見出し画像

22年スプリンターズSを振り返る~『最速決定戦』を制した『最も運のいい馬』~

一番速い馬が決まる

テレビ番組でMCがそんなことを言っていた。まー、高松宮記念と並んで国内で最も短い距離のGIだからそう言いたくなる気持ちも分かるんだが、これがそうでもない。

純粋に一番速い馬を決めるって難しいんだよね。馬は全速力で走れる区間が大体400mだという。400mのGIがあれば、『一番速い馬決定戦』として成立するかもしれないが、それより800mも長い1200mでやるわけだから、一息で走ってしまっては止まる

しかも直線コースではなく、コーナーがついた1200mさ。どうやっても枠順の有利不利が出る。まー、コーナーのない直線1000mでも枠の有利不利は出ちゃうんだけど。

枠順はもう運。つまりスプリンターズSを勝つのは、『一番速い馬』ではなく、『速くて運のある馬』なんだよね。


近年のスプリンターズSで有利なのは『内枠』。もういかに内枠を引けるかというゲームになってきた。

昔の芝は開幕週だと内有利。開催が進むごとに内が荒れていって外差しになるのが通常だった。馬が走ることでどうしても芝が掘れてしまって、馬が脚をとられてしまう。

JRAは対策として、自分たちで研究し、より根付きのいい芝を開発したんだよ。これによって簡単に内が荒れなくなった

しかも秋の中山は『4週間』。冬の中山が12月→1月、2月→4月と開催が続くことから、内ラチ沿いの芝の保護を兼ねて、4週間のうち2週間で馬場が変わるんだ(秋の東京は3週で変更)。

もちろん他にも要素はあるのだが、スプリンターズSは最終週とはいえ以前より内が走りやすくなっている。内が走れる状態でタイムが速かったら物理的にインが有利になる

●スプリンターズS 過去3年好走馬

・19年 1:07.1
1着⑧タワーオブロンドン
2着⑦モズスーパーフレア
3着②ダノンスマッシュ

・20年 1:08.3
1着⑩グランアレグリア
2着③ダノンスマッシュ
3着⑯アウィルアウェイ

・21年 1:07.1
1着④ピクシーナイト
2着⑫レシステンシア
3着①シヴァージ

これは予想にも書いたのだけれど、ここ3年のスプリンターズS、1分7秒台で決まった時は真ん中から内の枠の馬で決まり、8秒台だと外枠が来ているんだ。

20年の秋開催は毎週のように雨にたたられたこと、そもそも芝が深かったこともあって時計が掛かっていた。

画像1

・19年 1:07.1
1着水 ⑧タワーオブロンドン
2着青 ⑦モズスーパーフレア
3着白 ②ダノンスマッシュ

画像2

・21年 1:07.1
1着黒 ④ピクシーナイト
2着緑 ⑫レシステンシア
3着白 ①シヴァージ

1分7秒台の年のレースを改めて見ても、いかにラチの近くにいるかが大事か分かるね。

ただでさえ時計が出れば内有利なのに、中山芝は先週からラチ沿い有利だった。先週日曜のオールカマーがいい例。

画像3

●22年オールカマー 

1着黒 ジェラルディーナ
2着白 ロバートソンキー
3着赤 ウインキートス
4着桃 バビット

5着橙 テーオーロイヤル
6着緑 デアリングタクト
7着青 ヴェルトライゼンデ

露骨に内ラチ沿いにいた馬しか来なかった。これで今週土曜に大雨が降るならまだしも、天気予報は日曜まで晴れ。今の芝は簡単には掘れない。内ラチ沿いがいい状態でレースを迎える可能性が圧倒的に高かった

