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22年天皇賞春を振り返る~1頭の芦毛の落馬が変えた未来~

マスクは道路交通法をしっかり守るタイプだ。守って当然という話ではあるのだが、残念ながら、道路交通法など頭の片隅にもない連中がいる。

高速を走っていても、急な車線変更、ウインカーも出さない人間もいるし、迷惑なマナー違反ドライバーにあたった経験はたぶん誰しもがあるのではないか。

安全第一』なんだよな、何事も。前の車がウインカーも出さずにフラフラ左右に動いていたら、当然自分は抜かずに、後ろで我慢しないといけないだろう。これは事故防止の観点から仕方ない話。

これは競馬の世界もそうで、レースにおいて何より重要視されるのは安全だ。だからこそ細かい動きまで裁決に取られる。狭い進路に入ったら罰則を食らう。これは全て、レースにおいて安全面が最優先されているからに他ならない。

今年の天皇賞春は読んでくれている皆さんもご存じの通り、1頭の落馬が大きくレースを変えてしまった。モヤモヤした感情を抱いている方も多いのではないかな。

GIという舞台で、全馬100%の力を発揮したとは言い難い今年の天皇賞を落馬にも触れながら振り返っていこう。

●天皇賞春 出走馬
白 ①アイアンバローズ 石橋
青 ⑦テーオーロイヤル 菱田
水 ⑧クレッシェンドラヴ 内田
黒 ⑨ヒートオンビート 池添
橙 ⑮タガノディアマンテ 幸
黄 ⑯タイトルホルダー 横山和
灰 ⑰シルヴァーソニック 川田
桃 ⑱ディープボンド 和田竜

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スタート直後。灰シルヴァーソニックが2歩目でバランスを崩している。スタート自体は普通に出たのだが、2歩目の躓きは競馬においてよくある話。

もちろん川田も躓く可能性は頭に入れながら乗っているだろうが、ジョッキーは鐙に親指の先だけを掛けて乗っている。急に躓かれたら当然バランスを崩す。落馬自体は仕方のないものだ。

落馬した直後にシルヴァーソニックが桃ディープボンドに接触しているのだが、ここは思ったほど不利とはならなかったんだよね。和田も一瞬ヒヤっとしたかもしれないが、何とかやり過ごせた。

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ハナを切りに行ったのは黄タイトルホルダーだった。事前に出している裏話などにも書いているが、タイトルホルダーという馬は前に馬がいると、その馬を抜きに掛かってしまい、折り合いが怪しくなる

こと、折り合いというものが最重要視される長距離において、これは致命的。中距離ならまだ番手に控えられても、長丁場では絶対ハナのほうがいい

当然和生も馬のクセは理解しているから、猛然とハナを奪いに行った。桃ディープボンドは当初からタイトルホルダーを見る形で運ぶプランだったのだろうね。大外枠と枠自体はかなり外で不利だったが、タイトルホルダーがハナに行ってくれたことで、それなりに先行しやすい展開にはなった。

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黄タイトルホルダーがハナを奪ったところで好プレーを見せていたのが、青テーオーロイヤルの菱田さ。

この日の阪神芝はTwitterにも書いたように、内ラチ沿いが良くない内から3~6頭目付近が走りやすい芝だった。タイトルホルダーの和生も内ラチを開けて、内から3頭目付近を選んで走っている。

上の画像を見ても分かるように、青テーオーロイヤルは当初、タイトルホルダーの後ろではなかったんだよね。ただ内回りとの分岐点に入るあたりで、隣のメロディーレーンを押しのけて、タイトルホルダーの真後ろを取りに行っている。『強い馬の後ろ~』という話はいつもしているから割愛。

これによって、白アイアンバローズが外に出せない状況が生まれてしまった。アイアンとしてはタイトルホルダーの真後ろが欲しかったのだろうが、菱田がタイトルの真後ろを取り切ったことで、アイアンは馬場の悪いところを通され、内で締められる形になってしまっている

ここで攻めなかったらむしろテーオーロイヤルのポジションが中途半端になるところだった。狙ってたんだろうな、このポジ。勝負に行っていることが分かる動きだよ。動かなければ水クレッシェンドラヴの後ろの可能性もあった。攻めて正解のパターンだ。

