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小さなモンスター

鍵を鍵穴に差し込んで
錆びた扉を開けてみる

部屋に蠢く黒い虫
見慣れない眩しさに目を潰し
私の影に群がり貪り
食べ尽くしても飽き足らず
床も扉も食べてしまう
屋根も柱も食べてしまう
食べ尽くしても飽き足らず
留置所だったり病室へ行く

私は本屋で待ち合わせをしている
私は大学四年生だ
待ち合わせの相手はなかなか現れない
三時間待ってショートメールが届く
病院にいる 腕を切った
送ったのは私で
本屋にいるのは先週来たWEBライター
消えない縫い跡

育った町には川が流れ
川沿いの写真館には振袖を着た若い母
真っ黒な介護職を辞め
缶詰工場は海の近く 潮の香り
真っ白に包まれて清潔で傷も隠れ
ベルトコンベアから次々とマッチ箱
お母さんみたいにきれいに撮ってね
そこで監督のカットが入る

私たちは既にメッセージを受け取っている
唯一まことの全能の創造主
気付けさえすれば従うだけでいい
一軒一軒説いて回るけど
どの家にも上司や同僚がいて
履歴書を見せて面接をする
読み書きが苦手な環を纏う惑星
自転車で逃げる

SF映画の中
沈んでいく島で
300円のティラミスを食べながら
割れた液晶をスワイプする度に
店の奥のバスルームから
知らない男が出てくる
もうすぐここも海の底

スペイン語を学ばないと
おはようございます
掃除機に吸い込まれるホコリホコリ
私が小さくなっていく
鍵を鍵穴に差し込んで
壊れる彼らが可笑しくて

公園で
草むらで
暗がりで
魔法を覚える
スキニーパンツの片足を抜いて
下着をずらし
魔法を使う

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