【小説】女吸血鬼、遊郭にて人を喰らう。誉田哲也「妖」シリーズのオリジン
はじめに、誉田 哲也さん「妖」シリーズについて簡単に説明を。
西洋の吸血鬼伝説と日本の妖怪文化を掛け合わせたような闇神と呼ばれる存在。その闇神のはぐれ者である紅鈴という女性を主人公とした物語です。
人の生き血を啜って糧とする点や、日光を浴びれば体が焼けてしまうという点は従来の吸血鬼と同じですが、紅鈴はその圧倒的な美貌を武器にして
人間社会と共存しています。
また、吸血鬼に噛まれた人間は同じ吸血鬼になってしまう、という伝説がありますが、闇神は特別な方法で仲間を増やす事が出来ます。
それは血分けと呼ばれる儀式で、闇神の血を人間に飲ませ、同時に闇神も人間の血を飲む、つまり体内の血液を交換することで、また新たな闇神が生まれるという仕組みです。
紅鈴が400年の生涯で血分けをしたのはたった一人、欣治という名の青年。
シリーズ1作目の「妖の華」では、既にこの欣治が過去の事件によって命を落としている事が語られており、2作目の「妖の掟」では、まだ彼が生きていた頃、紅鈴とともに現代社会を舞台に暗躍していた時代のストーリーが描かれています。
そして3作目「妖の絆」は、それよりも200年近く前の出来事。紅鈴が幼いころの欣治と出会い、血分けをして2人がパートナーとなるまでの物語です。
妖の絆
「作品みどころ」
舞台は江戸時代。吉原の遊郭文化が最も栄えていた頃のお話。
闇神の紅鈴は定期的に人間の生き血を飲まないと生きていけない。しかし無差別に人を襲っていては後々面倒ごとになりかねないので、効率的に血を吸う方法として、吉原で遊女となる事を選ぶ。
黙っていても男が寄ってくるほどの美貌を活かして客を呼び込んでは狭い部屋の中でまぐわい、そして事が終われば血を頂く。
現代を舞台にした前2部作では警察に目を付けられないように、血はもらうが殺さない、あくまで健康に影響のない程度の量を抜き取るだけに留めていたが、今作の紅鈴はしっかりと飲み干す。そして殺す。
そもそも紅鈴が遊女となった発端は、欣治の母親が夫の作った借金を返すために吉原に売られた事。幼い妹と2人きりにされた欣治を哀れに思い、母親の代わりに吉原へ。そこで「賭け抜き」という商売を始めるのだが、これが中々にすさまじい。
賭け抜きとは、遊女と客の男による忍耐力の勝負だ。男のいち物を挿入し、
100秒間の間に男が先に果てれば負け、絶頂を我慢できれば男の勝ち、という内容。
闇神の体を活かした紅鈴のテクニックは並外れており、まず人間の男が勝つことは出来ない。これを利用して彼女は大金を稼ぎだすのだ。
冒頭にも述べた通り、闇神は血分けという儀式を行う事で同族を増やす。
紅鈴自身も「閣羅」という闇神から血分けをされて今の姿となっており、
少年の欣治から俺を鬼にしてくれ、と頼まれるが、実は血分けの方法を知らなかった。
それもそのはず、鋼鉄の皮膚を持つ闇神にはいかなる刃物を以てしても傷一つ付けられないのだ。だから当然、血を流す事が出来ない。
しかし実は闇神にも弱点があり、意外にも簡単な方法で傷を付けられる事が判明する。ここで解明されたメカニズムが、その後の2部作でも大きく関わってくる重大な発見となっている。
こうして血分けされた欣治は紅鈴のパートナーとなり、その後約200年間をともに過ごすこととなる。
シリーズ1作目の時点で既に亡くなっていた欣治が、いかにして闇神となったのか、という過去が明かされる本作。
2作目で描かれる彼の最期を思い出しながら読むと、より欣治と紅鈴の関係性に対する思いが深くなることだろう。
シリーズがさらに過去に遡って描かれるかどうかは不明ですが、個人的には
紅鈴と閣羅の出会い、そして紅鈴が血分けをされるまでのストーリーを
読んでみたいです。
「妖」シリーズは1作目で紅鈴が迎える結末が描かれており、そこから過去に遡っていくという珍しいタイプの物語です。
最期が分かっているからこそ、そこに至るまでの過程にどんな物語があったのかという視点で楽しめるので、非常にオススメの作品です。
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