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23年日本ダービーを振り返る~レース展開を変えた数頭のポジショニングと運~

まずは最初に、書いておきたいことがある。

スキルヴィングのご冥福を心よりお祈りします。


競馬である以上アクシデントはある。事故はゼロにはならない。そして、ゼロに近づけるために多くの関係者が努力している。

レース後、無事にスタッフさんたちの元に戻ってくることは本当に難しい。難しいからこそ、『無事に18頭帰ってくるダービー』を観たかった。

回顧を書くかどうか正直迷ったが、スキルヴィングが最後に走ったレースでもある。今回は彼のラストレースも振り返っていくから、それを織り込んだ上で読み進めていってほしい。



さて。

日本ダービーを最多6勝している武豊さんが初めて日本ダービーを勝ったのは、98年スペシャルウィークの時だった。

武豊がダービーを勝てないのは七不思議の一つなんて言われたものだが、その後現在まで6勝しているんだから、当時七不思議なんて言われていたほうが不思議なくらいだ。

当時の武さんは29歳

そもそも、29歳でまだ勝てていないことが七不思議なんて言われることが凄い。それくらい武豊という存在が競馬の在り方を変えた。

改めて考えると、名手、と呼ばれるジョッキーでも初めてダービータイトルを手にしたのは、ジョッキーとしてキャリアを重ねてからのパターンが多い。

例えばノリさんは、24年目、15回目のダービー挑戦だったロジユニヴァースでようやくダービージョッキーとなっている。当時41歳

岡部さんがシンボリルドルフでダービーを勝ったのが35歳の時。河内さんがアグネスフライトでダービーを勝ったのは45歳の時。どれだけ上手くても運も必要なのが日本ダービーだし、運だけで勝てないのが日本ダービーというレースなんだよな。

そう考えると、武史は凄いなと、週中追い切りを見ていてマスクは思ったものだ。彼は今24歳キャリア7年目にして、すでにダービーで2度目の1番人気を経験する

俺はこの業界に入ってそれなりに長いが、年月を重ねるごとにダービーの重みを感じるようになった。このレースを勝ちたくないなんて言うホースマンはいない。

みんな勝ちたいレースで1番人気を背負うプレッシャーは計り知れないものがある。20代前半にして2度も経験するなんて、なんて濃密なジョッキー人生だろう

2023年のダービー。俺の最大の興味は、武史が2年前、エフフォーリアの忘れ物を取れるかどうかだった。

それもあって、事前に挙げたポイントの中から特に気になっていたのは5番、『ルメールの外に武史』。

1番人気ソールオリエンスが引いたのは馬番5番で、2番人気スキルヴィングは馬番2番を引いてきた。

これが仮に逆の枠だと、武史は2年前のダービーのように締められ、内に閉じ込められてしまう可能性がある。今回はルメールが1枠に入ってしまい、武史がスキルを外から締める枠の並びになったんだ。

ルメールがどうやって捌くのか、武史がいかにして締めるか

2023年のダービーは、そこら中に見どころがありそうな、いかにも好勝負となる気配が漂う枠順の並びだった。

日本ダービー 出走馬
銀 ①ベラジオオペラ 横山和
白 ②スキルヴィング ルメール
黒 ③ホウオウビスケッツ
赤 ⑤ソールオリエンス 横山武
灰 ⑦フリームファクシ 吉田隼
青 ⑧メタルスピード 津村
黄 ⑪ハーツコンチェルト 松山
緑 ⑫タスティエーラ レーン
水 ⑬シーズンリッチ 戸崎
橙 ⑭ファントムシーフ 武豊
紫 ⑯パクスオトマニカ 田辺
桃 ⑰ドゥラエレーデ 坂井

スタート。まず桃ドゥラエレーデが思い切り躓いて落馬した。あまりゲートの落馬を取り上げたくはないが、レースの流れに関係あるところだから載せる。

まー、前脚の捌きが硬めな馬。実際ダートで勝ち上がっている馬だと、躓くのは仕方ないかな。この舞台で落ちて一番悔しいのはジョッキーとスタッフさんだろう。無念は察するに余りある。

ドゥラエレーデが躓いて落馬した影響は大きかった。何点か影響したのだが、まず紫パクスオトマニカが被される心配がなくなった。

パクスオトマニカ、ドゥラエレーデという8枠の並びを見て、仮にドゥラが積極的に行ったらパクスオトマニカが被されるのを嫌って、抵抗すると考えられたんだ。

するとパクスは抵抗する分1コーナーまでに脚を使う。向正面や勝負どころで無理をしなくなる。しかし今回ドゥラエレーデがすぐにいなくなったことで、パクスオトマニカが被されずに、楽に1コーナーを迎えることになった

