし方がポイントになりやすいレースなのだ

金曜。枠順発表で界隈をざわつかせたのはソダシ大外だった。Bコース変わりの週に大外。普通に考えてあまりいい枠ではない。最近のソダシは少し行きたがるところがあったから余計にね。

しかし、なら内枠がいいかというと微妙なところだった。明確な逃げ馬がおらず、ペースがそこまで速くならなさそうなメンバー構成。

仮にゆったりした流れになった時、馬群が凝縮することで内の馬たちの進路が開くのか、そんな疑問が湧く並び。

俺たちがコース変わりで内が良くなることを知っているように、当然それはジョッキーたちも理解している。簡単には内を開けてこない。

スターズオンアース、スタニングローズ、ソングラインと、かつてGIを勝っている馬たちがどうやって捌いてくるのか。内の馬達による心理戦も見どころの一つだったんだ。


京王杯スプリングカップ
1着 緑 レッドモンレーヴ
2着 黄 ウインマーベル
3着 橙 ダディーズビビッド
4着 桃 アヴェラーレ
5着 紫 レイモンドバローズ

まず馬場から見てみよう。これは土曜のメインレースである京王杯スプリングカップの直線だ。上位5頭は真ん中から外を走っていた

ただこれは34.9-33.7とヨーイドンの上がり勝負になった影響も大きい。一団で回ってきて、そこから末脚を比べたらどうしても真ん中より外が強い。決して内が不利だから外外になったわけではなかった。


迎えた日曜。東京芝のレースを見ていると、Bコース変わり週の割に伸びどころが外に動いてきたのが分かったんだ。

これは東京5R。楽勝した赤レーベンスティールのレーンは道中内ラチ沿いを通っていたんだけど、4コーナーから直線にかけて、画像を見て分かるように、次第に外に外に進路を変えている

最後のほうは外に逃げるような形になっているが、明らかにレーンが直線の内を開けている

東京9Rテレ玉杯
1着黄 ルージュエクレール ルメール
2着桃 ヘネラルカレーラ 坂井
3着赤 サトノゼノビア 浜中

これはヴィクトリアマイル直前の芝、9Rのテレ玉杯。先手を取った桃ヘネラルカレーラが直線内ラチに近いところを走って2着に粘った。

Bコース変わり週ということもあって、決して内ラチ沿いが使えないわけではない。ただ勝った黄ルージュエクレールのルメールは内から6頭目を通していて、3着サトノゼノビアは8頭目を走っていた。

このことから、Twitterにも内ラチ沿いから5~8頭目の伸びが特にいい、と書いた。

加えて、直線でルージュエクレールに乗ったルメールの意識、レーベンスティールに乗ったレーンの意識は内から5~8頭目付近を向いていることも分かる

レーンが騎乗するソダシは大外だから最初から外を回るとして、スターズオンアースをルメールが内枠からどう外に出すのか、これもマスクの注目ポイントの一つだった。

ヴィクトリアマイル 出走馬
銀 ①ロータスランド 横山典
白 ②スターズオンアース ルメール
黒 ③サウンドビバーチェ
橙 ⑤スタニングローズ 坂井
赤 ⑥ソングライン 戸崎
青 ⑧ララクリスティーヌ 菅原明
茶 ⑨クリノプレミアム 松岡
黄 ⑩サブライムアンセム 三浦
緑 ⑪ナミュール 横山武
紫 ⑫ナムラクレア 浜中
灰 ⑮ルージュスティリア 川田
桃 ⑯ソダシ レーン

スタート。サンデーレーシング4頭中3頭が出遅れた

橙スタニングローズ、そのうちの4番アンドヴァラナウト、真ん中の黄サブライムアンセムが出遅れ。みんな出遅れるもんだから、アンドヴァラナウトに回す色がない。

サブライムアンセムは常習だからまだしも、内のスタニングローズは結構出るほうだったからね。この時点で厳しい。アンドヴァラナウトも最近ゲートが悪いね。

唯一まともに出たのが赤ソングライン。前走サウジアラビアで出遅れていたんだが、レース後戸崎が「スタートにだけ気をつけていて、無事出てくれた」と話しているように、これがまず大きい。

