23年皐月賞を振り返る~若きスターが不利な局面で見せた戦略的待機策~
東スポ杯2歳S、スプリングS、毎日杯。
週中にTwitterで触れたんだが、これは今年の3歳世代の1800m~2000mのオープンクラスで、前半1000mが59.9以内だったレースだ。
まー、現4歳世代も皐月賞までに同条件に該当したのが芙蓉Sと毎日杯だけだから、決して少ないわけではない。
ただ今年の皐月賞は先行馬が多かった。グラニットが絶対ハナに行くと言っていて、そこにグリューネグリーン、タッチウッド、ホウオウビスケッツ、トップナイフ、そして前走逃げたラスハンメル…
中距離で速いペースを経験した馬が少ない中、テンからペースが速くなった時、果たして誰が対応できるのか、ここがマスクが皐月賞を考える上で一番悩んだところだった。
そしてもう一つ、悩んだのは馬場。開催最終週の馬場で、土曜に雨の中競馬したことで、芝コースが更に掘れてしまったんだ。
☆4月15日中山7R 2200m
1着緑 シャドウマッドネス デムーロ
2着青 エクスインパクト 木幡巧
3着桃 ヴィトーリア 横山武
☆4月15日中山9R山藤賞 2000m
1着白 スズカハービン 津村
2着緑 シルバーティムール 吉田豊
3着桃 ダニーデン 北村宏
この2Rは土曜の中山芝の『一周』のレースだ。ワンターンのレースはレーンが内から逃げて、直線だけ外を使う形で勝っていたのだが、土曜の一周競馬だった7R、そして9Rの山藤賞はどちらも外伸びだった。
仮にこの傾向が続けば、皐月賞も外伸び。内から乾けば土曜とは逆で内伸び。どちらになるか、当日まで分からない状態が続いていたんだよ。
迎えた日曜。中山の芝は皐月賞までに、4R2200m、8R2000m野島崎特別、10R1200m春雷Sの計3Rが組まれていた。
☆中山4R 2200m
1着桃 タナサンブラック 戸崎
2着青 ボールドステート 石川
3着橙 ホウオウムサシ 杉原
5着緑シロノクミキョク 横山武
☆中山8R 2200m 野島崎特別
1着赤 モカフラワー レーン
2着水 シンティレーション ルメール
3着桃 エープラス 永野
6着黄グランスラムアスク 横山武
中盤までの一周競馬の4コーナーを正面から見ると、上位は基本的に外を回っていることが分かる。野島崎特別も外を回った馬がワンツースリー。
ジョッキーに聞いても「内が悪過ぎる」「外目に出したい」という声が聞こえたように、土曜と同じく基本的には外伸び馬場だった。
改めて武史のポジションを確認しておくと、4Rでは内を3頭分開けて回り、8Rでは内を4頭分開けて回っている。皐月賞の後、「馬場を考えて、外を走りたいなと思っていた」と話しているように、もうこの時点で意識が外を向いている。
☆中山10R 1200m 春雷S
1着黄 マッドクール レーン
2着白 キミワクイーン 横山武
3着黒 レディバランタイン 吉田豊
12着緑 コムストックロード ルメール
しかし、皐月賞の1つ前、1200mの春雷Sでは、武史が騎乗した白キミワクイーンが道中内ラチ沿いを回って2着に入っているんだよ。
勝ち馬マッドクール、3着レディバランタインは外を回っているのにも関わらずだ。ルメールが騎乗したコムストックロードも外目を回っている。
なんで白キミワクイーンが2着だったかって、直線、白線を引いた部分を開けていたから。要は『本当に悪いのは4コーナーから直線にかけてのラチ沿い4頭分』なのだ。
前述したように、土曜もワンターンでレーンが似たようなことをやっていた。レッドバレンティアやジャスパークローネで逃げて、直線内を開けるやり方で勝っていたんだ。
