「こども」が「おとな」に育つまで ~成長と発達と個性のおはなし~ ④

いきなりですが、今回は、認知力のそだちについてお話ししたいと思います。
スイスの児童心理学者ピアジェ(1896-1980)は、「発達心理学の父」と呼ばれています。こどもの思考はおとなの思考と異なり、こどもは科学者のように実験と観察を繰り返しながら自らの「知」を構成していく、とピアジェは主張し、『認知発達理論』を提唱しました。この理論は、ヒトの知能・心理の発達を、「生物的な成長」と「成長過程の中で知識・経験を重ねたことによる成長」の両面から考察したもので、さらにピアジェは、人間の考え方は段階的に発達するとして、誕生から青年期までの認知を次の4つの段階に分類した発達段階説を唱えました。
①感覚運動期(0~2歳)、②前操作期(2~7歳)、③具体的操作期(7~11歳)、④形式的操作期(11歳~)。
また、認知力(知覚・記憶力・推理力・言語能力など)の成長は、個人差はあるものの、この順序は普遍的なものだとピアジェは主張しています。

認知発達段階説の4つの段階を見ていく前に、ピアジェがこどもを観察して導き出した、ヒトがいろいろなものを認知し学んでいく仕組みについてお話しします。
1.「シェマ(認知構造)の獲得」:情報処理の枠組みを得る
2.「同化」:新情報を既存のシェマで処理する
3.「調節」:新情報を既存のシェマで処理できないとき、認知のやり方を変える
4.「均衡化」:同化と調節によって認識精度を高める
均衡化を繰り替えるうちにシェマが変化していくことこそ、発達なのです。たとえば、赤ちゃんの「吸う」という行為を例にすると、発達のプロセスが以下のように説明できます。
1. おっぱいを吸ってみたら母乳が飲め、お腹が満たされた「シェマの獲得」
2. 哺乳瓶も吸ってみたらミルクが飲め、お腹が満たされた「同化」
3. タオルを吸ってみたが何も飲めず、お腹は満たされなかった「調節」
4. お腹がすいたらおっぱいや哺乳瓶を吸い、タオルは吸わなくなる「均衡化」
このように、「もう知っていること」と「新しく知ったこと」の間でバランスをとることにより、発達が進んでいきます。

それでは、4つの発達段階について、みていきましょう。
① 感覚運動期
 0歳~2歳の乳幼児期をピアジェは「感覚運動期」としました。生後1か月くらいまでは反射的な行動を使って外界と接触を持ち、シェマの土台を持ち始めます。自分と他者の区別はありません。成長とともに自らの体を動かし、五感の刺激を求め、シェマ・同化・調節を繰り返します。周囲の人の声かけ、お世話、スキンシップで「他者と自分を区別」「ものの形や役割」「物事を予測する」ことを覚えていきます。生後6か月ごろには「対象の永続性」を獲得し、手や布で覆って物を見えなくしても、物はその場所に存在していると理解できるようになります。生後8か月ごろには自分が見たり聞いたりした相手の手の動きや発声を真似できるようになり、1歳半ごろには相手の動作を記憶して後から模倣する「遅延模倣」や積木を電話に見立てて耳に当てるような「ふり行為」ができるところまで思考が発達します。
② 前操作期
 「操作」とは情報を正しく処理すること、という意味で用いられています。まだ情報処理が未熟なため2歳~7歳は「前操作期」と呼ばれます。この時期は言語機能、運動機能ともに発達が著しいですが、「主観的世界」と「客観的世界」をまだ明確に区別できておらず、サンタクロースや鬼の存在を心から信じるなど、想像と現実が混同される特徴があります。想像力を使った「ごっこ遊び」を盛んに行う時期で、ぬいぐるみも人間のように考えたり感じていたりすると思い込む(「アニミズム」)という特徴もあります。論理的思考力、共感力は未発達で、目立つ部分にばかり意識が向いたり(「中心化」)、自分が楽しいことは相手にとっても楽しく、自分に見えないものは相手にも見えていないと思っています。かくれんぼで、自分の両目を手で覆って隠れたつもりになっている、といった自己中心的な思考・行動パターンになります(「自己中心性」)。
③ 具体的操作期
 小学校に通う頃になると論理的思考を獲得し始め、相手の気持ちを考えて発言・行動できるようになります(「脱自己中心性」)。数的概念が理解できるようになり、重さ・長さなどの比較も可能になります。実際に手を動かさなくても、情報の処理を頭の中で行えるようになっていきます。その結果、具体的操作期の特徴である、「保存の概念」を獲得し、見た目(コップの形や並べ方)が変わっても量や数は変わらないことが理解できるようになります。
④ 形式的操作期
 11歳ごろから、物事に筋道を立てて予測しながら考える論理的思考のほかに、抽象的思考や仮定的な推理ができるようになります。抽象的思考とは、具体的な事象・時間の流れにとらわれずに「物事を広い視点で考える」ことです。実際に自分で体験したものでなくても、説明や映像などから具体的なイメージを描いたり、判断ができるようになります。今までの知識・経験を応用して仮説を立て、結果を予測して行動・発言することも増えます。

 さて、自閉症タイプの脳も(今までのお話に出てきていませんがADHDタイプの脳も)、私はこのピアジェの認知発達段階説の順序で成長していくと思っています。ただ、シェマの同化や調節の仕方に特徴があるのです。そして、なかなかにそのクセや偏りが強いのです・・・。(つづく)

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