枠順のポイントの3番目に書いたように、内が簡単に開かなさそうな並びだったんだよな。先行馬も少なく、スローになって馬群が固まると、京王杯みたいに外差しが台頭しやすい。

ところが橙スタニングローズ、そして隣のアンドヴァラナウトも出遅れたことで、内の馬達が凹むような形になったんだ。

白スターズオンアースや赤ソングラインにとっては、前にいる馬がより減った。スタニングローズが先行していたとすると、スターズやソングにとっては壁になった可能性がある。そういう意味でもゲートの出は大きかった。

内がゴチャつかなかった代わりに、荒れたのは真ん中から外の馬たち。このレースの一つのポイントとなったところだ。

桃ソダシのレーンが、次第に内へ、内へと進路を取ってくる。まー、ずっと外を走るわけにもいかないから、これは別に普通の進路選択だ。

ただ、レーンの内に入るタイミングが若干早かった

桃ソダシのレーンが内を締めながら先行する中、灰ルージュスティリアの川田が少し引く形になってしまったんだ。まー、川田からすると、あのまま直進すればソダシと衝突する。引くしかない。

引いたことで、内となりを走る紫ナムラクレアも左の手綱を引っ張る。こうしてドミノ式に内にいる馬が被害を受けていく

するとこうなる。桃ソダシのレーンが左後ろを見て、「やべえな」という感じの空気を醸し出しているが、時すでに遅し。

ドミノ倒しのようにその内が不利を受けていき、しかも茶クリノプレミアムが抵抗したことで、間に挟まれた緑ナミュール、紫ナムラクレアが両サイドから挟まれる形になってしまった。

茶クリノプレミアムが外から押された反動もあったか、自分も外に飛んでしまったのも良くなかった

これで緑ナミュールは完全に1列以上下がってしまう。武史もレース後「不完全燃焼です。あんな不利を受けては走る馬も走れません。落馬しなくて良かったです。残念です」と話しているが、本当にその通りで、挟まれてしまっては、脚が絡んだりして落馬する可能性もある。

体勢的には落ちなくてラッキーと言ってもいいくらいで、この時点でナミュールのヴィクトリアマイルは終わった。

確かにレーンの内への入り方も早かったが、直接の不利ならまだしも、ドミノ式の不利を受けてしまうのはもう運が悪いとしか言いようがない。これも競馬ではある。

まー、悔しいよな。一番合いそうな舞台で、いい仕上がりで出てきたのに致命的な不利でレースが終わるのは。マスクもナミュールから買っていたが、この不利で諦めた。

結果、レーンは過怠金5万。ドミノ不利は責任の所在などの判断が難しいのだが、ルージュの過剰反応もあるし、クリノプレミアムが押し返した部分もあることを考えると、むしろ結構取られたほうではないかな。厳しく見た裁決だと思うよ。

少なくともこれで降着は重過ぎる。外国人だから制裁が甘いとか、そういう類のものではない。

逆に茶クリノプレミアムが抵抗したことで、恵まれた馬もいる。赤ソングラインだ。

これ、仮にクリノプレミアムが抵抗できずに内に寄ってきたら、ソングラインもまとめて不利を受けているところだった。一応クリノと接触して頭を上げる素振りはあるんだが、致命的な不利にはなっていない。

仮に不利を受けていたらソングラインのポジションは1列以上下がったろうし、少なくとも勝っていない。ソダシが連覇しているところだった。クリノプレミアムの動きが着順を変えたと言っても過言ではない

白スターズオンアースもポジションは悪くなかった。前走が2000mだったことから後ろから運ぶ可能性も高いと見ていたが、ゲートもうまく切って勢いもついて、中団少し前での競馬になった。

