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感染症問題が導き出した創作のヒント

 時事ネタは、むかしっから得意ではない。
 なにしろ、旬てものがある。
 鮮度のいいうちに扱わないと絶対ダメってもんでもないけれど、
 鮮度が落ちてから扱うのは、もんのすごく難しい。
 よっぽど「読ませる」文章を書くひとじゃないと、今更なにいってんだこいつ、ってなことになる。

 そんなわけで時事ネタは避けてきたのだけれど、
 それでも書かずにいられないほど、昨今の世情は異常だ。

 うちには幼い息子がいる。
 彼はいま、学校に行けず、外にも出られず、新学期についてもあいまいなまま、不安な毎日を過ごしている。
 ひとり親世帯なので、わたしが会社にいけば、彼は孤独だ。
 じいちゃんはいるけど。
 あと犬。

 やがて、息子はストレスのせいで分離不安になった。

 かあちゃんが残業ばかりしていると、ひとりの時間が長くて耐えられないらしい。
 だから仕事なんか行かないで、家にいてくれと毎晩泣くわけです。
 あっ社畜やめたんで、定時で帰りますけど?
 んなこと、幼い子に言ったってわかるわきゃーない。
 定時だって夕方だ。じゅうぶん長い。

 しかたがないので、期間限定にして、息子にメッセージアプリを解禁した。
 さみしくなったら、いつでもメッセージをよこしなさい。
 絶対に見るから。約束するから。
 そう言ったら、少し落ち着いた。

 アプリ解禁の初日は、付き合いたての10代女子みたいな頻度でメッセージが来た。

 いまなにしてる?
 なにやってるのかな?
 返事がないけど、どうしたの?
 なにしてるの?
 どうして返事しないの?
 ねえ。
 ねえ。
 ねえったら。(スタンプ連打)

 ……

 仕事してるよばかやろう。

 そうは言わずに、ごめんね、お仕事に夢中になっていたんだよウフフと、
アプリのなかだけに生息する優しい親として返事をするのが日課になった。
 やがて息子の不安も落ち着いてきた。

 それにしても、と思う。

 国語嫌いの息子にとっては、このメッセージアプリが思わぬ構文の勉強になっているようだ。
 これはうれしい誤算だった。
 自分の気持ちが伝わるように、言葉をえらんで、語順に気をつけて書いている。
 傍目で見ていて、それがわかるんだからすごい。

 なるほどなあ。
 特定のだれかに届けようと思うと、文章っていうのは飛躍的にうまくなる。
 これは、物書きの自分にとっても大切なヒントじゃないかしらん。

 学びの多いメッセージアプリだけど、息子の学校が再開すれば消すつもりだ。

 彼が次にメッセージアプリを使うときは、もう少し大きくなって、
 ネットリテラシーの基本くらいはわかったうえでやることになるだろう。
 そのときには、きっと伝えなくては。

 返事の催促は、100%嫌われるからやめておけよと。

 ほんとに。
 母ちゃんびっくりしたからな。
 やめておけよ。血のつながってる親がめんどくせえなこいつ!って思ったんだから、相当だぞ。
 ほんとだぞ。


ここまで読んでくれてありがとうございます。 あなたの暇つぶしになれたらうれしいです。 これからも楽しんで物書きしていくので、次も読んでくれたらもっともっと嬉しいです。