●21年オールカマー
1着①ウインマリリン
2着②ウインキートス

●21年スプリンターズS
1着④ピクシーナイト
2着⑫レシステンシア
3着①シヴァージ


●22年オールカマー
1着②ジェラルディーナ
2着①ロバートソンキー

●22年スプリンターズS
1着②ジャンダルム
2着⑦ウインマーベル
3着⑥ナランフレグ

実際内めの枠がワンツースリー。状況が昨年に酷似していたもんね。雨さえ降らなければ内。これは先週オールカマー終了時点で予想できる。

しかも土曜の2勝クラス勝浦特別で1:07.7。スプリンターズSがこのタイムより遅いことはそうないだろうことも予測できる。『断然内有利』の展開が見えていた。

その中で、人気馬3頭が引いた枠順は、ナムラクレアが9番、メイケイエールが13番、シュネルマイスターが15番。すでに紛れそうな気配はあったんだ

●スプリンターズS 出走馬
桃 ①テイエムスパーダ 国分恭
白 ②ジャンダルム 荻野極
紫 ③メイショウミモザ 丹内
黒 ④ダイアトニック 岩田康
赤 ⑥ナランフレグ 丸田
青 ⑦ウインマーベル 松山
水 ⑧ファストフォース 団野
黄 ⑨ナムラクレア 浜中
緑 ⑫ヴェントヴォーチェ 西村淳
橙 ⑬メイケイエール 池添
茶 ⑮シュネルマイスター 横山武

画像4

画像5

スタート後。まずここに最初のポイントがある。

黒ダイアトニックが出た後少し外に飛んでしまい、青ウインマーベルがスタート後少し内に切り込んだことで、3枠の2頭、赤で囲んだナランフレグとエイティーンガールが挟まれてしまった

レース後ナランフレグの丸田が「スタートしてすぐに他馬と接触し、思っていたより1列後ろになった」と言っているのがこの場面。

丸田からすればどうせ後方からになるにしろ、後ろ過ぎるのは避けたい。最後の伸び脚を考えるとこの接触は痛かった。

念のため書いておくが、スタート後の接触はよくある話だ。馬がみんなゲート出てからまっすぐ行ってくれるわけがない。

もちろんゲートを出てからまっすぐ走らせようと各ジョッキー意識してやっているし、ヤスナリにしてもわざと外に飛んでいるわけではない。ゲートの接触はもう仕方ない。岩田が~なんていう話ではないから注意してほしい。

画像6

逆に最高のスタートになったのが白ジャンダルムだ。この馬自身ゲートが得意ではなくむしろ苦手な部類なんだけど、今日の極は完璧にスタートを決めてきた。

しかも追い風になったのは、隣の桃テイエムスパーダが出負けしてしまったこと。紫メイショウミモザは元々短距離だと後ろからになるようにテンはそこまで速くない。正面から見て分かるくらい、両サイドに馬がいない

画像7

正面から見るとこんな感じ。完全に両サイドが凹んでしまっている。ゲートの難しいジャンダルムにとってこのスタートを切れたのは大きい。後入れの偶数枠も良かったが、仮に出遅れていたら今回勝っていない

両サイドに馬がいないのは大きいんだよね。スタート後はどうしてもみんな内に寄ってくるから、内枠の馬はスペースがなくなることが多い。

それが今回、両サイドのスタートが遅かったことで、ジャンダルムは内で、自分のスペースを確保する時間をもらったんだ。プレッシャーなくポジションを取りに行ける。

画像8

当然桃テイエムスパーダはインで溜めても何もない。逃げるしかないし、水ファストフォースにハナを切られたら終わり。最内から押して何が何でもハナを奪いに行く。

白ジャンダルムの極はそれが分かっているから、無理に押さずに、テイエムがハナに行くのを待っている。ハナに行ったらその後ろに入ればいい。前述したように馬場はイン有利。すでに、かなりいい形だ。

ここで考える立場になったのが黄ナムラクレアの浜中だ。それまでのレースを見ても内ラチ沿いは走れる状態。意識は内にあったと思う。

画像9

画像10

ここが2つ目のポイント。水ファストフォースが内に切れ込むように出していったんだ。

これ、ファストフォースがGIを楽に勝つレベルの馬だったらまだしも、垂れる可能性のほうが高い。黒ダイアトニックのヤスナリとしては、ファストフォースの後ろにいたくはない。伸びる可能性の少ない馬の後ろにいてもどうしようもないからね。

だからファストフォースを行かせて、自分は外に切り返す作戦に出たんだよ。

画像11

黒ダイアトニックが切り返したことで困ったのは黄ナムラクレア浜中だった。もしダイアトニックがファストフォースにポジションを譲らず出していったら、その後ろが開いたと思う。

