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こんどは君が泣く番だ

私は私をずっと見てきたから
お菓子を作るみたいに
人を幸せにできる

便器の水を頭からかけられたことある?
汚い涙で洗うなら
こころはもっと汚くなるだけ
一人部屋に行ったまま帰ってこない
彼女の言葉

言葉

言葉は遺伝子よりも確かに
こころをつなぐきずな
ここでは家族は引き離され
子どもはコミュニケーターとペアになる
伝達されるお父様の言葉
私達はつながる

すべてを持ちより
すべてを分け合う
お金も記憶も幸も不幸も
妻も夫も恋人も
病も死も生誕も

小学校の体育館みたいな広間に集まり
私達は車座になり
一人ずつ語る
みんなで聴く
そして
泣く
語り手が泣き
みんなが泣き
私も泣く
泣いている私を見ている

私は十歳で
八歳の時からグループに居る
生まれる前からみんなと
一つだったような気がしてる
泣きながらそんな風に
感じている私を見ている

私が私から頭に汚水をかけられるのを
私は見ている

私は一人部屋に入れられてしまう
コミュニケーターのズボンに吐いてしまい
臭くて気持ち悪くて
私は上手く舐めることができなくて
私は上手く共有ができなくて
私はわに溶け込むことができなくて

私は見ている
謝る私
耳を塞ぐ私
扉に付いた指の跡を辿る私
一人部屋に響く
言葉
大切な
私達の
きずな

お父様が亡くなり
グループは散らばり
取り壊された施設の下から
いくつかの骨

私は私をずっと見てきたから
お菓子を作るみたいに
人を幸せにできる
感動をどうぞ
便器の水を頭から

鹿児島の実家で
十二歳になる
分かち合った命を
育てる母に
仕送りする

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