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続・渾身のパンチラインだって無視されることはある



前回、メシアの東京ドームライブ観戦の1日を振り返った。



この話を読んだ人、全員が思ったと思う。


「肝心のライブの話ぜんぜんなくね?」


そう、ほんとに全くその通りである。

ライブ観戦に至るまでの背景に重きを置きすぎて、肝心のライブの話はさらっと流してしまった(まあそれがやりたかったのだけれど)。

ライブの内容は僕が言うまでもなく最高に決まっているので、わざわざ書くことでもないかなと思っていたが、ライブ中とライブ後にもたくさんの出来事があったので今回はそのお話。




ネカフェを出て渾身のパンチラインを無視された僕は、開場前は並ぶだろうからと早めに現地に着いた。

案の定、たくさんの人たちでごった返しており、韓国イテオンのハロウィンを彷彿とさせた。

これは本当にお笑いライブなのか?テイラースウィフトでも来日したんじゃないか?と思わせるほど人々がギュウギュウに混み合っていた。

25番ゲートの列に並んでいたのだが、これが一向に進みやしない。
体感では1分に1cm程度しか動いてない。
ほぼ誤差である。
塵も積もれば山となると言うが、流石に塵すぎてもう呆れ笑いがでるほどであった。

こんな調子じゃあ開演にすら間に合わないぞと思っていた矢先、中年警備員の振り絞った声がメガホンを通して僕の耳に入った。

「25番ゲートお並びの方ぁ!ラクーア側から行った方が早いですよぉ!ここで待っていても進まないですよぉ!」

え?そんな近道があったのか?ということより、警備員さんってこんな大きな声出るんだ、と一瞬だけどうでもよすぎる感想が頭に浮かんだ。

さて、この警備員さんの掛け声により、ここで僕たち25番ゲートどものライアーゲームが始まることになる。

全員が全員、顔を見合わせ、あたりの様子を伺った。

まず、警備員が言っていることが本当か否か、ただの混雑を避けるための誘導にすぎないのではないか。
また、本当だとしても警備員の言葉によって何人の人たちがラクーア側に行くのか、その人数によってはこのままこの列で待っていた方が早いのではないか。

一瞬の隙も許されない心理戦が始まり、あたりはざわざわしだした。

ラクーア側は進んで来た道を一度戻って遠回りしなければならない、意地を張ってこのまま待つか、素直に言うことを聞いて逆側からまわるか、どうしよう、どちらにせよ早く決めないと取り返しのつかないことになるかもしれない。

僕たちは、警備員さんの言うことを素直に聞き、1cmずつ積み上げてきたものを壊すようにラクーン側へまわった。

だが、思ったよりラクーア側にまわる人が少なく、少数派なことに内心ハラハラしている表情を浮かべた後輩くんに「こういうときは素直に言うこと聞いた方がいいんよ」と気丈に振る舞いながら歩を進めた。

そんな素直さがまんまと功を奏し、僕たちは大幅な捲りに成功した。
なんだかマリオカートをしている気分だった。

無事、東京ドームに侵入することができ、僕たちはアリーナ席に腰を据えた。
収容された5万3千人のうちほとんどがスタンド席の中、僕たちはアリーナ席に座っていた。
いや、別にアリーナ席が特別だとか僕たちがアリーナ席に座れる選ばれしものだとかそういうことは思っていない。
まあでもたしかに言われてみればアリーナ席は本当に限られたごく僅かな人たちだけで、スタンド席の人たちはアリーナ席を羨ましく見ていた気はするけども、ぼく自身は全然アリーナ席をすごいとかアリーナ席が偉いとかアリーナ席がかっこいいとか思っていないアリーナ席アリーナ席なのである。


席に座り開演まで待機していると、ドーム内では大量のモナカを持った売り子さんたちが行き交っていた。

そんな行き交う売り子さんたちを後輩くんは眺め、アホ面で僕に「この中で1番可愛いと思った売り子さんからお互いモナカを買いましょうよ」とアホみたいな提案をしてきた。

こういうやつが女性を物のように扱い現代社会では腫れ物のような目で見られるのだなと思った。
だが、そんな腫れ物代表でもある僕に断る権利などなく、二つ返事でその提案を了承した。

そして、僕はセンサーをドーム中に張り巡らせ、トンボのような目で360°見回し、金ピカに光っている売り子さんを見つけた。

この子だ!と脳が訴えるのと同時に、僕は美しい姿勢で手を上げてその子にアピールをした。

その子はほぼノータイムで僕のアピールに気付き、すぐに駆けつけてきてくれた。
流石売り子さんと言ったところだ、プロ意識が高い。

モナカを差し出す売り子さんを直視することはできず、僕は興味ないですよ感をだしながら500円を手渡した。

満足感に駆られたのも束の間、売り子さんは颯爽と去っていき、僕の手元にはひんやりとした500円のモナカだけが残った。


(、、あ〜いらねえ〜〜)


