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「いっけなーい!遅刻遅刻選手権」にエントリーしました☆第6話

◯通学路・デパート近くの十字路(朝)
反対側の十字路から現れた学生服姿。
和樹だった。
瑞稀、食パン型参加証を口から離し、
瑞稀「和樹君…」
和樹、掌を前に押し出し、
和樹「おっと!俺にぶつかったら失格になるかもよ」
瑞稀「和樹君、私…」
和樹「瑞稀?どうした?」

◯回想
瑞稀「…好きな人がいるんだよね」
京香「うそ!マジで!?教えて、応援するから!」
瑞稀「向こうは向こうで好きな人がいるからさ。私にはチャンスはないかも」

◯通学路・デパート近くの十字路
瑞稀、じっと和樹を見つめる。
和樹「え、何?何だよ」
和樹、たじろぐ。
和樹を見つめる瑞稀。
瑞稀「和樹君」
和樹「はい」
瑞稀「和樹君はやっぱり…京香が好きなの?」
和樹「んー、そうだね。俺は京香が好きだな」
瑞稀「…そうだよね。京香、良い子だし」
和樹「君も親友想いのいいやつだけどな」
瑞稀「えっ?」
和樹「京香が心配だから一緒に参加したんだろ?ICCC」
瑞稀「えっ?」
和樹「あいつさあ、本当にシュウチンの嫁になりたいのかな?俺は何かを企んでる気が…だからそれを止める為に一緒に参加を…」
瑞稀「和樹君は…私を買い被ってる」
和樹「えっ?」
瑞稀「私は…この『いっけなーい!遅刻遅刻選手権』に真剣に参加してる。京香のことはいつも心配してるけど、それは目的ではない」
和樹「そうなんだ。俺はてっきり…」
瑞稀「私好きな人がいて…」
和樹「えっ、そうなの?シュウチンじゃなくて?」
瑞稀「(笑って)でも全然振り向いてくれないからこの大会に…」
和樹「そう、なんだ…誰だろ?勿体無いやつめ」
瑞稀「…」
瑞稀、口に食パン型参加証を咥える。
和樹「あ、選手権中だったね。ごめんね。邪魔して」
瑞稀、一旦、口から食パン型参加証を外し、
瑞稀「後ろ向いて」
和樹「えっ?」
瑞稀「いいから、後ろ向いて」
和樹「えっ?!あ、ハイ」
和樹、訳も分からず、瑞稀に背中を向ける。
瑞稀、再び食パン型参加証を口に咥える。
瑞稀、少し後ろに下がると、和樹の背中にコツンと肩をぶつける。
和樹「えっ?」
瑞稀「…」
瑞稀、和樹の背中にコツンコツンと肩をぶつけ続ける。
和樹「えっ?えっ?えっ?」
振り向く和樹。
瑞稀、口から食パン型参加証を外し、道に投げ捨てる。
和樹「?!」
瑞稀「京香のこと忘れてくれないかな」
瑞稀、和樹の両肩に手を回し、和樹の唇に唇を重ねる。
× × ×
少し離れた茂みから2人の様子を見ている審判員A、B。
時計を見ていた審判員Aがホイッスルを吹こうとする。
その手をバッと掴む審判員B。
審判員Aの目を見た後、イヤイヤするように首を横に振る審判員B。
審判員A、もう一度瑞稀と和樹を見る。
審判員A「…」
審判員A、後ろを向き、聞こえるか聞こえないかの小さな音でヒュルッとホイッスルを吹く。
審判員A「(瑞稀と和樹には聞こえないぐらいの声で)…0144番、失格」

〇通学路(朝)
食パン型参加証を咥えたまま小走りしてる菜緒。
周りに合陣高校の女子高生は見当たらない。
菜緒(心の声)「もうみんな脱落した…?いや」
菜緒の眼光が鋭くなる。
菜緒(心の声)「あいつは必ず来る筈…」
菜緒、あたりを見渡し、
菜緒(心の声)「どこにいる京香?そろそろ出てきなよ」