他にもドゥラの落馬はレースに影響を与えているのだが、パクスの件含め後述。

スタートでもったいなかったのは橙ファントムシーフもそう。緑ハーツコンチェルトとファントムシーフが少し出遅れてしまっている。

正面から見るとこんな感じ。黄ハーツコンチェルトもファントム同様出遅れたのだが、ハーツから見て右手を見てほしい。

ゲートの接続部分がちょうど11番と12番の間に存在するんだよね。ゲートは1つで埋めると計12頭入る。しかし入れる時は安全面など諸事情で最内を1頭分開けるのだ。

だから接続部分は11番と12番の間にくる。これによって、11番の馬と12番の馬はスタートで両サイドから挟まれる危険性が若干減るのだ。

例えば、これは先週のオークス。黄コナコーストがスタートを出た後に隣のソーダズリングに挟まれ、その後内のレミージュにも激突してポジションを後ろに下げている。

このオークスの画像を見て分かるように、11番と12番の間に大きなスペースが開いているだろう。

それもあって、ハーツコンチェルトは軽く出遅れても両サイドに挟まれてリズムを崩すようなことはなかった

しかし橙ファントムシーフは14番。少し出遅れてしまうと、両サイドに馬がいるだけに簡単に出していけない。

もし仮に、ファントムシーフが11番か12番だと、多少ゲートが遅くてもそこからもう少しスピードがついた可能性もある。あくまで可能性の話だが、ペースがペースだっただけにこのスタートは痛かった。

1コーナー前、上手かったのは緑タスティエーラのレーンと、赤ソールオリエンスの武史だ。

レーンの動きは後述するとして、まずソールオリエンスの武史。スタートを決めると武史は少し出して、中団より前のポジションを取りにいった

ソールオリエンスは皐月賞で道中15番手を追走していたのだが、今日の東京競馬場は未勝利で1:32.8が出たように高速馬場。そんな馬場で15番手以下に控えても届かない。武史は攻めのスタイルでダービーに臨んだんだよ

これは懐かしの2021年の日本ダービーだ。

細かな回顧についてはコチラを見てもらうとして、最内を引いた白エフフォーリアが、スタート後インの3番手を取りに行ったところ、他馬の動きの影響もあってどんどんポジションを下げてしまった、という事例だ。

武史は同じ轍を踏みたくなかったんだろうな。今回は内を少し開けて、赤ソールオリエンスを青メタルスピードのほうに誘導していったんだ。

ダービーの1コーナーはポジション争いが激しくなるから、真ん中の馬たちが内に押し込められてポジションを悪くしやすい。

ところが今年の場合、緑タスティエーラのレーンがスタートを決め、1コーナー前でもうポジションを取り切って、外の先行馬を止めている

こうなると青メタルスピードが内に押されることもなくなり、不利を受けて下がってくる可能性が下がる。つまり、その後ろにいる赤ソールオリエンスが巻き込まれ不利を受ける可能性も減る

レーンのおかげで内の馬たちはだいぶ上手く立ち回れる並びとなった。

緑タスティエーラのレーンが外との馬を止めてくれた影響も大きかったのだが、赤ソールオリエンスの武史は今回、攻めきった。

青メタルスピードの後ろで安心することなく、赤丸の部分の空いたスペースにソールを誘導しにいったんだよ。つまり灰フリームファクシの前のポジションだね。

取りきるとこんな感じ。赤ソールオリエンスの武史は、ポジションを取りきった緑タスティエーラの真後ろという、素晴らしいポジションを手にいれた

その際に灰フリームファクシが若干頭を上げているが、制裁欄にも載っていないように、このくらいなら斜行の不利には入らない。

このポジションなら、あとはタスティエーラが動くだけで自動的に進路ができる。武史は2年前と違い、自分から進路を作って攻める日本ダービーを実現させたのだ

1、2コーナー。ここで謎の幸運に恵まれた馬がいる。黄ハーツコンチェルトだ。

そもそも出遅れてるのだから幸運もクソもない気はするのだが、上の2枚の画像を見てほしい。1枚目ではスタート後に落馬しカラ馬になった桃ドゥラエレーデが、黄ハーツコンチェルトの斜め前にいる。

ところが、ドゥラエレーデが謎の減速を見せて、一旦後ろに下がってしまったんだよ

仮にだが、このままドゥラがハーツコンチェルトの前に入ったとすると、ハーツコンチェルトの松山にとっては目の前にドライバーのいない車が走っている状況になる。当然交わしにいけない。

しかし前にいたドライバーのいない車が勝手に下がっていったものだから、松山は自分から動ける。

俺はレース後、ドゥラエレーデに直接話を聞いたわけではないから、彼が一体どんな心理で1コーナー過ぎに減速したのか分からないが、ハーツコンチェルトはこの減速がなかったら間違いなく3着まで来れていない。ある意味運があった。