直線を1度しか通らず、ペースが緩みにくいワンターンだと内を使える。しかし直線の悪い部分を2度通る一周競馬は外伸びになる。こんな芝の状態で今回の皐月賞を迎えることになった。
武史が騎乗するのは1枠1番のソールオリエンス。何としても直線、内の悪い馬場を通りたくない。1コーナーまでをどう乗り切るかが武史の課題だった。
☆皐月賞 出走馬
白 ①ソールオリエンス 横山武
灰 ③グリューネグリーン 石川
銀 ④ショウナンバシット デムーロ
赤 ⑤フリームファクシ レーン
青 ⑦ファントムシーフ ルメール
水 ⑧トップナイフ 横山典
黄 ⑨ホウオウビスケッツ 横山和
緑 ⑪シャザーン 岩田望
橙 ⑭タスティエーラ 松山
紫 ⑮ベラジオオペラ 田辺
桃 ⑯タッチウッド 武豊
黒 ⑰メタルスピード 津村
スタート。「馬場を考えて、外を走りたいなと思っていたんですけど、ゲートで行き脚がつかなかったので、この馬のリズムで走らせました」と武史が話しているように、白ソールオリエンスはゲートは出たものの行き脚がイマイチ。
ここ2走より行き脚がつかなかったものの、武史にとっては想定外ではなかったはずだ。ソールオリエンスはまだ心身共に幼い。いつも行き脚ついてお行儀よく競馬できるタイプでもない。
そのため切り換えた。幸い?、隣のワンダイレクトが出遅れている。その隣の灰グリューネグリーンは先行策を取る。空いた左隣のスペースにソールを誘導していったんだ。
民族大移動だ。俺も総武線の駅でこんな動きをよくする。白ソールオリエンスが流れるように外に移動していく。
これ、ある意味行き脚がつかなくて良かったかもしれないね。行き脚ついていたらショウナンバシットやウインオーディンが邪魔になって、こんなにきれいに外に出せていなかったのではないかな。
普通だったら行き脚がつかないというのはマイナスに出ることが多い。やっぱり現代競馬は前目のポジションで競馬できたほうが有利だし、後ろから行っても得することはそうない。
しかし今回に関しては、最終週の外伸び馬場、そして後述するハイペースの影響で、序盤のロスがむしろプラスに働いている。
自然に外に出せた白ソールオリエンス武史は、早々と水トップナイフのところまでやってこれた。ちなみにトップナイフは出遅れてしまってここにいる。
トップナイフのノリさんとしては「おい武史、随分外に出してくるのが早いな」と思ったかもしれないな。
武史は逆に「なんで親父こんなところにいるんだよ」と思ってそうだけど。
行き脚つかずに後ろからになって外目に行ったら、隣に先行馬に乗ってたはずの親父がいるんだから、???となったと思う。
他馬を見てみよう。人気になっていた青ファントムシーフのルメールも、今日の芝の他のレースの画像を見て分かるように、道中外目を回っていた。
引いたのは真ん中7番。そのまままっすぐ走らせて自然と外目を走らせるプランだったんだろうな、内に寄せずにダノンタッチダウンの後ろを走っている。
ところがここでルメールに誤算が生じる。青ファントムシーフの右前を走っていた赤フリームファクシがフラフラして、一瞬蛇行してしまったんだよ。
行きたがるところがある馬。この中間も本番折り合いがつくよう調整されていたが、フリームファクシは序盤他馬に前に入られたことで、行きたがっちゃったんだよね。
ほんの一瞬の出来事だが、これでファントムが一瞬手綱を引いて1列ポジションを下げてしまっている。