〇通学路・十字路(朝)
食パン型参加証を咥えた菜緒が来る。
十字路を超えた先に合陣高校の校門が見える。
菜緒(心の声)「ここが学校の近くの最後の十字路…の筈」
菜緒、十字路の真ん中に立ち、辺りを見渡す。
菜緒(心の声)「そもそも…普通は学校の近くまで食パン咥えて来ないでしょ。どういう設定…ハッ?!」
菜緒の前方、右、左の三方向から一人ずつ、三人の修哉がやってきた。
菜緒(心の声)「また偽シュウチン…」
食パン型参加証の電子音が強くなる。
菜緒(心の声)「音が強くなってる。1人は本物?」
歩いてくる3人の修哉。
菜緒、参加証を咥えたまま360度回転するが音の差は感じられない。
菜緒(心の声)「それとも…三人ともフェイク?!」
三人の修哉がどんどん近づいてくる。
菜緒(心の声)「落ち着いて菜緒。この選手権はそもそも私が優勝する予定の出来レース。だからシュウチンは私にだけ分かるヒントを出してくる筈…」
菜緒、三方向から近付いてくる修哉を改めて見比べる。
菜緒の正面から近付いてくる修哉だけ若干左足を引き摺っている。
菜緒「!」
菜緒、食パン型参加証を口から外す。
菜緒「…見つけた」
菜緒、再び食パン型参加証を咥え、前方からの修哉に向かってダッシュ。
前方からの修哉に激しくぶつかる菜緒。
派手に道路に転ぶ菜緒と修哉。
菜緒の口を離れ食パン型参加証は校門の方に転がっていく。
菜緒、校門の近くに落ちた食パン型参加証を見る。
菜緒(心の声)「ICCCルール規約第4条…修哉へのアタックは一回のみとする。その時の衝撃で食パン型参加証が口から離れ遠くに落ちたとしてもアタックは無効にならない」
菜緒、学生服を叩きながら立ち上がる修哉を見ながら、
菜緒(心の声)「なお修哉にアタックした後は出来るだけ例の台詞を言うことが望ましい。カッコ任意カッコ閉じる」
菜緒、上半身を起こす。
菜緒「(わざとらしく)いったーい!ちょっと!どこ見て歩いてんのよ!」
菜緒(心の声)「恥ずっ!わざとらしっ!」
修哉「直線の道を一方的に走ってきて、随分な言いがかりだな」
菜緒「す、すいません」
菜緒(心の声)「あなたが作ったルールですが」
修哉が菜緒に近づいてくる。
菜緒の近くに屈む修哉。
菜緒(心の声)「あ、近い…(ドキドキ)」
修哉、菜緒の手を取り、地面から立たせる。
菜緒「(照れながら)あ、ありがとう」
静かに見つめあう修哉と菜緒。
修哉と菜緒の顔がゆっくり近づいていく。
菜緒、目を閉じる。
菜緒(心の声)「だから言ったじゃない。出来レースって」
(B.O)

◯回想・スタジオ(1年前)
修哉のYouTube番組の収録風景。
T・8か月前
番組にゲスト出演している菜緒。
修哉と菜緒、楽しく会話している
菜緒の声「私とシュウチンは半年以上前にYouTubeの番組で共演した」
× × ×
収録が終わり、挨拶する修哉と菜緒。
菜緒「おつかれさまでした!」
修哉「おつかれさまでした。(両手を合わせ)すいません、お先に失礼します!」
修哉、にこやかにスタジオから去っていく。
修哉、若干左足を引き摺っている。
菜緒、それを見ながら、
菜緒「…?」
菜緒、通りかかったスタッフに、
菜緒「あの、修哉さん、怪我されてるんですか?」
スタッフ「あー、足ね。アレは…子供の頃に事故にあって少し足を引き摺るクセがあるんだって。もう治ってるし痛みもないのでご心配なくだそうです」
菜緒「そうなんですか。ありがとうございます」
スタッフ「あーその…このことはファンの人には内緒で。配信だけ観てる人には分からないし心配かけてしまうから…だそうです」
菜緒「あ、はい」
菜緒、スタッフにペコリと頭を下げる。
菜緒の声「このことを知ってるのはシュウチンと直接会ったことのある人だけ」

◯ 回想・フラッシュバック
菜緒に三方向から近づいてくる三人の修哉。
真ん中の修哉が左足を引き摺っている。
菜緒の声「シュウチンはこのイベントの参加資格をこの学校の生徒に限定した。おばあちゃんの出身校なんてどうせでっち上げ。この学校に通ってる私目当てなのを隠すため。だからこのイベントは…」
真ん中の修哉に駆け寄る菜緒。
修哉と菜緒がぶつかって倒れる。
菜緒の声「――私のための出来レース」

◯ 通学路・合陣高校の校門の近く(朝)
修哉と菜緒の顔がゆっくり近づいていく。
菜緒、目を閉じ――
(第7話に続く)


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