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渾身のパンチラインだって無視されることはある


先々週の日曜日、僕からすると超特大スーパービッグイベントがあった。

僕が芸人を目指すきっかけとなった方(以下メシアと呼ぶ)の東京ドームライブの日だった。

しかも偶然にもその日は僕の誕生日。
これはもう行かざるを得ないじゃないかと半年以上前から心待ちにしていた。

チケットも見事勝ち取ることができ(20万人を超える応募数の中から見事アリーナ席を勝ち取った)、事前にTシャツやポスターを買って気持ちを昂らせていた。

僕のnote古参さんたちならご存知だと思うが、僕は以前メシアの半生を描いたドラマのエキストラに参加したことがあり、そのエキストラ参加がきっかけでこのnoteの毎週投稿をしだした。


この「再始動」から全てが始まったのだ。

このエッセイにはそのときのエキストラのことや僕がメシアにどれだけ影響されたか、そしてなぜnoteを毎週投稿しようと思ったかが書かれている。

このエッセイの最後に、エキストラで知り合った後輩くんとメシアのライブに行く約束をしたと書いたのだが、実はそのライブとは東京ドームライブのことであり、この投稿から約9ヶ月も先の約束であった。


メシアに憧れて芸人になり、そのメシアのドラマのエキストラで知り合った後輩くんがきっかけでnoteを毎週投稿しだし、その後輩くんとエキストラ中にメシアの東京ドームライブに行くことを約束した。

そして今回、遂にその約束を果たしてきた。

今週はそのお話。



東京ドームライブの6日前、後輩くんと下高井戸の喫茶店で待ち合わせをした。
ライブまで1週間を切っていたので、当日の動きを決めようと、僕が後輩くんを招集した。

お互い多忙で中々会えず、後輩くんと会うのは約半年ぶりだった。

ライブ当日を楽しむために、綿密で無駄のないタイムスケジュールを事前に組もうと集まったのだが、半年ぶりの再会ということもあり、お互いの身の上話しが止まらなかった。

会話に花という花を咲かせまくり、その喫茶店はもう僕たちが咲かせたお花で埋め尽くされていた。

結局、当日の動きをあまり決めれないまま、とりあえず集合時間だけ決めてその日は飲みに行ってしまった。
僕の同期3人も招集し、みんなで酒をたらふく飲んでご機嫌で帰路についた。


そして2月18日、ライブ当日。
ライブは15時半開場の17時半開演だったのだが、僕たちは11時に水道橋駅集合の予定を立てていた。

後輩くんと喫茶店で話したとき、グッズ売り場に並んだり記念撮影をするために、念には念をで開演の6時間半前に集まろうということになったのだ。

水道橋駅に着くと、開演6時間半前にも関わらず、グッズを見にまとった人たちが駅周辺にはたくさんいた。

これはやばいと思い、後輩くんにすぐ電話をした。

「もしもし!今どこにいる!至急合流だ!グッズが買えないかもしれない!」

「おはようございます!いま西口にいます!」

「西口か!!、、、、西口!?」

「はい!西口です!」

「、、、、、西口!?」


僕が降りた水道橋駅には西口とか東口とかいう概念がなかった。
あるのはA〜出口とかだけで、後輩くんが今どこにいるのか見当もつかなかった。

「西口とかないぞ!お前はいま何駅にいるんだ!」

「水道橋駅です!」

「俺もだ!」

「いっしょですね!」

「とにかく俺はA5出口にいるからそこに来てくれ!」

「らじゃ!!」


電話を切り、後輩くんを待った。

せっかちな僕はその場に止まっていられず、A5出口周辺をひたすら競歩していた。

だが、いくら待っても後輩くんは姿を見せない。

ここで、僕はピーンときた。

(そうだ!!あいつは中央線だぁぁあ!!!)