ではポジションを取れず、状態の悪い内ラチ沿いを走らされてしまったアイアンバローズが勝負に行っていないかというと、それは違う。この馬はいかに自分のリズムで行けるかどうかが勝負。ここ2走マイペースで走れているように、自分のリズムを崩さなければ気持ちも切れない。

そんな馬で、内から外に向かって動かして、ガリガリ接触してポジションを取りに行けるだろうか。自分からリズムを崩すことになる。アイアンの最内のリスクは予想にも書いた通りで、これは石橋脩ちゃん仕方ない。枠が悪すぎる。

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結局隊列はこんな感じになった。黄タイトルホルダーの後ろに青テーオーロイヤル。水クレッシェンドラヴの後ろに桃ディープボンド。どっちが有利ポジかといえばテーオーだろう。前がタイトルホルダーなわけだから。

ここはもう枠の差だよね。これ、テーオーが大外でディープボンドが7番だったら逆の並びになっているだろう。大外枠の不利がこの時点で早くも出てしまっている

テーオーにポジションを取られてしまった白アイアンバローズは、テーオーの後ろというポジション。本来だったらもう1列前、テーオーのポジションで運びたかっただけに、この時点ですでに後手に回りつつある

ここまでは、まだ平和なレースだった。平和とはいつまで続くか分からないものだ

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1周目3、4コーナー。あいつがやってきた。ジョッキーを乗せていない、灰シルヴァーソニックが外から、橙タガノディアマンテについてきて上がってきている。

ここで隊列はある程度縦長になり始めているんだけど、青テーオーロイヤルがインの3番手、その後ろに桃ディープボンドという形ができる。

これはつまり前述の『枠の差』。ディープボンドは本来、テーオーロイヤルのポジションが欲しかった。このポジだとテーオーが動くのを待たないといけなくなるからね。

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最初の直線。次第にレースが壊れ始める。1周目の直線に入ったあたりから、灰シルヴァーソニックが橙タガノディアマンテにちょっかいをかけ始めるのだ。

2枚目の画像を見るとよく分かるよな。シルヴァーが、前のタガノをつついていることでタガノに乗っている幸がバランスを崩している。後ろから脚を当てられているのだ。

今回、ネット上には『シルヴァーソニックは他馬に迷惑をかけずに2着になった』なんていう意見が散見されたが、少なくともそれはない。このように明確に他馬の邪魔をしている。

もちろん、シルヴァーソニックに悪気があるわけではない。彼はどのくらい距離を走るのか、どのコースを走るのかも分かっていないわけで、なんとなく前のタガノディアマンテに近づいているだけ。

俺は別にシルヴァーソニックが全面的に悪い、全責任があると言いたいわけではない。馬に責任はないし、落馬したジョッキーも仕方ない。このレースに影響を与えているという事実を書いていることを理解した上で、この先読み進めていってもらいたい。

何せ、ここからのシルヴァーソニックはレースを壊しているからね。

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今回灰シルヴァーソニックが迷惑だったのは、1周目の直線入口では橙タガノディアマンテの後ろにいたのに、直線半ばで内に寄ってきたことだったんだ。

当初内にいた青テーオーロイヤル、桃ディープボンドは入口では影響を受けていないものの、次第にシルヴァーソニックが内に寄ってきたことで、テーオー、ディープボンド、そして白アイアンバローズが、シルヴァーの後ろに入ってしまう形になってしまった

冒頭に書いた『前の車がウインカーも出さずにフラフラ左右に動いていた状態』がこれ。シルヴァーソニックが「あ、今から内に寄りますー」とか、ケツにウインカーついていて右側が点灯しているとか、そういう状況なら後ろも判断しやすい。

そんなことはない。相手は馬。しかもジョッキーを乗せていない。どこに行くか分からない。フラフラ左右に動く、行き先不明の生き物が前にいると、後ろは安全上動けないんだよな

シルヴァーソニックが内目に動いたんだから、外から交わせばいいだろうという声があるかもしれないね。仮に外から交わしにいったとして、シルヴァーがコーナーを曲がり切れなかったらどうする。そのまま一緒に外に連れていかれてしまって、レースが終わる可能性だってある

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もう一度書くが、『ジョッキーを乗せていない』のだ。誰も制御する人間がいない。強引に抜きにかかると落馬などの事故もありうるだけに、安全第一がベースにある競馬では強引に行きづらい