ルメールのジョッキーカメラを見ただろうか。フリームファクシに寄られた時にルメールが「oh!」と声をあげている。急にぶつけられちゃったからね。避けようもない。
そうしている間に、黒メタルスピードに前に入られてしまった。これも痛かったんだよな。後述。
黒メタルスピードはそもそも馬群に取り付くのが一瞬遅れていた。桃タッチウッドの武さんが『直進した』影響でね。
予想にも『たぶんこの枠だと武さんはスタートから直進させて折り合わせる手を使うと思う』と書いたんだが、やっぱりな。
タッチウッドは前走の共同通信杯で、掛かった後にそこまで抑えずハナを切ってしまった。経験の浅い2、3歳馬でこれをやってしまうと、次走掛かってしまう。
これは共同通信杯後にTwitterにも書いた通り。「2着にきたんだからいいだろ」なんていうご意見もいただいたが、次のレースで折り合えないから書いているんだよな。
掛かる馬をなだめるために、武さんやノリさんが使うのがこの手。スタート後にあえて直進させて、馬をなだめてから馬群に取り付くやり方だ。
これは20年阪神JF。大外に入った桃メイケイエールの武さんが、スタート後ずっと直進しているのが分かる。
周りに馬がいるとヒートアップしてしまうような馬を、あえて1頭だけで走らせてなだめるという技術だが、武さんが今回タッチウッドでやっているのもこれ。
まっすぐ走らせられる外枠限定の手だけどね。タッチウッドが16番を引いた時点でこれをやってくる気はしていた。
そうやってある程度落ち着かせてから、1コーナーで桃タッチウッドは馬群に取り付いていった。
ただ武さんとしてはもっと落ち着かせたかったところだろうね。まだ掛かり気味。共同通信杯でもう少しなだめて競馬を教えてくれればこうはなっていないんだけどなあ…
掛かり気味の桃タッチウッドが外から先行している。押して押してハナを切ったグラニット、内から先行していったグリューネグリーン、ハイペースになることが見えているのに先行しにいったベラジオオペラ…
先行馬がそれぞれテンから頑張った結果、皐月賞でもトップクラスのハイペースになってしまった。
☆皐月賞 過去1000mのペース(86年以降)
58.0 13年皐月賞 良馬場
58.4 16年皐月賞 良馬場
58.5 23年皐月賞 重馬場
向正面向かい風の中58.4だった16年も速いが、今年は重馬場だからね。今の馬場状態で58.5は速過ぎる。
☆皐月賞 稍重~不良時の前半1000m(2000年以降)
10年 60.1 稍重
12年 59.1 稍重
18年 59.2 稍重
20年 59.8 稍重
21年 60.3 稍重
23年 58.5 重
過去の道悪だった皐月賞と比較しても、これはさすがに速い、速過ぎる。
☆23年皐月賞
12.3-10.9-11.9-11.6-11.8-12.4-12.5-12.7-12.5-12.0
スタート後200mから1000mまで、全て1F11.9以内のハイラップが刻まれたんだ。
中山の内回りは残り1400から下り坂になるからどうしても600m→1000m地点はペースが速くなりやすい。ただ今年はその前のポイントで10.9-11.9。上り坂の1コーナーでもずっとペースが速かったことで、前の馬は相当苦しいレースになってしまった。
グラニットが飛ばして掛かった桃タッチウッドもいればこうなるものだが、このペースで先行しちゃった紫ベラジオオペラ…
レース後田辺が「思ったよりペースが動いてしまったね。先行策が裏目に出た感じ」と話しているが、さすがにこうなるだろう…去年の皐月賞の競馬ブック読んでたんじゃないよな?その新聞にジオグリフ載ってなかったか?