水道橋駅は路線によって場所が全然違い、道が繋がってすらいない。
僕は三田線で後輩くんは中央線、三田線と中央線は東京ドームを挟んだ反対側に位置する。

ことは一刻を争うこの状況、僕は後輩くんにすぐLINEを入れた。

「聞け後輩!グッズ売り場に直接集合だぁあ!!」

「らじゃ!!」

僕は何人もの同志を掻き分け、競歩でグッズ売り場に向かった。

案の定、グッズ売り場にはすでに長蛇の列ができていた。

列の最後尾で後輩くんと合流。
仙台旅行から新幹線で帰ってきてそのまま東京ドームに直行した彼は、パンパンのデカリュックを背負っていた。

そのパンパンのデカリュックの中からレトルトカレーを取り出し、僕に差し出してきた。


「誕生日おめでとうございます」

「おお、ありがとう」

牛タンカレーと書かれたその箱をそっとリュックに戻させ、帰りにまた渡すよう指示した。

2人で列に並びながらどのグッズを買うかずっと悩んでいた。

僕はもうすでにグッズTシャツとヘアバンドを着用していたので、タオルとリストバンドぐらいでいいかなと思っていたのだが、いざ列に並んでみると全グッズほしくなってきてしまい頭がパンクしそうになった。

(全部はやばいって、まじで破産する、どうしよう)

すっごい悩んだ結果、トレーナーを買うことにした。
あとは予定通りのタオルとリストバンドを後輩くんのも合わせて2セット、よしそれだけにとどめておこう、そうしよう。

自分にそう言い聞かせながら売り場の前に立つと、なぜか5000円のスノードームに手を出していた。

(おい〜〜だめだって〜〜止まれ俺の手〜)

僕の手は止まることなく、購入したスノードームを握りしめていた。
ちなみに、スノードームを買ったわけはいまだにわからない。

一旦、後輩くんとベンチで買ったグッズを広げてみた。

後輩くんは僕とは違うグッズTシャツを身にまとい、僕はグッズTシャツの上から購入したトレーナーを着用した。

グッズコーデで記念撮影ポイントへ行き、同志たちと写真の撮り合いっこをした。

これからどうしようかと歩いていると、メシアたちの本が売られている売り場があった。
すると後輩くんが「僕これ買います」と、2500円の本を手に取った。

(本一冊に2500円は太いぞ〜〜)

そう思いつつも、僕も負けじとその本を手に取り「あー俺も買うわ」とかっこつけたセリフを馬鹿みたいな声で発していた。

そこからまたどうしようかと歩いていると、ガチャガチャコーナーがあった。

1回500円で1人5回まで、これはもうどうしようかと後輩くんと話し合った。

「何回やりますか先輩!」

「んーむずいなあ」

「5回いっちゃいますか!」

「待て早まるな、まじで早まるなお前」

「すいません!」

「逆に1回に全部かけた方がいいかも」

「そうっすよね!1回にしましょ!」

「いや待てよ、、2回だ!2回で行くぞ!!」

「そうっすね!それが正しいです!」


僕たちは国を守る兵士のような目つきでガチャガチャをぶん回し、この2回に全てをかけた。

だが、お目当てのものは当たらず、ハズレとも当たりとも言い難いようなキーホルダーに、お互い気を遣った表情を浮かべた。

気を取り直し昼食をとろうと歩いていると、なぜか吸い込まれるようにジャンプショップへ入ってしまった。

ジャンプショップはもう僕からすると夢という夢が詰まった箱で、これまた全ての商品を買いたくなる衝動に駆られた。
まじでこれは破産まっしぐらだと思い、何も買わないように薄目で店内をうろついた。

キルアのタオルや五条と夏油のポスター、銀魂のアクリルスタンドなど様々な障壁を乗り越え、何も買わずにお店の出口に辿り着いたとき、僕はSASUKEを完全制覇したような気持ちになった。

