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「彼岸より聞こえくる」第5話

バイトから帰り、自室のドア開けたとき、
俺は暗がりの中に違和感を感じた。

(なにかがいる…?)

体が硬直し、心臓が早鐘を打った。
それは物理的なものの気配だった。

俺は、静かにリュックを背中から胸側に移動させ、
体の中心を守る準備を整え、

そっと部屋の明かりをつけた。


!!

そこには、正座の兄貴がいた。

「なんだよ~、電気くらいつけろよ~。」

それには返事をせず兄貴は、

「明日、オカ研の部室に来てほしいのだ。
雪ちゃんとたっくんの調査結果を発表するのだよ。」

と神妙な面持ちで言った。

***
 
 翌日、部室に行くと、
ゆかいな仲間①たっくんと
ゆかいな仲間②雪ちゃんと
兄貴がそろっていた。

「全員そろった様ですな。
それではさっそく、たっくんの調査結果から聞かせてきかせてもらいましょうか。」

「御意!それでは拙者の調査結果から…」

 あれ?たっくんと言えば前回は
西郷どんみたいなしゃべり方だったよな…?


「たっくん、今回は忍者キャラなのね!
とても適切だと思うわ!
でも、それに比べて私なんて…何のひねりもなくて…。」

 え?え??
えーと?

前回のたっくんは、西郷どんを演じていた…
ってことかな…?



「何をおっしゃるか、雪ちゃんはそのままで十分素敵でござる。」

 かぶせるように兄貴も、


「そうですぞ!雪ちゃんはそのままで十分素敵なレディですぞ!」

 そう言ってから、キラキラした目で俺を見た。
よく見たら、たっくんと雪ちゃんも俺を見ている。

 期待のこもった三人の視線に耐えられなくなった俺は

「す、素敵…と…もいます…!」

と、噛み噛みの言葉と、
ひきつった笑いを三人に向けた。


 
 たっくんの聞き取り調査の結果をまとめると、
廃ホテルで目撃されるのは若い女の幽霊で、

髪は明るめの茶髪でくせ毛(パーマ?)で肩より少し長く、白のノースリーブを着ている。
ホテルの窓からの目撃情報しかなく、その窓はいつも同じで、最上階の左奥の窓だそうだ。


 雪ちゃんは噂好きのおばちゃんをキャッチしたようで、週刊誌レベルの情報がもたらされた。

件のラブホが廃業に追い込まれた経緯として、十数年前の夏、若い女の絞殺死体が発見された。
捜査の結果、被害者は上京後、一人暮らしをしていた女性。
犯人はいまだ捕まっていない。

 ほとぼりが冷めたころ、ホテル側も営業を再開したが、ある一室で血の涙を流した女の幽霊が出ると噂が広まり、はじめのうちは怖いもの見たさで来る客もいたが、そのうちに、だんだんと客足も遠のき、結局は経営不振のため廃業したとのことだった。

 あの日俺が部室で見た女も、
ミディアムの茶髪のウエーブヘア、
白タンクトップに黒ミニスカートの出で立ちだったので、
おそらくは同一人物だろうところまでは確認できた。

「あとは、丞(たすく)に、直接姫様の中の霊と会話をしてもらえれば、更なる情報が得られるのではないかと思うのだが、どうだろうか?」

「俺もできるならそうしたいが、あいつ、あれから学校来てないだろ?」


『姫、帰る!!』と言ったあの日の翌日から、如月卑弥呼は学校へ来ていなかった。

「安心してください!!
如月会長の自宅の場所もちゃ~んと調べてありますよ!」
雪ちゃんが力強く言った。

「でかしたですぞ雪ちゃん!
さすがはオカルト研究会の紅一点!!
それでは、さっそくこれから卑弥呼様の自宅へレッツ…」

こいつら…狙った獲物は逃がさないタイプって言うか…
敵に回したらめんどくせーかもな…。

とはいえ、断るところは断らんと、俺にも俺の人生がある。


「いや、俺、この後バイトだから今日は無理。」

 飼い主にお留守番と言われた子犬みたいな表情になった兄貴。


すかさず雪ちゃんが俺の眼前に拳一個分くらいまで迫った状態で、

「それじゃ、弟さんの空いてる日はいつですか!」

と、聞かれ、勢いに押され思わず、

「バ、バイトは月木が休みです(汗)」

と答えてしまった。


「すると、最短で明日の放課後…。
憑りつかれているとだんだんと生命エネルギーが枯渇してくるケースも多いので如月会長の命が心配です。

心霊スポット巡りをしたのが8月31日、9月1日から学校が始まり、9月2日に部室に来訪。

 それが一週間前。

あの時の姿からいくとそんなに急激にエネルギーを奪うタイプの霊ではないようなので、明日ならまだ間に合うと思いますが、万が一、急激に変化しないとも限らないのでできるだけ早く…、

明日、お願いします!」


 雪ちゃんの読みは、いい線行ってる。
大抵の場合、憑かれてしまうと、生命エネルギーを消耗してしまう。

それは、霊の方の意思とは関係なく、異世界のもの同士が関わるペナルティのようなものではないかと俺は思っている。

 まぁ、どちらにせよ、今日バイト休んでも、あの女、今、家にいないんだ。
いや、今日だけじゃない。
どこに行ってるのかわからないが、毎日帰宅は21時過ぎている。

(おい、如月卑弥呼、そこ、どこなんだよ。
毎日学校さぼってどこ行ってんだよ。)

呼び掛けても、全く返事がない。

霊体であれば、どんなに距離が遠くても会話することは可能なんだが、卑弥呼とはうまくつながれない。

完全な霊体じゃないからかもしれない。

 そう考えると逆に、繋がらないほうが、いい状態なのかもしれない。

 卑弥呼が見ていると思われる景色が見える事はある。

図書館、新聞、PCで、アイドルの情報を調べているようだ。


死者が体を得て…調べもの…。
一体、何がしたいんだ…?
 


#創作大賞2024 #ホラー小説部門

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