しかし一度止まって切り返したことで、ナムラクレアの真横にダイアトニックが居続ける形になってしまったんだ。おかげで内に入るシーンがない。というか、入るところがない。ただ外を回る形になってしまう

対して白ジャンダルムは2番枠を引いたことで、最初からインの好位で立ち回れている。もうこの時点で枠の差が出てしまっている。たぶんナムラとジャンダルム、枠が逆ならポジションも逆だったはず。これはもう運だよね。

画像12

黄ナムラクレアが内に入れなかったことで、更にその外にいる緑ヴェントヴォーチェ、更に外にいる橙メイケイエールはより外を回されてしまっている

オールカマーであれだけインインインの競馬になったくらい、今の中山芝は内目が強い。そんな馬場でこれだけ外を回っていてはもう厳しい。

メイケイエールにとってはヴェントヴォーチェも邪魔なんだよね。仮にヴェントがいなければ、せめてもう1頭分内を回れる。ナムラにプレッシャーを掛けられるポジションになる。外を回っていることに変わりはないけどね。

画像13

横から見るとこんな感じ。黄ナムラクレアが内に行こうとしても、黒ダイアトニックが被ってしまって入れない。

入るにはダイアトニックが行くのを待つしかないが、中山の1200でそんな待った騎乗をしていたら外から締められてしまう。浜中としてはもう腹を括るしかない。

逆にメイケイエールはそもそも内に入れる気がなかったのではないか

画像14

これはメイケイエールの2走前、京王杯スプリングカップの向正面だ。画像だと分かりにくいから後で映像を見てほしいんだけど、桃メイケイエールが掛かっているんだよね。

以前にも書いたように、メイケイエールという馬は前に馬がいると、その馬を追いかけようとしてしまう。ホライゾネットに返し手綱を使用してだいぶマシにはなっているが、現状完全には収まっていない。

実際京王杯も前にいたビオグラフィーを追いかけて掛かってしまっているんだ。こんな馬を内に入れて馬群の中で待たせるのは難しい

画像15

画像16

これはメイケイエールの前走セントウルS。青メイケイエールは内目の5番枠だったのだが、3コーナー前、内が開いているのに池添が内に入れる素振りがない

まー、前が詰まる可能性も考慮した動きだが、開幕週でラチ沿いがいい状態の中、わざわざインに入れないのは馬の気性を考慮したものだと考えられる

今回内ラチ沿いの枠が当たったのであればまた話は変わるが、引いたのは13番。もうこの時点で池添の頭の中に内に入るという選択肢はなかったのではないかな。

予想に『まだずっと内にいる競馬は危ないんだろうね。そういう意味で外枠は馬のためにはいいと思うんだが、内伸びだったらこの枠は外過ぎる。たぶん速めに先頭に並びかけにいくと思う』と書いたように、レース前から危惧していたところ。

実際大外を回ってしまった。前述したように近年のスプリンターズはインが強い。この気性が改善しない限り、このレースを勝つには馬場の助けが必要になりそうだね。

画像17

画像18

3コーナー。白ジャンダルムが内ラチ沿いを回る中、橙メイケイエール、黄ナムラクレア、桃シュネルマイスターはみんな外を回ってしまっている。この時点で差が大きい。

ナムラクレアはせめて隣の黒ダイアトニックのポジションにいられればもう少しマシだっただろうが、それでも勝てたとは思えない。それくらいジャンダルムのポジションがいい

画像19

画像20

画像21

黄ナムラクレアのかわいそうなところは、この3コーナーで外、橙メイケイエールが早めに外から上がってしまったところだ。

メイケイエール池添はレース後「急かさず馬のスピードに任せて」と言っているように、意図した動きというよりは馬のリズムを守って上がっていっただけだろう。

●22年スプリンターズS
32.7-35.1
11.9-10.1-10.7-11.4-11.4-12.3

太字の部分が3コーナー付近。さすがに3コーナー、10.7で流れてる区間で外から上がってこられると困る。メイケイエールを外に張るように上がった場合、いくらなんでも早い仕掛けで最後止まってしまう

