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魔法使いのいる公園

幼稚園帰り、母はよく私と妹を自転車に乗せて公園に連れて行ってくれた。

そのうち、私たちのお気に入りのよく行く公園ができた。
そこは少し特殊な公園で、手作りの遊具がたくさんあって、ボランティアの大人が常時数名いた。一緒に遊んだり、遊具を手作りでみんなで作ったり、焚き火をしたり、、などとにかく毎日イベントの絶えない、行けば誰かしら大人がいる公園だった。
もしかすると、常時ではなく、母が大人がいる日を選んで行っていたのかもしれない。

私たちは公園そのものもそうだが、そこにいる大人たちとの関わりを楽しんでいた。
公園から出て、一瞬に買い物に行ったり
ご飯を食べに行ったり、お家へ遊びに行ったりするようになっていくのに時間はあまりかからなかった。

その大人たちと行動を共にする時間は徐々に増えていき、いつの間にか私の世界の大半はそこにあった。

父は、その世界の完全に外にいた。
父は仕事が忙しく、平日は会えたらラッキー、土日は疲れて昼間も寝ていた。
なかなか会えないけど大好きなお父さんに変わりなく、土日は度々私が無理やりに寝ている父を起こし、遊びに連れていってもらっていた気がするが、
「父と遊ぶ」は結構なレアイベントだった。

一度か二度、父も一緒に私達の公園に行った事があるが、今思えば、父はなんとなくずっと不機嫌だったような気がする。
期待していたよりも楽しい日にはならなかった。
公園と父との距離は遠ざかっていく一方だった。

同時に、父と母の心の距離も離れていっていたんだろう。

公園内で、私たちが特に急速に距離を縮めた男がいた。
その男は周囲からナベちゃんという愛称で呼ばれていた。
公園の近隣のアパートに住んでおり、無職だが親の金で悠々と暮らしているためヒマを持て余しては公園に来て遊んでいる自由人らしい。
ユーモアたっぷりで、子どもと全力で遊んでくれる母と同年代の楽しいおじさん。
駄菓子屋さんに当たり付き菓子、タトゥーシール、ようかいけむり、不思議な動きをする虫のおもちゃ、謎のアート。
初めて目にするものをたくさん見せてくれた。楽しい刺激をくれる見たことのない魔法使いのようなオモシロ人間ナベちゃんに私たちが懐くのに時間はかからなかった。

それは母も例外ではなかったようだ。

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