白スキルヴィングの動きも押さえておこう。

まず、スタートがそんなに良くなかった。ただこれはルメールも想定内だったろうし、俺も想定内。

ゲートがそこまで速くない馬だから、完全な出遅れまではいかなくとも、ゲートは遅いと思っていた。これまでの4戦中3戦で明確に遅れてしまっている馬だからね。前走青葉賞もなんとか出たようなスタートだった。

ルメールも織り込み済だったんだろうね。その後の捌きは冷静。

この画像は2コーナー。白スキルヴィングが橙ファントムシーフの斜め後ろに誘導されていた。

この時点でもう内ラチ沿いから離れている。前にいたのがフリームファクシだった影響もあるだろうが、コース変わりで内ラチ沿いが走れる状態の中、これだけ早く内を捨てたということは、最初からもう内を放棄するパターンだったのだと思う

裏を返せば、ルメールがスキルヴィングのことを『内を使わなくてもいいくらい能力の高い馬』と評価している、とも言える。

向正面。

白スキルヴィングが橙ファントムシーフの真後ろのポジションを確保して脚を溜めていた。

強い馬の真後ろ、そして武豊の真後ろはベストポジションとよく回顧に書いているが、この時点でスキルヴィングのポジションはいい。

先ほど少し触れたが、仮にカラ馬になった桃ドゥラエレーデが、桃丸で囲んだ部分、つまり橙ファントムシーフの前にいたとすると、それこそ大惨事だった。

前述したように、カラ馬はドライバーのいない車なのだ。自分に置き換えて考えてみてほしい。東名高速で目の前にドライバーのいない、自動運転でもない車が走っていたら、どうする?

前の自動車がどう動くか分からないのに、内から、外から交わしにかかるわけにもいかない。カラ馬前にいるとスローペースになりやすいが、つまりこれが原因だ。

今回の場合、ドゥラエレーデが最初から前にも行かず、なぜか2コーナー前で減速するなど意味の分からない動きを見せていたから、外を追走する差し馬たちも道中自由に動ける状況ができた

向正面、内の様子も見てみよう。前述したように、赤ソールオリエンス武史が緑タスティエーラレーンの後ろを確保している。

これならレーンが動いた時、後ろをついていけばいいから、武史は楽に外に出せる状況ができている。この時点でマスクは、武史が素晴らしいポジションを取ったなと思った。

そして赤ソールオリエンスの真後ろには銀ベラジオオペラの和生。

1番人気の皐月賞馬に乗る弟の真後ろというで、しかもCコース変わりで状態がいい内ラチ沿いという、これ以上ない最高のポジションを確保している

本来マスクの想定では、ソールオリエンスの前のインの3番手、メタルスピードのところにトップナイフのノリさんがいる予定だった。

内ラチ沿いにノリさん→武史→和生と並ぶことで、ラチ沿いに京王電鉄横山線が開業する読みだったんだけどね。回顧の前振りにも書こうと思っていたほどで、まさかトップナイフが今回も後ろから行くとは思わなかった。

話を戻そう。ノリさんはいなかったが、武史も、和生も、この時点で盤石のポジションだったんだよ。

しかし、ここから今年のダービーの『勝負の分かれ目』がやってくる。

次の3枚の画像を見てほしい。

秒数を入れるためにあえてパトロールではなくレース映像にされてもらったが、1枚目の34秒時点、2枚目の58秒時点、3枚目の1:14秒時点で見比べてみてくれ。

逃げた紫パクスオトマニカと、2番手にいた黒ホウオウビスケッツの差がどんどん離れていっているのがお分かりだろうか。

離れていく理由は2つ考えられる。

A.逃げたパクスオトマニカがペースアップした
B.2番手ホウオウビスケッツがペースダウンした

☆23年日本ダービー 2:25.2
12.6-10.7-12.0-12.6-12.5-12.4-12.8-12.4-11.9-11.6-11.9-11.8

上記3枚の画像は、この太字にした部分にあたる。12.6-12.5-12.4、計37.5

日本ダービー 600m→1200m
18年12.4-12.4-12.3 計37.1
19年11.4-11.6-12.0 計35.0
20年12.6-12.3-11.8 計36.7
21年13.0-12.3-12.4 計37.7
22年12.0-11.8-11.7 計35.5

23年12.6-12.5-12.437.5

飛ばす逃げ馬がいるかどうかで変わる区間だから一概に比較はできないが、19年35.0、22年35.5なんていう年があることを考えると、37.5というタイムはかなり遅い

かなり遅いのに、逃げ馬パクスオトマニカと2番手ホウオウビスケッツの差が離れている

12.6-12.5-12.4と、パクスはペースを速めてもいない。そんなに速くない流れを淡々と刻んでいただけで、これはホウオウビスケッツ以下がペースダウンしているだけ。

なんで下げたかって、先ほど挙げた34秒時点の画像に答えが書いてある。

黒ホウオウビスケッツが口を割って、丸田が膝を立たせ腕を後ろにやり、抑えに掛かっているんだ

ホウオウビスケッツはマインドユアビスケッツ産駒ということもあって、戦前から距離を心配されていた。丸田も当然距離については頭にあっただろう。「最初少しエキサイトした」とレース後話している。