青で囲んだところ、このあたりの有力馬の前にカラ馬がいると、F1で言うところのセーフティーカーが入ったような状況になる。簡単に追い抜けないのだ。

対して黄タイトルホルダーはそんな影響をまったく受けていない。この時点でタイトルホルダー圧倒的有利の形になった。あとはもう、和生がペースを間違えないだけ、という状況になっている。ペースの話は後半部分で触れる。

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更にタチが悪いことに、灰シルヴァーソニックは1コーナー過ぎから内ラチ沿いに入り始めたんだよな。

画像で見ると分かる。1コーナーの入りは内から2頭分外あたりを回っているのに、2コーナーの途中で内ラチ沿いに入ってしまっている。水クレッシェンドラヴの後ろに入ってしまったんだよ。

これまたネット上でシルヴァーソニックが過去のレースを覚えているから内に行ったと書かれているが、馬は近くにラチがあると、制御者がいなければ頼って走ろうとする。過去のレースはほぼほぼ関係ない。

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前から見るとこんな感じ。これまた難しい隊列だよ。

灰シルヴァーソニックが内ラチを頼って走っているとはいえ、いつ外に飛んでくるか分からない。青テーオーロイヤルはカラ馬の後ろなんかに居られないから、内ラチから少し距離を取って回る。

そうなると桃ディープボンドが更に外を回されるのだ。大外枠自体が最大の不運だったね。もし内枠だったら、カラ馬が前にいたとしてもここまで外を回らなくてもいい

しかもテーオーとディープボンドの前にいるのは水クレッシェンドラヴ。クレッシェンドが3200で前を自分から捕まえに行くレベルの強い馬だったら話は違うが、実際そうではないから、カラ馬+クレッシェンドラヴがいる状況では簡単にタイトルホルダーを捕まえにいけない

後程ラップを書いて説明するが、この時点でタイトルホルダーは息を入れている。もう、レースは終わりだ。解散

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向正面。本来であれば、青テーオーロイヤルは黄タイトルホルダーの後ろにいたい。実際、カラ馬が来る前はタイトルホルダーの後ろの列にいただろう?

でもタイトルの後ろ、黄色の丸で囲んだ部分は、内ラチ沿いの灰シルヴァーソニックがもし突然ヨレてラチなどにぶつかって転んだりしたら、巻き込まれてしまう可能性があるポジションなのだ。

この画像を見て、仮にシルヴァーが転んだら黄色の丸で囲んだ部分にいる馬は絶対巻き込まれるだろう?だからテーオー菱田も危険性を考慮して、1頭分外を回っている。

それって水クレッシェンドラヴの後ろなんだよね。前述した、クレッシェンドは自力で動けないという話を思い出してほしい。いいポジションではない。最初は本当にいいポジションを取れていたんだけどねえ…

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3コーナー、勝負どころが近づいてきた。ここで桃ディープボンドが勝負に出た。青テーオーロイヤルを締めながら、前を捕まえに行こうとしたんだ。

ここまで不利な枠、不利な展開もあって完全に後手に回っていたディープボンドが、半ば強引に攻めていこうとしたシーンだよ。まー、動くしかないよね。動き出しを待って、切れる馬ではない

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ところが菱田にも意地がある。青テーオーロイヤルが、締めてきた桃ディープボンドを外に押し返しているんだよ。

締めたい和田、締められたくない菱田。本当に細かい部分だが、俺は今回の天皇賞で一番面白かったシーンは?と聞かれたらこの部分と答えるね。

気持ちが前面に出た、熱い攻防だった。俺はカラ馬が笑われるシーンではなく、こういう、気持ちのこもったやり合いが見たいんだよ。

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3コーナー。灰シルヴァーソニックが本当にコーナーを曲がっていくのか、周りは戦々恐々とした思いだったはずだ。4コーナーで外に逸走するかもしれない。巻き込まれたらもう終わりだからね。

水クレッシェンドラヴがシルヴァーを受け止める係になっていたんだが、青テーオーロイヤルはその外を回らないといけないし、桃ディープボンドは更に外を回る形になる。

この時点で黄タイトルホルダーとは距離のロスの差がある。もうなんか、ディープボンドがかわいそうになってくる。

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さすがにクレッシェンドラヴに3200mで勝負所で抵抗する力はなくて、4コーナー手前では青テーオーロイヤルがシルヴァーを受け取めるポジションに変わった。黄タイトルホルダーを捕まえにいこうとしている。

