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【応募作品】直感

「結婚式やるから、招待状送っていい?」

中学生時代の数少ない友人からきた久しぶりの連絡は、なんとも縁起の良い内容だった。
友人と言っても、年に数回やりとりをするかどうかの距離感だが、元々友達の少ない私にとっては数少ない貴重な学生時代の友人だ。

「おー行くいく、楽しみにしてるわ!ところで誰呼ぶの?」
「知ってそうな人だと◯◯と◯◯と…」
「あ、よかった、結構いるね」
「君の卓は知ってる顔しかいないはずだから大丈夫だよ!」

そんな話をしつつ、あの人も来るのか、この人知ってるけど全然交流なかったな、などと考えながら気付けば結婚式当日を迎えた。


会場に入るなり懐かしい顔ぶれと、見覚えのある程度の顔と、初対面の顔で会場はごった返していた。
当日某流行病が本格的に流行る直前ということもあり、マスクもなく談笑している人たちが沢山いる。
席に着くと仲の良かった友人達と会話が始まり、少し離れた場所にある卓の話題になった。

「あの席にいるの、七瀬じゃない?」

確かにそこには、小中高と見覚えのある顔があった。

「あーそっか、大学も一緒だったもんね。新郎と。」

見覚えも勿論あるし、共通の友人もいる(新郎が共通の友人だ)相手だったが、クラスがかぶることもなく絶妙に関わりのなかった彼とはほぼ会話をした記憶がなかった。
そんなこともあってあまり彼に興味がなかった私は、何となくでその会話を聞きつつ、目の前に運ばれてくる美味しい食事に夢中だった。

披露宴も無事終わり、二次会会場へ移動する為席を立った。
ところがコートを受け取ろうとクロークへ向かう途中、バッグのチェーンがドレスの肩部分にあしらわれていたレースに引っ掛かってしまった。
冬の北海道を歩くには、パーティドレスはなかなか寒い。その日も案の定極寒だったので、袖のあるパンツドレスに厚手のコートという装いのため、レースを守る上着を着ていなかったのだ。

「うそ、どうしよう」
自分で取るには絶妙に見にくい位置が絡んでしまい、一緒にいた友人がなんとか解こうとしてくれていたが、私と15cm近く身長差のある彼女にはなかなか難しい。

廊下の隅の方で格闘していると、ふと肩を叩かれた。
七瀬だ。

「取ろうか?」
「お願い!」

答えたのは友人だ。
見かけによらずかなりのコミュ障な私は、突然のことに思わず目を丸くして、ほぉ、という声しか出ず動けないでいた。
七瀬は「はいはーい」と軽く返事をすると器用にチェーンを外していった。今思い返すと、その時の手は少し震えていたようにも思う。

あっという間に元通りになった肩口をみて、「はい、どうぞ」と言った。綻び一つなく、完璧だ。

「ありがとう!助かったー!」

なんとかなった安心感からか、漸くいつものトーンで声を出すことができた。ちゃんとお礼言えて良かった、と心の中で胸を撫で下ろした。
それを聞くと穏やかに微笑み、軽く手を振って人混みの中に消えていった。

その一連の仕草と、物腰の柔らかさと、ちょっとした優しさを垣間見た私は、「この人と一緒にいたら、きっと穏やかで幸せに過ごせるんだろうなぁ」と何となく思った。
完全に直感だ。
私は人との付き合いに関しては、良くも悪くも稀にこういう直感が働く。
そんなことを感じたことも忘れかけ、二次会も楽しく過ぎていった。


数年後。

私は当時のことを懐かしく思いながら、フィクションとノンフィクションを混ぜつつこのnoteを書いている。
隣には1人で盛り上がりながら某野球ゲームに夢中な夫。
その様子を眺めながら、某野球ゲームのBGMを口ずさみ、淹れてもらった珈琲を飲みつつひっそりと書いている。恥ずかしいので彼にはバレないことを願う。

ふと、スマホの通知音がなった。
数ヶ月後に控える私たちの結婚式の打ち合わせの案内だ。
タグイベントにはじめて参加しようと思ったのは、結婚という新しいスタートを切ったからだ。せっかくだから記念に、というようなノリで書いているが、既に若干後悔もしている。

まぁでも、いい思い出は形に残しておきたいものなのだ。


私は隣の夫に尋ねた。



「七瀬、1回目の結婚式の打ち合わせいつ行こうか?」


#やってみた大賞
#結婚式の思い出

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