外から締められた不利も大して受けず、悪くなり始めていた向正面のインも空けて、これ以上ないポジションと言ってもいいかもしれないな。

これは9Rのテレ玉杯の向正面。勝った黄ルージュエクレールのルメールは、向正面で内ラチから3頭分を開けている

スターズオンアースも近いポジションを通しているのが分かる。道中もっと内を走ってしまうと今度は直線で外に出しにくくなるし、9Rで馬場のいいところを把握したルメールにとってはプラン通りに運べていただろうね。

白スターズオンアースのルメールが内、前目のポジションを取り切った恩恵を受けられたのが赤ソングラインだった。

強い馬の後ろはベストポジション』と回顧によく書いている。ルメールがプラン通りの競馬を実行したこと、クリノプレミアムが過度に内に寄ってこなかったことで、ソングラインは自然といいポジションに収まることができたんだ。

まー、確かにクリノが過度に内に寄ってこなかったのは運ではあるし、ソダシの内への進入がもう少し遅ければまた展開は変わっていただろうが、そもそもソングラインが五分のスタートを切っていなければここまでうまい展開にはならない。スタートの重要性を感じるシーンだ。

銀ロータスランドが作ったペースの話をしよう。

23年ヴィクトリアマイル 1:32.2 良(雨)
12.1-11.0-11.1-12.0-12.3-11.3-11.0-11.4
34.2-33.7

前半3F34.2は過去10年で3位タイに速い。レース直前にしっかり雨が降ったことを考えると、速い数字と言っていい。

同じく雨が降っていた2018年ジュールポレールの時が前半3F35.2。それよりも1秒も速い。

逃げ馬がそんなにいないから、前半からペースが落ちるかと思ったんだけどな。それはジョッキー側も考えていたようで、ノリさんがスタートを決めてハナを奪いにいって、前半は結構流れていたんだ。

しかし注目すべきはその後。

☆23年ヴィクトリアマイル 1:32.2 良(雨)
12.1-11.0-11.1-12.0-12.3-11.3-11.0-11.4

太字にした残り1000m→600m地点は、東京競馬場の3、4コーナーにあたる。この400mの区間が24.3だったんだ。

過去10年 ヴィクトリアマイルの1000m→600m
13年 23.6
14年 23.3
15年 22.6
16年 23.4
17年 24.5
18年 23.1
19年 22.4
20年 22.5
21年 23.3
22年 23.3

23年 24.3

例年23秒台前半、速い年では22秒台前半にもなるこの3、4コーナーの区間が、今年は24.3も掛かっているんだ。ここ10年で見ても9番目に遅い

前半少し速いことをノリさんは感じていたんだろうな。当然中盤息を入れたい。そうでもしなければ525mもある長い直線を乗り切れない。これにより、いわゆる中だるみラップが生まれてしまった。

☆17年ヴィクトリアマイル 稍重
1着アドマイヤリード 1:33.9
12.6-11.2-11.8-12.3-12.2-11.1-10.8-11.9
35.6-33.8

※今年 1:32.2
12.1-11.0-11.1-12.0-12.3-11.3-11.0-11.4 
34.2-33.7

同じく中盤2F24秒台だった17年、アドマイヤリードの年は、中盤だけでなく前半もスローだったんだ。前半600mで比較すると、今年のほうが1.4秒も速い。

17年ヴィクトリアマイル好走馬
1着アドマイヤリード  12-7 1:33.9 33.4
2着デンコウアンジュ 9-11 1:34.1 33.2
3着ジュールポレール 6-7 1:34.1 33.6
4着スマートレイアー 2-2 1:34.1 34.0
5着ソルヴェイグ 1-1 1:34.2 34.1

左から着順、馬名、位置取り、走破タイム、使った上がり600m。稍重とはいえ、ここまで前半緩んだマイルだと上がり3F33秒台は出る。

23年ヴィクトリアマイル好走馬
1着ソングライン  8-6 1:32.2 33.2
2着ソダシ 2-2 1:32.2 33.6
3着スターズオンアース 5-3 1:32.3 33.6
4着ディヴィーナ 13-9 1:32.4 33.1
5着サウンドビバーチェ 3-5 1:32.7 33.8