桃ディープボンドが欲しかったのは青テーオーロイヤルのポジション、と前半部分に書いたのだが、序盤で枠の差によりテーオーの後ろになってしまったことで、本来やりたかった競馬ができていない

本来は自分から、スタミナを生かしてタイトルホルダーを捕まえに行きたいところ。後手に回ってしまって、ついていくのに精いっぱいになってしまっている

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直線。結局灰シルヴァーソニックは内ラチ沿いをずっと回ってきた。後半はずっとラチを頼っていたね。

内ラチ沿い1、2頭分の状態が良くないことをシルヴァーソニックに教えてあげる人間は、最後まで現れなかった。まー、内ラチ外して回られてもただただ迷惑なんだけど。

ここで黄タイトルホルダーの和生は左ムチを叩いている

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ところがその後、灰シルヴァーソニックが内からやってきたところで、今度は黄タイトルホルダーの和生が右ムチに持ち換えて叩いている。

これまたネットでは、シルヴァーソニックの顔にムチを入れて邪魔をさせないようにしているのでは、なんていう、まったく理解できない意見が見られた。なんというか、もう少し考えてから書いてほしい。

これは和生が安全面を考慮して右ムチを叩いている。当初左ムチを打った時は、後ろにシルヴァーソニックがいることに気づいていなかったのではないかな。

しかしオーロラビジョンを見たか、足音などで察したか、自分の開けている内ラチ1頭分のスペースからシルヴァーソニックがやってきていることを和生は知った。

仮に左ムチを叩き続けると、タイトルホルダーは内ラチ沿いの方向に寄る。そうなるとシルヴァーソニックはラチとタイトルの間に挟まれる形になる。シルヴァーは転倒する危険性が増す。後続を巻き込むかもしれない。

だからこそ右ムチに持ち換えて、なるべくタイトルホルダーを内ラチから離そうとしているわけ。別角度のVTRからもムチはシルヴァーの顔に当たっていないことが確認されているようだが、それはそうだ。角度上当たっているように見えなくもないが、追い払う動きではない。

有力馬に影響を与え続けたシルヴァーソニックだが、これがタイトルホルダーに与えた最初で最後の悪影響だったと思う。

内ラチ1、2頭分が悪い芝だったのも良くなかった。みんな内ラチ沿いを開けて回ったもんだから、シルヴァーソニックが動ける進路ができてしまったんだよ。これによって、結果的に最後の最後までカラ馬がレースに影響を与えるという、なんとも悲しい状況が生まれてしまったのだ。


では、タイトルホルダーはシルヴァーソニック落馬の影響で有力馬が動けなかったから勝てたのか。

というと、これはそうでもない。もちろんカラ馬がいなければ後続はもっと早く動いてポジションを取りにくるだろうから着差はもっと詰まったと思う。が、少なくとも7馬身なんていう差はついていない

和生が作ったラップは非常に良かった。

●21年菊花賞(阪神) タイトルホルダー
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

●22年天皇賞春(阪神) タイトルホルダー
12.7-11.9-11.9-12.0-12.0-11.9-12.2-12.8-13.3-12.9-12.3-12.0-11.9-11.5-11.7-13.2

これは菊花賞と天皇賞春、タイトルホルダーが作ったラップ。そもそも天皇賞は外回りから内回りに入っていくコースだから、菊花賞とは全然違う。比較すること自体ナンセンスな気もするのだが、見てほしい部分があるから出す。

菊花賞の回顧でも触れたかもしれないが、タイトルホルダーは序盤800mくらいまで飛ばす形がベスト。早めにスパートして後続を潰すためには、道中息を入れないといけない。

最初からスローで逃げてしまうと、中盤後ろとの差がないものだから、脚を溜められなくなる。そのためには序盤から飛ばして、ある程度ポジション差を作らないといけないわけだ。それもあって、今回も序盤飛ばしていた。

●21年菊花賞(阪神) タイトルホルダー
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2

●22年天皇賞春(阪神) タイトルホルダー
12.7-11.9-11.9-12.0-12.0-11.9-12.2-12.8-13.3-12.9-12.3-12.0-11.9-11.5-11.7-13.2

