そうそう簡単にはいきませんよ
「金継ぎ」とは壊れたものを修復する、いわば大切にものを扱うこと。一度壊れたものをきちんとやり直す人生のようなそんなもの?物事を大切にする人が大切に扱うこと?みたいなことを始めたときにふと思ったことを覚えている。
できた傷を丁寧につなぎ合わせて新しいものに仕上げる。それは人生のようなものだと。何か修復したい過去があるのかもしれない。ただの修復ではない。修復するもので新しく生まれ変わる。そう思っている。
ところが、金継ぎに反対している母が、金継ぎで銀を蒔いたお皿を洗いながら
「そうそう上手くはいきませんよ何ごとも」「?」
蒔いていた銀が少し剥がれてしまっていたのだ。あ〜剥がれたか…西洋食器の白磁なので表面が滑らかで、なかなか着きにくく剥がれやすいのかもしれない。だけど母の一言は、人生そうそう簡単にはいきませんよと言っているようで、それに対して「まあそうでしょうけど…」と応えた私だった。
まあ優等生のようにしてがんばって両親の期待に応えて来たものの、少し遅れて結婚し、まさかの離婚。世にいうシングルマザーとなり大きな詐欺にも遭う。仕事を独立してからも雇うと言い出しときながら無かったことになったり、金額を低く叩かれ、都合のよい解釈で押し通されたりと(笑)まぁずっと一人で頑張って来て親にとっては心配の絶えない私は、まさに「人生そうそう簡単にはいきませんよ」なのではある。
何ごとも人生に置き換えて重きを置くのはいいものの、80を過ぎた母に言われてしまうと成すすべもなく、剥がれてしまったら今度は細い金で蒔いて取れないようにしてやるぞと今の自分に言い聞かせた。
金継ぎは色んな巻き方があり、また漆は色によっても様々だ。先日はピンクもあると知りびっくりした。赤や青など日本の漆的な色だけど、ピンクなんてのもいいんだなと思った。
問題の洋皿は、日々よく使うもので銀なら磨けばなおいいであろうと銀を蒔いたのだった。縁に施してある青い小さな模様を銀で蒔いた上に、丁寧に青色の漆で描き足してつなげた。大切に仕上げたつもりだったのだが、一度できた傷はなかなか癒えないものなのかもしれない。
がんばれ私…。なんて呟きながら自分の傷口と器のキズを重ね合わせる、そんな私の金継ぎ教室なのだ。黙々と砥ぎ蒔き磨き継ぐ。きっときれいに継がれていく。そう簡単には継がれないかもしれないけれど、きっと時間をかけただけ思いを注いだだけ立派に強くなるだろう。
口に出してもどうにもならないつまらないことは、気にしないで伏せて「金で蒔いてやる」と強く心に誓うのであった。絶対負けない。
ありがとう
2024.3.8
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