エリザベス女王杯を振り返る~『阪神2週目』『内有利』だからこそ~
「思い描いていたレースはできました。ただ最初のコーナーまでうまくいけたが、その後に気負ったのは誤算。休み明けが影響したと思います」
今日のエリザベス女王杯16着、ノームコアのノリさんのコメントだ。このコメントを見てネットでは笑いが起きたり、ノリさんを非難するコメントが見られる。
果たしてこのコメントは真意なのかどうか。マスクはエリザベス女王杯を振り返る上で、まずはここがスタート地点になると思うんだ。
改めてレースVTRを見ると、ノリさんは特にスタートから押してハナを取りに行ってもないし、むしろ誰かがハナに行くのを待っているくらい、抑えているんだよね。
行くのではないかと見られていたリュヌルージュがスタートから出て行かず、スタートして200m経っても誰も行こうとしない。
ノームコアはそれこそ春に高松宮記念を使っていたから、ハミ掛かりは良くなっているだろう。2200mを持たせるには、いかに道中ハミを抜いて走らせられるかどうか、1にも2にもそこがポイントだったはずだ。
ノリさん的にはハナでもどこでも、内でハミを抜いた競馬がしたかったんだと思う。阪神の内ラチ沿いがいいのはそれまでのレースでも分かっていたことだし、距離ロスを防ぐ意味でもね。
ところがノームコアのハミ掛かりは良かった。休み明けでテンションが高くなった分余計に良かった。よーくパトロールを見るとハミを噛み気味で行きたがっている。
そんなノームコアの刻んだペースがこれ。
●エリザベス女王杯ラップ
12.6 - 11.1 - 11.2 - 12.3 - 12.1 - 12.0 - 12.2 - 12.0 - 11.9 - 11.1 - 11.8
前半3F34.9 後半3F34.8
同じコースで宝塚記念のここ5年、前半3Fは34.7、35.2、34.4、35.5、34.6。良馬場だった2019年と比べると、今年のエリザベス女王杯の特異性が浮かび上がる。
●19年宝塚記念
12.6 - 11.4 - 11.5 - 12.4 - 12.1 - 11.9 - 12.0 - 11.6 - 11.5 - 11.4 - 12.4
●20年エリザベス女王杯
12.6 - 11.1 - 11.2 - 12.3 - 12.1 - 12.0 - 12.2 - 12.0 - 11.9 - 11.1 - 11.8
比べてほしいのは太字で表記したラスト800mだ。ペースは今年のほうが若干速い。ノリさんとしては、思った以上にハミ掛かりが良く逃げてしまった(実際19年宝塚記念より速い)から、仕掛けはぎりぎりまで我慢したい。だからこそ、残り800mを過ぎてもペースを落としたままだったと考えられる。
ここが勝負の分かれ目だった。
残り800mからペースアップしていれば、少なくとももっと縦長のまま3コーナーに入っただろう。ここがゆったりした流れになってしまったことで、後ろの馬が早めに上がってきたんだよな。
しかも今年は阪神開催。いつものエリザベスは京都6週目で内が荒れ始めているし、宝塚記念は夏の雨が多い阪神4週目。基本的に内を走る馬が不利になりやすいものだが、今年は秋の阪神2週目。まだ内がかなりいい。
かなりいいからこそ、馬群が密集したんだ。みんな馬場のいいところを走ろうとしていた。おかげで外から動く馬が、いつものエリザベス女王杯、宝塚記念より距離ロスなく動けた背景もあるだろう。
映像で見ても分かる。これは残り1000m過ぎ。ここでは桃ラッキーライラックがミスニューヨークの後ろにいる。ここからノリさんがペースを動かさなかったことで、橙ウラヌスチャームが密集した馬群の外から早めに動いていく。
ウラヌスチャームが動いてきて困ってしまったのは内枠だよ。ノームコア、2番手リアアメリア以下は馬群が密集しているのに、そこで外からウラヌスチャームが動いてきた。
内を見ると白帽シャドウディーヴァや白帽サムシングジャストが行き場を失っている。緩い流れに加えて外から馬が動いてきたら、内が狭くなるのは当然。
ウラヌスチャームが動いて内を締めていったことで、その後ろにいた桃ラッキーライラックには最高の展開になったことは間違いない。
これが残り600m
ウラヌスチャームが上がってくれたことで、その後ろをついてくるだけだった桃ラッキーライラック、そして2着橙サラキア、3着緑ラヴズオンリーユーと全て外にいる。馬群はほぼひと固まりと言っていい。
ここまでのペースはそう速くないわけだから、直線は上がり勝負になることは濃厚。ほぼ同じところからヨーイドンの勝負になれば、当然前に馬がいない外枠のほうが優位に立つのは当然。