向正面。4000字ちょっとでまだここか…
馬場の内側が悪いこともあって、大体の馬が内ラチ沿いを開けている。先行馬以外で内ラチ沿いにいるのは銀ショウナンバシットだけだった。
ショウナンは1勝クラス勝ちが道悪だったように、馬場が荒れていてもあまり関係なく走ってくる。今後、道悪の時にまた買いたい1頭だ。
一方外を見ると、隊列は橙タスティエーラの後ろに黒メタルスピード、その後ろに青ファントムシーフという並びだった。
1コーナー前でフリームファクシが蛇行したことにより、ファントムシーフが1列後ろになってしまったと書いた。おかげでタスティエーラとの間にメタルスピードが挟まってしまった。
これ、ルメールにとっては困った案件だったんだよな。だってメタルスピードのポジション、つまりタスティエーラの真後ろにいれば、タスティエーラが動くタイミングで一緒に動けるだろう。
しかしこの並びだとタスティエーラが動いたとしても、メタルスピードが動かなければファントムシーフは動けない。動くにはメタルの外に出さないといけないし、今のタフな馬場でやりたくない。序盤1列後ろだったことで、向正面のポジションが悪くなってしまっているんだ。
しかもルメール曰く向正面で落鉄していたんだろう?右後脚の蹄鉄が落ちたとのことだが、雨が降って滑る、緩い馬場で右後脚のスパイクがないのは苦しい。
考えてみてくれ、濡れた芝生を裸足で走るって結構どころではなく大変じゃないか?運がないと言ってしまえばそれまでだが、ポジションを悪くした上に落鉄ではどうにもならない。よく3着まできたと思う。
ポジションを悪くしていたのは馬群の真ん中、黄ホウオウビスケッツも同様だった。
☆これまでのホウオウビスケッツの3走
新馬 1-1-1-1
フリージア賞 1-1-1-1
スプリングS 3-3-2-2
これまで、ホウオウビスケッツはまだちゃんと揉まれていないのだ。そんな中、本番で初めて周りを取り囲まれてしまった。今まで経験していない形の競馬になってしまっている。
ならもっと出していけば良かったかというと、グラニットが何が何でも逃げることが想定されたレースで、スタートからガシガシ押して、出していくのはちょっと無理筋。
レース後和生が「陣営と相談してメンコはつけたけど、気持ちの高ぶりがあった。だんだんと弱点が見え始めている」と話しているんだけど、この中間落ち着いていたとはいえ、フリージア賞の後にテンションが高ぶってスプリングSまでしっかり調教を積めなかった馬。
心身の幼いところがモロに出てしまったね。フリージア賞の後半の数字はいい。もっと走れる馬だから、心身の成長を待ちたい。
3コーナー。外の並びを見ると、タスティエーラの後ろに黒メタルスピード、青ファントムシーフ、緑シャザーン、白ソールオリエンスという順番に並んでいる。
ファントムシーフはつくづくメタルスピードのポジションにいたかったよね。
そんな中、前では橙ベラジオオペラが曲がれずに外に飛んでしまっていた。
田辺も右から手綱を引いてなんとかしようとしているが、もうこの時点で体力切れだったんだろうね。タラレバになってしまうが、中団後ろから運んだ世界線を見たかったよ。
3コーナーの位置関係を改めて正面から見てみよう。橙点線でラインを引いてみたが、このラインより内と外では、馬場の色が違うのがお分かりだろうか。
1着 白 ソールオリエンス
2着 橙 タスティエーラ
3着 青 ファントムシーフ
4着 黒 メタルスピード
6着 緑 シャザーン
この線の上、そしてその外を走っていた馬を着順で表すとこうなる。結果的に3コーナーで馬場の色が変わるギリギリのところを走った馬が上位を占めているのだが、武史は序盤に書いていたように馬場を研究し分かっていたことから、ちゃんとラインの外を走っている。
ここまで極端に内外で勝敗が分かれるんだから、今年の皐月賞において、馬場がいかに大きなポイントだったかが分かる。
何度か触れているように、青ファントムシーフは黒メタルスピードのポジションが欲しかった。
メタルの後ろだと、交わしていくには更にその外から上がっていかないといけない。簡単に動けないんだよな。