それもあって浜中はメイケイエールを行かせて、その後ろに入る手を取った。与えられた状況を考えると至極妥当な手だと思う。いわゆる『強い馬の後ろ』だしね。

逆に言えばメイケイエールは早いよね。いくら馬のリズムに合わせたからって、内有利馬場で1F10.7区間のところを外から上がっていくのだから。

画像22

しかしこれが浜中の誤算だった。橙メイケイエールが全然進んでいかないのだ。

レースVTRを見ると分かるが、メイケイエールは3コーナー過ぎ付近でもう手が動いている。池添が促してもギアが上がらない。

その後ろの黄ナムラクレア浜中としてはメイケイエールが早めに上がっていったところについていくはずが、上がっていかないメイケイエールが邪魔で進出できない状況に変わってしまっている。

仮にメイケイをパスするには、更に外に出して回らないといけない。内有利の今の中山でさすがにこの手は使いたくない。かといって動かないと後手に回る。もう詰みかけている。

そうなると、自然と橙メイケイエールの前のポジションが空いてくる。このポジションを狙ったのが紫メイショウミモザの丹内さ。

画像23

画像24

紫メイショウミモザ丹内としては、序盤はインにいたものの、インに居続けるとハイペースで飛ばすテイエムスパーダが下がってくるから、どこかのタイミングで外に出したかったと思う。

それがここだったんだが、橙メイケイエールが思ったより進んでいかなかったことで、その前のスペースが空いた。だから入りに行った。

確かに少し接触しているし、これでメイケイエールは完全に終わったんだけど、そもそもメイショウミモザに前に入られている時点でゲームセットなのだ。考えられる敗因については後程触れる。

メイショウミモザが少しメイケイエールに触れてしまっていることで、黄ナムラクレアが更に外を回される羽目になってしまっている。内有利馬場、内有利展開で内から7頭目くらいか。もう無理な進路取りだよね。それでも5着なんだから、むしろ強い

この4コーナーで、ナムラクレアはメイケイの後ろからインに切り返せたんじゃないか、というご意見を頂いた。これは現実的ではないアイディアだ。

というのも、4コーナー入口ですでにナムラクレアがメイケイのお尻にかかってしまっている。これだと内に入れる場合、一度減速して入れることになるが、それこそ大きなロスになる。

仮に3コーナー出口からメイケイエールの内を狙うとすると、前にいるのはメイショウミモザだ。浜中もミモザが外に動いてきたのは当然見えている。

メイショウミモザがGI勝てる馬ならともかく、13番人気の馬の後ろに入ろうという思考はない。減速させずに外を回しにいったことに関しては仕方ないところだと思うね。

画像25

画像26

改めて4コーナーの画像を見てみると、白ジャンダルムがインの3番手から外の2番手に上がっていることが分かる。ファストフォースの手応えが終始怪しく、少し外に出すだけで進路が開いた、もう勝ちパターン。これ以上ない形さ。

対して外を見ると、紫メイショウミモザが外に張りだすように回っている。こうなると黄ナムラクレアは更に外に押し出されちゃうよね。

前述したように馬場はイン、バイアスが強過ぎるんだよな。馬場保全技術が上がって内が簡単に掘れないとはいえ。かといって、簡単に掘れると馬場に穴開いて、そこに馬の脚が取られてしまう。故障率も上がってしまう。これはもう仕方ない話さ。

そもそもナムラクレアが内枠を引いていればこんなに外は回っていなかっただろう。回っていたかもしれないけど。枠順の妙が完全に出てしまっている。

画像27

直線。ちょっともったいなかったのは青ウインマーベルだ。道中決してラチ沿いにいたわけではないんだけど、直線で馬群の真ん中を捌くことになって、水ファストフォースの真後ろに入っちゃったんだよね

まー、運が悪い。松山ももっと手応えのある馬の後ろに入りたかっただろうが、前述したようにメイケイエールは大外走ってるし、ナムラクレアは途中から更に外走らされている。ターゲットになる馬が内~真ん中にいない

入ってしまったのは手応えが悪くて下がりかけているファストフォースの後ろ。丸で囲んだように、左右にスペースが空いている。

画像28

この画像で、水ファストフォースの団野が右からムチを叩いているのが分かるだろうか。

青ウインマーベルの松山は団野のムチの持ち手も見て、右ムチになるからファストが外目に動くことを計算して、あえてインに持っていったんだろうね。

確かに、その後ファストフォースとメイショウミモザの間のスペースは消えているから正解と言えば正解なんだが、画像を見てもらえれば分かるように一瞬詰まって、強引に抜け出している

