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Vチューバーでもガチで麻雀していいですか?(十七)

1.Vチューバー続けてもいいですか?

十七


南一局2本場 ドラ5萬

東 桜乃 23500点 
南 戸塚 7500点
西 笹西 22500点
北 玖郎 46500点

 8000点の放銃をした場合、トビとなり負けが確定する。いやでも慎重にならない局面に、戸塚はリーチをかけた玖郎の捨て牌を凝視する。

――平凡な捨て牌にも見えますが、わたしからの直撃狙いだと考えると、変則的な受けで待っている可能性が高いか……?

――くっ。駄目だ……。東、西あたりを切ることはできません。

 思案した結果に戸塚が切ったのは現物の6筒。完全にベタ降りに一打であった。もともと和了の価値が低い彼ではあるが、しかし次巡以降の安全牌に窮する手となっている。

「……」

 直後に手番が回ってくる笹西は、玖郎のリーチに対しては、全く気にする必要のない立場・・・・・・・・・・・である。事前の取り決めで、玖郎は彼女からの出和了であがりはできない。

 なので、ただ必要ない牌を切ればよい――――が、笹西が河へ打ち出したのは5萬であった。

――ど真ん中のドラ!?

 通常、リーチの一発目に打たれることはない牌に、戸塚は驚愕する。
 
 強張る表情の戸塚に、笹西は視線を送る。その瞳で、彼女の真意に気付いた戸塚は、いささかの鎮静を取り戻した。

――しっかりしてください、戸塚さん。らしくもない。

――す、すみません。笹西さんをアシストするべきわたしが、まさか助けられる立場になるとは。

 笹西は玖郎に対しては無敵状態。通っていない牌を切ることによって現物を増やすことができる。もし当たり牌を切れれば玖郎は強制的にフリテン。桜乃が親であるこの局ではツモ和了あがりもしないだろうから、危険牌を打つことは、玖郎の攻撃を封じ込めることに繋がるのだった。

――ふうん。

 直接、玖郎と笹西が対決をするのは、今日がはじめてのことだった。彼女がどういった麻雀をするのか、同団体に所属こそすれ、全く知らずにいた玖郎である。アイドルという肩書から、麻雀の腕は初心者に近いイメージをしていたが、どうやらなかなかにキレるようだと、認識を改める。

 ここでドラ切りという選択は、なかなか初心者ができるものではない。生半可な気持ちで麻雀プロになったわけでなないようだと、玖郎はそう感じた。

 次巡からも笹西は、大きく手は崩しはしないものの、なるべく玖郎のリーチに通っていない牌を切っていった。安全な道を開拓された戸塚は、それに沿うように牌を降ろす。結局、玖郎のリーチは和了ホーラとなることもなく、その局は流局となった。

「「「ノーテン」」」

――なんとか、しのぎました。

 トビの危機を回避した戸塚は、安堵の息を漏らす。

――しかし、笹西さんが切った牌を頼りにオリていたものですから、彼女に全くと言っていいほどアシスト出来ませんでした。八咫さん以外、誰もテンパイ出来ずに流局ですか……。

「テンパイ」

 玖郎ひとりのテンパイコールとともに、彼の手が倒された。おおかた七対子の字牌待ちや筋引っかけの9筒などが和了あがり牌だったののではないかと当たりをつけて、戸塚は玖郎の手牌を覗き込んだ。

「……え!?」 

 思わず立ち上がり、戸塚は叫ぶ。玖郎の和了あがり牌は筋にもなっていない嵌4索。見るからに、なんの意志もないない待ち取りだった。

「しかも、役なしのリーのみ!? これじゃあ、わたしから直撃してもトバせない。1300点しかないじゃないですか!?」

「はは。裏ドラが三つくらい乗ったらトバせるさ」

 カラカラと笑う玖郎。戸塚は、信じられないといった顔で玖郎の顔を見つめる。

「うふふ」

 そのとき突然、笹西が吹き出した。

「凄いですね、八咫玖郎さん。はじめから和了あがる気のないリーチだったってことですか? この点数の並びのまま局消化するのが目的だったんだ?」

 『え、アシスト? どういうこと?』と、桜乃が割って入ったが、その問いに応える者はいなかった。

「この局面だと戸塚さんはオリるし、わたしも戸塚さんを助けるため動く。そういった心理まで、全部読み切ってたってこと? うふふ、なんか凄い、見下されてる・・・・・・って感じがます……」

 人に優劣つけて見下すのが好き。

 笹西狐真瑠は、はっきりと、そう言っていた。

 今の彼女の状況は優勢とは言えない。誰かを下に見れる立場ではない。しかし、それなのに、彼女は心からの笑みをこぼす。

「わたし、誰かに見下されるのも好きなんです。だって――――見下されるってことは、見返すことが出来るってことじゃないですか」

 ゲーム画面では新たな配牌が配られ、南二局へ移行したことが告げられる。

 笹西の笑みも、不敵なものへと変貌したように、玖郎には感じられた。


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