菊花賞の時と明確に違うのは、天皇賞は200m→1400m地点までずっと12秒前後が刻まれ続けていること。菊花賞は800m地点からもう12秒台後半が刻まれ続けているだろう。今回のほうがより攻めている

1400m地点というのは1周目の直線、急坂を登り切って少し経ったところ。つまり最初の直線の急坂でもペースを極端に緩めていない

後続は上り坂なわけだからペースを緩める。和生がどこまで計算していたのかは聞いてないから分からないが、攻めに攻めて、他馬のラップが落ちるところでも緩めなかった分、よりアドバンテージが大きくなっている。

あとはそこから12.8-13.3-12.9とペースを落として息を入れ、残り1200m、向正面半ばから早めのスパートを敢行、ついてきた後続はそのスパートに耐えられずに下がってしまう、という寸法だ。

今回の天皇賞のレースラップ、ラスト1Fが13.2掛かっている点に注目してほしい。菊花賞のラスト2Fは11.4-12.2。400m→200mと200m→0mで比べると0.8秒失速しているのだが、今回は11.7-13.21.5秒落ちている

要は、3000mで勝負を決めに行ったのだ。最後タイトルホルダーは止まりかけているものの、そもそも序盤稼いだ差を生かして中盤息を入れていることで、まだガソリンは少し残っている。

ラップが一気に落ちているとはいえ、今回の天皇賞は雨により水分を含んだ、かなり柔らかく体力のいる芝で行われているわけだから、そんな馬場の3200mで最後鋭く伸びてこられる馬が存在しない。肉を切らせて骨を断つ、骨を切らせて肉を断つ、どっちでもいいがそういう戦法だ。

●22年ダイヤモンドS 東京3400m
13.0-11.7-12.4-12.5-12.0-12.1-12.4-13.1-13.0-12.7-12.7-12.6-12.2-12.2-11.4-11.9-12.2
0m→1000m 61.6
1000m→2000m 63.3

●22年阪神大賞典 阪神3000m
13.0-12.0-12.6-12.6-12.9-12.7-12.3-12.7-12.6-12.6-11.9-11.6-11.6-11.5-12.4
0m→1000m 63.1
1000m→2000m 62.9

●22年天皇賞春 阪神3200m
12.7-11.9-11.9-12.0-12.0-11.9-12.2-12.8-13.3-12.9-12.3-12.0-11.9-11.5-11.7-13.2
0m→1000m 60.5
1000m→2000m 63.1

改めて前哨戦のラップと本番のラップを比べてみる。コースが違うのだからこれまた単純比較はできないが、前哨戦であるダイヤモンドS、阪神大賞典と比較しても、1000m→2000m区間のラップはそこまで変わらない

しかし前半1000mは今回の天皇賞が明らかに速い。阪神大賞典に比べたら、2.6秒も速い。大体13馬身前後だろうか。大きな差だ。

序盤から12秒前後の攻めたラップを刻み続けたことで、ついてきた馬たちが追走に脚を使わされている。特に阪神大賞典から参戦したディープボンドは、前半が3秒近く違う、まるで趣向の違うレースを強いられている。早めに手応えが悪くなったのはこの影響も大きい。

つまり、タイトルホルダーがハナを切って、前半攻めた時点で勝ちなのだ。カラ馬がいなかろうが、タイトルホルダーは前半、1F12秒を刻めている。落馬がなくともたぶん勝っている

着差はもっと縮まっていたと思うよ。後続がより動ける展開になれば、少なくとも7馬身も差はついていない。ただ少なくとも、この重たい馬場で断続的に12秒を刻んで後ろを削るのは力がないとできない荒業。実力勝ちと言っていい。

●22年日経賞 中山2500m
6.9-12.0-12.6-12.6-12.7-13.4-13.4-12.8-12.3-12.0-11.7-11.2-11.8

●22年天皇賞春 阪神3200m
12.7-11.9-11.9-12.0-12.0-11.9-12.2-12.8-13.3-12.9-12.3-12.0-11.9-11.5-11.7-13.2

デキに関してはもう一段階上がある。これは前走日経賞を逃げ切った時との比較だが、ラップを見て分かる通り、日経賞は前半から中盤にかけて、天皇賞より断然ペースが遅いのだ。