なら3番手の水シーズンリッチが動いていけばいいのだが、2コーナーの画像を見て分かるように、シーズンリッチも掛かっている

戸崎が掛かっているシーズンリッチの手綱を引いて折り合いをつけようとしているのが静止画でも分かるね。延長、休み明け。こればかりは仕方ない。

向正面をパトロールで見るとこんな感じ。

2番手 黒 ホウオウビスケッツ
3番手 水 シーズンリッチ
4番手 青 メタルスピード

ホウオウビスケッツ、シーズンリッチにはすでに触れた。4番手にはメタルスピードがつけていた。

このメタルスピードという馬は、予想にも書いたように、追加登録料を払ってダービーに参戦した馬

皐月賞4着とはいえ、そもそも2勝がマイル。春前にはNHKマイルCを目標としていた馬で、2400mは長い。レース後、津村も「行きっぷりが良すぎたくらいで、最後止まったように本質的に距離は短いところかも」と話しているのも妥当なところだろう。

そんな馬が、早めに前を潰しにいくだろうか?まー、行かないよな。

今年のダービーの勝負を分けたのはここで、2~4番手がそれぞれ動けない事情を抱えていたことにより、2番手以降が超スローになってしまったのが大きかった

黒ホウオウビスケッツ、水シーズンリッチ、青メタルスピードが動けないとなると、本来緑タスティエーラが動く立場になる。

しかし今回、タスティエーラはレーンだった。みんながみんなそういうわけではないが、ヨーロッパやオセアニアのジョッキーは自分から動いて目標になりにいくことが少ない。番手で構えることが多いんだよな。

もう13、14年ほど前になるが、逃げたクィーンスプマンテ、2番手テイエムプリキュアが後続を離したままワンツーを決めたエリザベス女王杯の時も、大きく離れた3番手はスミヨンが乗るリトルアマポーラだった。後ろを止めちゃうんだよな。

タスティエーラの後ろにいた赤ソールオリエンスは、レーンが動かないことには動けない

いや動けよって話になるかもしれんが、これは単なるGIではなく、日本ダービーなのだ

予想にも書いたように、ダービーは前週オークスよりペースが落ち着くことが多い。みんな勝ちたいレースで、直線が長いコースだからこそ後ろは簡単に動けない

ダービーの重みがジョッキーたちの動きを遅らせる


スローペースのダービーといえば、近年だと2017年、レイデオロが勝った年が代表例だ。前半1000mは63.2、今考えてもとんでもないスローだな。

☆17年日本ダービー 2:26.9
13.0-11.2-12.9-12.8-13.3-12.5-12.1-12.6-12.7-11.5-10.9-11.4
前半1000m 63.2

☆23年日本ダービー 2:25.2
12.6-10.7-12.0-12.6-12.5-12.4-12.8-12.4-11.9-11.6-11.9-11.8
前半1000m 60.4

今年もスローの影響で、勝ち時計2:25.2はここ10年で、17年に次いで2番目に遅いタイムだったんだが、ペースの構成を見ると全然違うんだよね。

これは2017年のパトロール。

17年は最初からスローだった。12.9-12.8-13.3なんて未勝利でもそうないペースさ。

超スローを考慮した緑レイデオロのルメールが、2コーナー14番手だったところから早めに動いて、向正面で早くも2番手まで押し上げていた。

対して今年の前半1000m60.4。17年より2.8秒も速い。そんなに速くはないが、かといってそんなに遅くもない。何とも言い難いペースなんだよ。

☆23年日本ダービー 2:25.2
12.6-10.7-12.0-12.6-12.5-12.4-12.8-12.4-11.9-11.6-11.9-11.8

向正面は太字にした部分だが、ここでまくるとなると1F12.0あたりを2つ並べないといけない。ちょっと速いんだよな、それは。

後ろにいた馬たち、具体的には黄ハーツコンチェルトと橙ファントムシーフだが、この2頭はレイデオロの時のように簡単には動けない

実際前半が2.8秒今年のほうが速い分、馬群も17年より縦長。縦長の馬群はまくりにくい。

3着ハーツコンチェルト 松山弘平騎手
無理をせずにポジションを押し上げることができて、いいリズムで走れた

8着ファントムシーフ 武豊騎手
ペースが遅くて途中で少し位置を押し上げたけど、結果的にもっと行くべきだった。向正面での勇気が足りなかった

武さんが言うように、2~4番手がペースを上げずに、パクスオトマニカ以外がスローペースになりかけている以上、向正面でもっと動いていくのが正解だった

ただし、それは結果論でもある。前半極度に遅いわけでもなく、自分より前にスキルヴィングがいない。早く動くほどスキルヴィングの目標になる

かといって、動かないとスローだから、今度は自分より前を走るソールオリエンス、タスティエーラを捕まえられない

究極の2択だったと思うよ。

ハーツコンチェルトの松山は動いていったのだが、これは松山が新馬から青葉賞まで5戦全てで手綱を取り、ハーツコンチェルトの使える脚の長さをある程度把握しているのも大きい。