対して橙タスティエーラの後ろなら、メタルスピードの外を回さなくて済む。1頭分のロスではあるが、このタフな馬場でハイペースともなれば1頭分でいいからロスを減らしたいところ。ただでさえ内を開けて回っているわけだからね。
これはその後ろにいる緑シャザーン、白ソールオリエンスにも言える。
3コーナーでシャザーンが外から動いていったんだ。上がっていくには当然青ファントムシーフの外からでないといけない。
さっきの橙線で内外を分けた画像があっただろう。もしファントムの内から上がるとすると、馬場の色が黒い部分、つまり荒れている部分を通らないといけないわけで、それは避けたい。ロスがあっても外から上がるしかない。
しかし、ここでその後ろにいる白ソールオリエンスの武史は動く素振りを見せていないのだ。動き出し、追い出しを待っている。
なんなら水トップナイフも行かせてしまった。
普通、勝負どころで『前に入られる』ということはマイナスさ。前に壁がないほうが走りやすいわけで、もし前の馬が止まってしまったらそこに詰まってしまうわけだから。
しかし仮にトップナイフを行かせず、自力で上がっていくとすると緑シャザーンの更に外を上がっていくことになってしまうんだよな。武史はそれを嫌った。
これはノリさんが言っていたわけではないからあくまでマスクの想像になってしまうけど、ノリさんも「武史、ここで待つか」と思ったんじゃないかな。
人気薄、力の足りない馬だったら最後まで我慢して直線だけ脚を使わせる手もある。まー、前が止まらないと着順は上がらないわけで、あくまで他力本願の手になるよね。
しかし人気馬、力のある馬だったら、自力で動いていかなければ前が止まるのを待つしかない。いくらペースが速いからといえ、どうしても前を捕まえにいきたくなるものさ。動かず脚を余して負けるのが一番もったいないわけだから。
普通動く局面で、武史は待った。ここが今回最大のポイント。
ソールオリエンスは確かに、馬場の色がまだいい、他と比べたら荒れていないところを走っている。
しかしそれは『自分も内をだいぶ開けていて、距離ロスのある状況』でもあるのだ。武史はそれを知っている。ここから更に外を回すのはリスクしかないことを分かって判断している。
仮に待たず、緑シャザーンに合わせて動いたらどうしてもシャザーンの外を回ることになるから、白丸で囲んだ部分を走っていることになるよね。白ソールオリエンスは大体2頭分ほどロスを少なくして、4コーナーを回ってきた。
まー、もし待たずに動いていたとしても勝ったかもしれないが、ペースは過去3番目に速いタイムで、稍重以下なら過去最速といったサバイバル戦。
少しのロスも許されない状況だったことを考えれば、ソールオリエンスが待たずに外を回していれば最後甘くなり、皐月賞馬タスティエーラが誕生していた可能性がある。
内目と前の動きにも触れておこう。さっきベラジオオペラが外に飛んでいるシーンを取り上げたんだけど、桃タッチウッドの4コーナーもだいぶ怪しかった。
馬が外のほうに膨れてしまっていて、口が内を向いてしまっている。確かに馬場は外目のほうがいいが、もし武さんが意図的に外を狙っているのなら馬の口はまっすぐになっているはずで、タッチウッドはカメラ目線になっていない。曲がれていない。
先ほども触れたが、幼い。共同通信杯で行かせてしまったことでレースに対する経験値がほぼない状態。まー、そんな中すでにGIを走っているのは単純に能力が高いからなんだけど、この高い能力をMAXに引き出すまで時間が掛かりそうなタイプだね。
一方で、内目から唯一上がってきたのが銀ショウナンバシットだった。
銀ショウナンバシットのミルコさんも周りをよく見た動きだったと思う。道中インで溜めて4コーナーで外というのは、内枠4番を引いた時点で作戦としてある程度決めていたのではないかな。
周りを囲まれて揉まれてしまったことで、黄ホウオウビスケッツの手ごたえが悪く進まない中、うまいこと前も開いて、外に進路を取ることができた。
道中ロスなく運んで完璧にインアウトして5着だから現状の力は出し切ったと思う。馬場悪いところを走っていて、ミルコさんも「ノメっていた」と言っている中でここまでよく走った。