12.6 - 11.1 - 11.2 - 12.3 - 12.1 - 12.0 - 12.2 - 12.0 - 11.9 - 11.1 - 11.8
このように、残り600mから11.9、11.1、11.8と短距離~マイルのようなラップが続いている。前に行く馬というのは基本的に切れるというよりしぶとさを生かすタイプが多いわけだから、そんな馬たちと、ラッキーライラックら強力な差し馬が4コーナー前から、ほぼ同列からスピード比べをしたら、当然切れ味ある差し馬のほうが有利になる。当たり前の話だ。
残り400m。完全なる一団。ヨーイドン勝負のおかげですでに内が遅れ始めている。しかも外枠が締めてくるから行ける進路がない。
直線入口。完全なる横一線。勝負所をスタートラインとするヨーイドン勝負なんだよな。同じところからスタートして切れ味勝負をやったことで、結果上記写真の外側、赤のラインに入っている差し馬が上位に来て、青で示した内は総崩れになってしまった。
こうまで切れ味勝負になると、ディープ産駒が2、3、5、6、7着なのも納得できる。
●宝塚記念過去3年のレース上がり3F
18年12.2 - 11.7 - 12.4
19年11.5 - 11.4 - 12.4
20年11.9 - 12.1 - 12.3
20年エリザベス女王杯
11.9 - 11.1 - 11.8
全然違うだろう。最後の失速率が低いのだ。レース上がり3F34.8なんていう宝塚記念は86年以降存在しない。阪神2200mというより、東京の上がり勝負のような形になっていたんだよ。
●エリザベス女王杯上位3頭の上がり3F
1着ラッキーライラック 33.9
2着サラキア 33.7
3着ラヴズオンリーユー 33.8
みんな33秒台後半だ。内枠の先行馬にこの上がりは出せない。つまり、芝は内有利だがラップ、展開が外枠有利だった、ということだ。
マスクの狙いはセンテリュオから内枠。内伸びの馬場を意識してね。その時点でこのレースは当たらないということになる。予想にも書いたように保険でラッキーライラックからの3複を買っているが、ここまで外外は想定していなかった。
戦前にここまで馬群が一団で、ここまで直線上がり勝負になる想定はなかなか難しい。縦長になって内にいる馬の有利が増すというマスクの想定とはまったく逆の展開だったと言っていいだろう。
ただ横一線からのスタートだったとはいえ、コーナーを挟むラスト2Fのところで11.1は速過ぎる。ラッキーライラックのコーナーワークの上手さ、そしてルメールの動かすタイミングも完璧だった。ラッキーライラックは横一線だったから恵まれたわけではなく単純に強かったとも言えるし、外枠有利展開が大外の不利を相殺したとも言える。これらがしっかり噛み合った上での快勝だった。
数字もそれを証明している。サラキアはラスト3F33.7、ラヴズオンリーユーは33.8。ラッキーライラックは33.9だから、『上がり3F』という括りで考えればサラキアやラヴズオンリーユーのほうがいいタイムで走っている。
ただし一番速くなったラスト2F目11.1の部分は4コーナー。この部分でラッキーライラックが機動力を生かして早めに先頭に立っている。こと、このラスト400m→200mの区間を最も速く走れているのはラッキーライラック。
直線再度サラキア、ラヴズオンリーユーが加速したものの、直線はそう長くない。捉える前にゴールが来てしまった。ラッキーライラックとサラキア、ラヴズの致命的な差はこの機動力にあったのは間違いない。中山の有馬記念で4コーナーを唸るように上がってきたオルフェーヴル譲りの機動力が勝負を決めた。
話をまとめよう。
今年のエリザベス女王杯のキーは3つ。
・阪神2週目で内が良い高速馬場だったこと
・ノームコアが内枠で、押し出されるようにハナだったこと
・ウラヌスチャームが3コーナー前から動いたこと
これらの要素が揃ったことが、結果ラッキーライラックのアシストに繋がったと考えられるね。
最後に、ノリさんのコメントを改めて見てみよう。
「思い描いていたレースはできました。ただ最初のコーナーまでうまくいけたが、その後に気負ったのは誤算。休み明けが影響したと思います」
本当に本人の思い描いたレースだったのだろうか。少なくともこのレースを見る限り、ノリさんの思い描いた展開ではなかったはずだ。
それでもこういうコメントを残したのは、掛かったノームコアに原因があるのではなく、抑えられなかった自分の技術不足が原因だとして馬をかばっている、俺にはそうも捉えられたね。
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