松山の頭の中には、ここで動いてもある程度持つという『予備知識』が存在する。加えて青葉賞2着からの参戦で6番人気という、マークされない立場でもある。

対してファントムシーフはこれがテン乗り。武さんは追い切りでファントムシーフに乗ってある程度感触を掴んだと思うが、実際レースを走らせた時、どれだけ長く脚を使えるのかという『予備知識』が頭の中にない。

そして皐月賞3着、ダービー6勝の人馬の実績から、今回は3番人気。ある程度マークされる立場だ。

予備知識の有無、そして立場の差が、動いた松山、動かなかった武さんに選択の違いを与えたと言っても過言ではないと思う

今年タスティエーラが勝ったことで、ダービーをテン乗りで勝った馬は69年ぶりなのだという。

毎年ダービー前になると青葉賞組がダービーで勝てないことと、テン乗り、乗り変わりの馬が勝てないなんていう話になりがちなんだけど、テン乗りの馬がなかなか勝てなかった一因はこういうところにもあるのかもしれないね

ハービンジャー産駒が、上位みんな上がり600m33秒前半を使う流れを、後ろから差し切るのはなかなか難しい。というか、無理。ファントムシーフのダービーは向正面で終わった

難しいところだよな、騎乗ミスと言えばミスだと思うし、立場、馬群の形などを加味すると仕方ないと思える(中途半端なまくりが一番良くない)。

過去にダービー6勝、33回も乗っているレジェンドでも慎重な判断をして裏目ってしまう事実に、ダービーの怖さを感じる

向正面での勇気が足りなかった

このコメントに込められた意味が重い。

橙ファントムシーフが動かないとなると、その後ろにいる白スキルヴィングもなかなか難しい競馬になる

まくるなら黄ハーツコンチェルトの更に外に出して動かないといけない。レイデオロの時は外枠だったこともあって、ルメール自身が動けるポジションにいた。

今回は内枠。ルメール自身が動くのは難しいポジションにいる

逃げたパクスオトマニカとしては、別にそんなに大したペースを刻んでいるわけではない。

序盤、ドゥラエレーデが落馬したことで外から絡まれなかったこともあり、楽に外から進出し、ハナへ。

しかも道中2~3番手が折り合いを欠き、4番手が距離不安でまったくつついてこないどころか、むしろ勝手にペースダウンしてくれたものだから、もう絶好どころの話ではない。

3コーナーまでは田辺の理想的な展開だったろうね。実際レース後「自分のペースで行けた」と話している。2着以下は自分のペースで行けていなかったみたいだけど。

3コーナーを後ろから見るとこんな感じ。

緑タスティエーラの斜め後ろに赤ソールオリエンスがいるのだが、この形だと武史はレーンが動いてくれるのを待つしかない。

武史はもう内心、SPY×FAMILYばりに「ダミアン様早く動いて」と何度も言っていたと思う。2番手以下はスロー。

ソールは新馬で上がり3F33.3を使った馬だが、あれは超スローの影響でもある。上がりの掛かる皐月賞を差し切っていること、これまでのレースで加速ラップが多いように、一瞬の脚というより長く脚を使い、ゴールまで少しずつ加速していくタイプ

スローから一気にペースアップする流れだと、どうしても落とし穴がある可能性がある。エフフォーリアの時よりだいぶいいポジションだったんだけどね

その外を見ると、向正面で早めに動いた黄ハーツコンチェルトが、橙ファントムシーフの前に入ってしまっている。これではもうファントムは動けないし、武さんは内心「さっき向正面で動けば良かった…」と思っていただろう。

まー、前述したように結果論だ。こればかりは。先の先まで読んで動かないといけないんだからジョッキーは大変。

更に外を見ると、白スキルヴィングが外から進出してきた。それによって橙ファントムシーフがフタをされるような形になった。

ルメールとしては、向正面で自分の前にいたファントムシーフに動いてほしかったんだろうけどね。その分動き出しがやや遅れて、ハーツコンチェルトの動きに合わせる形のレースになってしまった。

まー、ルメールは最初からインを捨てているし、ある程度織り込み済の外回しなんだろうが、せめてもう1頭分内、ハーツコンチェルトが走っていたラインが良かったかもしれない。

仮にもう1列内なら外からタスティエーラにプレッシャーを掛けられる。このポジションだと1頭分更に外を回されてしまう。

スキルヴィングの真後ろに桃ドゥラエレーデ。マークする相手は正しいな。人を乗せていない時点で、競馬としてはよろしくないが。

赤ソールオリエンスの武史としては、緑タスティエーラの内側から上がっていって、外に弾くという作戦が、なくはない。

ただ仮にその手を使う場合、前にいるのが水シーズンリッチになってしまう。客観的に見てシーズンリッチは足りないし、タスティエーラとシーズンリッチ、どちらが伸びる可能性が高いかというと、どう考えても前者だ