まだまだ緩い馬で完成度が低い。それでいてここまでやれているのだから能力が高い馬。セレクトセールの時から見栄えのするいい馬だったが、完成した時どこまでやれるか楽しみだね。前述したように道悪で上げ。
外目に話を戻すと、青ファントムシーフは緑シャザーン、黒メタルスピードの間を通ろうとしている。
しかし前を走る黒メタルスピードの津村が右ムチを叩いているんだよね。叩かれたほうとは逆のほうに馬は動いていくから、メタルスピードは外に動いていく。
青ファントムシーフのルメールは早々にそれを察知して、メタルスピードの内に切り返しているんだ。これはジョッキーカメラのルメールバージョンでも分かる。
これ面白いね、リバティアイランドは大外からだったが、ファントムシーフは周りに馬がいる分、ルメールがより前の動きを見ていることなどが分かる。ルメールは最後まで冷静だった。
ジョッキーカメラを見てもらえると分かるが、前を走るメタルスピードとの車間が本当に狭い。ギリギリまで前につけている。差を詰めることでキックバックも飛んでこないのだが、一歩間違えたら前の馬に乗っかかって落馬する。本当にギリギリの線を攻めていることが分かるからみんな見よう。
しかし…何度も書いてしまうが、メタルスピードの後ろに入ってしまったのがもったいなかった。行き脚的に仕方なかった気もするが、あそこでもう1列前、タスティエーラの真後ろにいられれば4コーナーのロスも、直線のわずかな切り返しもなかった。
もちろん落鉄でグリップが利かなかったことも敗因の一つだが、もう一つ前の位置なら、勝ったとは言わないまでも2着はあったんじゃないかな。
パドックはホープフルSより良くなっていた。着実に成長している。今日の内容からも距離延長は歓迎。次は更に調教で攻めて、乗る時ももう1列前を攻めてくると思う。ルメールがダービーでどこまでリスクを負った攻めをしてくるのか楽しみで仕方ない。
ファントムシーフに触れた流れで、2着の橙タスティエーラにも先に触れておこうか。
完璧な競馬だったと思う。3コーナーでも馬場のいいところギリギリのラインを攻める走りで、松山は完璧に乗っていた。もちろん最初から外枠で、悪い内を通らなくて済んだのはあるがね。枠を生かした好騎乗だったと思う。
ただ一つ惜しむらくは『競馬が上手く行き過ぎた』かな。完璧に立ち回って、ハイペースを上位馬の誰よりも前で追走して2着だから好内容なんだけど、ハイペースのおかげで前が早めに下がってしまい、直線入って割とすぐに先頭に立ってしまった。
この馬、追い切りでブリンカーやチークピーシーズを試されているように、気を抜くところがあるんだよな。ブリンカーは効き過ぎていて結局着けてこなかったが、気を抜く馬が早め先頭、この形は好ましくなかったのではないかな。
結果外の馬と併せる形になったのはゴール直前。最初から白ソールオリエンスあたりと競り合う形だったら差は詰まったのでは…という思いも少しある。
でも松山が完璧に立ち回ったからこその早め先頭だから仕方ない。ローテを考えればよく走った2着だったのではないか。
ここでしっかり走ったことで、それなりに反動もありそう。共同通信杯、弥生賞、皐月賞と月1で走ってきている分、ダービーに向けて上積みがあるか何とも言い難いよね。
走るたびに競馬が上手くなっているし、この操縦性はダービーで強みになるとは思うんだが…お釣りがあればというところ。
早めに2、3着馬に触れてしまった。4着メタルスピードも触れておこうか。
津村はこれ以上ない乗り方だったと思う。前にタスティエーラを置いて、馬場のいいギリギリのところを走って4着。それだけに上位3頭とは明らかな力量差を感じるが、立ち回りが上手い。
ダービー登録がないだけに、権利をとったダービーに追加登録料を払って臨むことになるが、それでも出たいのがダービーというレース。単純に距離が長いと思っているからダービーは下げるが、まだ2勝クラスに出られるだけに、秋の中山あたりの2勝クラスなら古馬相手でもある程度通用しそう。
6着シャザーンも馬場のいいところを通れたが、ファントムシーフの外から動いていって最後止まってしまった。
