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彼らの歌は誰のものか ー流れなかったJoy!!

2020年10月、芸能界に2つの訃報がもたされた。
「日本一ヒット曲を生んだ男」と呼ばれる筒美京平さん。(10月7日死去、80歳)
そして、実力派バンド「赤い公園」のギタリストである津野米咲さん。(10月18日死去、29歳)
奇しくも二つの訃報が公になった10月12日、19日は、稲垣吾郎さんがパーソナリティを務める東京FMのラジオ番組「THE TRAD」の生放送がある月曜日だった。
筒美さんは「心の鏡」「負けるなBaby!~Never give up」「BEST FRIEND」(すべて1992年)、津野さんは「Joy!!」(2013年)でそれぞれSMAPに楽曲提供をしており、稲垣さんは番組内でそのことに触れつつ、哀悼の意を表した。
しかし、音楽番組である「THE TRAD」内でそれらの曲が流されることはなかった。
実際のところ、2019年9月に同番組がスタートして以来、2003年のSMAPのアルバム『MIJ』から稲垣さんのソロ曲「Thousand Nights」(名義はSMAP)、稲垣さんのソロプロジェクトである&G名義の「平和の歌」以外にSMAPの楽曲が流れたことは一度もなく、それは稲垣さんの他のラジオ番組、そして同じ時期に前所属事務所を退所した草彅剛さん、香取慎吾さんの番組でも同様である。
これは、退所後に発売された彼らの楽曲が何度となく流されているのとは対照的だ。

もちろん何らかの意図のもとに、彼らがあえて「流さない」という選択をしていることは否定できない。
それでも例えば2020年7月「Thousand Nights」をかけた時に、稲垣さんが「僕、この歌歌っていいんだっけ?」と発言したことは、退所後の彼らにSMAP名義の楽曲の実演や使用についての何らかの制約があることを伺わせる。
そもそも前述の「BEST FRIEND」は、SMAPが大切な場面で長く歌い続けてきた最重要楽曲の一つであり、記念すべき50枚目のシングル曲「Joy‼」も、稲垣さん自ら「大切なシングル」「コンサートなんかでも盛り上がる曲」と語る楽曲である。
ちょうど自分がパーソナリティをしている音楽番組の放送日に届いた訃報に際し、亡くなったお二人への感謝の言葉を躊躇なく語る稲垣さんが、その、自身にとっても大切な楽曲を流すことで哀悼の意を表す方が自然な状況で、それを流さないということ。これ以上の不自然、違和感はない。
そのこと自体が、やはりSMAP楽曲使用に関する制約の存在が事実であることの証だと思える。

こういうことがあるたびに、歌とはいったい誰のものなのだろう、と思う。

もちろん文字通りの意味では、ある楽曲はその著作権者のものだ。
SMAPの楽曲の著作権は前所属事務所ではなく、音楽著作権管理団体のJASRACが持つ。また楽曲の著作権とは別に、主にレコード会社などが持つ原盤権という権利もある。
著作物を使いたい場合にはJASRACに所定の料金さえ払えば自由に使うことができるし、JASRACには応諾義務があるので、正当な理由なしに特定の人に著作権を許諾しないということはできない。
つまり著作権法的には、稲垣さんはこの手続きを踏みさえすれば自由にSMAPの楽曲を実演できるし、当然、自身の番組で使用することも可能だ。
「前事務所を辞めたら、それまでの自分の曲を歌えない、番組で流せない」などということは、一般常識ではあり得ないことになる。
しばしば「業界人」が、あたかも「辞めたら歌えない」ことを当然のように語る声を聴くことがあるが、これはまったく非常識な認識だということだ。

問題は、これ以外にも当事者の間で交わされている契約がある可能性だ。例えば契約終了後一定期間、過去の楽曲を実演して新たなレコーディングを行わないことなどはこれにあたる。
前述のとおり恐らく彼らと前事務所との間にも、SMAPの楽曲にまつわる何らかの契約が交わされていることは、これまでの経緯を見ても想像できる。

契約というのは絶対的な力を持ち、それがどれだけ不当なものであっても、正当な手続きをもって交わされたものをひっくり返すのは容易ではない。
しかし、その内容の不当さが露わになれば、そのような契約を結んだ当事者への批判は起こるかもしれない。それが何かを変えていく可能性はある。
ただ、今私たちにはその存在、内容を想像することはできても、それを確かめるすべがない。
もしもそれができるとするなら、彼らがSMAPの楽曲を実演したり使用したりした時、何が起こるのかを見ることだけだ。

仮に私たちが想像するような契約が交わされているとしたら、例えば現在稲垣さんが務めている「リスナーからのリクエストに応える音楽番組のパーソナリティ」という仕事をする上での大きなハンデとなるのは明白で、それはつまるところ、公正取引委員会が「独立、移籍の制限」として禁止した事項に抵触する可能性もあるのではないだろうか。

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津野さんの訃報が伝えられた時、SNS上には特別にSMAPのファンではない人たちからもSMAPが歌う「Joy!!」を求める声が上がった。


私には難しい法律も権利の話もわからない。多くの人たちの願いを妨げているものがいったい何なのかもわからない。

それでも、たくさんの人に愛されるために作って、実際にたくさんの人に愛されて求められるようになったものを、蓋をして閉じ込めるのは本当に罪深いと思う。
少なくともエンタメを名乗る側がやるべきことではないと思う。

何より津野さん自身が思いを込めてSMAPのために作り上げた楽曲を、なぜ今彼らが歌えないのか。
私たちがそれを聴くことができないのか。


筒美京平さん、津野米咲さん、
SMAPに、そして私たちに、いつまでも忘れ得ぬ素晴らしい歌をありがとうございました。


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