2/13 ファースト・マンをみた【ネタバレする】
ディミアン・チャゼル監督×ライアン・ゴズリング主演っていうLALALAND的な宇宙開発映画「ファースト・マン」をみました。
人類ではじめて月面に降り立った偉人、ニール・アームストロングさんの伝記をもとにした作品で、ジェミニ計画~アポロ計画っていう有人月面着陸を目指してがんばってたNASAのミッションを描いてます。宇宙の映画だけど近未来じゃなくて過去の話だからメッチャ地に足ついてる。地に足つきすぎている。
単刀直入にいうとこの映画めっちゃつらい。歴史はネタバレじゃないよね?ってことでいきなりネタバレするけどめっちゃ人が死ぬ。宇宙飛行士の訓練が過酷すぎてつらいとか宇宙空間めっちゃ酔ってつらいとかそういうんじゃない。仲間、めっちゃ死ぬ。つらい。NASAで戦争したり殺しあってるわけじゃないのにめっちゃ死ぬ。ジェミニ計画の最初の宇宙船とかえぐいもん、見た目も武骨すぎてプロの工作かよ!こんなんで大気圏突入したら絶対死ぬわって感じだもん。
あまりにもつらいので、みてる途中で「なんでこんなことやってんの?」って思っちゃう。それは劇中の大衆も同じで、しかも劇中の大衆はベトナム戦争真っただ中だったりで只でさえ大変なのに月にいくとかいう日々の生活に関係なさすぎる計画のために税金溶かされまくってるからすごい怒ってる。
この計画は1961年から69年までやってたわけだけど、戦争中だったりでとにかくアメリカという国自体が暗くなってる時期の話なんですね。宇宙開発っていうと華やかなイメージだけど前述した通りめちゃめちゃ大変でつらいことばっかりだし、画面もなんかずっと薄暗い。宇宙船からみえる風景ってちっちゃい小窓からみえるほんの少しだけで、人間の視界の3分の1くらいしかみえなくてすごく息苦しい。宇宙船の中では身動きもほとんどとれない。宇宙飛行っていうとなんかふわふわ飛びまわって楽しげなイメージだけど全然そういうのない。あんまり宇宙みえねえし宇宙飛行つまんなさすぎ。閉塞感がはんぱない。
それで、全人類知ってると思うけど、なんやかんやあって有人月面着陸は成功する。月面着陸してはじめて宇宙船をでると、画面いっぱいに月が広がっている。それまで狭い宇宙船の小窓からみえる風景しか知らなかったから、突然開かれた視界にぽぉーっとなってしまう。月面ってゴツゴツした白い荒野みたいなのになんでこんなに神秘的なんだろう。この世のものではないみたいに綺麗だ…。ここがすごく感動的で、それだけでみる価値があるように思う。それまでのストレスが半端ない分すごくハッとさせられる。
この映画のクライマックス。主人公のニールが月面に足を踏み下ろす。ここで、聞いたことがありすぎて逆になんの言葉かわからないような人がいるくらい有名なあの言葉が発される。
「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。」
私はこの言葉の肝って「人類にとっては偉大な飛躍である」の部分だと思ってた。でもこの映画をみると、その部分よりも「一人の人間にとっては小さな一歩」という部分がすごく心に残る。長い年月とたくさんの税金と人類の夢と仲間たちの犠牲の先にある小さな一歩。みた人によって感じ方も違うだろうけど、私はあの一歩が人類を背負った一歩には思えなかった。ニールという一人の人間が歩んできた道のりのゴール、そこにたどり着くための最後の一歩にしか感じられなかった。はぁーーーー、これはすごい、すごい体験をした気がする。言葉の解像度がグンと上がって、これまでの当たり前だったものが覆されたような気がする。
この映画をどういう人に薦めたいかなぁ。「ゼロ・グラビティ」みたいな宇宙飛行体験型映画を楽しんだ人は是非前時代バージョンも体験してほしいな!あとベトナム戦争の映画が好きな人も、同じ時代にNASAでこんなことやってたんだ…って茫然としてほしい。「地獄の黙示録」とか真っ最中ですよね。あととにかく辛いことがおきまくるので精神的に負荷かけたい!って人もおすすめです。あと3月27日にA.B.C-Zのニューシングル「BlackSugar」が発売するってことも伝えときたい。
こっからは余談だけど主人公のニールっていうのがヤバイ奴だったからかいときたい。ニールの感情が全然わからん。映画の冒頭でニールは大切なものを失って心に深い傷を負い、宇宙計画は困難にも程があって深い悲しみを背負いまくってるんだけど、全然弱音を吐かない。奥さんとか同僚とかが気をつかってくれるんだけど全部ひとりで抱え込んでる。悲しい夜に庭で一人宙をみているニールを心配して同僚が声をかけにいくんだけど「なんで俺がわざわざ庭まででてきたかわかる?」って半ギレで突っ返される。普通ならここでイベント発生するだろ。全然心開かん。ニール・アームストロングが乙女ゲーの攻略キャラだったらどんなシナリオになるんだろう…。
ニールはすごい冷静で、劇中のパニックシーンでも落ち着き払っているので見ている側もハラハラしながらもどこか安心してしまっている。最高の船長って感じがするけど映画の主人公として、感情移入させる側としてはどうなんだ。でもこの監督作品のミソってそういうとこだと思ってて、観客の一般的な感覚とかエンタメとしてあるべき形とかを無視して一人で突っ走って孤独で異常だから面白い。有人宇宙飛行っていうヤベエミッションをやり遂げてしまう人ってやっぱちょっと常軌を逸してるんだろうなって思う。月面着陸したときとか地球に帰ってきて奥さんと再会したときすら感情わからんもん(ゴズの演技はめっちゃいい)(でもわからん)
超絶リアルな宇宙飛行体験をぜひ映画館で!そしてニールっていう冷静なんだか狂ってるんだか魅力があるんだかないんだかよくわからん人の生き様を目撃してね~~!!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?