これは和生が攻めなかったのではなく、馬のデキが良くなくて攻められなかったから。有馬記念の後に色々あって、立て直し途上、7割程度の仕上がりだった分、強気にペースを締められなかった

それでも勝ってしまうのだから強いのだが、これだけ中盤緩めながらボッケリーニとクビ差。よくあれから1カ月でここまでのラップを刻んで勝つデキまで持ってきたと思う。

ただやはりパドックを見ていても、今回も良かったが、いい時はもっといい。MAXに仕上げた状態なら2200mでも十分楽しめると思う。ただ前述したように、前に馬がいるとハミを噛みやすい馬だから逃げられるかどうかは大事。ただ宝塚にはねえ…もっと速いパンサラッサという馬がいてねえ…

やはり注目はその先、凱旋門賞だろう。ヨーロッパの馬はテンがそんなに速くないから、特攻隊のようなラビットがいない限りたぶんハナは切れる。アップダウンが激しく風が強いヨーロッパの競馬で、逃げは本来忌避される脚質。それだけ逃げ馬に掛かる負担は大きい

ただ母の父がモンジューであること、重ための馬場で前半から12秒を刻み続けられるスピード、そして息を入れた後のロングスパートに対応する持続力、これまでの日本から凱旋門に参戦した馬の中では異質な存在だけに、どれだけ通用するのか見たい気持ちしかない。

問題点としては、以前地下馬道で和生を振り落して放馬したり、気性面がかなり怖いこと。フランス遠征で気性をキープして本番に臨めるか、これはもう気性の成長を待つしかないのではないかな。遠征、してほしいね


2着ディープボンドのパドックは素晴らしかった。阪神大賞典もそれなりだったが、数段上げてきて、GI仕様。あのデキで勝てないなら正直もう仕方ない

大外枠という不運に加え、阪神大賞典より断然速いペース、道中チョロチョロと前を走る芦毛、そしてテーオーロイヤルに張り出されるなど、三重苦、四重苦が重なった結果の7馬身差と言っていい

せめて内枠ならもっと競馬しやすかっただろう。逆転はなかったにしても、完全にここを獲りにきた仕上げで、ここまで不利が重なるのは正直かわいそうの一言、これに尽きる。

陣営は「GIを勝つならここ」と言っていたが、現状その通りだと思う。レベルが低めの有馬記念ならまだ分からないが、今回の天皇賞が一番勝利に近い条件だった。大外に入ったりしている時点で、GIを勝つための運がなかった。

一部のスーパーホースを除いて、GIを勝つには能力だけでなく、運も必要になってくる。今回はシンプルに、引き寄せられなかった。京都3200mになる来年、出ているかは分からないが、一番いい時期に、一番いいデキで獲れなかったのは痛い。

3着テーオーロイヤルは能力を出し切ったのではないかな。確かにカラ馬は邪魔だった。それでも前目のいいポジションからディープボンドを張って、やりたい競馬はできている。

ところが直線入ってちょっとしたところで馬が外にヨレてしまっているんだよな。ここらへんで馬がガス欠を起こし始めている。最後にディープボンドに交わされてしまったのも現状の力の差ではないかな。

今回は出し切っての3着。もう少し軽い馬場、そして京都の3200mなら、デキ次第で前進はありえそうだね。次は京都大賞典で買いたい。内枠ならね。

4着ヒートオンビートは、悪い騎乗ではなかった。ただ道中、ディープボンドとの間にメロディーレーンを挟んでしまったんだよな。池添としてはもう1列前にいたかっただろうが、初の3200m、攻めると止まる可能性がある。

その分1列後ろになり、前が動かず動きにくいポジションにハマってしまった。ただ収穫もあって、メンコを着けたら3200m最後まで集中して走れたのは好材料。集中力があったりなかったりとムラな馬だから、メンコで集中力が途切れないと分かったのは大きい。

昨年2着の目黒記念でいいと思うが、今年天皇賞4着だとハンデがマシマシされそうなのがね。勝ち切れるか微妙として、今なら札幌記念も面白いタイプだと思う

アイアンバローズも気性面の成長がみられる。正直スタート後内で囲まれた瞬間、終わったと思った。自分のリズムで運びたい馬で囲まれたくないのに、それでも外目に出して粘っている。