内に入ったとして、前からシーズンリッチが垂れてきて詰まったら、ここまでの攻めの騎乗が台無しになる

そんなに速くない流れだからタスティエーラにも余裕がある分、仮に内から上がっていってタスティエーラを外に弾こうにも、レーンに抵抗されるだろう。

武史はそれを分かっているから、タスティエーラが動くのを待つしかない。レースの時間は2分30秒にも満たないが、武史は我慢した時間が何時間もの長さに感じられたかもしれないね

一番運のいい馬が勝つ』なんていう言葉がダービーの格言として残されているが、これは当たっているところもあれば、間違っているところもある。

強くて、一番運のいい馬が勝つ』のがダービーなのだと思うよ。ソールオリエンスを見ていてそう思った。今回のソールは不運だったとしか言いようがない

4コーナーまで緑タスティエーラが動かなかったことで、その後ろで赤ソールオリエンスは動けなかった。

4コーナーの配置を見る限り、水シーズンリッチと緑タスティエーラの間のスペースが武史のヴィクトリーロードになる。

この赤丸で囲んだところね。外に出そうにも黄ハーツコンチェルト松山がかなりギリギリを締めているから、外には出せない。赤丸の部分しか行くところがない。

武史にとって好都合(だと思われた)のは、自分の左前にいた橙シーズンリッチの戸崎が右ムチを叩いていたことだ。するとシーズンリッチは内目に寄る。普通は。

この時点で赤丸で囲んだところは1頭分もないから、このスペースは突けない。ただシーズンリッチが内に寄れば、もう少しスペースが開いて入れる可能性があった

水シーズンリッチが右ムチ入った割に内に寄っていかないんだよな。このスペースがなかなか開かないんだよ。

そうこうしているうちに、緑タスティエーラが内に少しずつ寄って、赤丸で囲んでいた部分のスペースがなくなってしまった

そうなると赤ソールオリエンス武史は切り返して、緑タスティエーラの外を狙うしかない。

ところが黄ハーツコンチェルトも最後まで抵抗して締める素振りを見せるものだから、簡単に抜けられない。

すると今度は緑タスティエーラのレーンが左ムチを叩き始めた

内に、内に少しずつ寄っていたタスティエーラが、ムチを入れられたことで今度は外に、外に、次第に寄っていく。

その分赤ソールオリエンスも黄ハーツコンチェルト側に動いていかないといけなくなる。ソールは外のハーツコンチェルトを押しながら、更に外に進路を取らざるを得ない

最初の、シーズンリッチとタスティエーラの真ん中のスペースに、スムーズに入れていたら…と思う直線の進路取りだ。1頭もないスペースが1頭半分開いていたら、ダービー馬はソールオリエンスになっていた可能性がある

まー、そんな狭いスペースに入れる一瞬の脚がないからこういう事態になった、とも言える。だから運がなかったから負けたとは言わない

こういう細かい要素を見ていくと、ダービーを勝つには運が必要だし、運以外に必要なモノも多いことがよく分かるね。

武史がレース後「勝ち馬に有利になり、運がなかった」と言っている。ネットじゃ運がなかったなんて言い訳みたいな捉えられ方をする人間もいそうだが、事実、運はなかった。

エフフォーリアの反省を生かして攻めた競馬をして、強い馬の後ろにつけて、道中のポジション取りは完璧だった。

なのに2~4番手がなかなか動かず動けないところになってしまい、最後は開くはずの1頭分のスペースがなかなか開かなかった。これは正直運がなかったとしか言いようがない。

ただその他に、武史は「左回りがどうかと思っていたが、内に倒れるような走りになるところがあった」とも言っている。

手前的に左回りのほうがいいと思っていたが、確かにVTRを見るとソールオリエンスが自分の左側に少し倒れながら走っているんだよな。

同じ左回りでも新馬はそうでもない。細かい理由は定かではないが、ダービー仕様の仕上げだった分、馬に余裕がなかった可能性はある。

とはいえダービー仕様の仕上げにしないと勝てないのが、日本ダービーというレースだ。実際今日のパドックは素晴らしいデキ。皐月賞から更に仕上げてきた。これで勝てないんじゃ仕方ない。

武史も運がなかった中で、ほぼやるべきことをやったと思う。ただダービーは100点満点中120点の騎乗をしないと勝てないレースでもある

まー、序盤書いたように、武史はまだ24歳。20代前半、キャリア7年目でここまでの騎乗ができるのだから、そう遠くないうちにダービーを勝てると思っている

俺が言える立場でもないし、こう言ってしまうのは失礼なところもあるが、武史はダービーで相当いい負け方をしていると思うんだ。エフフォーリアで後手に回り、ハナ差負けた2年前。反省を生かして攻めの競馬を敢行したら競り負けた今年。