ただ仕掛けを待っていいタイプでもないから、動いたのは当然の判断だったとも思う。まだまだ緩いし、これからもっと伸びる馬。着実に成長しているのが分かる馬。秋が楽しみなんだよね。ダービーは出れるか微妙なところだが、神戸新聞杯でも買いたい馬。
7着トップナイフは出遅れ後方から。馬場のいいところを通っていたが、前前で立ち回っていた馬が後方から数えて2、3番手ではどうにもならない。
最終追いをかなりソフトにやったのは気性的にプラスだったのかもしれないが、それが遠因で出遅れた気もするし、難しいね、馬の作り方が。重賞は勝てる馬だと思うが、もう少し成長しないと一線では厳しいのかもしれない。
舞台的に夏のラジオたんぱが面白いと思うんだけど、ホープフルで2着があるだけにハンデが重くなりそう。なんだか秋のアンドロメダSあたりで買ってそうな気がするな…
この馬がこれまで一番いい数字を出したのが札幌の2000m未勝利。札幌記念は荷が重いな、来年巴賞とか函館記念に出てくるのを待つ手もある。
9着フリームファクシは序盤掛かり気味で道中ポジションを下げてしまった。相変わらずレースに行ってヒートアップしてしまうところがある。能力は高いと思うが、現状それをMAXに引き出せる状況ではなさそう。
今日は前脚の動きが少しぎこちなかった。これはパドック評でも触れたね。少し休ませてもいいかもしれない。NHKマイルを使っていいことがなさそう。いずれマイル以下の馬になりそうだね。
10着ベラジオオペラは先行策が最大の敗因だが、相変わらず今日も緩かった。緩い中でこれだけ走れているのだから能力は高いが、GIとなるともう少し時間を要しそう。
ひと夏越えてもまだ緩そう。本当に良くなるのは4歳秋くらいではないかな。長い目で見たい馬。
最下位だったダノンタッチダウンもそう。最後は無理していなかった。まだまだ緩い。こちらも成長を待ちたい。
さて、最後に1着ソールオリエンスに触れていこう。
今回、枠順のポイントで最初に挙げたように、ソールオリエンス最内をどうしたものか最後まで悩んだ。
一周競馬は外伸びが続いていたし、そんな中で最内からどう立ち回るのか。普通に考えたら一番悪い枠だった。
ただ我々が不安だと思っているということは、武史も不安に思うわけで、当然色々と解決案を考える。いかに外に出すか、武史の今回の騎乗テーマだったと思う。
武史の想定より少し後ろだったと思うが、それでも冷静に待ったのは事前にやることを決めていた分、気持ちに少し余裕があったことが大きかったんじゃないかな。
そして『この馬の強さは僕が一番知っている。返し馬でも状態が良かったので、自信を持って乗りました』とレース後話しているように、ソールオリエンスに対する揺るぎのない信頼感も大きかった。
3コーナーで動き出しを待ったのは、少しでもロスを少なくするだけではなく、事故を防ぐ意味合いもあったのではないか。
これは京成杯。道中内に意識が行っていた青ソールオリエンスが、4コーナーで突然逆方向、外に飛んでいってしまった。それでも勝ったわけだが、まだ気性も幼く怪しいところがある。
仮に大外を回ったとして、外に吹き飛んでしまうことは武史としては避けたかったはず。慎重に、注意を払いながらの騎乗だったように思う。それでいて腹をくくる大胆さも見え隠れする好騎乗だったと思う。
前走まだこんな状況だし、キャリアはこれが3戦目。伸びしろしかない。この中間見ていてもトモが成長して体のバランスが良くなり、歩き方も見違えるように良くなっていた。
武史が「まだまだ緩い」と辛口評価を下すように確かに緩いが、見た目は確実に成長している。兄ヴァンドギャルドも歳を重ねて良くなったように、本格化はまだ先。それでハイペースにもあっさり対応し、馬場、展開も向いたとはいえこれだけ走れるのだから、能力は本当に高いものがある。
ヴァンドギャルドが歳を重ねるごとに輸送すると掛かり始め、滞在できる海外競馬を中心に使っていたように、スキアの仔は気性面で不安定なところがあるから、今後そういう面が出るかもしれないが、出なければまだまだタイトルを積み重ねていきそうだね。
まー、次のタイトル獲得がダービーになるかは何とも言い難いところはあるけどね。