こんなにいらない物をもらったのは、高3のときに同級生のS君から誕プレで自転車のベルをもらったとき以来だ。

僕は売り子さんの笑顔に500円を払っただけであって、モナカ自体にお金を払った気は全くなく、これならポケットティッシュをもらった方がまだマシだと思った。

恐る恐る袋を開けると、中からは明らかに100円程度の見た目をしたモナカが現れた。
僕は、あの子の笑顔を思い浮かべながらモナカを頬張った。

そのモナカは、50円の味がした。

後輩くんにモナカを一口あげると、見ていてなんだか嫌な気持ちになる笑い方をしていた。

お前が提案してきたくせになんだその人を小馬鹿にしたような笑い方は、と肩パンをしてやりたくなったが、ここは寛容な心で我慢してあげた。


50円モナカを平らげ、後輩くんと2人でトイレに向かった。
すると、トイレに行く連中や売店で買い食いしている連中、今ドームに入り席へ向かっている連中と、通路が人間という人間で溢れかえっていた。

ドーム内には食べ物を持って入れないので、通路脇でご飯を食べている人たちを何人も見たが、よくこんな状況で喉に食料を通せるなと思った。
全員が全員、何も味など感じていないような表情をしていた。
なにか人間の怖い部分を見た気がした。

用を足し席に戻ると、開演までもう間もなくと言ったところだった。

ドームライブやフェスなどに行ったことのない僕は、会場の熱気と圧に押され、とてつもない緊張感が走っていた。
家族で嵐のドームライブに何度も行ったことのある後輩くんは、顔に似合わず余裕綽々の雰囲気を醸し出していた。

そして、いざ開演。

今までの伏線が全て回収され、長年のファンでしかわからないような言葉や流れもたくさんあり、とてもファンに寄り添ったライブだった。

激しく走る偏頭痛が気にならないほどの飽きさせない演出に、たくさんの労力、時間、お金、人が関わっているのだなと感じた。

ドーム観客、ライブ配信、映画館でのライブビューイングを合わせた同時視聴16万人が刮目させられ、期待を大きく上回るライブに、全員が満足して帰ったことだろう。

帰りは混雑を避けるためにエリアごとに時間を分けて帰らされたのだが、アリーナ席である僕たちはなぜか最後の方に呼ばれて帰らされた。
別にアリーナ席が偉いとか特別だとか思っていないけれど。


エリアごとに分けて席を立ったのに、ドームを出た後はやっぱり混雑しており、後輩くんとはぐれた僕はひとり出口でそわそわしていた。

僕と後輩くんは携帯の充電が10%ぐらいだったので、このまま合流できずに充電が切れてしまったら全てが終わると思い、僕は1番の高台に登ってキョロキョロしながら後輩くんを探しまくった。

すると、何食わぬ顔でドームから出てきて、当たり前のようにゆっくり僕の元に歩いてくる後輩くんが見え、僕は安心するとともに、こいつなんか腹立つなと思った。

無事、合流できた僕たちは、これから大量の砂ずりを食べなければならないという使命があったので、ドームから10分ほど離れた焼き鳥屋さんへ向かった。

本来、10分ほどで着くはずなのに、混雑すぎるせいで30分かけてやっと辿り着いた。

狭暗い焼き鳥屋さんに入ると、ここにもグッズを身にまとったファンが4組ほどいた。
どこにでもいるなこいつら、とまた思いながら席に座り、僕は後輩くんに生と砂ずり30本を頼んどいてと言って喫煙所へ向かった。

扉の感じからしてたぶんここが喫煙所だろうというところに入ると、明らかにそこは従業員用の喫煙所だった。
だが、もうタバコを吸いたい衝動を抑えることができず、僕は従業員っぽい顔をしながら急いでタバコを吸った。

席に戻ると、後輩くんが渋い表情で僕に言ってきた。

「慶士さん、10本までしか無理って言われました」

「まあそうか、しょうがない」

「塩とタレどっちがよかったですか?」

「塩に決まっとるやろ」

「そうっすよね、塩とタレ半々で頼んどきました」


後輩くんは塩だと思いながらももしかしたら僕がタレ派の可能性もあるかもしれないので半々にしたのだろうなと僕は瞬時に察知したが、そんなのお構いなしに僕は後輩くんを叱ってやった。

だが、届いた砂ずりのタレは意外に美味しかった。

そして、途中で気付いたのだが、この店は普通に店内喫煙可だったので、無駄に従業員顔をしたことが恥ずかしくなった。

僕たちは、5000円のスノードームを眺めながら、それを肴に終電まで飲み明かした。


なんだかんだ後輩くんのおかげで最高の誕生日になり、清々しさと達成感に包まれながら帰路に着いたのだが、どこか引っかかるというか何かモヤモヤしている部分があった。

家に帰ってから気付いた。

(あれ?、、あいつモナカ買ってなくね?)


今度また後輩くんに会ったら叱っておこう。

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