今回の負けはジョッキー横山武史を更に大きくする負けだと思う。まー、勝っても大きくなるんだけど、これで武史の引き出しは更に増えると思う。

競馬の神様がまだ勝つなと言っている、なんてチープな表現は使わない。武史のこの先、ダービーでどんな騎乗を見せてくれるのか楽しみ。来年以降、もっと攻めた騎乗を見せてくれるんじゃないかな

スタッフさんも「これで勝てなかったら相手を褒めるべき」と言っていたが、実際その通りだと思う。難しいね、ダービー。

横から見ると迫力がある馬なんだが、正面から見たり近くで見ると、まだ線の細さを見せる馬なんだよね。つまり成長の余地がまだまだある。武史が「秋になって良くなる馬」と言う気持ちはよく分かるし、無事に菊花賞にたどりついてほしい。成長した姿が今から楽しみだよ。まだまだ上がある。


3着ハーツコンチェルトは力を出し切った。もちろんゲートをちゃんと出ていれば違った未来はあったかもしれないし、最後同タイムの3着だから悔しさは残るレースだと思う。

ただ出遅れて外からになった分、タイミング良く上がれた側面はある。もし五分のゲートでファントムシーフみたいに構えた競馬をやっていたら、最後キレ負けていたかもしれない。こればかりは分かんないよね。

エンジンの掛かりに少し時間が掛かる分、開幕2週目の中山セントライト記念はどうだろうね。関西に遠征して神戸新聞杯のほうが面白いかもしれない。距離は持つが、菊花賞は1周半が不安。まだ緩いから、夏、どれだけ成長できるかにもよる。

4着ベラジオオペラと5着ノッキングポイントは展開、馬場が向いたところが大きい。

ベラジオオペラは前述したように、Cコース変わり週に最内枠を引いて、道中内ラチ沿いでソールオリエンスの後ろで脚を溜められた。ポジションが良過ぎるし、生かし切っての4着。

まだまだ緩いこと、あのスタートの良さを考えると、ベストは1800~2000。セントライトに出てくるなら内枠で買いたい。神戸新聞杯は相手による。そもそも来年もっと良くなりそう。

ノッキングポイントも道中タスティエーラの真後ろというポジションで立ち回れた。もちろんポジションだけで上位にこれるほどダービーは甘くないから、力はある

ただ今日に関して言えば恵まれた。今後は1800から2000で買いたい。古馬相手になるとマイルはちょっと忙しいと思う。

6着ホウオウビスケッツ、7着シーズンリッチは掛かりながらよく頑張っているとも言えるが、実質2番手以下が超スローで、外から誰も上がってこない展開の中、2、3番手にいた馬。内容は正直、薄い。

ただホウオウビスケッツに関しては、3走前のフリージア賞を逃げ切った時の後半1000mのタイムがいい。持続戦だったスプリングSでも2番手から好走しているように、前に行ってスピードを持続させられる馬。小回り1800で警戒しておきたいね。まだ子どもだから、夏を越えて良くなってくる


8着ファントムシーフの敗因に関してはもう触れたから省略。運がなかったとも言えるし、判断ミスとも言えるし、ダービーの難しさを全部詰め込んだようなレースだった。

これが能力じゃないのはここに書かなくても分かるだろう。跳びの大きさも考えると神戸新聞杯はいいんじゃないかな。菊花賞はまだなんとも。

ダービー仕様の仕上げだったんだけどな。攻めに攻めて、ギリギリのラインを残す、いいパドックだった。ソールオリエンスも素晴らしかったが、大目標のレースに向けて、ここまで攻めたスタッフさんたちに敬意を表したい

9着シャザーンは展開が不向きだったといえばそれまでだが、『こういうレースしかできない』時点でまだまだこれからなんだろう。緩いし。

体の緩さが取れるには夏の休養だけでは足りないと思うが、本当に馬の形はいい。母クイーンズリングも夏を越えて更に良くなっていっただけに、期待はある。どこで狙いたいかと言われると現状ないんだけど。

10着フリームファクシは1コーナー前でソールオリエンスにポジションを取られた時点で終わり。取りに行けない時点でそもそも2400が長い。

隼人はレース後「1800mくらいが一番良さそう」と言っているが、たぶんそれは3歳秋までかな。あの気性を考えると、来年にはマイラーになっている気配がある。とりあえず冬のディセンバーSあたりで考えたいが、それ以降は気性次第かな。

11着サトノグランツは大外の時点で終わり。この馬、未勝利終わった後の3カ月の休養でまるで違う馬になって帰ってきたように、成長力を感じる。今日は大外もあって何もなかったが、元はうまく立ち回れる馬だけに、神戸新聞杯が楽しみ。

