【掌編小説】不器用なわがまま
我儘は苦手だ。
特に自分が我儘を言うことが。
申し訳なさと悔しさで溢れてしまうから。
心から羨ましい。
自分の要望をうまく相手に伝え、周りに不快感を与えずに頼れる人が。
その行動をとっても罪悪感で一杯にならない感情コントロールの上手い人が。
今私の隣には、その羨む性質を持った人がいる。
元からの私の性格のせいか、多少の我儘は許してしまう。
といっても、仕事終わりに突然「会いたい」と連絡がきたり、「一緒にご飯が食べたい」と言われたり、帰宅を拒まれたり。世間一般からすると割と普通の我儘(と言うより日常)なのだろう。
私はこのアピールの仕方が、不自然でもなく、いやらしくもなく、全く不快感がないので毎度感心してしまう。
だから私も見習って、少しずつ、「会いたい」「一緒にご飯が食べたい」「〜に行きたい」と伝えるようにしている。そしてそれを喜んで受け入れてくれる。嫌なことは嫌、無理なことは無理と言う相手だから、我慢はしないとわかっているから、受け入れてもらえた時の喜びが大きい。
我儘が苦手だったのは、
自分の感情を伝えるのが苦手だったのは、
受け入れてもらえるか不安だったからだった。
もちろん無理な我儘は言わないが、それでもほぼ無条件に受け入れられるというのは、こんなに安心するものだと初めて感じた。
再会したあの時感じた直感は、間違いではなくて。
少し交わした言葉と、もらった優しさで、
もしかしたら「この人には我儘を言えるかもしれない」と心のどこかで思っていたのかもしれない。
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