☆皐月賞 過去1000mのペース(86年以降)
58.0 13年皐月賞 良 ロゴタイプ
58.4 16年皐月賞 良 ディーマジェスティ
58.5 23年皐月賞 重 ソールオリエンス
これは先ほど出したこれまでのハイペース皐月賞だが、勝ち馬のダービー結果はというとロゴタイプが5着で、ディーマジェスティが3着。
もちろんロゴタイプは単純に距離が長い分もあるし一概には比べられないところはあるが、ダービーが断続的にラップが刻まれることはほぼない。皐月賞とは違うレースになる。
☆皐月賞 稍重~不良時の前半1000m 59秒台の年の勝ち馬
12年 59.1 稍重 ゴールドシップ
18年 59.2 稍重 エポカドーロ
20年 59.8 稍重 コントレイル
コントレイルこそ勝ったが、59秒台前半通過だった時の勝ち馬であるゴールドシップ、エポカドーロがそれぞれダービーで5、2着。微妙に適性が異なるところがあるんだよな。
有力候補の1頭だと思うが、前をまとめて差し切ったから力が違う→ダービーも勝てる、とはまだ判断したくない。気性面も含めまだ課題も多い。色々考えることはある。
ダービー以上に楽しみなのは菊花賞。あとこういう競馬ができるのであれば年末のグランプリも楽しみ。ここらへんは合うと思う。
しかし武史のレース後の喜び方はなかなか見られないものだった。
レース後のインタビューでも「本当に普段からいい馬に乗せていただきながら、去年はGIで結果を出せなかった」と言っているように、昨年はGI未勝利。21年ホープフルS以来のGIタイトルだった。
どうしても代打的なポジションでもあったから、仕方ないところはある。昨年だったらウンブライルやシュネルマイスターがそう。ナミュールのオークスや、マイルのレシステンシアなどのように、本来の条件とは少し違う場面での騎乗もある。
ただ武史は納得しなかったんだな。「自分には何が足りないのか、毎日毎日考えてきたんです」という言葉は重い。若くしてGIで実力馬に乗ることで、自分に足りない部分が何か考えさせられることになったんだろう。
俺は武史が上手いと思っているが、武史は自分の型みたいなものがあるから、そこから外れると脆いところもあると感じていた。
一番得意なのは小回りコースで外から早めに踏んで、4コーナーで1列目に並んで押し切る形。モレイラみたいなやり方だよね。非常に有効な戦法なんだけど、これが上位クラスだと簡単にやらせてもらえない。嵌まるのは下位条件ばかり。
勝ち星は増えていっても、GI勝ちは増えない。武史は成績のジレンマのようなものにぶちあたっていたと思う。研究熱心なジョッキーだからね。相当VTRを見て自分の騎乗を研究したはずだ。
その研究の一つの成果が、今回の皐月賞制覇だろう。
エフフォーリアとはまったく違う大外からの形。仕掛けるタイミング、そしてコース取り、全てかみ合わせないといけない中、予定より後ろでも冷静に対処した精神面の成長が目立つレースだった。
もちろん技術面でも今の上手いと思わせるレースは増えた。先々週のモンタナアゲートなんかもそうなんだが、勝てないまでも多くのGIを経験したことで、大きなところでも冷静に対処できるようになったのは大きい。
いくら技術力が上がっても、経験値は実際に場数踏まないことには積みあげられないから。そういう意味では、2022年の武史のGI挑戦は無駄じゃなかったと思うんだよね。
たまに忘れるんだが、武史はまだ24歳なんだよな。24でこの落ち着き、対処。末恐ろしい。すでに恐ろしいんだけど。
単純比較はできないが、ノリさんは24歳の時まだGI2勝。踏んでいる場数もノリさん以上。福永が引退し、大ベテランたちもいつまでも現役ではない中で、今後、日本の競馬をリードしていくのが武史であることを改めて印象付ける勝利だったと思う。
今日の『待ち』は横山典弘が何度も見せた神業のような『待ち』とそん色なかった。
引き出しが増えた武史が、今年、そしてその先にどんな騎乗を見せてくれるのか、楽しみしかないね。
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