カラ馬の影響をやや受けていた1頭で、動き出すタイミングも難しかった。今の成長具合ならもう一つ上がありそうだね。具体的に直近でこの馬を中心視したい条件がないが、秋の長丁場でまた。

タイトルホルダーが序盤締めた分、力の足りない馬は振り落とされるレースになった。そもそも日曜の阪神は簡単にさせない馬場でもあり。後ろから上がってきた馬は何頭か、次につながりそう。

6着マイネルファンロンは正直距離が長いとしか思っていなかったので、6着は大健闘の部類だと思う。そうなると短縮でいいのだが、目黒記念に短縮した場合は下げたい。

目黒記念週はダービーウィーク、つまりCコースに変わる週なんだよな。マイネルファンロンという馬は裏話にも書いたように、外枠からマイペースで運べるほうがいい。

Cコース変わり週で内がいいままだったら、外枠から外を回ってどうやってもファンロンは届かない。今後も馬場と枠に左右されるのは間違いないと思う。

7着ロバートソンキーはやっぱり走るね。今回は足りなかったが、正直外から差せない馬場でよく走っている。3200mも若干長そうな中でこの走りなら、短縮で楽しみ。目黒記念、もしくはエプソムカップでも面白そう。

まー、この馬は体質が弱い分そこまで使い込めない。今回御堂筋S→天皇賞とそれなりに詰めているし、次は夏かな。新潟記念は合いそうに見えて微妙に適性がずれていそうだが。

11着マカオンドールはデキ自体は良かった。前走の阪神大賞典より3秒近く速いペースで、そしてこの重たい馬場。現状この2条件を跳ね返すだけの力がつき切っていないね。まだ4歳だけに成長の余地はある。良馬場で馬場が硬すぎてもどうかと思うが、もっと走る馬。

12着ディバインフォースも見直したい。道中ペースが速く、この馬には追走しにくい速さ。加えて落鉄。今回は参考外だね。

あと16着ハーツイストワール。今回はインのある程度いい位置にいたが、急に止まった。あれは距離。だいぶ馬が良くなっているだけに短縮で見直し。タガノディアマンテも短縮で見直したいが、こちらは脚に爆弾を抱えているため順調ならという制約がつく。


さて、最後にシルヴァーソニックだ。落馬は仕方ない。それも含めての競馬だからね。進路取りに関しても馬だから仕方ない。ここらへんはもう割り切っているつもりだ。

もちろん悔しい気持ちはある。馬券の当たり外れという以上に、やっぱりGIで、タイトルホルダーがそれなりのペースを刻んでいる中で力勝負を見たいわけ。それだけに、そのまま3コーナーで外に流れていてくれよという思いはあるね。

今回ゴール後ラチを飛びこえて倒れたり、その破天荒さからネタになるシーンが多かったと思う。ただ危険性の強い放馬であることは間違いなく、パトロールを見てもかなり危なかったのは事実

正直、これだけの進路取りをされて事故や他馬の大きな故障に繋がらなかったのは奇跡的と言ってもいいと思う。そういう意味では今年の天皇賞は運が良かったのかもしれないね。

どうしても、シルヴァーソニックが落馬していなかったらどうなっていたか、これは考えてしまう。ディープボンドがどんな乗り方をしたのか、テーオーロイヤルはディープボンド相手に張れていたのか、そもそもタイトルホルダーはこのラップを刻めていたのか…

色々と思うところはある。このレースに向けて、じっくりと調整してデキを上げてきた陣営を知っている。脚に爆弾を抱える馬を、地道に調整し続けてこの舞台に立たせた陣営を知っている。みんな、GIという舞台に向けてギリギリのところで調整を続けている

もちろんそれはシルヴァーソニックも同様。天皇賞を走らせるための仕上げを施してきたわけで、それまでの積み重ねてきたモノを出し切る場だったはずなんだ。

不運にも2歩目で躓いて落馬してしまったが、無事にジョッキーを乗せたまま走らせてあげたかった。それが本音。まー、終わってしまったものは仕方ない。今はもうシルヴァーソニックやタガノディアマンテが無事で良かったと思うしかない。

いいラップのレースで、本来であれば素晴らしいレースを見たと言えるようなラップではあるのだが、1頭の動きによってモヤモヤした気持ちが残るレースになってしまった点は、正直、残念でならない。




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