最後はクビ差。タラレバになるが、ここがスムーズだったら、そもそもただ下がっていくファストフォースの後ろでなければ、ウインマーベルが勝った可能性はある。

まー、これはタラレバであって結果論。7番のウインマーベルに対して、2番のジャンダルムがより内ラチ沿いを上手く使った結果が出た。ただそれだけの話だ。

画像29

画像30

直線では、他に『たぶんなくても勝っていない案件』が2つあった。まずは黄ナムラクレア。

直線、よく見ると右ムチを叩いているんだよね。浜中は最初から右ムチだった。まー、そもそも道中外回っちゃった時点で、直線インに寄せて何が変わるのかって話なんだけど、内目が走れる状態の馬場で直線も右ムチ、馬が更に外に行ったのは正直どうなんだろうね

手応え、伸びから察するに直線内に行って勝てたとはまったく思わないが、3着と同タイム。左ムチだったら、もしかし…ないか。

画像31

画像33

もう1件がシュネルマイスター。4コーナー12番手から差してきたんだが、直線、茶シュネルマイスターの武史が右ムチを叩きながら、黄ナムラクレアの真後ろのスペースに入ろうとしているのが分かる

まー、確かに進路はそこしかない。一瞬の判断で武史はこの空いたスペースを突こうとした。

画像32

ここで問題になったのは、その内にいた赤ナランフレグの進路取りだ。ナランフレグの前にはメイショウミモザ。丸田はミモザの内か、外か、どちらを選ぶか迷っている。

この直前ミモザが少し外に来たから、たぶん丹内が立て直して内に戻すと見たのか、丸田はミモザの外側、つまり左手から抜きに掛かったんだ。

画像34

左手側に進路を取った赤ナランフレグが、左隣の橙メイケイエールを少し外に押すような形になったんだよね。

これでメイケイが少し外に行ってしまう。一方外から伸びていた緑ヴェントヴォーチェは、西村が左ムチを叩いていることが分かる。つまり馬は内側に行く。

画像35

こうして茶シュネルマイスターは挟まれてしまった。レース後武史が「直線では不利を受けてしまった」と話しているのがここ。それなりにいい感じで伸びてきたところの不利だから痛いっちゃ、痛い。

ただ武史は「距離が忙しかったし、前が止まらない馬場で枠も外。すべて条件が向きませんでした」とも話しているように、直線の不利がなくとも、そもそも条件自体が不利だから、直線不利がなかろうが勝ち負けには加われていなかったと思う。

まー、そもそも向いていない条件でこれだけやれるのだから本当に能力は高い。慢性的にトモが悪く仕上げにくい馬で、今回もやや緩め。毎日王冠希望も却下されてスプリンターズと、条件自体厳しかった。

しかも内伸び馬場で外枠15番。今回はもうノーカンに近い。唯一スプリンターズを使った利点になりそうなのは、目標とするマイルCSまでの間隔。トモのケアに使える時間はあるし、そこまで間隔は離れてないから馬体調整も今回よりは楽だと思う。マイルCSなら楽しみだね。改めていい馬であることを確認した。

同じく人気を背負って5着だったナムラクレアに関しては、最大の敗因は道中外を回ってしまったことだろう。ただ前述してきたように、内に入れるところがなかった。これはもう並びの問題。競馬は複数頭で走る以上、どうしてもこのような問題は起きる。

最初から内枠ならまた話は違っただろうが、たぶんそれはどの馬も一緒。浜中が下手に乗ったというより、与えられた条件が厳しかった部分のほうが大きい

まー、仕上がりは良かった。ベストターンドアウト賞を受賞したように、誰が見てもいいデキ。背中のブレのなさも素晴らしく、話通り桜花賞以上、過去最高のデキだった。

これは凄い話で、半年に2回も誰が見てもいいデキまで実戦に合わせて持ってくるのは相当なこと。さすが脚の難しいトラストなども仕上げてる人だけあるね。担当さんが上手い。

ただ少し仕上げ過ぎていたかなという印象もある。たまにあるんだよな。ダービーのダノンベルーガなんかもそう。馬は本当に調子がいいと、それだけ動けてしまう。元気なものだから、ジョッキーが制御しようとしても口を割ってしまう。

