Netflix映画『マイヤーウィッツ家の人々』

ヤング・アダルトな大人になりきれない男たちを描かせたら右に出るものはいない、バームバックの最新作だ。まずは、監督の名を見た時点で即見ることを決めていたけれども、配役の豪華さに驚いた。父親であり彫刻家、一番大人になれていず家族を振り回す男ハロルド・マイヤーウィッツにダスティン・ホフマン。長男でピアニストを志すも挫折してしまったダニー役にはアダム・サンドラー。腹違いの次男でやり手のベンチャー企業経営者のマシュー役はベン・スティラーが演じる。長女のジーン役のエリザベス・マーヴェルは、あんまり記憶になかったが『脳内ニューヨーク』や『バーン・アフター・リーディング』等コーエン兄弟の作品によく出ている女優だ。うん、なんかその感じわかる。いい女優である。

この映画は、親子3代に渡る家族の肖像であり、ままならぬ人生を懸命に生きる人々を慈愛とユーモアを込めて描いた作品だ。「ダニー」「マシュー」「ジーン」とそれぞれの物語が断片的に語られる。

物語は、ダニーが離婚をしてハロルドのところに転がり込んでくるところから始まる。美大の教授を務め上げて退職したハロルドは、自身の作品が世間に認められず、MoMAで大個展を開催した友人の成功に、たいした作品を作るわけでもないのにセールスが上手いだけだと悪態をつく。妻のモリーンはアル中で、予想もつかないおかしな食事を出す。ハロルドは自分が断酒させたと思っている。ハロルドはダニーの前で常にマシューを褒める。それにダニーはジェラシーを感じている。

ダニーは娘が生まれてから無職で専業主夫をしていた。育児はうまくいっていたようで、娘と父の絆は深い。2人でピアノの連弾をするシーンは親子で過ごした甘美な記憶を想起させる。しかし、娘はあっさりと彼氏の車に乗り込んでしまうのも現実なのだよな。
マシューはマシューで、父の作品やニューヨークの自宅の売却の話や自分の近況の話、子どもの話などを父に報告したいのに、まったくハロルドは聞いていない。さんざん人を振り回した揚げ句、逆ギレする。たまりかねたマシューは、ハロルドをそれでも親かと怒鳴りつける。

ダニーがプレゼントしたビリヤードのキューを怒りに任せてあっさり折ってしまうシーンや、2人でタキシードを着て美術館のMoMAのオープニングに行ってしまうシーン、シガニー・ウィーバーにあったと後に周囲に自慢するシーン、終始ニコリともしないハロルド、苦笑するしかない。

突然ハロルドが病に倒れる。脳梗塞かな。しばらく生死の境をさまよい、会話もままならない状態が続く。姉兄弟3人はさらに結束を固め、父の看病に集中する。

父の看病をする病院で5分ごとに担当看護師が変わるのとか、その引き継ぎが全然できていないのとか、突然担当医師が3週間バケーションに出ちゃうのとか、医師の説明を姉兄弟三人で必死に書きとめるシーンとか。ジーンの演技が絶妙でよかったな。そして(ジーンの物語)で、3人のいろいろももやとしていた想いがスパークする。

「この家族の中にいるつらさは誰にもわからない」とジーン。父は2人の息子に夢中で、気にかけられてこなかった娘の気持ちが吐露される。

結局一命をとりとめたハロルド。

「父さんが何か一つでも、絶対に許せないことをしてくれてればって。でもそうじゃないんだよな。小さいことが積み重なって」とダニー。

結局変わらない父にイライラしつつ、一定の距離を取ることを学ぶダニーは、呪文のように「I love you. forgive you. forgive me. good bye.」と唱える。父との再会を経て、ダニーは大人になったのだ。

と、父子、兄弟の話はたっぷりと語られているのだけど、ジーンはどうしたの?ジーンは。母親の話はほとんど出てこない(父が危篤になっているのに登場しないところを見ると相当仲が悪いか、または死別したのだろうか)からわからないが、父親からはほとんど無視されている状態で、献身的に倒れた父の看病をするが、そこで出てくるのはダニーとマシューの話ばかり。家族でそれぞれが何をしているか話をしているときも、一般企業の話に興味がないのかすぐに話を遮られてしまう。しかも、思春期にポールから性的いやがらせを受けた後にも、特にフォローなし。最悪だ。最後、姪っ子の映画に出演を果たし、姪っ子の彼氏から長い髪をばっさり切ってもらったことで、ずいぶんさっぱりしたように見えたが、もう少しフォローして欲しいなという気持ちは拭えなかった。バームバック監督の作品はいつもそうだ。『イカとクジラ』も母親はそんなに強く印象には残らないし、『マリッジストーリー』のスカヨハは結局は自分の仕事について理解はしてもらえなかった。女が新しい道を見つけて変化していく(最終的に側にいるのは別の男であることが多い)話は多いが、男が女との関係を考え直して、自らが変革をして、相手(女)をきちんと受け止めるような物語が生まれるのは、もう少し後のことなのかねえ。

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