今年に関しては確かに中盤こそ緩んだが、前述したように、前半3Fはここ10年でも3番目に速い。その分勝ち時計も17年より1.7秒も速い

序盤も中盤も遅かった17年では問われなかった、マイルの追走力、そして直線速く走る能力、この2つが問われてきたんだよな。

だから同じ中盤が緩んだ流れとはいえ、仮に今年デンコウアンジュが走っていたとして、届いていない。ついていけてなかったと思う。中だるみの上がり3F勝負だったとはいえ、地力が問われてしまったんだ。

そんなある意味厳しい流れで掛かっていた馬がいる。2番手を追走していた白毛のソダシだ。今日は過去一番白かったな。

画像だと分かりにくいんだけど、VTRで見るとレーンのお尻が少し下がって、ソダシの頭が少し上がっているんだ。

以前からレースを使うごとに引っかかるような素振りを見せている馬。「短距離馬のようになってきている」という話もあったくらいで、しかも今回は休み明け。掛かり気味になるのは当然と言えば当然。

ただレーンが凄かったのは、少し掛かり気味だったソダシを『2番手で折り合わせた』こと。

普通掛かったら引っ張る。その分ポジションは下がる。掛かりやすい馬はそもそも序盤から出していかずに、中団くらいで折り合いに専念するのがよくある形。

それをレーンは、スタート後少しずつ出していって、2番手で折り合わせようとしていた。確かに行きたがっていたが、3コーナー過ぎあたりで頭の位置が下がって折り合えている。なかなか信じがたい光景だ。

ムーアやスミヨン、ルメールも掛かりやすい馬で少し出して行って折り合わせることがある。こういう技術を見ちゃうと、どういう騎手人生を過ごせば習得できるんだろうなといつも思ってしまうよ。

レーンなんてまだ29歳だからね。よく有力馬がレーンに乗り変わったり、レーンが飛ぶと叩かれているが、ソダシを2番手で折り合わせてくるジョッキーが日本にきたら誰だって頼みたくなるだろと思う。

この話の続きは後程。

3コーナー。白スターズオンアースが内目好位を追走する中、その後ろに赤ソングラインがぴたりと付ける。ポジションとしてはかなりいい

3コーナーの手前でイズジョーノキセキが一瞬手綱を引いているんだけど、これ対象がソングラインに見えるんだよな。それでも戸崎に制裁がなかったということは、見た目ほど大した斜行ではないということか。

もちろん仮にこの斜行がなくてもイズジョーノキセキは厳しかったんだが。

赤ソングラインの戸崎がレース後「馬場も外を走りたかったので、あまり内はという感じだったんですけど、ちょっと内に入り込んでしまいました」と話しているように、当初の狙いは外。実際3コーナーからも内ラチ沿いを1頭分だけ開けて走っている。

ただここから外に出そうとすると、外の青ララクリスティーヌ、外前の黒サウンドビバーチェを弾き飛ばしていかないといけない。それはできない。

最初から最後までずっとハイペースだったら、馬群も縦長になってもう少し楽に出せたかもしれないが、前述したように中盤緩んでしまったことで、馬群が固まってしまった。

結果、戸崎の当初のプラン通りにはいかなくなってしまったんだよな。まー、レース前のプラン通り行くこと自体競馬において珍しい話だが。

4コーナー。赤ソングライン戸崎の外にはまだ黒サウンドビバーチェがいる。サウンドが内を開けてくれるなら話は変わってくるが、それなりに手応えがある状況で、ご丁寧に内を開けることはない。

こうなるともう、ソングラインはスターズオンアースについていくしかない。外に出したいが、出せる状況にもなく直線を向いてしまったんだよね。まー、これは内枠を引いた時点で仕方ないことでもある。