だが、ここで後輩くんが出口付近のガチャガチャに食い付いた。

「僕これやります!」

こいつやっぱりさっきのガチャガチャ5回やりたかっただろと思いつつも「よしいったれいったれー!」とハイキューのガチャガチャを回そうとする後輩くんを棒読みで鼓舞した。

「けんまがいいなー!けんまこい!けんま!」

阿保みたいにけんまを連呼する後輩くん。
どうやら後輩くんは孤爪研磨推しらしい。
1/5で当たる研磨に僕は今日の運勢をかけた。

「当ててみせろ!ここで当てるか当てれないかで今日という一日が決まるぞ!たのんだ!」

「わかりました!いけー!けんま!けんま!」

後輩くんは、けんまけんま言いながら、鬼気迫る勢いでガチャガチャをぶん回した。

出てきた球体を手に取り、中身を確認すると、何食わぬ顔したけんまが出てきた。

「えええ!!けんまだ!!やったー!!やりましたよ慶士さん!!」

「おお、やったね」

普通にけんまを当てた後輩に、僕は急に冷めてしまった。

けんまを当てた勢いで後輩くんはハイキューコーナーに行き、ハイキューキャラが描かれたTカードをキラキラした目で眺めていた。

「僕これも買います!」

「おお〜〜いいやん〜〜 (いらんと思うけどなあ、、) 」

「影山と及川どっちの方がいいですかね?」

ハイキューを5巻であきらめたこの僕にそんなこと聞かないでほしいと思いつつ、後輩くんの目があまりにもキラキラしていたので律儀に答えてあげた。

「ん〜及川やない?俺あんま影山すきやないし」

実は、僕は及川を知らない。
知らないというか全く覚えていない。

「え〜でも影山もいいなあ〜」

じゃあ聞くな俺に。

「でもやっぱそうっすよね!及川にします!」

及川にするんかい。

僕は、思ったことは口に出さず「絶対及川よ、及川で間違いない」と、後輩くんの背中を押してあげた。

なんとか何も買わずにジャンプショップをくぐり抜け、目の前のフードコートに突入した。

フードコートでは家族たちでごった返しており、僕たちが座れる余地などなかった。

なんとしてもびっくりドンキーを食べたい後輩くんはハイエナのような目をし「誰かが席をたった瞬間に座りましょう」といつもより低めの声で言ってきた。

おいさっきのキラキラした目はどうした。
あんなに純真で輝いていた目が数分後にこんな淀んだものになるとは。

僕は「ここは家族たちを優先させよう、俺たちが座ったら家族が可哀想や」と後輩くんを悟し、淀み曇った目を正常な目に戻してあげた。

何を食べるか歩きながら話し合い、通りすがりに見つけた中華屋さんに入った。

こんなところにも見慣れたものを着ている同志たちがたくさんいて、どこにでもいるなこいつらと、ブーメランすぎることを思ってしまった。

席に着き、僕は生姜焼き定食を、後輩くんは唐揚げ定食の餃子付きを頼んだ。
後輩くんは「餃子はシェアしましょう」とめちゃくちゃ後輩感溢れる提案をしてきた。

ご飯が届くのを待っている間、他の客が頼んだものが届いていないと帰り際にブチギレていた。
僕は、後輩くんには何も言わず、その客が帰っていく後ろ姿をジッと睨んでやった。

注文の品が届き、僕は爆速で食べ上げた。
後輩くんは後輩らしからぬスピードで食べ進め、僕が完食した倍以上の時間を要していた。

お会計のとき、クレーマー客に対するアンチテーゼを示すように、僕たちはとびっきり愛想良く店を出た。


この時点でまだ14時、早すぎた集合に対しては何も触れず、とりあえず開演までに体力を蓄えようと古びたネカフェに入った。
そのネカフェで会員登録時の生年月日を書いたとき、今日が僕の誕生日だということを再認識した。
黒髪ロングの男店員は当たり前のように何も祝ってくれず、機械的な言葉で部屋番号を案内してきた。