ナムラクレアは返し馬で少し掛かっていたんだよね。租界にも書いたんだけど、掛かっているのを見て少しマズいと思った。それでもデキがとにかく良かったものだからそのまま買ったが、途中3コーナー付近で少し掛かっていたし、状態が良過ぎたのも敗因の一つになりそう。良過ぎると良くないのは以前回顧で触れた。

外を回る形でも5着に粘ったように、さすがに力がある。もうマイルは長いからヴィクトリアマイルでどうこうなるとは思わないが、高松宮記念は馬場次第で楽しめそう。阪神カップは直行した場合延長になる。今日のテンションを考えると延長は少し怖い。


あまり勝ち馬に触れていなかったね。勝ったジャンダルムはまず何より内枠だったことが大きい。しかもただの内枠ではなく、1枠2番だった。

この馬はゲートが悪い。駐立に不安がある。だからこそ後入れ偶数がいいのだが、内有利が見える状況で、内枠の偶数は絶好枠でしかない

前走北九州記念は17着と大敗してしまったが、最内ボンボヤージが内から突き抜けるレースで8枠17番は厳しすぎる。逆に言ってしまえば、枠一つで以前より結果が大きく変わるんだよな、今のスプリント路線は

昨年の北九州記念も休み明けで7着だったように、間隔が開くと良くない馬。しかも今年は北九州記念前に色々あってデキが見た目に悪かった。よくここまで立て直したなと思うよ。

まー、まだ本当にいい時を100とすると90未満。北九州が60くらいだったから叩いてだいぶ良化していたものの、更に良くなる余地がある。数字的にはイマイチで、今後も枠と馬場次第で着順は変わるだろうが、条件さえそろえばこのくらいやれる力はある。

荻野極は良かったね。一時期干されたりして色々あったけど、そこからよくここまで立て直したと思う。ここまでジャンダルムに乗り続け、一番この馬のことを分かっているからこその勝利

だって確かに内枠偶数は有利だけど、後入れとはいえ、偶数の中では最初に入れるほうの枠さ。そこからゲートが開くまで駐立を決めないといけない。今まで組んできて、この馬を知り尽くしているからこそできたスタートだった。

馬もだいぶ回り道をして、7歳秋にして初めてのビッグタイトル。器用に競馬を運べること、若い頃はまだここまで適性が出ていなかったことで2400mのダービーに参戦するなどしていた馬さ。

以前から調教で抜群に動く馬で、池江厩舎の調教番長と言われている存在。能力は間違いなくGIを勝てるレベルのものがあった。これは昨年のスプリンターズの回顧だったかにも書いている。

本来もっと早く1200を使っていれば、より早くGIを勝てたかもしれない。ただ5歳秋までマイルを使ってレース中の折り合いをしっかり覚えさせたからこそ、短距離で折り合って、溜めて乗ることが可能になったとも言える。ここまでの道は、決して遠回りではなかった。マスクはそう思うよ。

母親のビリーヴを思い出したね。とにかくレースセンスのある馬で、立ち回りが上手すぎる馬だった。息子のジャンダルムがインの好位を器用に立ち回って直線抜け出した時、母親の姿が重なった。良かったなジャンダルム、今年はデュランダルがいなかった

2着ウインマーベルは前述通りコース取り一つでもっと際どかった。ただそもそも、中団に置かれてしまったから後手に回りかけ、ファストフォースの後ろなんかに入ってしまったとも言える。

まだトモが未完成なんだよな。今日の段階で仕上がりは良かったけど、まだまだトモに成長の余地があった。まだ3歳秋。母親のコスモマーベラスは夏を超えて良くなった馬だったんだが、古馬になって更に体重が増えて良くなった。これからの馬だと思う。

心配なのは3歳秋ですでにブリンカーを着けていること。ブリンカーを着けないと遊んでしまう馬で、実際調教も着けない分時計が遅い。

ブリンカーは継続して着けると馬が慣れてしまうという難点があり、3歳秋でもう着けているとなると、いずれ効果が薄くなりそう。そうなると反応も鈍くなる。まー、まだ先の話だが。気性の成長が課題。