東京5R
赤レーベンスティール レーン

1枚目は前半取り上げた東京5R。赤レーベンスティールの走っているコースと、ヴィクトリアマイルの直線の桃ソダシのコースがそう大差ないのが分かる。

レーンとしては、この自分の走っている部分より内が、より悪い、そう思ってわざと開けている。実際後ろの馬も大半はレーンが通っているところより外を走っているからね

白スターズオンアースのルメールが通っているところでもきわどい。その1頭分内を走っている赤ソングラインはもっといいところを通りたい。

23年ヴィクトリアマイル 1:32.2
12.1-11.0-11.1-12.0-12.3-11.3-11.0-11.4

ただ一度中盤12.0-12.3とラップが落ちて息が入っている分、前の馬たちにも余力がある。白スターズオンアースと黒サウンドビバーチェの間の、赤丸で囲んだ部分がそんなに大きく開かないんだ。

これで赤ソングラインが外に出せなくなってしまっている。戸崎が「馬場も外を走りたかった」と言うが、これでは出しようがない。

馬が馬場をこなしている感じがありましたし、手応えも十分ありましたので、大丈夫だろうと信じて内を選択しました。よく頑張ってくれました」と続けていたのも納得。外に出せないと踏んだ戸崎は腹を括って内目にこだわって走らせた。

確かに9Rで逃げたヘネラルカレーラが内目を使って残したように、決して走れない状態ではなかったが、よりいいのはレーンが通っているところから外。分が悪い状況だったことに変わりはない。

23年ヴィクトリアマイル 1:32.2
12.1-11.0-11.1-12.0-12.3-11.3-11.0-11.4

しかも今年のヴィクトリアマイルはレースのラスト600mが11.3-11.0-11.4。ラスト200mはほぼほぼソダシの作ったラップ。11.4だからほとんど止まっていない

見た目はソダシが止まったところをソングラインが差しているように見えるが、確かに少しソダシは甘くなっているものの、明確には止まっていないのだ。

このラップを自力で、しかも通ったところがより悪いのに差しちゃうのだから、これはソングラインを褒めるレース


数字を見ても、ソダシのレーンは相当上手く乗っている(内を早めに締め過ぎた点は除く)。

仮に折り合いに専念してポジションを2列ほど下げ、溜めて乗っていたとして勝っていたかというと、それは厳しかったのではないかな。

ソダシが勝った重賞
上がり600mタイムとメンバー中順位
札幌2歳S 36.7 2位
アルテミスS 33.9 4位タイ
阪神JF 34.2 7位
桜花賞 33.8 4位
札幌記念 35.4 5位
ヴィクトリアマイル 33.4 6位タイ

予想にも書いたが、ソダシはこれまでのキャリアで、メンバー中上がり600m最速のタイムを使ったのは新馬の1回しかない

これだけGIを勝っている馬で、脚質が大逃げでもないのに1度しかない馬も珍しい。パンサラッサも1度だけしか記録していないが、脚質に関しては今更書かなくてもいいだろう。

速い上がりを使って末脚勝負に持ち込むより、前目のポジションからしぶとさを生かすのがソダシの形。中盤緩んで上位5頭みんな上がり3F33秒台を記録するヨーイドン勝負で、ポジションを下げていいことなど何もない

もちろん乗っていないからタラレバになるが、隼人が今のテンションのソダシを2番手まで出していって折り合わせようとするだろうか。できるならいつももう1列前にいると思う。たぶんポジションは4、5番手くらいだったのではないかな。

すると最後、上がり勝負になって切れ負けしている。序盤のアドバンテージを生かし切った騎乗で、内への進入以外は非の打ちどころのない内容だったと思う。

ここ3戦、気性が前向きになってしまったソダシに2000mの札幌記念は長く、府中牝馬Sは少し長い中でハイペースを先行、マイルCSは上がり勝負で切れ負けするなど、敗因は明確だった。

確かに、新馬から隼人が作ってきた馬だから最後まで隼人で、というのは一つのロマンだと思う。ただし、敗因が明確にあるとしても、ここ3走勝ち切れなかったのも事実。乗り変わってもおかしくないパターンではあった。

まー、自分で逃げたらどうなっていたかは少し気になるけどね。すると今度は最初から目標になったし、また難しい面も出てくる。今日に関しては出し切るものは出し切ったのではないかな。