14着トップナイフは今日もトモを滑らせてゲートを失敗し、後ろから。スタートの映像を見てくれると分かるが、馬が躓く形になって、ノリさんが一瞬投げ出されるようになっていた

弥生賞でタスティエーラに迫ったように能力は高いんだけどね。トモ滑りが2連続で来ちゃうと、今後の買いどころが難しくなる。洋芝の1周がベストだと思うんだが、今年札幌記念に出られてもまだ足りなさそうだし、来年の函館記念でも待とうか。


さて、1着タスティエーラの話をしよう。

23年日本ダービー 2:25.2
12.6-10.7-12.0-12.6-12.5-12.4-12.8-12.4-11.9-11.6-11.9-11.8

改めてタイムを見る。前半はそこまで速くもなく遅くもなくという流れだったのだが、2番手以下はもっとスロー。残り400→200の11.9はパクスオトマニカのタイムだからカウントしないとして、このペースでラスト11.8は馬場を考慮すると少し掛かった感じがある。落鉄したにしても、左前だと…。

勝ちタイムでは比べない。ダービーはペースで時計が変わりやすい。そんなこと言ったら一番遅かったレイデオロなんか、その先未勝利で終わる。

まー、そもそも弥生賞を勝って、皐月賞2着がある馬だけに、直線ヨーイドンで凄い数字が出せるとは思っていないが、世代レベルは少し疑いたい数字ではあるかな

ただそれでも、いくらポジションが良かったとはいえ、本格的に得意ではない流れを勝ち切ったんだから、称賛されるべきだと思う

レーンも絶妙に上手い。テン乗りで1コーナーまでにポジション取りきって折り合わせるのはさすがの一言。松山から変えたことで色々言われていたが、皐月賞で完璧に立ち回ったのに2着だったんだから、勝つために何か変えるのは自然な話だと思う。

さっき武史のくだりでも触れたが、100点を120点に変えられるのがレーン。ところどころで型にはめようとして飛ぶが、根本的な技術に関しては信じがたいレベルに上手い。レーンだから勝てた部分はあるんじゃないかな。

この馬は新馬の後半のラップがいい馬で、持続性能は高い。立ち回りも上手い。現状で古馬のトップ級を倒せる数字ではないが、持続性能と器用さが生きるレースなら、古馬相手に斤量差を生かしてチャンスはあると思う。まー、つまり暮れのグランプリのことなんだけど。

左のトモが今日も硬かった。これだけ使ってよくこの硬さで収まっている気もするが、今後もすぐに取れることはなさそうな硬さ。もう少しカイ食いが良くなって、トモが改善してくれば、来年のGIでも楽しめるかもしれないね。現状の完成度でここまでやれるのだから、数字が多少足りなくても力はある馬だ。

たぶん将来、本当にサトノクラウンみたいなルートを辿ると思う。来年以降、買いたいのはサトノクラウンが好走したレース

余談だがレース後、俺がTwitterに『こういうレースは見たくなかった』と、スキルヴィングを指して書いたら、レースレベルが低いという勘違いリプが飛んできたのは正直、思うところがあったな。

いや、確かに高くはないが、あの状況で俺はレベルの高い低いの話はするものじゃないと思う。

もちろん競馬観は人それぞれだ。それぞれがそれぞれの意見を持って当然だとも思うが、我々は馬に競馬をさせてもらっている立場であることを常に肝に銘じておきたい


関連して、最後に、ゴール後に倒れ天国へ旅立ったスキルヴィングについて、少しだけ触れたい。

本来こういう回顧では勝ち馬へのリスペクトも込めて、最後に勝ち馬を取り上げるべきなのだと思う(たまに勝ち馬以外をラストに持ってきているけど)。

それでも今回は最後にスキルヴィングの話をして終わりたかった。

青葉賞の開催時期が悪いって話になってるけど、それを言ったら若葉→青葉賞→ダービーのハーツコンチェルトのほうがローテは厳しい。

青葉賞の開催日程が今年だけ変わったならまだ分かる部分もあるが、例年通り天皇賞の前日。もちろん陣営も間隔を承知で使っている。牧場含めて、逆算して馬を作っている。

心不全ばかりはどう対策したとしても、回避のしようがない

誰も悪くない。まー、やりきれない悲しみの持っていきどころが分からないからそう言ってしまう気持ちも分からんでもないが、一番辛いのはこの馬に間近で触れ合っていたスタッフさんたちだ

送り出した馬が帰ってこない光景を、マスクは仕事柄何度も見たことがある。本当に言葉にし難い光景だよ。スタッフさんたちの心中を考えると、俺はもうこれ以上何も言えない。

今はただ、スキルヴィングの冥福を祈りたい。そして、いつか青葉賞を経由してダービーを勝つ馬が見たい。

ジョッキーを降ろすまで倒れなかった姿を忘れない。

お疲れさまでした。ありがとう。


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