3着ナランフレグはよく差してきた。道中有利な内ラチ沿いを通った利もあったが、それだけにスタート後接触して1列下がってしまったのは痛い。五分のスタートだったらもう少し差は詰まっていたのではないかな。

3着まで来れた要因の一つがペース。

●近年のスプリンターズS
19年 32.8-34.3
11.9-10.1-10.8-11.3-11.2-11.8

20年 32.8-35.5
11.9-10.1-10.8-11.5-11.9-12.1

21年 33.3-33.8
11.7-10.6-11.0-11.1-11.3-11.4

22年 32.7-35.1
11.9-10.1-10.7-11.4-11.4-12.3

今年のスプリンターズSは残り2Fから11.4-12.3急激にラップが落ち込んでいるんだよね。土曜の2勝クラス、勝浦特別は前半3F33.4で入って、1:07.7。

前半3F32.7で入った時点で、これは1分6秒台もあるかなと思ったんだけど、ゴールした瞬間ビジョンに映った時計が1:07.8。え?マジ?と思ってしまった。

●土曜勝浦特別 1:07.7
11.9-10.6-10.9-11.1-11.3-11.9

●日曜スプリンターズS 1:07.8
11.9-10.1-10.7-11.4-11.4-12.3

前半はスプリンターズのほうが0.7秒速い。なのにスプリンターズはそこから11.4-11.4-12.3ラスト1Fの失速率がとにかく目立つ。正直なところ、レースレベルが疑わしい。数字という意味では強調できないレースで、ラスト前が止まったところをナランフレグが差してきたという見方になる。

しかもこれだけ前が止まっているのに外から差してきたのがナランフレグだけなんだよな。いかにトラックバイアスの強いレースだったかが分かる

ナランフレグは良馬場だと少し突っ張ったフォームになるだけに、もう少し馬場が渋ったほうがいいね。今後も天気次第。太りやすい馬だから、この先絞りにくくなる時期だけに体重は見ておきたい


4着ダイアトニックは直線でウインマーベルと接触しているが、レース後ヤスナリはそれについて言及していないように、実際そこまで結果に影響はなかった。

やはりヤスナリの言うように、「勝ち馬ぐらいの位置でロスなく運びたかったですが、隊列的にスッと内側へ入れるのが難しかったです」これに尽きる。内ラチ沿いに入れるのが上手いヤスナリが4番を引いたのにこう言うのだから、その外の馬がラチ沿い好位に入れるのはもっと難しい。ナムラクレアはつくづく仕方ないと思う。

仕上がりは本当にいい時を100とすると85くらいだったと思う。聞いているところでは先週まで息持ちが微妙だったようで、直線の頭の上げ方を見る限り休み明けの影響を感じた

どこか使えていれば状況は変わったんだろうが、使いにくい条件ばかりだったからね。1200~1400の内枠でまたマーク。なるべく短縮のほうがいい

6着エイティーンガールは本質的に外を回したほうが数字が出る馬。内枠引いて内ラチに近いところを走れた分の6着。20年のような馬場で外枠を引ければ話は変わるが、イン伸び馬場のスプリンターズで好走することはなさそう。次外差しになるのは…京阪杯?

11着ヴェントヴォーチェは怖がりであまりインを突けない弱点がある。好タイムで完勝した今年春の春雷Sは9番枠から4コーナーで外に出せている。今回も外目の枠から外を使ってきたが、馬場はイン。この馬場状態のままスプリンターズやったら勝ち負けには加われない

状態もちょっと微妙だった。悪くはないが、前走のデキをなんとかキープした形。夏場3つ使ってお釣りがなかった感じのデキ。まー、賞金も欲しい立場だから仕方ないんだけどね。


さて、お釣りという意味で、今日最後に取り上げるのが14着に終わったメイケイエールだ。

レースのやり方に関してはもう前述したから省く。内有利馬場のスプリンターズにおいて、この気性は難しいのかもしれないね。20年のような外差しになれば話は変わってきそうだが。

池添がレース後「中2週が影響したのか…」と話しているが、これはジョッキーだけでなく陣営もレース前から気にしていた。実際間隔を詰めて使うため、セントウルSの仕上がりをあえて緩くしていたし、対策はとっていた。