安田記念を使うことが内定していた分、まだ心身共に9割ちょっとという仕上がりだった。普通は使うと状態が上がる。次が楽しみ…

と言えるのだが、ソダシに関しては、今回が半年ちょっと間隔が空いていたように、どちらかというと間隔を開けて使いたいタイプ。安田まで中2週。間隔がない分、テンション面が非常に不安

そして念のため書いておくが、ソダシのレーンの騎乗は『内に早く入り過ぎた』以外、非常に良かった。他馬の反応も敏感だったとはいえ、危ない騎乗でもある。そこに関しては厳しく言われても仕方ない。


3着スターズオンアースは、ルメールがレース後「道中はソダシをマークして、直線も反応しているのですが、マイルでの瞬発力の差が出ました。上位2頭はマイルのスペシャリストですし、その分の差だと思います」と話している通り。

23年ヴィクトリアマイル 1:32.2
12.1-11.0-11.1-12.0-12.3-11.3-11.0-11.4

単に1分32秒台前半の決着だっただけでなく、12秒台が2つ続いた後、直線全部11秒前半。

桜花賞を勝った時がレースラスト600m11.1-11.5-11.5、走破タイム1:32.9だったことを考えると、さすがにこの数字はスターズオンアースには速過ぎた

序盤からポジションを取って一番強い馬をマーク、取り口としては完璧だった。直線も桃ソダシの外に切り返して、馬場の一番いいところを通っている。完敗、この2文字に尽きる

ただし、それは『マイルだから』。今日はスターズオンアースより2頭、直線でトップスピードが速く使える馬がいたということ。決してこの馬の評価は下がらない。

むしろ上がった。マイルで序盤から流れに乗せて最後まで踏ん張る競馬ができるんだな。最近後手に回るレースばかり見てきていたから新鮮。強い。秋が楽しみ。

スターズオンアースがこの形に対応したのは、ルメールにとっても大きな収穫だろう。これで戦法に幅が出た。天皇賞・秋、そしてその先の2400mがより楽しみになった。


4着ディヴィーナは大健闘。ここまで矢印も入れず、ディヴィーナのデの字も出さずに申し訳ないくらい。

道悪自体問題なく、ラストだけ脚を使う展開も良かったとはいえ、レース上がり600mが11.3-11.0-11.4。後ろから差し切るには10秒台後半を3つ並べないといけないレースで、物理的に外を回った差し馬が不利になる中、外を回って4着まで差してきたのは立派。

直線の手応えもナミュールより良かった。まー、最初から勝ちに行く競馬ではなく、脚を溜めることに専念して直線伸ばす形。これ以上はなかったかな。この結果を見て、次中京記念や関屋記念で信頼するのは怖い。馬場と展開次第というところ。

5着サウンドビバーチェも展開などが噛み合ったとはいえ、これまでのキャリアでレース上がり600m33秒台のレースを経験していなかったことを考えると、こちらも健闘。

2走前の洛陽Sで直前攻め過ぎて大敗してしまったことを糧に、仕上げパターンを陣営が完全に掴んだ感じ。競馬が上手いだけに今後もマイルGIIIでいい味を出していきそうだね。

7着ナミュールは不利を受けたのが全て。ポジションは1列半下がったが、それ以上に、リズムを崩してしまったのが痛かった。落馬寸前の不利でリズムを崩してしまうと、そこから巻き返すのは至難の業。

直線の反応も鈍く、加えて不運なことに上がり600m全て11秒台前半。雨が降っている馬場で10秒台を3つ出すのは事実上不可能。今回の7着は仕方ない。

これも競馬。これも競馬だが、このレースを目標に好仕上がりを見せていたことを考えると陣営の皆さんが不憫でならない

まだ攻める余地、成長する余地がある。以前よりゲートも良くなっているし、また来年、ヴィクトリアマイルにいい形でやってきてほしい。来年もこのレースで買いたい馬だ。

8着ナムラクレアは浜中が言うようにGIのマイルが長い。オープンのマイルならこなせるのだろうが、最後止まってしまっていた。

ただこれだけやれるなら1400でも楽しめそうだね。収穫はあるレースだった。昨年外を回ったスプリンターズSは何とも言い難いが、外伸びになりやすいキーンランドCはいいと思う。外枠を引いてくれればより楽しみ。

