見出し画像

海にまつわる話

住み着いた家の裏庭には、一列にアダンの木が茂っていて、
それをくぐり抜けたら即ビーチだった。
観光客が来るような場所ではなく、隣近所の人たちが遊ぶ小さなローカルビーチ。
ここはどれほど居ても飽きなかった。
掃いて捨てるほどある貝殻やサンゴ、シーグラスを拾い集めて遊んだ。
遊んでる最中に大便がしたくなり、ナベちゃんに言うと、
おもむろに砂を掘って和式便器を作り、その中にしろと言った。
もしかしたらまだあのビーチには、私たち姉妹の大便がいくつか埋まってるかもしれない。(ごめんなさい)

近所の港へ散歩へ行くと、そのへんに居るうみんちゅが魚を分けてくれる。
この事を私は普通に親切で貰っていたと思っていたけど、実際はナベちゃんが巧妙に集っていたのかもしれない。知らんけど。
ともかくおかげで私は、ホラ貝、ハリセンボン、エンゼルフィッシュ、その他色とりどりの熱帯魚の味を知っている。

少し住処から離れた大きめのビーチに遊びに行くこともあった。
確かネパール人の家の裏が大きいビーチだった気がする。
ネパール家族と和気あいあいの中、
何故だったか、たしか浮き輪つけたいなんて甘ったれるなとかなんとか言ってナベちゃんは私を持ち上げ、ニヤニヤしながら海へほりこんだ。

子供にはすぐに足がつかなくなる深さの海だということは私も分かっていた。
案の定、足を伸ばしても地面にはつかない。
がぷん、と大きく塩水を飲み込んだ瞬間パニックになり、引いては寄せる波でだんだん浜から遠ざかっていく気がする恐怖の中、バタバタともがき必死で助けを求めた。

ナベちゃんはニヤニヤ顔で仁王立ち、ネパール人が大丈夫なの?と心配しているのに大丈夫大丈夫おおげさなだけで溺れてないから、と言い、母は、も〜ほら早く上がっておいで〜と全員浜で見ているだけだった。
わたし、4歳だよ?
何で誰も助けてくれないの?溺れてないから?
溺れたら助けてくれるの?そっか。
バタバタしすぎて疲れたし鼻から水がたくさん入って痛いし、目も痛くてあけられないし、あれから水もたくさん飲んで苦しいけどまだ溺れてないのか。
と、思って、意識のあるうちにバタバタするのをやめ、沈みがちになってみたら、やっと抱きあげてもらえた。

意識はあったけど、このところ冷遇されていた私は、寝ている私を皆んなが心配そうに囲んでくれて、ナベちゃんが母にちょっと怒られていて、私が可哀想がられている状況がひどく甘美で、
まだ朦朧としているふりをしながら母の膝枕に全力で甘え泣いた。
妹に邪魔されずお母さんに甘えられるのは少し久しぶりだった。

あれから、海は少し苦手。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?