まー、あのテンションの馬。間隔が詰まるとテンションが上がってくる可能性はもちろんある。

メイケイエール 中5週以内
1着 小倉2歳S
4着 阪神JF
18着 桜花賞
4着 スプリンターズS
14着 スプリンターズS

メイケイエール 中6週以上
1着 ファンタジーS
1着 チューリップ賞
7着 キーンランドC
1着 シルクロードS
5着 高松宮記念
1着 京王杯SC
1着 セントウルS

間隔を開けた方がパフォーマンスがいい馬だっていうのは頭に入れてたんだけど、前走余裕持って仕上げたことで今回は持つかも…と思ってしまったんだよね。全然そうでもなかった。

気性的にぶっつけが問題ない馬。一度の燃焼が激しい分、間隔を開けた時により信頼する付き合い方でいいのではないかな。

ミッキーアイル自体そういう馬だった。休み明けもあまり関係なかったしね。産駒全体もデータ的に詰めるより開けたほうがいい。

まー、難しいところだ。セントウルを使わないとすると、キーンランドも候補に挙がるが、セントウルより2週早いだけで、なおかつ栗東まで一度戻さないといけない。

北九州記念ならキーンランドより1週早く、輸送距離も短い。ただ真夏のハンデ戦。重たい斤量を背負わせて走らせるのも考えもの。かといって京王杯SCからスプリンターズ直行になると今度は4カ月半間隔が開いてしまう。『どこを使って本番に向かうか』が難しい。

仮に来年高松宮を使うとすると、間隔的にはシルクロードがいい位置にある。2カ月開く。ただシルクロードはハンデ戦。メイケイエールが出ると重い斤量になる可能性がある。

まー、そうなると阪急杯だが、間隔は1カ月に縮まってしまう。しかも今年のように高松宮記念が内有利馬場だと、また今回と似た状況が生まれてしまうんだよな。今の国内短距離GIは内枠有利になりやすい。今後もハードルは低くはなさそうだ。

フルゲートの内枠はまだ怖いが、少頭数なら内目の枠もこなせるようになってきた。基本は外目の枠を引いて、馬場が過剰にイン有利でなければ信頼したい馬

阪神Cは今年は外の可能性があるから枠次第で見直し。マイルCSは長い。仮に香港の場合、シャティンの1200は内枠有利になりやすい。そこがネックになってきそう。

まー、確かに今回大敗したが、昨年のスプリンターズSを振り返れば、制御面においては雲泥の差があったと言っていい

画像36

画像37

画像38

これは昨年のスプリンターズSのパトロールビデオだ。スタートしてすぐ、赤メイケイエールが頭を上げて掛かっているのが分かる。

前に馬がいると追いかけてしまうため、内で我慢させられず、内枠を引いたのに一目散に外へ向かっている。その過程で青タイセイビジョンを巻き込み、外に弾き出してしまった。タイセイビジョンがかわいそうでならない。

それこそ昨年、スプリンターズ回顧あたりで「今後、タイセイビジョンを増やさないためにもメイケイエールの処遇はよく検討されるべき」という話をしたくらいさ。

画像39

画像40

これは今年のスプリンターズSのパトロール。橙メイケイエールがスタート後、誰の邪魔もせずに前に取りつきに行っているのが分かる

もちろん今年は昨年と違って外枠だった影響は大きい。内枠だったらもう少しバカつきながら外に出していたと思う。が、いくら最初から外枠だったとはいえ、昨年の今頃まで、スタートから大外に飛んでいくような馬だったのだ。1年でここまできた

折り返し手綱とホライゾネットの着用が大きいとはいえ、単純に馬も気性が成長している。もちろんまだ危なっかしいが、以前は暴走機関車。それを思えば良化している。

昨年の今頃は本当に出走を自重したほうがいいレベルだったからね。よくここまで走れるようになったと驚きしかない。

ここまで良化したのはスタッフさんたちの試行錯誤があったからこそ。何が嵌まるのか答えが見えない中、色々試してメイケイエールに向き合い続けたからこそ出た成果だ。

着順こそ大敗ではあるものの、スタートから2、300mまでの挙動に対して、マスクは陣営の成果を感じ取った。

今後GIで条件が揃う可能性は高くないが、陣営の努力が最高の形で報われる日がやってきてほしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?