あと9着ステラリア。2歳時に東京マイルのベゴニア賞で上がり3F33.6を使って2着になっているが、あれは少頭数で、今回とはメンバーも違う。今のステラリアにマイルの一度緩んだ上がり勝負は合わない。

馬体は一度使ってだいぶ良化していた。今後も脚元との相談にはなるが、上がりの掛かる一周競馬で見直したい。開幕2週目のクイーンSはどうかも、その先の札幌記念、福島記念…ここらへんで見直していきたいな。

12着スタニングローズはパドックのデキが秋華賞より2段階は下だった。いい時はもっといい馬。加えて出遅れ。短いマイル。今日はノーカウントだろう。良化するかは分からないが、薔薇一族は昔から断続的に流れる一周コースで強い

小倉記念はハンデだから斤量面の不安があるとして、札幌記念は出てくるのであれば、いいデキで出てきてほしい。

14着ララクリスティーヌは道悪の影響もあったと思うが、「ずっと力んで走っていた」と明良が言うように、本質的にマイルだと乗り難しいね。

良馬場ならキャピタルSのような形も取れたのかもしれないが。本質は1200~1400。今日のデキ自体は良かった。秋のスワンS、それか夏のキーンランドCあたりで狙いたい。もっと上を目指せる馬だと思っている


さて、最後はソングライン。1万くらいになるとみていたが、思いのほかスムーズに書けたことですでに1万1000字までやってきた。

まー、直接的な勝因やポジションに関してはもう書いてしまっているから、今更改めて書くことはないんだが。内で溜められたとはいえ、今日のラップを差し切るには相当な能力が必要。実力を証明した形だろう。

振り返れば、安田記念の後はトラブルの連続だった。ノドが腫れてアメリカ遠征がなくなり、蹄のトラブルに見舞われ、サウジ遠征の前には球節が腫れ…

もちろん馬が生き物である以上、ノートラブルで狙ったレースを使えることなどほとんどないが、まったく上手くいかずに、結果を出せない日々が続いてしまっていた。

牝馬は一度落ちると戻ってくるのが難しい。一度崩れてから戻ってこなくなった牝馬を何頭も見てきた。それだけにサウジアラビアで大敗した時はもう厳しいかもしれないと、正直思ってしまったもの。

ここまで作り直したスタッフの皆さんの意地と執念を感じる直線の伸びだった。凄い牝馬だね。

今改めて見直すと、桜花賞でメイケイエールに不利を食らって15着に大敗した次走、NHKマイルCで巻き返して2着。阪神Cで15着に大敗した次走もサウジアラビアで1着。そして今回、サウジアラビア10着の後に巻き返して1着。

二桁着順の次走はこれで2、1、1着。上級条件で、これだけ大敗から巻き返してくる牝馬も珍しい。この馬の気持ちの強さには敬意を表したいよ

以前から硬いところがある馬。今日もパドックで最初のほうは後ろ脚が硬かった。ところがパドックを回るにつれ硬さが取れてきたんだ。

それでもまだ硬さがあったし、一番いい時を100とすれば85、90前後だったのではないかな。調教の進度から考えてもそのくらいだったと思う。もっと上があると思うと、次以降も楽しみだね。

安田に出られるかどうかはこの後の反動次第ではあるが、反動が少なければ安田でもあり。ノドの状態が安定していれば秋のアメリカで見たい馬だ。

戸崎はストレイトガール以来のヴィクトリアマイル制覇になる。そういえば、ストレイトガールのヴィクトリアマイル連覇はそれぞれ、高松宮記念13着、阪神牝馬S9着からの巻き返しだった。

ジョッキーも先週のNHKマイルCでエエヤンに騎乗して、何もできずに9着になってからの巻き返し。

逆襲

それが今回のヴィクトリアマイルのキーワードだったのかもしれないな。


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