部屋に入ろうと1階上がったフロアへ行くと、さっきまでの匂いが嘘のように、そのフロアには刺激臭が漂っていた。

こんなとこで寝れるかと思い、とりあえず喫煙所へ行くと、両腕にびっしりと和彫りが入ったおじさんに出くわした。

狭い空間で和彫りアニキと2人だけのこの状況。
とてつもない緊張感が走る中、僕も実は背中にびっしりと毘沙門天が入ってるよみたいな表情をしながら、タバコをゆっくりと吸い上げた。

喫煙所を出ると、なぜかもう鼻が刺激臭に適応していた。

部屋に入り、リクライニングしようとするもレバーが全く見当たらず、後輩くんに「どうやって倒すんこれ」とLINEをした瞬間にレバーを見つけてしまった。

あと1秒粘ればよかったと後悔しながら目を瞑り、熟睡とも覚醒とも言えないような1時間を過ごした。

部屋を出て喫煙所に入ると、先ほどとは違い、ぼく以外誰も人がいなかった。
うれしいような物悲しいような、なんとも言えない気持ちのまま僕は急いでタバコを吸い上げた。
喫煙所を出ていく僕の背中には、さっきまで入っていた毘沙門天はもう消えていた。

喫煙所から戻ってくる僕と部屋を出た後輩くんがすれ違い、これまたお互いなんとも言えない表情をしながら無言で通り過ぎた。

1階降りたフロアへお会計をしに行くと、普通の空気がなんとも芳しく思えた。

1時間ちょっとの利用で900円なことに驚き、安いが故の臭さなのか、臭いが故の安さなのか少し考えさせられた。

浮かない表情をしながら店を出ていく僕に、黒髪ロング君はさっきよりも心なしか暖かみのある表情で、機械的な言葉を発し僕を送り出してくれた。


外へ出ると空気が気持ち良く、清々しい風が僕の体を包み込んだ。

僕はこの1時間ちょっとの間で、なにか言葉では言い表せないものを悟った気がした。
人生というものが見えたというか、人生という概念を掴んだというか、僕がこれから生きていく上で今のネカフェに入るところから出ていくところまでの時間が、何か大きなターニングポイントになるかもと、今後ぼくに絶大なる影響を与えるかもと思えた。

言葉では具現化できないが、いま起きたこと全てに人生というものが詰まっている気がした。

そんなことを考えていると、まだ寝ぼけたままの表情をしている後輩くんが僕に向かって「眠れました?」と聞いてきたので僕は、

「眠れたっていうか、、俺いまの間で人生の全てが分かったわ」


と、僕ができる限りのかっこつけた表情でそれを言うと、後輩くんは「そうっすか」とほぼ無視に等しい言葉で僕の渾身のパンチラインを流してきた。

僕は急に恥ずかしくなり「ていうか冷静に考えたらグッズ買いすぎたね」と話を無理矢理逸らし、さっき言った言葉をなかったことにした。

まさか無視されるとは思わず急に恥ずかしくなり話を無理矢理逸らした僕は、人生の一欠片も分かっていないことに気付いた。


そして、開場の時間になり東京ドームに入ると、ドーム内はとてつもないほどの熱気で溢れていた。

開場から開演まで2時間もあったはずなのに、溢れる熱気のせいか、一瞬のように感じた。


開演から閉演まではもう最高としか言いようがないのものを見せつけられ、最高としか言いようがない誕生日となった。

凄まじいものを見せられた僕は、とてつもなくちっぽけな存在なんだと、僕もあんぐらい大っきくなるんだと、聞いたことのない名前の臭いネカフェで人生を悟った気でいるんじゃないぞと、自分を震え立たせた。


2週間経った今でも、ライブの余韻が抜けれないでいる。

そして、2週間経った今でもまだ、後輩くんの牛タンカレーは受け取っていないままだ。

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